七十二の道 『ミストアーベ』
緑のダンジョン・Dランク十四階層。ここに来て俺達はダンジョンの一室に閉じ込められ、厄介なモンスターに囲まれていた。
そのモンスターの名前は『ミストアーベ』。霧のような物を纏い、自分を大きく見せる水属性のハチだった。
コイツの厄介な所は、見た目は1メートルを超える巨大で青いスズメバチに見えるのに、本体は普通よりも小さいミツバチって所だ。首元や足先がフワフワしてるから若干カワイイくらいだ。
しかも水属性の霧は魔力を含んでいる為に攻撃にも使われる。霧なのに一部実体化したりしやがるので、油断してると霧の針に刺される。しかもあの霧には、弱いが毒まであるらしい。
それが数百匹はいるのだ。こりゃあ、ケーシン達には荷が重いかもなぁ。
「どうするお前ら? なんなら俺が全部始末するが…………?」
見せかけの姿がどうあれ、本体があんな小せぇ虫なら俺の殺気でどうとでもなる。だが先頭に立ち、ここまで俺達を引っ張って来たマルザは揺るがなかった。
「いや、ここに皆を来させたのは俺だ。俺が始末をつける…………!」
「違うぞマルザ、確かに言い出したのはお前だが、俺達はそれに自分の意思で乗ったんだ。一人で背負い込むな。俺達は仲間だろ!」
「そうだよ。私達はパーティーなんだから! こういうのは全員で切り抜けるの!」
「僕だって頑張ります!」
いいねぇ、意地張っちまって。嫌いじゃねぇぜ、そう言うのはよ。
「…………フッ。なら俺も、手助け程度に手を出すとするかね。ショウ、俺の手ぬぐい出してくれ」
「…………手ぬぐい? 顔洗う時に使ってたやつですか?」
ちなみに、何でこんな状況になっているかと言うと、その話は少し遡る。
ダンジョンも十四階層に到達し、《索敵》のスキルも得た事で苔や鍾乳石に擬態するモンスターを見つけ出して倒していったマルザは、ハッキリと調子に乗っていた。
傲慢な程ではないがケーシンやネル、それにショウを引っ張ってモンスターを倒していく事に、自分が無敵であるかの様に錯覚している訳だ。まぁ、若ぇ頃にはよくあるやつだ。
そんな中で、ダンジョンの一カ所に扉のある部屋を発見した。
それはケーシンとショウの見立てではモンスターハウスと言うトラップだった。何でも中に入ると何処からかモンスターが湧き出し、その全てを倒すまで部屋から出られないと言うトラップだそうだ。
割と面白そうだが、俺の勘ではその部屋はまぁまぁ危ない部類だと感じていた。ケーシン達に全部任せていたから、口には出さなかったけどな。
「モンスターハウスか。…………いやでも、俺の《索敵》だと、中にいるのは大きな反応が一つだけだ。もしかして、レアボスじゃないのか?」
レアボスってのは、ダンジョンの中で唐突に現れる変異種だそうだ。普通のモンスターよりは格段に強いが、倒した時には良いアイテムや宝箱を残すのが特徴と言う、一攫千金を狙えるモンスターだな。
マルザは、部屋の中にある反応が一つだったから、そう結論づけたようだ。このマルザの言葉には、ケーシン達も迷いを見せた。何せマルザは、獲得したばかりとは言え《索敵》のスキルを持っている。まだスキルに慣れたとは言えないが、それでもスキルがあると言う事実は強い。
「レアボスなら、戦ってみようぜ。今の俺達なら、レアボスだってきっと倒せる!」
「レアボスか…………。いつかは挑んでみたい目標の一つだよな」
「うん。ここより上のダンジョンなら、もっとレアボスが出る確率は上がるけど、危険度も上がるよね。…………ここで挑めるなら、一番良いかも知れないよね」
マルザの言葉に、ケーシンとネルもヤル気になる。ショウは少し不安気に俺の顔を見上げたが、何も言わずに飲み込んだ。俺が全ての選択をケーシン達に預けているから、それに倣う事にした様だ。
そして扉を開けて入ってみれば、一つの大きな反応ってのは巣の中で固まっていた『ミストアーベ』の群れの反応であり、ここは紛れもなくモンスターハウスだった訳だ。
そんなこんなで、時間は現在に戻る。
ミストアーベの群れが鳴らす羽音が、広い部屋に充満している。ミストアーベ達は奥にある巣を護る為に巣の前に陣取り、俺達を睨みつける。
しかしデカイ巣だ。形としてはスズメバチに近いが色は青く、ミストアーベの特徴がよく出ていた。…………ふむ。
「なぁ、ショウ。あのミストアーベってのはよ、ハチミツを集めたりは出来るのか? あそこにあるデカイ巣にハチミツがあるのかが気になっているんだけどな」
「はい。ありますよ。ミストアーベの巣で採れるハチミツは高級品です。あの巣も、壊さずに持って帰れば芸術品として高く売れます」
「なるほどな。そんならよ、あの巣を壊さずに敵を一掃出来れば、それはレアボスってのと変わらねぇだろ。俺が殺気を放てば、このハチ共は巣に逃げ帰るだろうから、巣を壊す事になる。だが俺達の手でこのハチ共を巣に近づかせずに倒せれば、あの巣とハチミツは丸々手に入るぜ?」
俺の言葉に、ケーシン達は強張らせた顔のまま、口角を少し上げた。
やる事は決まった。後は行動するのみだ!
「そらよ!」
ショウから受け取った手ぬぐいは、顔を洗うのに使った事もあってまだ濡れていた。俺はそれを鞭のように振るい、ミストアーベを何匹か纏めて潰し飛ばした!
それによりミストアーベの警戒心は一気に高まり、俺達に襲い掛かって来た!
俺は手ぬぐいを振るって襲って来るハチを叩き落としながらケーシン達の様子をチラリと見る。ケーシン達は戦うのをマルザの『ガストスピア』とネルの魔法に完全に任せ、ケーシンとショウは二人の護衛に専念する形を取っていた。
アイツらも随分と喧嘩慣れして来たなと、しみじみ思いながら、俺はギアを一段階上げて、この戦いに没頭する事にした。
そして一時間が経った頃には地面には大量のミストアーベだった魔石が転がり、住人を失ったミストアーベの巣は、中のハチミツごと俺達の物になったのだった。
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