六十二の道 見えた敵
「農場ダンジョンが狙われている理由が『髪』? そんな…………うぅん、カースス伯爵…………。ぬうぅ〜〜む」
「あながち有り得なくもないわね。ウチの旦那も、薄くなり始めた時にお義父様から『シャアルハーブ』の存在と隠れた効能を聞いて、小躍りしていたもの。結婚前にアレを見ていたら、考え直していたかも知れないわ」
冒険者ギルドにあるネガーの執務室にて、俺はネガーやエルザレスと顔を突き合わせていた。
俺やネガーはともかくとして、領主の第一夫人であるエルザレスが乗り込んで来た、と言うか牧場まで俺を迎えに来たのには驚いたが、俺も話したい事があったので大人しく魔導車に乗った。
ちなみに牧場に転がされていた五人は領主の騎士たちによって連れて行かれ、牧場には戻って来たサゲン達やイロッパ達を残してある。
「そこまでか。…………正直、俺には無縁の話だからなぁ、ピンッと来ねぇんだよな」
「俺もだ。ハゲてる奴らが矢鱈と気にしているのは知っているし、それをからかう程ガキでもねぇが、こと髪に関しちゃあ鬼気迫るものを感じる奴はいたなぁ。金と一緒で持ってる奴には苦悩が解らねぇヤツなんだと、俺はあたりを付けている」
「いやまぁ、俺もその言い分は解るがよ。理解したくねぇんだよ。特に今回の件では、人が死んでるからな」
「確かになぁ」
確定ではないが、ケイネス達の両親は事故で亡くなっている。それがどういう事故なのか詳しく聞いた訳でもないが、その少し前から牧場は狙われていたらしいから、関連が噂されている。
もしそれが本当だとしたならば最悪だ。本人にとってどれ程大事なのか知らねぇが、たかが髪だ。人を殺していい理由なんかには、絶対にならない。
「そういや確認してなかったが、そのカーススって奴はそんなにハゲてんのか?」
「どうなんだ、領主夫人?」
元・パーティーメンバーなだけあって、ネガーとエルザレスの間にある空気は気安い。今やお互いに立場はあるが、それでも間違いなくこの二人は仲間なのだろう。
「そうねぇ、私も数年前に見かけた程度だけど、確かに薄かったわね。その時のパーティーでは、新しく当主を継いだって話で挨拶をしたのだけど、まだ二十代なのにこんなに? って驚いたのを覚えているわ。…………そう言えばその後の風の噂で、中々婚約者が決まらないと聞いた覚えがあるわね。まさかそれが原因とは思わないけど…………」
「いや、カースス伯爵自身が気にしているなら有り得る話だろ」
「カースス側から断ってるって事か? まぁ、無くはねぇか…………。それなら、ハゲが原因とも言えるな。そういう目で見られると思えた時点で、もうアウトなんだろ」
今回の牧場襲撃を受けて、とうとうネガーはカッスリン商会の摘発に乗り出した。領主自身はいま不在だが、領主に手紙を飛ばし、領主代行の立場にあるエルザレスの許可も取った上での事だ。
流石にカッスリン商会にカースス伯爵に繋がる証拠は無いと思うが、こちらには捕まえた騎士も、騎士が持っていた剣もある。
カースス伯爵がこの件に噛んでいた事だけは、確実に証明出来る。ただ、カースス伯爵は法務省のお偉いさんだって話だからな。これを王都に訴えた所で、大した罰も与えられないだろうってのが、ネガーとエルザレスの共通した認識だ。
「さて、クソ野郎の事でずっと悩んでいるのも良くないわ。今できる解決策を探りましょう」
「おいおい、流石に言葉が汚くねぇか子爵夫人様よぉ。素がそれなのは知ってるが、気をつけろよ」
「あら、ごめんあそばせ。それで、解決策だけどギルドマスターの意見は?」
全く反省してない調子で水を向けられたネガーは、腕を組んで顔をしかめた。
「…………正直、難しいな。こちらから事前に紹介した奴らは、皆金を貰って依頼を反故にしている。一応、それらしい理由もあったし違約金も払っちゃいるから規則としては問題ねぇが、俺の中の信頼は地の底だ。そいつらには頼めない。かと言ってそうなると、実力的に微妙な奴らしか残らない」
「あら、じゃあそうなると…………」
二人の視線が俺に向くが、ネガーは難しい顔で首を横に振った。
「リューマは今、形だけとは言えギルド職員だ。確かにリューマに行って貰えれば解決するだろう。いくらダンジョンが不安定だと言っても、リューマ程の強さがあるなら問題ない。問題なのは肩書きだけだ」
「…………ん? 解らねぇな、何が問題なんだ。別にギルド職員だからって、ダンジョンには潜れるだろ? 実際潜ってるしよ」
「普通ならな。ただ、物が『農場ダンジョン』となると話が変わって来るんだ。…………実はあのダンジョンが出て来た当初から上のお偉いさんに命令されてるんだよ。どうにかして、あのダンジョンをギルドの物にしろと。俺にそんな気は無いから、跳ね除けてるけどな」
「ふーーん。ギルド職員の立場でリューマ君が動いちゃうと、隙を見せた事になっちゃうのね。じゃあリューマ君、ギルド職員辞めなさいな」
「簡単に言ってくれるな。だが駄目だ」
俺はエルザレスの提案に苦笑したあと、即座に跳ね除けた。
「うん? お前なら二つ返事でギルドを辞めると思ってたけどな。何か引っ掛かる事でもあるのか? 急に辞めたからって、足引っ張るような事はしないぞ? 俺がさせない」
「そんな心配してねぇよ。単に、まだ義理を果たしてねぇってだけだ。俺は何も持たずにココに来てギルドに世話になった恩があるし、その上で引き受けている仕事もある。そいつを途中で投げ捨てるような不義理な真似は出来ねぇ」
少なくとも、いま受けてる仕事だけは綺麗に片さねぇとな。
そう口にした俺の顔を、ネガーとエルザレスは何処か呆けたような顔で見た後に、揃って大きく溜め息をついた。
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