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勇ましき者が極めるは道 ~任侠道を極めた漢、ダンジョン世界を無双する~  作者: ヤミマル


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幕間 ある伯爵の苦悩

 アルクス王国の王都にて、法務省の重鎮たるカースス伯爵は、自室で鏡を見ながら盛大に溜め息をついた。


 彼には悩みがある。それは世界中で多くの人が抱える悩みであり、別段珍しい悩みでもない。


 遥か昔から人々はこの悩みを抱えており、その対抗策も多くの生み出され、提示されて来た。だが、そのどれもが根本的な解決には至っておらず、流石に試す気にはならないが、それこそ伝説にある秘薬ても使わなければ解決しないのではと思われている。


 その悩みとは、…………まぁ、髪に関する事である。要はハゲてるのだ。



「いや、まだだ。まだこれはハゲと言うには毛が残っている。頑張っている。だからまだハゲではない。ちょ〜〜〜〜っと生え際が薄い…………だけだ」



 とまぁ、必死に誤魔化してはいるがハゲである。


 髪の問題と言うのは深刻だ。ましてやそれが、まだ三十代の当主に成りたての男となれば、なお深刻である。


 様々な貴族の社交界に出る事も多い法衣貴族、それも法務省の重鎮として代々国を支えて来たカースス伯爵家の新たな当主となれば、注目度は高い。


 それが若くて顔も良いとなれば尚の事。だが、笑顔で挨拶を交わし握手をした相手の視線が、ツルリと上に滑るのだ。


 相手は、あくまでも気づかれない様に盗み見たのだろう。そのデリケートな話題に触れる者もいない。と言うか、触れたらタダじゃおかない。


 しかし気づいてしまうのだ、その視線に。なにせ一番気にしているのは自分なんだから。


 そうなると、周囲の毛髪事情にも目がいく様になる。何の心配もない富裕層や、自分と同じ悩みを抱える同志や、何をとは言わないが被っている者など、つい目に付いてしまう。


 その中で、明らかに異常な者がいた。


 元は、自分と同じ悩みを抱えていた筈の、田舎の子爵だ。


 王都まで足を運ぶ事は少ないし、あまり話した事もない。だが同じ悩みを共有する同志だから覚えていた。前にどこぞのパーティーで見た時は、カースス伯爵はまだ当主ではなく、相手は子爵家の当主だったから話せなかった。


 こう言った席では、目上の者に目下の者から話し掛けるのは失礼にあたる。伯爵家とは言え、当主では無かったカーススからは話し掛けられなかったのだ。


 だがその毛髪の量は覚えている。カーススよりは年上だったから当然でもあるかも知れないが、その毛髪の量は決して多くは無かった筈だ。


 それが、明らかに増えている。数年に一度程度しか見ないのだが、年を経るほどに、年齢を重ねる度に髪が増え、それどころか若々しくなっていく不条理。カーススはその様子を不可思議に、そして羨望の眼差しで見ていた。



「『イーレッド=グリフウォール子爵』。彼の治めるのはフォルス地方だったな」



 カーススは直ぐに人を雇いイーレッド子爵家を、フォルス地方を調べ始めた。


 そして歴代当主や縁戚にある者を調べて思う。かの家系は、毛髪に貧する血筋だと。だが何故かイーレッド子爵家の当主は、その血筋にあらがっている。しかも当主を降りて隠居すると、何故か血筋通りに頭皮が露出していくのだ。


 これは何かがある。自分が欲してやまない何かがきっとある。


 一番怪しいのは、やはりダンジョンだ。フォルス地方で一番、人が入るダンジョンは『緑のダンジョン』と言う多層式のダンジョンだ。


 その他にも強力なダンジョンはあるし、細々としたダンジョンも周囲に点在しているが、やはり一番は緑のダンジョン。


 カーススは、ちょうどよくフォルス地方に支店を持っていた子飼いの商会、『カッスリン商会』に人を送り、領都の様子を細かく調べさせた。


 そうして判明した事実を並べていくと、あの不自然に生える毛髪の元は『シャアルハーブ』と言うダンジョン産の香辛料であり、イーレッド子爵は卑劣にもその香辛料を独り占めし、自身の豊かな毛髪を保っていた事が解った。



「…………おのれ田舎貴族風情が! 頭に乗りおってぇ…………!!」



 カーススは報告書を握り潰して激怒した。そのような人類の希望を独占するイーレッド子爵に。それ程の希望を献上も報告もしない卑怯者に。



「だがこの俺に見つかったのが運の尽きだ。法務省の重鎮たる俺が、その様な無法を許すとは思わぬ事だ! 首を洗って待っていろ! イーレッド=グリフウォール!!」



 実際の所は、イーレッド子爵が例えダンジョン産でも自領で採れた物を、報告も献上もせずに独占するのは何も問題ないし、もちろん違法でもない。


 余程危険な物でない限りは、その辺りは領主に任せられているからだ。まぁ要するに、カーススが言っている事は…………。



「おのれイーレッド=グリフウォール! この世の全ての富を独占する邪悪めが!!」



 …………ただの逆恨みである。



「その様な者に、秘薬もそれが手に入るダンジョンも預けておく訳にはいかぬ! そのダンジョンは、我がカースス伯爵家が管理するのが相応しい!」



 欲に脳を焼けれた者は、正常とは程遠い場所に行く事がある。カースス伯爵の欲望はイーレッド子爵家だけでなく、その街に暮らす者やダンジョンを管理する者達の暮らしをも理不尽に巻き込んで、大きく燃え広がっていった。


 たかが己の髪の毛の為に、人の命をも蔑ろにする最悪の方向へと。

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