六十一の道 狙われる理由
サゲン達を見送った後、俺は牛舎の近くにある納屋に入った。そこには五人の男達がロープで縛られて転がされており、そいつらはまだ誰も目覚めていなかった。
普通なら、こうして縛り上げておけば安心何だろうが、ここには魔法なんてもんがあるからな。ラベクの話だと、魔法を封じる枷なんかもあるらしいがココにはない。だから俺が見張りだ。俺なら仮にコイツらが魔法を使って逃げようとしても、即座に潰す事が出来るからな。
本音を言えば、こんな奴らは放っておいて牧場の仕事を手伝いたかったがな。子供達は、あの派手な鶏『クレストプーレ』だったかの卵の回収に向かったが、俺もそれに興味があるんだよな。なんでも、時折だが銀の卵も生まれるとか聞いたからな。それはちょっと見てみたい。
ちなみに午後は、農場ダンジョンの三階層に収穫に行くらしい。それも興味あるんだがなぁ。
「う…………ぐぅ…………」
「お、目が覚めたか」
気絶しいる五人の中で一番最初に目覚めたのは、軍服の男だった。コイツは腹に拳を入れた方か? 蹴りをくれてやった方は、まだ起きる気配がないな。
「…………う!? 貴様は…………!」
「貴様と来たか、自己紹介したと思ったがな。俺は煉獄龍馬だ。覚えておけ。で? テメェは何処の誰だ?」
「…………俺はカースス伯爵家の騎士、アルブ=ジャルグだ」
へぇ、名乗るとは思わなかった。てっきり黙り込むもんだと思っていたがな。そんな事を考えながら黙っていると、何を勘違いしたのか軍服の男が寝言を言い出した。
「おい、レンゴク=リューマ。俺達を解放しろ」
「するわけねぇだろ。それともアレか? そりゃ殺せって事か? 死んじまえば縛る理由も無くなるもんな」
「フンッ、やれるものならやってみろ。いま言った通り、俺達はカースス伯爵の部下だ。法務省の重鎮に逆らう愚かしさが、解らない訳でもないだろう?」
どうやら、カースス伯爵ってのはこの国で随分と力を持った存在らしいな。自分の所属を名乗ってから、事態は何も好転していないってのに、目の前に転がる軍服は随分と勝ち誇った顔をしている。
「今の貴様らの立場は危ういぞ。カースス様の勅命を受けた我らをこんな目に合わせて邪魔をしているのだからな。だが、今からでも我らに協力するのであればカースス様に取り成し、助命どころか報酬も支払ってやろう。貴様も冒険者なのだろ? 貴様如きではそうお目に掛かれない金額を約束してやる! どうだ! 決めるなら今だぞ!?」
「……………………」
俺は内心では呆れ返っているのだが、コイツはそれを悩んでいると取ったのか、ニヤリと笑って見せた。
「なぁ、お前よう。その立派な『カス伯爵』の威光を借りるのは勝手だが、今の自分の状況を考えて情けなくなったりしねぇのか? そもそもやってる事は小悪党しかやらねぇような強請りだろうが。よくそんな勝ち誇っていられるな? カスだからか?」
「き、貴様! カースス伯爵を愚弄するか!! 貴様の首など、簡単に取れるのだぞ!!」
「ハッ! 聞いたような台詞だな。俺は現役の頃に散々そんな台詞を吐かれたが、結局は誰も俺の首なんざ取れなかったぜ? 見ろ、俺の首は繋がってるだろうが」
俺は笑いながら自分の首を叩いた後、表情を引き締めて、ふざけた事をぬかす軍服に全力の殺気をぶつけてやった。
「き、貴様…………!?」
「ヘリでも戦車でも持って来いやぁ、全部返り討ちにしてやるからよぉ…………!!」
「…………ぁ…………ぐぐぅ…………」
俺の全力の殺気を受けた軍服は、涙と鼻水を垂れ流しながらズボンまで汚し、白目を剥いて気絶した。
…………チッ、久し振りだから忘れてたぜ。これやると大体こうなるから、臭くて堪らねぇんだよな。
仕方なく俺は縛られた全員を外に運び出し、そこで見張る事にした。
しかしだ。何だってそのカス伯爵様だかは、ここまでして農場ダンジョンやこの牧場を欲しがるんだ? そこに必ず理由があるのは解るんだが、妙なのは領主であるイーレッド子爵家は牧場を放置している事だ。
いや、欲しがってはいるのかも知れないが、人を殺したりガキを脅したりする程には欲しがっていない。
つまり、カス伯爵だけが欲しい何かがあるのか、カス伯爵だけが知っている何かがあるのか、の二択だろう。
「リューマさん、お昼を持って来たよ」
「おう、すまねぇなケイネス。…………ここはちょいと食うに向かねえから、少し離れるか」
俺は酷い事になっている軍服から距離を取る様に移動して、ケイネスから昼食を受け取った。お盆に乗せられているのは、卵焼きと野菜のサンドイッチと、ホットミルクだった。
農場ダンジョンで採れた野菜と、牧場の牛乳や卵で作られたそれは、本当に美味かった。サンドイッチにはピリッと辛いソースもアクセントとしてあり、俺好みの味だった。
「ふぅ。サンドイッチも美味いが、このホットミルクも美味い。ここまで味の濃い牛乳は初めて飲んだぜ」
「『ケトラカーウ』の牛乳が美味しいってのもあるけど、ウチのは農場ダンジョンの野菜を餌として与えているからね。味にも自信があるし、栄養だって他の牛乳よりはずっと高いよ」
「へぇ。確かに美味いもんな。そういやサンドイッチのソースがちょっとピリッとしていたが、農場ダンジョンってのは、香辛料も取れるのか?」
「うん、少しだけどね。六階層以降になると、たまに生えているんだよ」
「六階層? 安全に行けるのは四階層までだろ?」
「アタシは後継者だからね。ダンジョンマスターとその後継者は、時間限定でモンスターに気付かれずに活動出来るんだよ。一度ダンジョンに入ってから、キッカリ丸一日だけ。父さんと母さんなら戦えるからもっと深く潜れたんだけど、アタシは戦えないからさ。往復する事を考えると、一日で七階層が限界なんだよね」
へぇ、そんなルールがあったのか。六階層以降か。香辛料が採れるなら俺も行ってみてぇもんだが、香辛料の元の形を知らねぇな。一人じゃ採れねぇな、きっと。
「このサンドイッチに使っているのは『シャアルハーブ』って言う香辛料で、本当は領主様にだけ売っている物なんだ。面白い効果があるんだけど、あんまり採れないから販売するほど残らないんだよね」
「シャアルハーブねぇ。胡椒じゃねぇのか。で、面白い効果ってのは?」
「髪が生えて来るんだって。領主様って前はちょっと薄かったから、凄い喜んでたよ」
「……………………髪か。なるほどな」
この牧場が狙われる理由は、多分それだな。
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