五十八の道 牧場体験
「いやいや『ケトラカーウ』だったか、この牛。マジでデケェな。もう恐竜じゃねぇか」
俺は寝そべるケトラカーウの所に子供達に案内され、デッキブラシによく似た道具を使ってブラッシングをしていた。
先端に付いているのが金属製のブラシなので割と重量があり子供達には辛そうだが、もう慣れているのか子供達は手際よくブラッシングをしていく。
俺達の中で一番ヘタなのは、やはりと言うかサゲンだ。コイツはお坊ちゃんだからな。こんな作業をするなんて、きっと考えた事も無かっただろう。
だがそれでも、子供達がやっているのを見ながら奮闘しているのは悪くねぇ。初めて会った時は完全にチンピラだったが、コイツも随分と変わったもんだ。
ある程度やった所で子供達に離れる様に言われて距離を取ると、子供の一人がケトラカーウの顔をペチペチと叩いた。
「はーーい! こっち終わったよーー!」
『ブモッ!』
すると、ケトラカーウは言葉が解っているかの様に身動ぎをすると、寝返りをうって反対側を上に向けた。
そして再び子供達は群がり、ケトラカーウのブラッシングを始めた。
こりゃ驚いたぜ。あのデカイ牛が人間の、それも子供の言う事を聞いて寝返りをするとは思わなかった。
ちなみにこの場所はケトラカーウのブラッシングの場所として定着しており、このケトラカーウが終わって立ち去ると、次のケトラカーウがやって来るらしい。ダンジョンのモンスターとの間に、しっかりと共生関係が構築されている訳だ。この牧場、思ったより凄ぇ場所だぜ。
一頭分のブラッシングをやり終えた俺達は、今度は別の子供に連れられて、とんでもなくデカイ牛舎へとやって来た。今度は寝床の清掃だ。
と言っても、やるのは寝床に落ちている糞の回収くらいのもので、余程足りなくなっていない限りは寝藁を足す事もしない。
なんでもあのケトラカーウ共は、人間が使っている『生活魔法』とやらを真似て使うらしく、寝床の清掃を自分でやるそうだ。
その『生活魔法』ってのはダンジョン産の魔法ではなく、人間の研究者が作った魔法だ。攻撃に使える威力は出ない代わりに、生活を楽にする魔法が数多く出来たんで、総じて『生活魔法』と言うらしい。
いやそれは良いんだが、それをモンスターが逆に覚えるってのは凄ぇな。しかもそれをキッチリ使いこなしているとなると尚更だ。
どうもここのモンスターは、緑のダンジョンのモンスターとは一味違うな。人を襲う事もせず、人と共存している。
話によると、農場ダンジョンは四階層まではそんな感じだと言っていたが、こうなって来ると五階層以下が気になって来るな。ここのダンジョンは完全にフェルマ牧場の持ち物だって話だが、頼めば潜らせてくれねぇかな?
と、そんな事を考えながら作業をしていると、小さな子供が一人、牛舎に入って来るのが見えた。
「はぁっ、はぁっ…………!」
「ん? あの子は確か…………むっ!」
牛舎に入って来たのは、ケイネスの妹であるクリスだった。クリスはずっと走って来たのか、息を切らせながら走り、足をもつれさせる。
走って来るクリスを見ていた俺は、クリスが足をもつれさせた瞬間に地面を蹴り、何とかクリスが転ぶ前に支ええる事が出来た。
「危ねぇな。何とか間に合ったと思うが、大丈夫か?」
「リュ……リューマさん……お姉ちゃんが…………!」
こんな子供が、懸命に走って来たんだ。何かあったんだろうとは思っていたが、顔面を蒼白にして助けを求めるクリスを見て、俺は即座に動くと決め声を上げた。
「サゲン! ラベク! この子を頼んだぞ!」
「わかりました、兄貴!」
俺は駆け寄って来たサゲンにクリスを託すと、ケイネスがいるであろう家屋を目指して走り出した。
◇
「やめて! 近寄らないで!!」
「おいおい、こっちは親切で言ってるんだぞ? どうせ君一人じゃマスター登録なんて出来ないだろ? だから俺達が一緒に行ってやるって言ってるんだよ」
「貴方達なんか信用出来るもんか! どうせ登録の時に自分達の誰かを継承登録して、アタシを殺すつもりなんでしょ! そんな事させるもんか!!」
「だったら期限が切れるまで待つのか? そんな事をしたら農場ダンジョン自体が変質するぞ?」
「そ、それは…………!」
俺が家屋の近くに着くと、壁際ではケイネスが後ろに数人の子供達を庇ってナイフを突きつけていた。
ナイフを突きつけられているのは五人の男だ。チンピラ風のが三人と、軍服みてぇな服を着たのが二人。さらにその後ろ側には、倒れている男達が三人見える。
倒れている三人はよく解らねぇが、その他の状況は見たままだろう。男達が乗り込んで来て、ケイネスが子供達を庇いながら抵抗している所だ。
つまりコイツらが、前にケイネスとクリスの命を狙ったクソ共か。そこまで察して、俺は地面を蹴るとケイネスと男の間に割り込んだ。
「きゃあっ!?」
「うおっ!? 何だ、どっから出て来た!?」
唐突に現れた俺にケイネスは悲鳴を上げ、ケイネスを追い詰めていたチンピラは一歩後に下がって声を荒げた。
「お初にお目に掛かる。俺は煉獄龍馬ってもんだ。ここにいるケイネスのダチだよ」
「レ、レンゴク=リューマ? ダ、ダチだか何だか知らねぇが、怪我したく無かったらすっ込んでろや! 邪魔するなら、お前もやっちまうぞ!!」
「あぁ? おい、そりゃどう言う意味だ? 聞きようによっちゃあ、ここにいるガキ共に怪我ぁさせる気だとも取れるぜ? …………なぁおい。ブチ殺されてぇのかテメェ!」
「へぐっ!? ひててて……………!?」
即座に男との間合いを詰めた俺は、男の顎を掴んで持ち上げ、ミシミシと音を立てさせた。
俺と何とか俺の手を外そうと藻掻く男の様子を見て、チンピラの仲間二人は狼狽えたが、その後ろにいた軍服の二人が腰の剣に手を添えるのが見えた。
おっと、ありゃ実際に人を斬ってる奴の殺気だな。どうやらこの牧場は、かなり面倒な事に巻き込まれているらしい。
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