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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ウブな令嬢、悪役令嬢を目指す

作者: 桜井 八雲

小説としては、初めて投稿します。※タイトルと内容に若干相違があるかもしれません。

「はぁ……」

 シャロン伯爵家令嬢、シャルロット・ルイーゼ・ラ・シャロンは悩んでいた。

 

 シャルロットには、想いを寄せる相手が居る。

 しかし容姿や性格にコンプレックスを抱いていた。

 背も低いし、外見も性格も子供っぽい。

 こんな自分では、好意を寄せる相手とは釣り合わないのではないかと。

 

 シャルロットが想いを寄せる相手とは、ジェラール・シモン・ド・ロベール。

 ロベール侯爵家の嫡男である。


 ある日の夜会。


「久しぶりだな、シャルロット」

「ごきげんよう。ジェラール様」

「元気そうで何よりだ。逢えて嬉しいよ」

「ありがとう存じます。ジェラール様もお元気そうで良かったですわ」

「……」

 

 カーテシーをして、挨拶したまでは良かったが、何を喋ればいいのか、

好きな人を目の前に緊張してしまい、言葉が出てこない。

 そこに、1人の令嬢が通り掛かり声を掛けた。


「あらジェラール、ごきげんよう。今日は随分と可愛らしい子を連れているのね。

あなた、そういう趣味でしたの?」

 アルデンヌ侯爵家令嬢、クレマリア・マリー・フォン・アルデンヌであった。


「相変わらずですね、クレマリア様」

「まあいいわ。アナタには案外お似合いかもしれませんわね。ダンスのお誘いが

多くて忙しいから、これで失礼するわ」


 普通なら馬鹿にされたと憤るところだが、自分でも容姿の幼さを認めていた為、

シャルロットはそれ程気にならなかった。

 それよりも、クレマリアの自信に満ちた、他人に媚びない態度に惹かれた。

 クレマリアは背も高く美しい金髪を靡かせ、シャルロットと同年代とは思えない程の、

妖艶な美しさと存在感を放っていた。


「すまないな、シャルロット。口は悪いが、あれで根は悪い人じゃないんだよ」

「大丈夫ですわ。それよりも、綺麗な方ですわね」

「ん……まぁな。確かに」


 シャルロットには、クレマリアが自身に足りないものの全てを、持っているように思えた。

(自分の意見をハッキリ言えていいな。私も、あんな風になれれば……)

 シャルロットは、クレマリアに強く惹かれた。

 ジェラールも、ああいう大人っぽい人が好きなんだろうか? と思った。

 

 夜会が終わってから、シャルロットは考えた。

 どうすれば、クレマリアのようになれるのか。

 そうだ、エマに相談してみよう。

 メイドのエマは、シャルロットの1つ年下という事もあって、話しやすかった。


「エマ、少し話がありますの」

「はい。なんでしょう?お嬢様」

「練習に付き合って欲しいの」

「練習ですか? かしこまりました。お嬢様」

「私は今の自分を変えたいの」

「お嬢様は今のままで充分素敵だと思いますが……かしこまりました。

何をすれば良いでしょうか?」


「そうね、まずは……馬になって頂戴」

「馬でございますか? ヒヒーン」

「馬鹿なの!?あなた? 誰が馬の鳴きまねをしろと言ったの!? 

そこに四つん這いになって、馬になれと言ったの!」


 今までにシャルロットから、高圧的な態度を取られた事が無かったので、

エマは困惑した。


「ごめんね、エマ。これは練習なの。こんな事を頼めるのは、あなたしかいないのよ」

 

 あなたしか、いない。まるで魔法の言葉だった。

 シャルロットに頼られエマは嬉しく思った。


「かしこまりました。今から私は馬です。どうぞお乗りください。ヒヒーン」

 

 シャルロットの意図は分からなかったが、エマは言われた通り四つん這いになった。


「よろしい。乗るわよ」


 シャルロットがエマの背中に跨った。背中にお嬢様のお尻の感触が伝わる。

 お嬢様のお尻は柔らかくて、温かくて……尊い。

 寧ろこれはご褒美かもしれない、エマは思った。


「さあ、なにグズグズしているのよ! 前に進みなさい。この駄馬!」

「ひ、ひひーん」

「もっと早く走るのよ! このノロマ! ぴしっ、ぴしっ」

 

 鞭を振るう代わりに口で、ぴしぴしというシャルロット。


「はうぅ……」

「はうぅじゃなくて、ヒヒーンでしょ! ロバの方がまだましね! ぴしっ、ぴしっ」

「ヒヒーン!」


「ごめんね……エマ。こんな事に付き合わせて」

 とシャルロットがエマの頭を優しく撫でる。

「はうぅ……お嬢様。とんでもございません。ひひーん」

 

 エマはこんなお嬢様も素敵だと思い始めた。


「よし、乗馬はいいでしょう。次はメイクをして頂戴」

「かしこまりました」

「もっと白く塗るのよ!」

「もっとでございますか? お嬢様の肌は充分綺麗ですから、厚化粧じゃない方が

似合うと思うのですが……」

「おだまりっ! いいからやりなさい!」

「ひっ……。かしこまりました」


「ありがとう、エマ。頼りにしてるわ。次は頬紅を塗って頂戴」

「かしこまりました。お嬢様」

「もっと濃くして頂戴!」

「お嬢様、あまり濃すぎると……」

「おだまりっ! 使えないメイドね! ぴしっ、ぴしっ!」

 シャルロットの容赦のない口鞭がエマを襲う。

「ああ、お嬢様。お許しください……」

 

 許しを請いつつ、お嬢様の怒った顔も素敵だと思うエマ。

 寧ろ本物の鞭で打って欲しい位だった。

 お嬢様に、鞭で打たれている自分の姿を想像したら、ドキドキしてきた。


「口紅も、真っ赤にして」

「お言葉ですが、お嬢様の可愛いらしいピンク色の髪には、あまり真っ赤な

口紅は似合わないかと」

「お前は、メイドのくせに命令が聞けないの!? お前の代わりは

いくらでも居るのよ!!」

「ひぃ、かしこまりました。真っ赤な口紅でございますね」

「そうよ、何回も言わせないで頂戴! お前の頭は飾りなの!? 一度割って調べて

見ようかしら?」

「そ、そんな……お、お許しください」

 しおしおと許しを請うエマ。

 

「ごめんね、エマ。あなただけなの、頼れるのは。次はほくろを付けて頂戴」

 シャルロットがエマを優しく抱き寄せ、囁く。

「はぅ……かしこまりました。ひひーん」

 胸の鼓動が高まり、動揺するエマ。


「馬鹿ね、乗馬はもう終わったじゃない」

「申し訳ございません、お嬢様。これで宜しいでしょうか?」

「まだ足りないわね、あと4つ程付けて頂戴。口元周りに」

「4つも、でございますか?」

「叩かれなきゃ分からないようね!」

「か、かしこまりました」

 

 今までひとつも付けたことが無かったのに、やり過ぎでは? と思ったが、 

エマは要望に応えた。

「終わりました。お嬢様」

 

 早速シャルロットは、鏡で確認する。

「うん、完璧ね。ありがとう、エマ」

「とんでもございません。お嬢様」

 

 満足そうに笑みを浮かべるシャルロットに、これで良いのか戸惑うエマ。


「あとはドレスね。一番大人っぽく見えるのを選んで頂戴」

「かしこまりました……これなんか、いかがでしょうか?」

 エマは紫色のドレスを選んできた。


「うん、いいわね。あとは一番高いヒールに……そうだわ、扇子ね」

「扇子でございますか? お嬢様は、歯もお綺麗ですし……」

「おだまりっ!! 次は豚役にするわよ、この牝豚! ぶひぶひ言わせるわよ!」

「あぅぅ……お許しください、お嬢様。ぶひぶひ」

 戸惑いつつも、ノリが良いエマであった。

 

「扇子はこれでいいわね。次は……胸に詰め物をして頂戴」

「かしこまりました。お嬢様」

「もっと詰めて頂戴!」

「ですがお嬢様、これ以上やると不自然に……」

「眼球えぐられたいの!? 美味しい目玉焼きが出来そうね!」

「ひ、ひぃぃぃ」

 

 シャルロットは、エマの反応を見るのが段々楽しくなって来ていた。

 

「出来ました。お嬢様」

「ありがとう。エマ、お茶にしましょう。用意して頂戴」

「かしこまりました」

 エマは紅茶とゴーフルを用意する。


「お待たせ致しました。お嬢様」

「エマ、あなたも食べなさい。さ、ここに座って」

「と、とんでもございません。お嬢様と並んでお茶など……」

「……急に、目玉焼きが食べたくなってきましたわ。意味は分かるわね?」

「失礼致します。お嬢様」

「紅茶も飲みなさい」

「ありがとうございます、お嬢様」

「美味しい……」

 本当に美味しかった。しかもお嬢様の隣に座って。

 これは夢なのだろうか? とエマは思った。


「これもあげるわ」

 と言って、シャルロットがブローチを差し出した。

「お嬢様、そんな……頂けません」

「いいのよ。私の気持ちだから、受け取って」

「ありがとうございます……お嬢様」

 エマはシャルロットの心遣いに感動した。

 

「ありがとう。エマ、あなたは最高のメイドだわ」

 そう言ってシャルロットは、エマの両手を握った。


「あぁ……お嬢様、私は一生お嬢様について行きます」

 エマは涙を零しながら、言った。


 その後エマと鏡を見ながら、表情や立ち居振る舞いなどを練習して本番に備えた。


「これ以上ない程、完璧ですわ……ジェラール様の驚く顔が目に浮かびますわ」


 後日、ロベール侯爵家主催の夜会に、シャルロットは招待された。


「やあ、よく来てくれたね。合いたかったよ、シャルロッ……ト?」

「私もですわ。ジェラール」

 

 いつもならジェラール様なのに、呼び捨てにされた。

 外見も含めて、シャルロットのあまりの変貌ぶりに衝撃を受けた。


「何か、いつもと雰囲気が違うね」

「そう? 別に? いつも通りですわ」

 

 (フフ、私の変貌ぶりに驚いたようね)

 今度は、口元に当てていた扇子をパタパタさせ、ほくろをアピールした。


 ほくろ多過ぎだろ……ジェラールは思った。


「……ま、まぁ楽しんでいってくれ。シャルロット。挨拶があるから、

これで失礼するよ」

 今日のシャルロットは変だぞ、ジェラールは思った。


 この日の夜会には、クレマリアも招待されていた。

「クレマリア様、ごきげんよう」

 シャルロットはクレマリアにカーテシーをした。

「ごきげんよう。あなたは確か……」

「シャルロット・シャロンですわ」

「どうしたの? その……まぁいいわ。失礼するわね」


 クレマリアはジェラールを探した。

「お招きありがとう。ジェラール」

「ようこそお越し下さりました。クレマリア様」

 ジェラールがクレマリアの手を取りキスをする。


「ところで、どうしたの? あの子は」

「え? ああ、シャルロットですか。それが分からなくて悩んでいるんですよ」

「ふーん? もしや……?」

「何か?」

「いえ、いいわ」


 挨拶もし終わり、ジェラールはシャルロットを見つけてダンスに誘った。

「一緒に踊って頂けませんか?」

「おほほ。別に、宜しくてよ?」

 

 やはり今日のシャルロットはおかしい。ジェラールの疑問は、確信に変わる。


 シャルロットの手を取り、慣れた手つきでエスコートをするジェラール。

 しかし、いつもより高いヒールを履いたシャルロットの足取りが、おぼつかない。


「あっ!」

 シャルロットの脚がもつれ、倒れそうになった。

 咄嗟にジェラールが片腕で受け止める。

 2人に衆目が集まった。


「シャルロット嬢は、今日は体調が優れないようですね。少し休みましょう」

 ジェラールがシャルロットを両手で抱きかかえ、休憩室へと向かう。

 

「ちょっと、大丈夫よ。こ、子供扱いしないで下さる?」

 顔が熱くなるシャルロット。


「大丈夫か? シャルロット」

 シャルロットをベッドに寝かせて、ジェラールが言う。


「私は、別に、大丈夫ですわ! 気安く触らないで下さる?」

「本当に変だぞ? 熱があるんじゃないか?」


 ジェラールが額をシャルロットの額に、当てた。

 お顔が近い、近いですわ。シャルロットの心臓が早鐘のように打つ。


「うむ……やはり少し熱いな。薬を持ってこさせるから、ここで休んでいるといい」

「ですから、大丈夫ですわ。子供扱いしないで!」


 シャルロットの言葉を聞き流して、ジェラールが部屋を出ていく。

 暫くして、薬が運ばれてきた。気持ちを落ち着かせようと、水を飲む。


 ジェラールにも、おそらくクレマリアにも変に思われた。

 やっぱり、似合ってなかったんだ。私には、無理なんだ。


「どうして、こうなるんですの? 私はただ……」

 自分が惨め思えて、目に涙が滲む。

 

 そこへ別の誰かが、部屋に入って来た。

 

「全く、見てられないわね」

 クレマリアが、シャルロットを一瞥して言った。

 

 えぐえぐ泣いている、シャルロットに向かって言う。

「あんたね、もしかして私の真似でもしているつもり?」

「…………」

「図星? 全く失礼しちゃうわね」

「……だって、私は子供っぽいから……少しでも大人に見られたくて……。

だから、クレマリア様に憧れて……」

 

 泣きながらも、必死に声を絞り出すシャルロット。


「馬鹿ね……私だってね、気にしてるのよ。可愛げが無いところとか」

「え……?クレマリア様が?」

 

 クレマリアにも自分と同じようにコンプレックスがあった。

 それはシャルロットにとって、雷に打たれたような衝撃だった。


「そうよ、人を何だと思ってるの。私だって悩む事もあるわよ」

「……申し訳ございません」

「あなたみたいな可愛らしい子が、少し羨ましくてああいう言い方をしちゃったのよ」

「……左様でございましたか」

「だからもっと自分に自信を持ちなさい! あなたにはあなたの良さがあるんだから。

それに、どうせ嫌でも年相応になってくるわよ」

「ありがとう存じます……クレマリア様」

「言いたい事は、それだけよ。それじゃ失礼するわ」


 クレマリアが退室していった後、一人考えた。

 私は自分を否定していた。それでは自信なんて付くわけがない。

 今からでも自分の良い所に目を向けて、好きになっていこうと思った。

 なるべく、自分を肯定していこう。

 

 暫くして、ジェラールが入って来た。

「シャルロット、大丈夫か?」

「ええ。もう全然平気ですわ」

「そうか。今夜は泊まって行くといい」

「大丈夫ですわ。またお逢い出来るのを楽しみに、今日は帰りますわ」

「……そうか。気を付けてな」

「お招きして頂き、ありがとう存じます。ジェラール様」

 

 自分の思い描いた結果ではなかった。しかし、とても意義深い一日だった。

 シャルロットは帰りの馬車の中、夜空を見上げながら、

 私が私の、一番の支持者になるんだ、と心に決めた。


 後日、シャルロットとジェラールは、アルデンヌ侯爵家主催の夜会に招かれた。


「私と踊って頂けますか?」

 ジェラールが、シャルロットをダンスに誘う。

「喜んで」

 シャルロットは、少しはにかみながらも、手を差し出し笑顔で応じた。


 ジェラールのリードに委ね、踊るシャルロットから、自然と微笑みが零れる。

 

 大空を舞う鳥の如く優雅に、そして幸せそうに踊る2人の姿を、

クレマリアは遠目から見ていた。


「フン……全く、世話が焼けるわね」

「本当に良かったのですか? お嬢様」

 執事のセバスチャンがクレマリアに問いかける。


「良いに決まっているでしょ。もっといい男を見つけてやるんだから」

 

 

 

 

 



 


 

 

 

 

読んでくださり、ありがとうございました。

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