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最後の勇者 ー 死にたいと願った勇者達の物語 ー   作者: たきわ優
最後の勇者ではなかった勇者アルフレッド

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第三話

旧題「私は本物の勇者なのでしょうか?」全三話の短編でしたが長編に書き直しました(20240831)

 魔境の魔の森が見え、前線で指揮を振るう騎士団長と合流し、作戦を聞く。


「これから陣形を変え、突破口を開く。わかるだろうが、魔物も魔獣もあの数だ。機会は多くは作れん。一度で決めてくれ。頼んだぞ、勇者、皆も!」


「「おう!!!」」


 魔の森は、言葉通り“魔の森”となっていた。溢れ出る有象無象。こんな中を突破できるか不安が抑えれないほどのはじめての“現実”に声が震えた。


「大丈夫だ、あの程度はここにいる一行は皆経験済みだ。そうだろ?」


 副団長が、笑顔で一行の仲間達を振り返る。


「余裕でしょ!俺を誰だと思ってんの?」

「雑魚っすよ。あそこで群れてるのは。ほら、大丈夫だよアルフレッド君!」

「ほらほら、気合い入れ直せって!彼女にかっこよく冒険譚聞かせたいだろ~」


 昨日の短い時間ながらの手合わせで、少し打ち解けた勇者一行の仲間達。魔獣討伐の大先輩たちが軽口や激励で励ましてくれる。


 「ありがとうございます!僕、頑張ります!!頼りにしてます!先輩っ!」


 若干笑い声が響くが、私ではなく僕と、つい言ってしまったがきっとみんな気付いていないはずだ。きっと。うん、頑張ろう。勇者なんだ。勇者を祖父に持つ勇者なんだ。かっこいい冒険譚もカトリーヌに持ち帰るんだ。


 休憩を挟み、その時は来た。騎士団長率いる騎士団や各領の領兵達、傭兵や魔道士が、一斉に仕掛ける。副団長の「前進!」という声で、露払いの騎兵隊が一気に馬で駆け、その後に続いた。流石に森の中で騎乗はできないので、このまま一気に魔獣や魔物たちの群れを駆け抜け、私達一行は、森手前で馬を乗り捨て、そのまま森へ駆け込む。

 戦闘開始だ。

 森の中は、木々が障害物になり、私の想像よりも大変とは言えず、一体一体を相手に進むことが出来た。しかも、実践での初めての聖剣の一振りは、実感するには充分だった。これが―――勇者の力なのだと。

 

 魔境に入り、森深く進むに連れ、明らかに景色が違ってくる。

 草木が枯れ、土はひび割れ、天気も悪く曇り空が続き薄暗い。進むに連れ、魔獣や魔物が増えてくる。でも、さすが精鋭だ。頼もしい先輩たちと私は順調に、確実に前進して行く。

 

 およそ一月(ひとつき)かかり、魔の森を突破した。

 そこから先は、荒れ地や岩場、沼地、おどろおどろしい森や林。そして、至る所に、古代の人の営みを感じた。朽ちた遺跡跡や、古代の神殿跡、家だっただろう石造りの朽ちた街並み。魔王により、たくさんの古代の国が滅んだ痕跡がそこかしこに点在していた。

 魔物や魔獣もどんどん強さが増していく。話には聞いていたが、初めて見る人型の魔物―――魔族は、知恵があるのか、何度も戦略的に私達の行く手を阻んだ。魔族は、私のような剣士も、魔道士もいるようで、我々が理解できない言語を話すものもいた。


 魔王、魔族、魔物、魔獣。これらは「何」だろう?

 勇者と聖剣、魔王との「関係」は?

 疑問がどんどん進むに連れ積み重なる。答えはきっと誰も知らない。


 そして、歩きながら戦闘しながら進み、大陸の六割を占める魔境を縦断し続け、王城を出てからおよそ十ヶ月、魔王城が見える位置まで辿り着いた。

 

 流石、魔王の居城である。

 出てくる魔物は、魔王城の城下町で遭遇するものすら、大型で今までの敵より、強くおどろおどろしい。

 三国から選ばれし、一行の仲間達。

 聖剣を手にした私は、それでも一刀両断できるほどには、戦えるのだが、彼等は、ここからかなり苦戦をしているように感じる。


 だからこそ、その()()()が顕著にわかったのだ。


 実は、騎士や傭兵の中に、先祖が勇者で受け継がれた聖剣を手に勇者一行に加わっている者が数人いる。

 勇者の子孫は、軒並み身体能力が高いと言われる。勇者一行に選ばれるほどの実力を持つのも納得である。だが、先祖の聖剣を手にしようが、勇者ではない。

 勇者が手に入れる力を得れていないので、皆、強敵が現れ苦戦しているのである。


 私の二つ上の傭兵であるアレク。

 彼の先祖にも勇者がいたらしく、先祖から受け継がれたという聖剣を使っている。


 アレクは、()()()()()()()()()戦って見えるのである。

 まるで、本当の力を隠すように。


 居城を進むに連れ、敵の強さが跳ね上がっていく。

 なので、目の前の敵に必死で、ほぼ全員に余裕がなくなってきている。

 私には、まだ余裕があるので、周りに目を配らせる事ができる。

 だからこそわかる。

 アレクに、苦戦しているフリをするほどの私と同等の()()があることが。


 敵を倒し終わり、ある程度広く見通しの利く空間で、少し休憩をとれる事となった。


 ―――アレクこそ、勇者ではないのか?


 自分の剣ではなく、祖父である勇者ヨハンの聖剣が光った。光ったその光は淡いもので、目を開けていられないほど眩いものではなかった。どう考えても、何度考えても、自分が本物の勇者だと言い切れない。それに、勇者になった瞬間になぜかそれを嘆いていたように見えた祖父である勇者ヨハン。

 アレクこそ、私のこの疑問や不安を解消してくれるのではないか?彼こそが本物の勇者なのだから。その思いがアレクの戦闘を見る度に深めていく。それに、なぜだろうか、根拠はないが私の中に、確信があるのだ。

 この疑問の答えを求め、隅で、壁にもたれかかり休んでいるアレクの元へ向かった。


「アレクさん、もしかして‥‥‥君が本当のゆう―――」


 小声で「勇者ではないか?」と問おうとした私の口をアレクはすごい勢いで手で塞いだ。

 驚く私の顔を見ながら


「あなたが勇者様ですよ」


 と、アレクは真剣に、言い聞かすように私を真っ直ぐ見つめ、ふにゃりと顔の警戒を解き、何の邪気もない顔でにこりと笑った。


 ―――確信した

 ―――彼が、アレクこそが()()()()()なのだと


 呆気にとられた私をその場に残し、アレクは負傷している騎士の手当に加わりに行った。


 はやり、私は、本物の勇者ではなかった。


 なぜ、聖剣は光ってしまったのか?

 勇者と同じ力を手にすることができたのか?

 このまま勇者であってもいいのか?


 どうしようもない苦しさが胸に広がり、認められない自分に嫌気が差す。

 ぐるぐるとそんな不安を抱えながらも戦い続け、私達勇者一行は、とうとう魔王の元へ辿り着いたのである。




 魔王との戦いが始まった。

 圧倒的な強さ。

 三十名もいた仲間達が次々と負傷し倒れていく。

 激戦の中、今、この場で足を踏ん張り意識を保ちながら戦い続けているのは、私とアレクと、後方で支援を続ける魔道士一名だけとなった。


 祖父ヨハンや、祖父と共に戦った勇者一行の方達に聞いていたよりずっと魔王が強く感じる。

 勇者の子孫が複数いるにも関わらず、残っているのが私含め三名。

 祖父達の時は、魔王封印まで、半数が戦い続けたと聞いている。


 私が本物の勇者ではないからなのか?

 でも、本物の勇者であるだろうアレクも一緒に戦っている。

 なら、魔王が以前にも増し強くなったのだろうか?


 魔王の封印の方法はわかっている。

 魔王の胸の中央に聖剣を突き立てるのだ。

 その瞬間、聖剣から光が溢れ、魔王を封印するのだ。


 かなり魔王も弱ってはきているが、思った以上に魔王は手強い。


「僕が魔王の動きを止め隙を作ります」


 アレクは、小声でそう言うと一気に魔王に踏み込んだ。

 風を切るような一撃は、それを受け止め必死に抗う魔王の動きを一時だが封じた。私なんかよりよほど強い一撃だ。彼が、アレクが勇者なのだ。

 今しかない。

 アレクの背中越しに、思い切り足を踏切り跳躍し、アレクの頭上から少し右側から聖剣を魔王の胸めがけ突き落とすように刺し込んだ。

 聖剣から光が漏れ出す。

 魔王が呻く。

 だが、なぜか感覚でわかる。

 これでは―――封印しきれない―――と。

 すると、左にいたアレクが一歩下がり、聖剣を持ち直し、私が突き立てている聖剣と同じ場所にアレクが聖剣を一気に突き刺した。

 すると、目を開けられない、強い光がアレクの聖剣から溢れ、一瞬にして光が空間を埋め尽くし、辺り一帯が真っ白になった。


 そして、アレクと私の勇者としての力が光により同調したのがわかった。


 光が消えた跡には、二本の聖剣と、倒れたアレク、その下に魔王であっただろう黒い大きな染み。

 そして、唖然と立ち尽くす私がいた。




 魔王は、()()によって、()()ではなく()()された。

次の章は「最後の勇者に一番近かった勇者マルク」編です。

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