表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の勇者 ー 死にたいと願った勇者達の物語 ー   作者: たきわ優
自決した勇者リアム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/43

第二十七話

勇者リアム編スタートです。

 リアムと僕は従兄弟だ。


 侯爵家の次男のリアムより、一日早く生まれた伯爵家次男の僕、ウィリアム。

 同じく次男で、一日違いで生まれた僕等は、双子の兄弟のように育った。


 次男は、長男の予備だ。

 将来の選択肢は限られているが、僕等は、ご先祖様である勇者の話を聞かされ育ったので、将来は二人で領内を統率する立派な騎士になることを幼い頃に誓い合った。


 リアムと僕は、正反対の性格だとよく言われる。

 単純で明るいリアムと、真面目で大人しい僕。

 でも、はっきり言って、僕は、真面目で大人しくせざる得なかったと言うか、リアムといると必然的に真面目にならなきゃいけなかったし、早く大人にならなきゃいけなかった。

 なぜなら、リアムは剣に全生命力を全振りしている馬鹿だからだ。


 一応、僕等は次男なのだから長男の予備として、当主教育も受けるのだが、リアムは全く勉強ができない。

 まず、長文の文章が理解できない。

 例えば、歴史。原因があって結果があり、その積み重ねで歴史は成り立っている。それに合わせ、法が整備され、この国は法治国家として機能している。

 教えてくれる教師は、とても知識が豊富で、複数の教科を跨いで関係性を簡素に説明できる名師。

 子供の僕でも理解できるように噛み砕いてわかりやすく説明してくれるのだが、リアムと授業を受けると全く授業が進まないのだ。


「今日は、領主が何故税金を領民から徴収するのかお話しましょう。まずはじめに――」


「先生、税金って何?」


 そう、いつも話し出しで授業が止まる。


「リアム様、税金とはお金のことです。領主、つまり、リアム様のお父上が、領民から集めているお金のことですよ」


 先生は、リアムに合わせてひとつひとついつも丁寧に答えてくれる、のだが――


「父上はお金を集めているのか?」


「はい、そうですよ」


「ふーん」


「さて、続きですが、リアム様のお父上が集めたお金、つまり税金ですが、税金の使い道は多岐に渡ります。リアム様は将来騎士になりたいのですよね?」


「ああ、立派な騎士になるのだ」


「騎士の剣や鎧を買うのにお金がかかりますよね?そのお金は、リアム様のお父上が領民から集めたお金、つまり税金から出ているのです」


「え?僕の剣は父上が買ってくれたって言ってたのに本当は領民が買ってくれたのか?」


「そうですね。元は領民のお金です」


「でも、領民から剣はもらってないぞ」


「領民から集めたお金をお父上が使ってリアム様の剣をお買いになったのです」


「なんだ。やっぱ父上が買ってくれたんじゃないか」


「はい、お父上がお買いになりましたが、そのお金は元々領民が納めたお金なのです」


「え?父上のお金じゃないの?」


 そう、リアムは、直前に耳に入った情報でしか物事を考えられない。話の前後を繋げて理解出来ないのだ。いつもいつもこの繰り返しで、授業が一向に進まず、親達は早々に諦め、分家から頭の良い次男三男を集め将来の補佐とすべく当主教育を共に受けさせ、頭の良い婚約者を必死に探し回り、婚約者になって下さった令嬢にも当主教育を受けてもらうことになった。


 このご令嬢、同い年とは思えないほど聡明な方で、すぐにリアムの性格を把握し手綱を握って下さった。


「リアム様、立派な騎士となり、か弱い女であるわたくしをお護り下さい」


「ああ、立派な騎士になり護るぞ」


「わたくしは、立派な騎士となるリアム様のためにお勉強に励みますわね」


「ああ、頑張ってくれ」


 立派な騎士という言葉を連発し、何かとこの言葉を結びつけうまくリアム様を誘導して下さる。

 馬鹿でも侯爵家の次男で顔も良いリアム様に令嬢が群がっても、事前に「立派な騎士様は一途なものです。立派な騎士様は婚約者以外の令嬢とは挨拶以外は言葉を交わさないのですよ」と、対策しており、馬鹿だが素直なリアム様は、令嬢達の挨拶以外は全て無視。

 なんとも頼もしい婚約者様だ。


 婚約者の令嬢は、政略で結ばれた縁で、馬鹿なリアムを押し付けられたと言っても、リアム様のことを本当に慕って下さっている。

 僕は令嬢の装いの良し悪しはわからないが、一般的に婚約者様は地味なのだそうだ。

 それを他の令嬢に馬鹿にされていた時、リアムは走って駆けつけ、あっと言う間に婚約者様を担いで助け出して「僕が守るから大丈夫だ!」と、婚約者様を救ってみせた。

 僕も慌てて着いて行っていたので、「なんで悪口を言っていた令嬢達に言い返さなかったんだ?」と、担ぐ前にすることがあるだろうと質問すれば、「だって、婚約者以外とは挨拶以外喋っちゃいけないんだ」と、胸を張るリアム。

 馬鹿だけど、一度決めたことは絶対に曲げない。

 だから、そんなリアムに婚約者様はメロメロだ。


 悪意のある者の言葉でも、理解せず素直に聞いてしまっては遅いのだ。

 だから、僕も周囲も婚約者様に習って、何かと便利な「立派な騎士」で、どうにかこうにかリアム様を育ててきた。

 こうして、周囲の手厚い包囲網で、全面的にリアム様は害意から守られ、馬鹿だが素直で正義感の溢れる立派な騎士へと着々と成長しつつあったのだ。


 僕は、伯爵家の長男である兄と八つ歳が離れており、兄嫁が婚姻後すぐに妊娠し長男を産んだことで、早々に長男の予備のお役目を返上することが出来た。

 これで、ずっとリアムと一緒にいれる。


 馬鹿だが僕はリアムが大好きだ。


 僕は、生まれつき目の上から額にかけてくっきりとした消えない、醜い痣がある。

 でも、一度だってリアムはそれを馬鹿にしたりしなかったし、僕が馬鹿にされたら誰よりも怒ってくれる。

 それに、僕が馬鹿にされて泣いたその日に、いつの間にかゴツゴツした石で僕の痣と同じところを傷つけ、血だらけの顔で「これでウィルとおそろいになった」と、笑ってくれた。

 当然、親達は顔面蒼白で大騒ぎになったし、痣ではない傷は、聖職者がすぐに綺麗に治してしまったが、そうしてくれたことが僕はとてもとても嬉しかった。


 だから、一生側でリアムの面倒を見ると決めている。

 そんな僕の役目は、リアムを「立派な騎士」にすること。


 リアムは強い。

 勇者の血を引く僕等一族でも突出して強かった。

 体格もよく、頭では覚えられないことも、身体ならすぐに覚えれるようで、剣技もとても優れている。

 だが、どんなに強くても、個人ではなく集団である騎士団で役割を担うには、頭も必要で、僕がそれを担うのだ。


 領内で盗賊が拠点としている山小屋と洞窟が見つかった時は、班に分かれ複雑な作戦が立案されたが、リアムは理解できない。だから、僕が付きっきりでリアムを()()()


「リアム、右へ走るんだ」


「ウィルわかった!」


 リアムは山道を右へ走る。


「山小屋が見えたら止まるんだ」


「見えた!」


 見えた瞬間に、リアムは急停止する。

 僕は、リアムに屈むように指示をし、山小屋の状況を伺い、斥候に命じて様子を確認し、配置を相談する。


「リアム、僕がいいよって言ったら悪い盗賊をやっつけて。でも、片目を黒い布で隠している盗賊は殺さずに動けなくするんだ」


「やっつけなくていいのか?」


「うん、大丈夫だよ」


 眼帯をした盗賊は、盗賊の親玉だと調べはついている。いろいろ尋問しないといけないので確保しなければいけない。だが、リアムはそういうことが理解できない。

 だから、事前にリアムでも理解できる言葉で最低限の指示を出し、任務中、特に戦闘中は、全体を見渡せる位置を陣取り、リアムを声で誘導して臨機応変に動かすのが僕の役目。


 十六歳になり、騎士見習いから正式な騎士となり、僕等はとても順調だった。

 毎日が幸せだった。

 そんな中、魔王復活の知らせが届き、国中が不安でいっぱいになるが、なんと名誉なことに、リアムが勇者に選ばれたのだ。

 先祖に勇者がいるので、二人目の名誉に一族総出で大歓喜だった。

 僕も、リアムが勇者に選ばれて、嬉しくて胸いっぱいになる。

 なのに、その日から、リアムは人生で一度も見せなかった行動を取り出したのだ。

 それは――何かに悩む――こと。

 悩むリアムなんて見たことない。

 何に悩んでいるかわからないし、聞いても答えてもらえない。

 僕も、勇者一行に加わり、勇者リアムの補佐として魔王城へ同行した。

 道中も、ふとした瞬間に思い悩むリアムを何度も見た。

 僕は後悔している。

 もっと、踏み込んで、無理矢理でも悩みを聞き出しておけばよかったのだ。

 何か出来たはずなんだ。

 出来た‥はずなんだ‥‥‥。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ