本編「忘年会」
私が以前勤めていた会社では毎年決まった日時に忘年会を行っていました。そんな大きな会社ではないので社員のほとんどが参加していました。決まった日にやるので予定を空けやすいというのもあるんですが忘年会のある日は残業禁止で参加が当たり前という雰囲気が会社全体にあったからかもしれません。
もちろん私も毎年参加していたのですがある年の忘年会の日にどうしても会社を早退しなければならなくなったんです。
娘が熱を出して妻もどうしても迎えに行けないという状況だったんです。同僚に相談したら協力してくれてすぐに出社して迎えに行きました。
妻が帰って来るまで娘を看病して妻と交代したときには忘年会が始まっている時間になってしまっていました。普通なら諦めて不参加にするところなんですがその時の私は義務感みたいなのがあって私はすぐに忘年会会場に向いました。
忘年会は毎年同じ場所で行われていたのでお店の場所もしっかり覚えていました。いえ覚えていたはずだったんですがその店が見つからないんですよ。
記憶では確かにその場所にあるはずなんですがそこに店がないんですよ。そもそも店があるはずのフロアそのものがないんです。
記憶ではその店があるビルは7階建てなのですが何回数えても6階までしかないんです。1階、2階と上って行くと確かに見覚えはあるんですが3階まで上ると全く見覚えがないんです。3階にその店があるはずなのに全く知らない店が並んでるんです。
記憶違いかと思って周囲のビルを調べてみてもその店はないんです。
私はもう探し疲れてしまって最後の手段として忘年会に参加している同僚に電話をしてみたんです。盛り上がってるところに水を差すのは申し訳ないとは思ったのですが背に腹は代えられないので。
数コールで同僚は電話に出てくれたのですがどうも様子が変なんです。酔っているとかそういうのじゃないんです。その逆でどうもテンションが低いんです。
仕事で失敗したときの方がまだ元気じゃないかってくらいで。一体どうしたんだって聞いてもぶつぶつ小声で何か言うばかりで。
もう聞くのを諦めて店の場所がわからなくて迎えに来てくれって頼んだ瞬間その同僚が急に叫び始めたんです。
「キエ―!」
そしたら電話越しに呼応するみたいに「キエー!」「キエー!」と大合唱が聞こえてきたんです。さすがに恐ろしくなって私は電話を切って家に帰りました。
後日同僚に会ったんですが変わった様子はなくて忘年会でのこと話してきたのですがいつも通りの楽しい雰囲気の忘年会だったみたいに話すんです。
私からの電話のことも覚えていたのですが内容が私の記憶と食い違っていて。
それ以降私は何かと理由をつけて忘年会に参加するのはやめました。自分も気づかない間に異様な会に参加していたんだと思うと恐ろしくて。