紺壁
「こんぺき」です。
天井に見せかけて じつは高い壁だとか
ひとを食ったような青さをしやがって
紺壁の空は いくら見上げても
その果てを見せないで どこにでも聳えていやがる
踵を浮かせて 手をのばしてみれば
ぜんぜん足りねえと おのれのちっぽけさを呪った
爪をたてる裂け目など おまえにはないよな
かといって のっぺりもしていない深遠なひろがり
苛立ちまぎれに こぶしをうちつけてやろうとしても
文字どおり 空をきるもんだから ほんとやるせない
荒鷲の翼に 蝙蝠の羽を繋いでも
紙飛行機の翼に油蟬の翅を重ねても
頂には至らないだろう
地べたに繋ぐ鎖を千切っても
地べたに縛る両脚を断ち斬っても
墜ちるさきは また地べただろう
ならば 何故 おれは飛ぼうとするのか
紺壁の果てに 何を見たいのか
知るもんか
たとえ 知ってたって
その果てで そいつを見るまでは教えては やらない
そいつを見たおれが
悦びにうち震えるのか
失望に暮れて沈むのか
そんなの そいつを見てからのはなしだぜ
今は どうだっていいよ
燕雀と鴻鵠の翼をならべても
七色の蜻蜓の翅を敷き詰めても
それでも きっと頂には至らないだろう
心を縫いつける想いを千切ってまで
心を結びつける愛を断ち切ってまで
墜ちるのを拒んだおれを
地べたはまた擁きとめてくれるのか
もう一度問う 何故 おれは飛ぼうとするのか
紺壁の果てに なにがあると望むのか
知るもんか
じゃあ 逆に問う
あの果てにさえ それがありはしないだなんて
おまえは見てきたとでも言うのか
それがないのを見たおまえが
安堵のため息をつくのか
絶望に嘆き喚くのか
そんなのも そいつを見てからのはなしだぜ
今は どうだっていいじゃないか
いくら見上げても その果てを見せないで
どこにでも聳えていやがる紺壁の空
この頂に至る術を
どうにか 手にいれたくて きょうもおれは
天使と堕天使の翼をまだらにして
風車の羽を8枚にして
竹蜻蜓の翅をひろいあつめて
赤錆に蝕まれた鎖と
赤い血のめぐる想いを千切る
黒ずんで萎えた両脚と
黒くにじんだ愛を断ち切る
それでも
ひとを食ったような青さをした高い壁を
飛び越えて その果てにあるものを見るどころか
頂に至ることすら叶わない
翼と 羽と翅を いくら継ぎ接ぎしても
墜ちるたびに擁きとめてくれる地べたに
何度 今生の別離を告げても
望めるのは ぶざまに墜ちたおれを
あれほど 邪険にあつかってやった地べたが
また やさしく擁きとめてくれることだけだった
高えな、空。