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はじまり……?


「ふあぁ……」


朝の陽の光と鳥の鳴き声で目が覚める。

眠い眼を擦りながら携帯を確認すると朝5時のアラームが鳴る十分前だ。


目覚ましの音はみんな苦手だと思うけどぼくはそれが顕著で、こうして設定した時間の十分前に毎回目が覚めてくる。

父さんなら目覚ましが鳴った時点で携帯を投げて「あと十分……、いや二十分、いや今日は体調が悪い休もう」なんて言いだすけれどーー。


階段を降りて洗面所に向かい顔を洗ってから夜中に回した洗濯物をカゴに入れてベランダに向かう。

カーテンを開いて外へ出ると爽やかな空気とともに陽の光が差し込み、寝ぼけていた身体に血が巡っていくのを感じる。


「今日は何を食べようかなぁ……?」


ぐぐぐっと伸びをした後、キッチンに向かい朝食を作り始める。

最近は一人だから量を作ることもない、父さんと違って少食だからあまり食べられないし。


冷蔵庫を開けて中身を確認しそのまま使う材料を何個か取り出してエプロンをつける。


「ハムの賞味期限が近いし一気に使いたいなぁ、卵も余ってるから……お昼も必要だし、今日はサンドイッチにしよう!」


ちょっと作る量が多くなっちゃうけど、消費するあてはあるから問題ナシ!


朝食を食べてお昼の分をランチバックに詰め、制服に着替えた後に自室に置いてある写真の前で手を合わせる。


「行ってきます、母さん」


玄関の戸を開けて近所の人に挨拶すると、駅のホームに向かって電車に乗る。

ぼくの通う高校は住んでいる家とはちょっと離れているから基本は電車通学、中学の時は徒歩通学だったのもあってちょっぴり新鮮だけど……


「ぐ、ぐるじぃぃ……っ!」


こ、この満員電車だけは全然慣れない! 電車が左右に傾くたびに人の間に挟まって浮いた身体がおしくらまんじゅうみたいに潰されるぅぅぅ!!


あうあう言いながら人ごみに揺られていると突然ひょいっと身体をすっぽ抜かれる。

自分の身体を持ち上げている腕の方に目線を向けると、端正な顔立ちのイケメンが心配そうな顔をしながら声をかけてきた。


「おはよう空、目回してるけど大丈夫か……?」

「お、おはようしょうちゃん。 正直助かったよありがと……」

「おう、なら良かった」


今ぼくに話しかけてきたイケメンのしょうちゃん、もとい早坂翔太はぼくを腕に抱えたまま挨拶を終えると思い出したように続ける。


「そういえば知ってたか、今日英語の高橋が抜き打ちで小テストするらしいぞ」

「え、ほんとに?」

「ああ、隆成が呼び出しくらった時にたまたま机に広げてあったのを見たらしい」

「隆成くんまた呼び出されたんだ……」

「あいつが呼び出しくらわない日の方が少ないだろ」

「確かにそうかも」


二人でくすくすと笑いながら世間話をしていると目的地を告げるアナウンスが流れる。

ホームに降りて改札を抜け、通学路に出ると隣でぐううっとお腹の虫が鳴った。


「しょうちゃんまた朝食べてないの?」

「ああ、昨日も藍里に衣装とか機材のチェック諸々投げられたからな。朝はいつも通りギリギリ、もう眠いのなんのって」

「ははは……災難だったね」


衣装と機材の確認って事は撮影かな?


しょうちゃんの家は一家でモデル事務所をやっていてお母さんが社長、お父さんがマネージャーをしてる。

しょうちゃん自身もモデルをやってたけど家族から駆り出されて嫌々やるパターンと迎えに行ったら事前に脱走していたなんて事件が多くあった結果、


「辞めても良いけど裏方には回ってね?あ、分かってると思うけど次逃げたら……ね?」

と藍里さんに脅しをかけられてたりする。


そんな藍里さんはしょうちゃんのお姉さんであり、業界でもトップクラスに人気のモデルなんだけどーー


「アイツ……事務所の手伝いならまだしもやれアイス買ってこいだの借りてきた映画が面白くないだの一々文句つけてきやがって……。大体モデルやってるなら身体のシルエットとか気にして食事制限するだろ!なんで焼肉食い放題とか行ってんだよ!!」

「藍里さん食べても太らないって言ってたからね……」


前にお家にお邪魔した時はテーブルを隠すように立ってたけどしっかりケーキの包みが散乱してたっけ。


「空、頼む、アイツがぶくぶく太るようなカロリー爆弾の食い物をお見舞いしてくれ」

「そんなことしたらぼくが藍里さんに殺されちゃうよ……?」

「あー……お前なら大丈夫だ、多分、もしかしたら、奇跡がおこれば」

「せめて太鼓判押してよ!?」


こんな会話してるだけで危ないんだからね!?まあいざとなったら全部しょうちゃんになすりつけるんだけど!


「あ〜なんか愚痴吐いてスッキリしたら余計に腹減ったー!食堂って朝から空いてたっけかな〜空いてねえか……」

「良かったらお昼の分少し食べる?作りすぎちゃったから余ってるし」

「ほんとか!? 助かる〜! あ〜シェフ、ちなみに今日のメニューは?」

「サンドイッチだよ、卵サンドとハム、レタスにからしマヨを和えたやつ」


お昼の内容を伝えるとしょうちゃんはその場で膝立ちになりながら両手をひろげ「神よーー 我が元にマイリトルエンジェル花枝を遣わしてくれたこの幸運に感謝をぉぉぉーー!!」とオーバーリアクションしてる。 

ちょっとやめてよ!こんな往来のど真ん中で誰かに見られたらどうするのさ!!



ーーくすくす。



苦笑いしながらその場で立ち往生していると小さく笑う声が聞こえ、笑い声の方に目を向けると大学生くらいのお姉さんがこちらを見てニコニコしていた。


……い、今の見られてた……? は、は、恥ずかしいぃぃ!!いや、本当はぼくじゃなくてしょうちゃんが恥ずかしがるべきなんだけど!

肝心の本人はお姉さんの方には目もくれず「さぁマイエンジェル! 施しを、この卑しい私めに施しを!」とか言ってるし!


抱きついてくるしょうちゃんをなんとか剥がそうとしているとお姉さんがこちらに近づいてくる。


「ふふ、ごめんなさいね?見ないようにはしてたんだけどあまりにも面白いことしてるから笑っちゃった。」

「い、いえ! こここちらこそお見苦しいものをお見せして……」


内心見られていた事に焦り、どもりながらこちらも謝る。

うう、朝から恥かいたー!なんて思いながらちらっとお姉さんの方に目向けると、


その容姿に思わず息を呑む。



「……うわあ、綺麗な人……」



思わずそう呟いてしまう自分がいた。


遠目に見てた時から目を惹かれてたけど、近くにくるとより一層感じる。


ホワイトブロンドの透明感のある髪をサイドアップにまとめ、ふんわりとしたワンピースからは雪のような肌が覗いている。


外国の人だろうか


日本語上手だなぁ


なんて朧げに考えていたけれどーー


何よりもその天色の瞳がこちらを見つめている事実に心臓がドクンと脈打つのを感じた。



「うん?」

お姉さんが首を傾げた事に違和感を持つと、ぼくは自分が思いっきり口を滑らせた事に気づいた。


「ごごごごめんなさい!いきなり何言ってんだって感じですよね!!」

ほんとだよ!初対面の人に向かって何口走ってるんだ!?

ぼくが慌てて取り繕うとお姉さんはまた笑って


「ううん、突然でびっくりしたけど褒められて嬉しかったよ。だからそんなに謝らないで?」

なんて気遣ってくれる!


優しいなぁなんて思っているとお姉さんはふいにジ〜っとこちらを見つめ「似てる……」と呟いて考え出したかと思えば唐突に「そうだ!」と言って携帯を取り出し始めると

「よければ道を教えてくれないかな?このマップ?って言うのを使ってみたんだけどどうも辿り着けなくて……」

と言いながら隣に来て画面をぼくに見せてくる。


その時にお姉さんのつけていた香水のフローラルな香りがしてまたどきっとしたけど!

いやいやいやいや今はそんな事考えてる場合じゃないだろぼく!と顔を振りながら画面に集中すると目的地には秋桜大学と書かれていた。


「お姉さん秋桜大学の学生さんなんですか?」

ふと疑問を口にする。

「あれ?でも大学の入学式って先週だったような……」


「そうなの、最近こっちにきたばかりでバタバタしちゃって。今日からやっと通えるんだ〜って思ったんだけどその、ね?」

「あ〜確かにここら辺は道が入り組んでるから分かりづらいですよね!」


お姉さんが困るのも無理ないと思う、ここら辺は道が入り組んでいて一応駅から大学は見えるけど行き止まりが多かったり通れると思ったら工事で通行止めだったりという事が少なくないから。


一回道を覚えてしまえば大丈夫だけど分からないと遅刻してしまう可能性だってあるよね、よし……。


「あ、あのもし良ければ一緒に行きませんか?ぼくたち秋桜大学附属の高校に通ってるので……」


おずおずと提案してみるとお姉さんは「まあ」と口に手を当てて驚き、ふいに悪戯っ子のような笑みを浮かべて


「それじゃエスコートしていただけるかしら、かわいい紳士さん?」

とこちらに手を出してきた……!


うわっ、今のはズルい! こんな風にお姉さんに微笑みかけられたら十人中十人が喜んで手を差し出すんじゃないだろうか。 それくらいの破壊力があったよ……!


「ところで、さっきから気になってたんだけど……」


何だろう、ぼくの顔が真っ赤なのに気づかれただろうか。


「彼、良いの?」

「えっ」


お姉さんの視線を追うと僕の足元で死にそうな顔をしているしょうちゃんと目が合う。


「さ、サンドイッチ……食い物くれ……」


「あ、しょうちゃんごめん」


すっかり忘れてた。





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