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プロローグ……?


「ねぇ、良いじゃん! ちょっと遊んでこうよ〜?」



慣れた様子で声をかけてくるガラの悪い二人組にため息をこぼす。

普段からこの手の男に声をかけられる事は少なくないが無視を決め込んでいれば大抵は大人しく諦める、だというのにこの二人に至ってはそんな様子はなく常に両側を囲むようについてくる。



「キミみたいな可愛い子見た事ないからさ〜てか地元じゃないっしょここ? どっから遊びに来たの?」

「むすっとしてないで教えてよ〜。 あ、オケいく? 俺マジで歌に自信あるからさ! 聞いたらビビっちゃうよ〜。」

「お! オケる、マ? 行くべ行くべ! たかやんのヴォーカルまじで惚れっからさ!」



「ちょっと! 離してッ!」



男達は決まったとばかりに歩き出し、あろうことか無理矢理私を連れて行こうと引っ張る。

掴まれた腕を見てゾワっと背筋が凍る。

男の人に手を触れられているこの状況に動転し、思い出したくないトラウマに動悸が激しくなる。

込み上げる熱と吐き気を飲み込みながら必死の抵抗をするが大人の男相手では敵わない。



ーーやだ、やだ、怖い。恐い…!



周りの大人達も関わりあいになりたくないのか見て見ぬふりをするばかりで、そうしてる間にも店先へと一歩、また一歩と近づいていく。



「助けて…っ!」



恐怖に思考を放棄しそうになる気持ちを堪えながら絞り出すような声で呟く。


「大丈夫だって〜乱暴は?しないからさ??キミの可愛さマジ十年に一人って奴?いやぁガチでラッキー……。」


ふいに男の口が動かなくなる。

何が起こったのだろうか……。歩みが止まった事に疑問が浮かび涙ぐむ目を擦りながら「ふ、二人目だ…。」と呟く男の先に目を向けると…。



「……綺麗」



男が向かおうとした先に一人の少女が佇んでいた。


なんて事はない、賑やかな街の風景に沿うようにただ立っているだけ。

なのに一瞬も目が離せない。


目の前でしとやかに揺れる黒髪は見る人を惹きつけ、凛とした佇まいは彼女と世界の周りが隔絶されたかのような異質な雰囲気を纏っている。


それに何よりも目を惹かれるのはその容姿だった。


通りがかれば誰もが振り向いてしまうような、正面から向き合えばその深紅の瞳の色にたちまち吸い込まれてしまいそうな……この場にいる誰もがそう感じていたと思う。



そんな風に彼女の事をまじまじ見つめていると、彼女はこちら側に目を向け、ニコっと笑みを浮かべるとコツ、コツとブーツを鳴らす。

男達の合間をするりと抜けて私の手を掴むと、そのまま向かっていた方とは逆方向に歩き出す。



「ちょちょちょ、待って! キミ、どこのアイドル!? この後どっか遊ばない? ダメなら連絡先だけでも…」



慌てて追い縋る男たちに対して彼女はちらりと視線を向ける。


その表情は先ほどとは打って変わって氷のように冷たく、目線を向けられていない私でさえ息を呑むほどの迫力だった。

男達がその視線に固まるのを確認すると、彼女は私の手を掴んだまま歩き出した。



ーーーー



「あ、あのっ!」



手を引かれながら歩き続け、道を進んだ先で前を向く背中に声をかける。



「さ、さっきは助けてくれてありがとう」



振り向いた彼女と目線が合い動揺してしまう。



「よければお礼がしたいんだけど、この後って予定……あるかな……?」



ニコッと笑って見せた笑顔の裏でどくどくと脈打つ鼓動と、自分でも分かるくらいじわっと熱くなる頬の感触がーー後にも思い出せてしまうくらい記憶に残った。





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