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雑音(ノイズ)が流れる

作者: 弐兎月 冬夜

 定年間近の私は、往年の名車の中古車を買った。最初は楽しかったのだが、やがてちょっとしたことが気にかかるようになった。

 今更だが、この年になってこの車を買うとは思わなかった。

 若いころに乗ってみたかったあこがれの車だった。

定年を指折り数える年になって、子供も独り立ちし、妻もあまり私の事に構わなくなった。「定年を迎えたら走り屋になる。」などと若いころは(うそぶ)いていたものだが、物理的にはもう無理。年を取れば誰でも自覚することになる。

 そうそう、車の話だったね。

15年乗った車にもそろそろ定年退職させてあげようかと、中古車の展示場に足を運んで見ていた時にこの車を見つけたのだ。この車にしては非常に珍しい色だったのが少しばかり躊躇した理由だったのだけれど、本当に一目ぼれとはこの事だったのだ。


 私は通勤以外には滅多に車に乗らない。それでもこの車は楽しかった。

「会社、来る以外には乗らないんですかぁ~。車が泣きますよー。」と車好きの後輩に言われたのだけど、それはそれで嬉しかった。地道に安全運転で会社に来るだけだけれど、それでも車のレスポンスは十分に堪能できる。


 ただ・・・ちょっとだけ気になることがあった。


 私は車ではいつもラジオを聴いている。

音楽は飽きるし、ワンセグは危険だ。というよりは、単にラジオが好きなだけなのだろう。毎朝同じ局の同じ番組を聞きながら会社に行く。

 ところが、いつも同じ時間に雑音が入るのだ。ほんの1秒か2秒の間だけなので、大したことは無いのだが、毎日続けば気になってくる。最初は同じ場所でなるのかと思ったのだが、そうではなくて、同じ時間に雑音が入る。


 それはいつも午前8時17分だった。


 その日。

何故だか夜中に目が覚めた。もうすぐ夜明けになるという時間なのに、眼が冴えてしまって眠れない。どうしようかと思ったのだけど、今日は休みだし、何も慌てて眠ることもない。いっそのこと遠出をしてみようか。

 隣で寝ている妻を起こさないように、こっそりと家を出て、車に乗った。

 車に乗ったら、急に海が見たくなった。

 夜明けの海は潮風が気持ちよかった。

車を停めて、砂浜でじっと海を見ていた。どれくらいそこにいただろう。急にトイレに行きたくなった。近くのコンビニか・・・道の駅が近くにある。まだやってはいないだろうが、トイレには入れるだろう。

 用を済まして車に戻ると、老齢のご夫婦が私の車をジロジロと見ていた。

「あの、僕の車がどうかしましたか?」

「あ、いえ、すいませんでした。」

ご夫婦は慌てて逃げようとするので、気になって追いかけた。

「逃げることは無いじゃないですか。」

「ごめんなさい。実は息子の車によく似ていたもので・・。」

「息子さんの?」

「すいません。なんだか懐かしくて。」

「懐かしい?」

「12年ほど前になりますが・・・」


   8:17AM

   ザッ・・ザザーッ



 雑音(ノイズ)が流れた。

 車種やメーカーを記載しようかとも思ったのだけれど、車には疎いのでやめることにした。ちなみに話自体は全て架空の出来事です。でもなんかありそうな話でしょ。車に乗るとき、夜中だとバックミラーを見るのが怖くないですか? 大抵は何事もないのですけれど、たまに自分の車なのに、ちょっとだけビクつくことがありますよね。え? 無いですか? 多分気のせいですな。良かった良かった。

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