魔王と勇者討伐7
アルが魔王の心の奥底にあるものを指摘し、魔王の本当の心をいともたやすく射抜き出した。
つまり魔王は婚約者で幼馴染の女の子に振られた上、捨てられたのだ。浮気相手は多分…初代勇者。
「まあ、そういう人生は結構あると思うわよ。私の前世の生まれた村でも、幼馴染の女の子の大半が浮気して別れたわよ。逆に幼馴染同士で結婚した人なんていないわよ」
「そうなのか? 我だけではないのか? 我は婚約までしていたにも関わらず、初代国王に魔法で魅了された幼馴染が我を裏切って勇者と姦通していた。我は誰も信じられなくなった」
うわ~、初代勇者って最低…気のせいか初代聖女は魅了の被害者だからそこまで憎むのは変な様な気もした。私が女だからそう思うのかしら?
「でも、その女の子は魅了の魔法で誘惑されたんでしょう? それは許してあげる事はできなかったの?」
「いや、最初の頃の裏切りはそうだったが、勇者が建国にあたってめきめきと手腕を発揮していて、そうしたら、あの女はあっさりと完全に我を裏切った。魅了の魔法なんてもうかかってなかったのに…我は戦い以外には何も才能がなかったからな」
わ~、初代聖女の方も最低だった。これ、どうすればいい?
「えっと、もう、その話は気が滅入るだろうから、あなたはどうして魔王になってしまったの? その辺詳しく教えて? 私にも関係あるんでしょう?」
私何してんの? 魔王よね? この人?
「初代勇者、つまり初代アクレイア国王は我を討伐しようとした。兵をあげ、我が静かに暮らす村を襲った。我を癒してくれた村の人々は私が少しの間留守をしている間に殺されてしまった。僅か10才の子や赤子までが殺された」
魔王は上を向くと、更に続けた。
「私は怒り狂ったが、初代国王に問うた。何故に我を討つのかと? 彼は我が村人と謀反を企んだと言った。もちろん嘘だ。そんな覚えはない。不審に思い、私は禁断の魔法を使い、彼の心を読みとった。彼の心にあったのは、妬み、嫉妬だった。彼が私の恋人を寝取ったのも、妬みからだった。愛して等いなかった。それなのに、ただ、私を貶める為にあの男は…
彼の心を知り、私は怒り狂った。親友と信じていた男の裏切り、恋人を寝取ったのも、彼女が彼を選んだだけと自身に言い聞かせたのに。だが、あの男の心にあったのは唯の妬み、嫉妬…そんなものの為にあの村人はむごたらしく殺されて。
私は彼の軍勢を殺した。殺して、殺して、ついに気が触れた。覚えているのは命乞いする初代勇者と初代聖女、親友と元婚約者だった。私は躊躇う事無く殺した。その頃にはもう、私は人とは呼べない存在になっていた。魔物は私の言いつけ通りに動き、魔物の軍勢を使役できていた」
私は魔王の物語を知らなかった。しかしこの物語の結末が判らない。では何故今もアクレイア王国は存在しているのだろうか?
「不思議なのだろう? 何故今もアクレイア王国があるのかが? それは女神だ。全ての王国軍の人を殺し終えた時、女神が現れた。女神は贖罪の機会を与えた」
「女神様が贖罪を? なら何故あなたは贖罪をしようとしないの? 女神様があなたに機会を与えているのに、何故あなたは人を殺すの? 人間だって生きる権利くらいあるのよ! それなのにあなたは、何の罪もない人間を虫けらの様に殺して!」
「何の罪もないだと? 愚かな。人は私に殺されるためだけに存在しているのだというのに…それが女神から与えられた人間の定め…人の私への贖罪なのだからだ」
「人の方が貴方への贖罪の為にただ殺されているというの? 女神様がそんな事を許容する訳がないわ!」
人がただ魔王に殺されるだけの存在、魔王はそう言った。それも女神様の定めたものだと言うのか? いや、魔王の言う事なぞ信じる訳にはいかないか?
「信じるかどうか我には興味はない。ただ、それが事実だ。我は人を殺したい訳ではない。ただ、人が私に戦いを挑み、我が友である魔族を殺害するのだ。意味も無く…」
「やはり、あなたを信じる事はできないわ。そんな戯言信じられない」
やはり、この魔王、諫言で私を取り込もうというつもりに違いない。いくらなんでも、人が魔王への贖罪の為に殺され続けていたのだなんて、信じられない。
「では我を滅ぼせばいい。そして、再び封印せよ。おそらく今のお前ならたやすいだろう。勇者もいる事だしな。だが、我は再び復活するぞ。復活してしまうのだ」
魔王の話を聞いても私はやはりこの魔王が信じられなかった。
「忠告しておこう。人の心は移ろいやすいものだ。今は良くても何十年も経てば人の心は変わる。永遠に同じ心などないのだ」
「例え人から忌み嫌われようとも、私は人を愛します。愛される事より愛する事が大事なのです。私は今世でそれがわかりました。だから、人が私を滅ぼしたいのなら、黙って殺されます」
私の言葉を聞いて、魔王の表情が苦笑に変わった。
「お前は人が良すぎる。我にもそこまでの寛容さがあれば魔王などにならずに済んだのにな、これも男と女の違いか?」
「……」
私は思案した。もし、この魔王の言っている事が本当なら、回避する方法はある。
「あなた、人を殺したくないなら、他の大陸に行けばいいんじゃないの? 私は青の魔導士だとバレて、国から追われたら、真っ先にそう思ったわ」
「逃げても無駄だ。人は我を忌み嫌う。他の大陸に行っても他の大陸の人は私に戦いを挑んで来た。我に安住の場所は無いのだ」
魔王は戦いを回避しようとしたのか? ならば、本当に贖罪をしなければならないのは誰だ?
人と向き合い、戦いを回避する方法を考えた魔王の話を聞いて、私はこの魔王を救う方法を考えた。人も魔王も救われる方法を、
「何処かに隠れ潜む事はできないのですか? あなたは私に殺された事にして、どこか誰もいない処で?」
私の提案を魔王は受けてくれるだろうか? もし、魔王の言う事が本当なら、一考の価値はある筈だ。
「これだけ人を殺し続けた我を許せると言うのか? 我は誰かに滅ぼして欲しいのだ、永久に消滅したい…」
「自分勝手ないい様だけど、私はあなたに殺された訳じゃない。私の知っている人を殺した訳じゃない。私はあなたに恨みはないわ」
「だが、完全に隠れ続ける事ができるかな? もし、人に知れたら、人は我を滅ぼしに攻めてくるだろう。我が永久に滅びる事ができればよいのだ」
おかしい? 私は不思議に思った。これは誰の贖罪なのだ? 人が魔王に対して贖罪をするのなら、何故魔王はこれ程苦しむ必要がある? もし、魔王が嘘をいい、魔王が人に贖罪をするのなら、魔王はしている。彼は本当は人等殺したくないのだ。消えてしまいたいのだ。
私は女神様に聖女の祈りを捧げようと思った。もし、女神様が本当にいるのなら、私の願いを聞き届けてくれるのなら、魔王も人も救われる方法を示してくれる筈だ。
「魔王、あなたは人を殺して後悔した事はありますか?」
「後悔? 後悔する以前に辟易としている。だが、初めて後悔したのは、初代聖女を殺した時だったか。彼女は死に行く中、こう言った。『ごめんなさい…』と」
「女神様に聖なる祈りを捧げます。貴方の為に」
魔王はぽかんとした顔をすると、私に言った。
「我の為に聖なる祈りを? 人が我の為に祈ると言うのか? お前は面白い、そんな聖女は初めて会う」
私は魔王の為に聖なる祈りを捧げた。生まれて初めて、女神様を信じて本気で女神様に祈った。
そして、女神様は顕現した
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