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マティアスの戦い

「うわあぁっ!!!」


「おいっ! 大丈夫か!」


「デカすぎる……ただ歩いているだけでも、こっちにとっちゃとんでもない脅威だよ……」


 決戦場に立つ数多の腕利き冒険者でさえも、巨大亀ユグドラシルを倒すための突破口は見つけられない状況は続いていた。

 その巨体は少し動かしただけでも人間にとっては充分な凶器となり、硬い外殻はいかなる攻撃をも阻み続けていた。


「……う、うわっ! 踏み潰される!」


「にげ……ダメだ、間に合わ……」


「『火の剣 爆炎刃』!!!」


 仲間が踏み潰されようかという直前で、マティアスはユグドラシルの足に向けて一撃を放つ。


「……ググァ……」


 炎の力を込めた渾身の一撃が、僅かではあるがユグドラシルの巨体を揺るがした。


「今のうちに逃げろ!」


「あ、ああっ!」


 仲間が安全な場所まで逃げた姿を確認して、マティアスも1度ユグドラシルから距離をとろうとする……が、再び動きはじめた巨体はマティアスの体を押し潰そうとしてくる。


「……やべっ……」


「『水の剣 星霜刃』」


 マティアスの眼前にまで巨体が迫ろうとしたその時、水の如く美しい刃がユグドラシルの足に傷をつける。


「ググァ……!」


「……マーリンさん!」


「マティアス君、今のうちに逃げろ!」


 S級冒険者、マーリンの一撃により、ユグドラシルは呻き声をあげながら大きく体勢を崩す。


 間一髪で救われたマティアスは急いでその場から退避し、マーリンの側に合流した。


「助かりました、マーリンさん……やっぱり、俺もS級に比べればまだまだですね」


「いいや、君はよくやっているさ。……前線を崩壊させかけている、無能な指揮官のもとでね」


「そんなこと……マーリンさんでダメなら、誰がやってもダメですよ……」


「誰がやってもダメなことをやらなきゃいけないんだよ、S級ってやつはね」


 マーリンの強い責任感に、マティアスはふとカレンの姿を重ね合わせた。

 S級の冒険者というのは、常に周囲からの尊敬や、集めた名声に伴う働きを求められる存在だ。

 任務に参加する以上は、その任務に関わる全ての人間の命を預かるだけの覚悟が必要になる。


(そうだ、これがS級の人間……カレンもずっと、こんな風に重すぎる重圧と戦っていたんだ……)


「離脱者が増えてきたか……アンドゥに増援の要請をしなければな」


 マーリンは空高くに向かって信号弾を放ち、空には救援要請を示す黄色の煙が漂った。


「……さて、増援がくるまでの間、なんとか踏みとどまらないとね」


「お供します。一緒にあの巨大亀に一泡ふかせてやりましょう」


「……心強いね。でも、どうか無理はしないでくれよ」


 ユグドラシルの目の前に立ち塞がり、剣を構えるマティアスとマーリン。

 そんな2人を、ユグドラシルは悠然と見下ろしていた。

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