マティアスとカレン⑨
(デケェ、怖え、帰りたい。1人だったら、今すぐ背中見せて逃げ帰ってるだろうよ)
目の前には、強大なドラゴン。
それに立ち向かう俺の武器は、剣1本。
そして、背中には守るべき存在。
「……カレン、立てるか?」
「……問題無い。まだいける!」
「……よっしゃ、それじゃあ俺がヤツの気を引く隙に……」
「だあアァっ!!!」
俺が必死に考えた作戦に一切聞く耳を持たずに、カレンはさっきと同じように単騎でドラゴンに突っ込んで行く。
「……グルァッ!」
しかし、返り討ちにされた時と同じやり方で攻撃しても、敵うはずがない。
カレンはまたもドラゴンに一薙ぎされて、もといた場所まで吹き飛ばされていた。
「……まだまだァッ!」
……まただ。どうしてカレンは同じような無謀な突撃を繰り返すんだ。
いくらカレンが頑丈でも、いずれ限界が来るぞ!
「……ガハァッ!」
「……お前、まさか……もうバカなことするんじゃねぇ!!!」
何本かの指があらぬ方向に曲がり、口から血を流してもなお突撃を試みようとするカレンを、俺は体を張って無理矢理止めた。
「……何すんの! 邪魔しないで!」
「うるせぇ! お前このままじゃ死ぬぞ! ここは一旦隠れて頭を冷やせ!」
カレンの抵抗を抑えながら、俺は必死にドラゴンから距離をとるために走った。
これは別に逃げるわけじゃない。ただ、どこかでカレンの不安定な精神を安定させる必要がある!
(……よし、この岩陰なら多少は時間が稼げるだろう……その間に……)
「……おいカレン、お前ヤケになってないか?」
「……ヤケに? 私が?」
「ああ。勝てないだけならまだしも、工夫の欠片もない無謀な特攻繰り返すなんて、お前の一番嫌いなやり方だろ。……まさかお前、死ぬためにそんなことしてるんじゃないだろうな?」
「……私、そんな風に見えた?」
「俺にはな。……どうしてそうなった? 親父さんに見捨てられたとでも思ったのか?」
「……そうだよ。ロクにモンスターと戦ったこともない私達にドラゴンを倒せって? しかも死んでも自己責任? ……もう、父様は私に死ねって言ってるんだよ」
カレンの足下に、ポツリポツリと水滴が落ちはじめる。
その声は震えており、縮こまった姿は今にも壊れてしまいそうなほど脆くみえる。
「だから、もうどうでもよくなっちゃった。……変だよね、父様のことなんて大嫌いなはずなのに……いざあんなこと言われたら、こんなに悲しい気分になっちゃうなんて……」
「……結局、お前は親父さんに嫌われたくなかったんだよ。親の意向を無視して、自分の好きなように生きたら、当然親には嫌われる。……お前が家出して逃げようとしたのは、親と向き合ったらその現実から目を背けられなくからじゃないのか?」
俺の問いに、カレンは下を向いたまま小さく頷いた。
その時、僅かに見えたカレンの口角は上がっており、その後すぐに彼女は自嘲するような笑い声を上げた。
「……うん、私はやっぱりワガママだ。父様に嫌われたくなかったのに、自分の夢のために父様に嫌われる真似をして……夢と愛の両方手に入れようなんて、ワガママにもほどがあったよ……」
「……まだ残ってるだろ。両方を手に入れられる可能性が」
「……なにが?」
「……ドラゴンを倒す。目に見える結果を出して、お前の実力を親父さんに認めさせるんだよ」
俺は両手でカレンの肩を掴み、彼女に前を向くよう促す。
しかし、まだ彼女は前を向こうとはしない。
「……私が死んでもいいと思ってるのに、そんなので……」
「可能性はまだある! 自分の夢と親父さんからの愛を両方求めてるなら、僅かな可能性にでもすがってみろ!!!」
「……可能性……」
「……分かってる。その可能性が低いことも、お前が尻ごみする理由も……親父さんが認めてくれなかった時は、もうそこで終わりだ……でも、お前の人生がそこで終わるわけじゃねぇだろ」
「……そうなのかな……」
「ああ……たとえこの先、お前がどうなろうとも……俺は絶対お前の側にい続けると誓うよ」
「……!」
「お前が1人ぼっちになっても、みんなから嫌われても、孤独の中でも、絶望の中でも……世界のどこに行っても、絶対に俺はお前の側にいる!」
お前は強い、けど弱いんだ。
俺はそんなお前に憧れて、羨ましがって……それでいて、守らなきゃいけないと思ったんだよ。
「だから……お願いだから、死のうとしないでくれ」
……俺は、お前に幸せになって欲しいんだ。
「……ごめんね、マティアス」
いつの間にか、カレンは俺のことを抱き締めていた。
「……本当にゴメン……そして、ありがとう。もう私は、自分の命を軽々しく扱ったりしないよ」
「……カレン……!」
「私が死んだらあなたが悲しむなら、私はあなたのために何があっても生きるよ。……だから、あなたも私のために生きて。お願い」
「……当たり前だろ。そのためにも……」
「うん、倒そう。ドラゴンを倒して……父様に認めてもらうんだ、私達のこと」




