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マティアスとカレン⑧

 カレンの家があるクィーンズの街から北に進んだ場所に、ちょっとした山地があった。

 山地とはいっても道はそこまで険しいわけでもなく、気候も比較的穏やかな地域である。

 そのため、北と南の街を結ぶ交通の要地として商人達は日頃からよくこの道を利用していた。


 ……が、どうやらこの周辺にA級最上位モンスターであるドラゴンが現れたらしく、商人達はギルドに対してドラゴンの討伐要請を出していた。


(そのギルドから派遣された冒険者がやって来るのは明日……つまり俺達は、今日1日でドラゴンを倒さなきゃいけないってわけか……やるしかないとはいえ、随分な無理難題だな)


 カレンの父親は、死んでも自己責任だと言っていた。

 こんな無理難題を仕掛けてきたことといい、あいつは本当にカレンが死んでも構わないって雰囲気だ。

 ……それでも、俺はまだ信じる。

 カレンが父親に対して自分の価値を示せば、きっと2人の関係は今より良くなるはずだと。


(……ただ、そのカレンが……ちょっと気負いすぎな気もするが、大丈夫か?)


 こっちに来てから、カレンの様子が少しおかしい。

 明らかに余裕が無くなってるというか……気負いすぎな感じだ。

 確かにドラゴン相手となれば生半端な覚悟のままではいけないが……なんだろう、カレンが見ているのは、ドラゴンではなく……


「グルウォォォッッ!!!」


 その時、周辺一帯に耳をつんざぐ咆哮が鳴り響いた。

 ……これはヤバい。聞いているだけで、咆哮の主の持つ圧倒的な力が嫌というほど伝わってくる。


「……来るぞっ!!!」


 上空から、今まで感じたこともないとてつもない圧がかかってくる。

 これが……歴戦の冒険者でも苦戦するというA級最上位モンスター、ドラゴンだ。


「……グルァッ」


 質の高い筋肉に包まれた屈強な四肢、数多の生物の命を奪ってきたであろう純白の牙、その巨体を宙に浮かせるための巨大な翼。

 その全てが、俺達普通の生物との格の違いを見せつけていた。


(……やべぇ、こんなこと思うのは久しぶりだ……怖い。まともに戦えば殺されるのが分かる。……俺1人なら、今すぐにでも逃げ出してるだろう……)


「……でもな、カレンの前でそんな情けねぇ姿は見せられねぇよ」


 震えそうな手を必死に押さえる。

 目を背けたいのはやまやまだけど、絶対にドラゴンから目を逸らすな。

 とにかく、戦意を保て! 1度心が折れたら、もう2度と立ち向かえない!


 俺が心の中で必死にドラゴンと戦っていたその時、カレンは単騎でドラゴンに向かって斬りかかるのであった。


「たああぁっ!!!」


(……おいっ、1人で……いやでも、カレンなら単騎でもあるいは……)


 そうだ。カレンの実力は既に歴戦の冒険者にも劣らないものになっている。

 もしかしたら、カレン1人であっけなくドラゴンを……


「グルアァッ!」


 しかし、カレンはドラゴンの腕に薙ぎ払われ、あっけなく返りうちにあってしまった。


「……ガハッ……!」


「……嘘だろ。カレンが……」


 カレンが地に伏している姿なんて、はじめて見る。

 俺が今まで1度も勝てなかったカレンが敵わない相手なんて、俺にどうこう出来るわけが……


「……いや、出来る。……やってみせる」


 負けるとか、逃げるなんて選択肢はどこにもねぇ。

 カレンを自由にするには、なにがなんでも勝つしかないんだ!


「……俺は、絶対逃げねぇからな」

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