マティアスとカレン④
「……ここがカレンの家……デカイな……」
ルークス家という行き先を伝えただけで、馬車は俺をカレンの家まで連れてきてくれた。
なるほど、こんなにデカイ家ならそりゃ有名だろうな。
(取り敢えず、ここからどうするか……よし、まずは正面から堂々と行ってみよう。警備員がいないってことは誰でもウェルカムなんだろ?)
俺はそんな浅はかな思考で家の門をくぐり、ドアをノックした。
「ごめんくださーい! カレンさんに用があって来たんですけどー?」
しかし反応は無い。それでもしつこくドアを叩き続けると、ようやくドアが開いて中から使用人らしき大人の人が出てきた。
「すみません、お宅のカレンさんに用があるんですけど……」
「……カレンさまは誰とも会われる予定はありません。お引き取り願います」
「……そこをなんとか」
「ダメです。あんまりしつこいと、兵士を呼びますよ」
(……それは困る。ここは一旦、大人しく退散だ……でも、ただじゃ退かないぜ)
「カレンンッ!!! 聞こえるかァッ!!! マティアスが来たぞォッ!!!」
俺は去り際に出せる限りの大声を出して、カレンに自分の存在をアピールした。
その際、使用人の人に睨まれた気がしたが、その時には既に走ってその場から逃げていた。
(……カレン、気づいてくれたよな?)
俺は一旦人気の無いところまで逃げた後で、カレンの家の様子をしばらく探っていた。
カレンが家にいるなら、きっと俺の声は聞こえていたはずだ。
そしてあいつなら、それに対して何かしらのアクションを起こしてくれるはず!
俺の予感はすぐに的中した。
ルークス家の2階にある小さな窓が開くと、そこからは見慣れた少女が顔を出していたのだ。
(……カレン!)
俺はすぐにカレンに向かって駆け出していた。
家を囲む塀の前にある木をよじ登り、家の方向に向かって伸びる枝に飛び移る。
「カレン、来たぞ。俺だ」
「マティアス……なんで、ここに……」
カレンの家族に俺達のことがバレてはいけない。俺は叫びたい気持ちを押さえて、出来るだけ小声でカレンに話しかけた。
「……お前の気持ちを聞きに来たんだよ。なあカレン、爺さんの家に来なくなったってことは、もうお前は冒険者になる夢は諦めたのか? 」
「……諦めるわけない。でも、そんなことしたら父様に……怒られるから」
「……お父さんは、反対してるのか?」
「うん。父様は、子供達に自分の敷いたレールの上を歩かせることが一番大事な人だから……でも、私はそんなの嫌だ」
カレンは窓から落ちそうになるほど体勢を前のめりにしながら、更に言葉を続けた。
「私には兄様や姉様がいるけど、あの人達はみんな同じことを考えて、同じことを言っている、同じ人間にしか見えない。父様は子供達を自分と同じような人間に育てたがってるけど、私はそんなつまらない人間になりたくない。私は、ちゃんと私でありたいんだ」
カレンはそう言いながら、俺に向かって手を伸ばす。
俺も、そんなカレンに応えて手を伸ばしていた。
「……じゃあ、お前はどうしたいんだ? ……もう自分で、分かってるんだろ?」
「……勿論。後はきっかけが欲しかったけど……マティアスが、そうなってくれた」
2人の手が結ばれた時、俺は思いっきりカレンを引っ張り、カレンも思いっきりこちらに向かって飛び込んだ。
「……私は、父様に反抗する。マティアス、一緒に冒険者になろう!」




