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追放しても頑張ろう

 17歳の少年、マティアス・クロフォードは昨日、長年所属していた冒険者パーティーを解雇された。

 とはいえ、解雇にも一応ちゃんとした理由はあるようだし、彼もそれは甘んじて受け入れた。

 よって、マティアスはしばらくの間パーティーに所属せずに単独で行動するソロ冒険者になったのだが……


「……まさかクビになった次の日に、俺をクビにしたヤツから自宅訪問を受けるとはな……」


 朝っぱらから自宅に誰かがやって来たかと思えば、玄関に見えたのは見慣れた顔。

 マティアスの幼馴染みでもあり、彼をクビにした女、カレン・ルークスの姿がそこにはあった。


「……で、何の用だ?」


「何の用って……えっと、それは……」


 カレンは言葉に詰まっている。その様子を見て、マティアスは彼女が特に用も無いのに自分の家に来たんだということを容易に想像できた。


(……こいつは昔からこんな感じで構って欲しがる時があるな。定期的に意味もなく俺の家を訪れては、飯を食べたり、鍛練したり、他愛もない話をしたり……そして前例から考えれば、こいつが俺の家に来る時は、大抵……)


「……この後、何か大事なことがあるのか?」


「う、うん。午後から依頼があってね……東の方の街で、クイーンアントの蟻塚が確認されたから、それの破壊に」


「クイーンアント……A(ランク)のモンスターか。まあお前の実力なら大丈夫だろうが、気を引き締める必要がある相手だな」


「そうなんだ。……だからさ、えっと……その……」


「……なんだ? クビにした次の日にもう戻ってくれってか?」


 マティアスは否定されるのを分かって、イタズラっぽく笑いながらカレンに問いかける。

 カレンが言葉を言い淀んでいる時は、こっちから何か言ってやらなきゃ次の言葉を喋ってくれないのだ。


「ち、違う! それじゃ意味無いんだよ!」


「じゃあ何だ?」


「……一言でいいから、励まして欲しいなー……なんて……」


 カレンは恥ずかしそうにモジモジしながら、上目遣いでこちらを見てくる。

 このあざとい仕草には、流石のマティアスもドキッとしてしまった。


「……ったく、お前はホント、子供っぽいところがあるよなぁ……」


「う、うるさい! だってさ、もしかしたらモンスターに殺られて、もうマティアスと会えなくなるかもしれないのに……」


「……分かったよ。……えっと、これでいいか?」


 マティアスはため息をついてから、カレンの頭の上にそっと手を置いた。

 彼女は昔から、こうしてやると安心するような顔になるのだが……正直、やっている方は大分恥ずかしそうである。


(いい年こいて何やってんだろ……人目のあるところでは、なるべくやりたくないな……)


「うん……ありがとう。これで心おきなく戦えるよ」


(……まあ、こいつがこれで安心してくれるなら、俺はいくらでもやってやるけどさ)


「……頑張れ。俺がいなくても負けるなよ」


「うん。マティアスが安心できるように、圧勝してあげるよ」


 カレンはマティアスに満面の笑みを見せてから、ルンルンとスキップしながら家を出ていくのであった。



ーーーーーーーー



「……満足した?」


 ニヤニヤしながらマティアスの家から出てきたカレンを、リーネがニヤニヤしながら出迎えた。

 もっとも、こっちのニヤニヤは性格の悪さが滲み出た笑いだが。


「……うん。これで元気満タン、どんなモンスターとも戦えるよ」


「それは何より。それにしても、まさかたった1日で『マティアスの顔が見たい~』なんて言い出すとはねぇ……先が思いやられるよ」


 リーネは、カレンのモノマネを挟みながら呆れた反応を見せる。

 実際、カレンの方も自分の言動に思うところがないわけではない。

 あんな酷いことを言った次の日にこんなことをしたのはどうかと思っているし、そんなワガママな自分にも怒らずに接してくれたマティアスの優しさが身に染みていた。


「うう……だって、まさかこんなに寂しくなるとは思ってなくて……」


「……てか、マティアスをクビにしたのは『マティアスが隣にいるとドキドキして、戦場で力が発揮できないよ~』ってワケだろ? 早いことそれを克服しないと、いつまで経ってもマティアスを復帰させられないよ?」


 リーネは明らかに過剰なカレンのモノマネを入れながら正論を言ってくる。

 わざと真面目な話の中にふざけた要素を入れているんだろうが、カレンはモノマネに反応したい気持ちをグッとこらえて、真面目に言葉を返す方を選んだ。


「……分かってるよ。当面の目標は、マティアス相手にどんな状況でも平常心を保つことだ。今の状態だと、戦場でみんなに迷惑しかかけないから」


 リーネは、カレンがモノマネに反応してくれないことをつまらなそうにしながらも、彼女が自分の課題をしっかり把握していることに安心した顔を見せる。


「今回みたいな強敵相手だと尚更ね。“天才”の実力、しっかり発揮してよ?」


「当然! マティアスに心を惑わされなければ、私に敵なんていないよ!」


 昨日に比べれば、カレンの心と足取りは随分軽くなったように見える。

 カレンは、マティアスに会えただけでここまで晴れやかになる自分の気持ちの単純さに少し呆れると同時に、彼の顔を思い浮かべるだけで自分の心がドキドキすることに現状の変化の無さを痛感する。


(……ダメだ。子供のままじゃ、私はマティアスと隣で戦えない……早く精神的に大人にならなきゃ……!)


 しばしの別離は、少しでも未熟な精神を成長させるため。今は苦しくても、この試練を乗り越えれば、きっとこの先ずっとマティアスと一緒にいられると信じている。


(我慢、我慢……マティアス成分が抜けてきても、我慢しなきゃ!)


 そしてカレンは、これからマティアス無しでの戦いをはじめることになるのである。

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