対等な友達に
自分の友達になって欲しい。カレンがアンナに対してそんな言葉を発するなど、誰が予想したであろうか。
アンナはもちろん、リーネ達もカレンの行動には驚きを禁じ得なかった。
「……友達? 私とカレンさんがですか!?」
「うん。……ダメかな?」
「ぜ、全然大丈夫ですよ!? さっきはあんなカッコつけたこと言いましたけど、全然光栄です!」
「フフ……大丈夫だよ。憧れの人の前でカッコつけたくなる気持ちは、痛いほど分かるからさ」
「で、でも……私なんかが、カレンさんのお友達だなんて……やっぱり分不相応な……」
「……そんなことないよ。あなたと私には、似てるところがあるから。同じ思いを共有できるってことは、
ちゃんと対等な友達になれる資格があるってことだよ」
「同じ……とは?」
「……憧れは、行き過ぎると苦しくなるってこと。
でも、あなたの方が立派だよ。憧れの前でちゃんと、自分の思いを伝えられたんだから」
アンナには、自分に微笑みかれるカレンの顔が少し悲しそうに見えていた。
「……私にも、思いを伝えたい人がいるの。だから友達として、その相談に乗って欲しいなって……ダメかな?」
カレンは、すぐ側にいるマティアスに聞こえないように、アンナの耳元に顔を近づけてそう呟いた。
「……分かりました。私で良ければ、ぜひカレンさんの力にならせて下さい」
「……ホント? 良かった、ありがとう!」
カレンは嬉しさのあまり、今度は正面からアンナをぎゅっと抱き締めるのであった。
(……これが、私の憧れていたカレンさんか。思っていた通りの、カッコよくて優しい人だったけど……思っていたよりも、小さくて……弱さを、必死に隠していそうな人)
アンナは14歳で、カレンは17歳。アンナも特段体が大きいわけではないが、そんなアンナよりもカレンは少し体が小さく、童顔なのも相まって自分より年下のような子供っぽさも感じられる。
しかし、彼女はこの小さな体に見合わぬ力と栄誉を持っており……見た目通りの、精神的な弱さも兼ね備えている。
(雲の上にいた人が、こっちまで降りてきてくれたと思ってたけど……きっとこの人は、最初から雲の上にいるつもりなんて無かったんだろうな。……私と同じ弱い人間で、対等な“友達”……)
「カレンさん、後1つだけ、聞いてもいいですか?」
「何? 何でも聞いていいよ?」
「それじゃあ遠慮無く……えっと、カレンさんが思いを伝えたい人ってどなたなんですか?」
さっきのお返しとばかりに、アンナはカレンの耳元でそう呟く。
「…………それは~…………」
さっきまで先輩として大人の態度を見せていたカレンだったが、この時ばかりは顔の紅潮を抑えられなかった。
「……いや、さっき何でも聞いてって言ったんだ。ここは先輩として、友達として、ちゃんと答えてあげないと……」
カレンは目を半開きにし、口を真一文字に結んだ状態で、一瞬だけチラリとマティアスの方を見た。
「……ゴメン。これで勘弁して……」
「……なるほど。全てお察ししました。……それじゃ、後は私にお任せ下さい」
「お任せって……何を?」
「フフッ、私は一応マティアスさんの弟子になった人間ですよ? ……カレンさんがお望みなら、マティアスさんの近くで色々サポートさせてもらいましょうか?」
「……そうか、それは考えてなかったよ。……アンナちゃん、いいの?」
「ええ。大事な“友達”のためなら、いくらでも。カレンさんも、きっとマティアスさんと仲良くなれますよ」
「アンナちゃん……ありがと。私、あなたと友達になれてよかったよ」
「私もですよ。カレンさんと出会えて、よかったです」
公衆の面前で堂々と抱き締め合う2人の姿は、とても今日はじめて会った2人には見えなかった。
いくらなんでも早すぎる2人の仲の進展に、リーネはひたすら驚かされるばかりである。
(……なんだこいつらは。予想はしてたけど、本当に予想できない行動してくるなぁ、もう)
しかし、絶対面倒事になると思っていたところで、それを起こさずに事を終わらせたあたりには、リーネもカレンの成長を感じていた。
(ま、あいつも着々と成長してるのかな? 何はともあれ、これで味方も1人増えた。後はもう、あんたが勇気出すだけだよ)
その時は、少しずつではあるが近づいている。
しかし、正確な時期はまだカレンにしか分からない。
(いつになったら、この長い茶番劇も終わるのかね?)




