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勘違いさせるタイプ

 ここは夢かうつつかもよく分からない場所。

 カレンの意識は、そんな世界の中にあった。


(……もう少し、大人にならなきゃ……マティアスにカッコ悪いところは見せたくないけど、それがカッコつける理由にはならない)


(自然に……冷静になるんだ。マティアスの前でも、極力……大丈夫、好きな人のためなら、何だって出来るはずだよ)


 やがてカレンの視界は光に包まれ、その意識は夢現の狭間から現へと戻ってきた。


 漆黒を照らしていた月が沈み、変わって東から朝陽が昇る。

 ここはイストの街のとある病室。窓から射し込んでくる朝陽に当たったことで、カレンは目を覚ました。


「……んん……あぁ、いつの間にか眠ってたんだ……」


「……ようやくお目覚め?」


「……リーネ。私、また寝てたんだ」


「うん。まあ、夜更かしは美容に良くないからね。こうやって朝に目覚めるのは良いことだよ」


 カレンよりも随分早く起きていたからか、リーネは顔も髪もしっかり整えている。

 カレンは前日の朝から何も弄っていない髪を手で整えながら、リーネの後ろにいる男の姿を目に捉えた。


「……カレンさん。ジェシー、只今戻りました」


「ジェシー、お帰りなさい。その調子だと任務は成功したみたいだね」


「はい、任務は問題無く終わりました。マティアスとチコは、先にギルド本部へと向かいました」


「そう。それじゃあ私達も、速く本部に帰って合流しないとね」


「……そうですね。速く戻りましょう」


 ジェシーの言葉には何か含みがあるようにも見えたが、カレンにとっては一刻も速くマティアスと再会することの方が重要だった。


 3人はすぐに病院を出ると、ギルド本部のあるキングシティ行きの馬車に乗り込んだ。


 カレンはこれからマティアスに会いに行くことになる。

 最近のカレンはマティアスと絡む度に冷静さを失っている印象をリーネは持っていたが、今のカレンはまだ冷静さを保っているように見える。


「……ちゃんと、夜のうちに気持ちは整理できたみたいだね」


「……うん。好きな人に、あんまり無様な姿は見せられないもん。私もそろそろ大人にならなきゃ」


「……よしよし、成長してるねぇ。あたしゃ嬉しいよ」


 リーネはカレンの頭を軽く撫でてから、今度はジェシーの隣に位置取った。


「……んで? 確かマティアスが弟子をとったんだっけ? しかも可愛い女の子」


「スキンシップが激しいというおまけつきだ。……悪い子ではないが、カレンさんが勘違いして面倒なことに可能性は大いにある」


「ふーん……ちょうどいいや、ウチのカレンがどれだけ成長できたか確かめてみようか」


「……まあ、これもカレンさんが乗り越えるべき困難の1つか……」



ーーーーーーーー



 一方その頃、ギルド本部にて……


「はじめまして! 私はD級冒険者、アンナ・ルクロイと言います。この度、未熟者ではありますがマティアスさんの弟子にさせて頂きました」


「そ、そうなんですか……それじゃあよろしくお願いしますね、アンナさん」


「はい、よろしくお願い致します!」


 マティアスは親しい人間に対し、自分の弟子としてアンナを紹介していた。

 今はギルドの受付嬢に彼女を紹介しているのだが、受付嬢がまず気になったのは、アンナのマティアスに対する距離の近さだった。


「えっと、お2人は師弟関係……なんですよね?」


「そうだけど?」


「何か?」


「いやー……やけに距離が近いなーと思って。あなた達2人の間隔、このペン1本分しかありませんよ?

気づいてますか?」


 受付嬢の指摘に対し、マティアスも少し恥ずかしそうな顔でアンナの方を見る。

 どうやら、アンナの方が一方的に距離を詰めているらしい。


「……ああっ、ゴメンなさい! つい無意識で……私、好きな人に対してはどうしても距離が近くなっちゃって……」


「……好きな人!?」


 その言葉を聞いた時、受付嬢は清楚さの欠片もない声を出してマティアスを見た。

 大声を出して周囲からの注目を集めてしまった受付嬢は、恥ずかしそうに咳払いをしてからいつもの仕事顔に戻った。


「……えっと、もう一度聞きますよ? あなた達は師弟なんですよね? それ以上ではないんですよね?」


「もちろんですよ。師弟以上の関係って……相棒?

そんな、恐れ多いですよ……」


 アンナは恐縮しきりな顔を見せており、口から出る言葉も素で言っているようにしか聞こえなかった。


(……これは、本当に特別なアレでないパターン?

取り敢えず、私だけで判断するよりは、他の人間の目線も……)


 受付嬢は、少し離れたところに立っているチコとミーナの2人を見る。

 アンナの親友であるミーナは呆れたような目でアンナを見ており、その姿はまるでリーネがカレンを見ている姿にも見えた。


 そしてチコはというと……何故か、こちらを見てくる受付嬢に対して満面の笑みを向けていた。


(……何アレ、どういう意味? この状況を楽しんでるの? 2人に振り回される私を見るのが楽しいの?

それとも何も考えてないだけなの? ……ああ、あの子は何考えてるか分からない、頼るだけムダだ!)


 受付嬢はチコのことは無かったことにして、ミーナの顔から心情を分析する。

 彼女の顔からはアンナに対する呆れや諦めの感が見てとれるが、その一方で目の奥からは暖かさも感じられた。


(……そう、あの顔はリーネさんがカレンちゃんを見る顔と瓜二つ! でも、アンナちゃんはカレンちゃんというよりも……私的には、マティアスさん寄りの性格に見える!)


 いつの間にか、マティアスとアンナはまた距離が近くなっている。

 確かに2人の距離は端から見れば恋人並みに近いが、2人のやりとりは友人以上の関係には見えない。


(……なるほど。要するに2人とも、カレンちゃんみたいな勘違いしやすいタイプを誤解させる人間なんだ。

異性がどうとか一切関係なく、分け隔てなく対等に人と接して……どんどん、相手を勘違いさせるタイプ)


 その時、受付嬢はこちらに近づいてくる3人の人影を見た。

 ガラの悪い女、メガネの男、そして2人の間を早足で歩く一見美しい少女。

 どっからどう見ても、受付嬢がよく知るマティアスの仲間達だった。


(……で、その勘違いする人間が帰って来た、と)

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