先輩の威厳見せよう
(……そろそろ起きるか)
マティアスはギルドからの緊急任務を受け、カレンがいるイストの街を離れて隣街であるルフの街へと馬車で向かっていた。
「……もうそろそろ着くか?」
時間は夜。夜間の戦闘になることを見越して、マティアスは街につくまでの間に仮眠をとっていた。
「ああ、ちょうど街の光が見えてきたところだ」
「流石はマティアス君。完璧なタイミングでのお目覚めだね」
マティアスと共にルフの街に向かっているのはジェシーとチコ。
カレンやリーネと共に、かつてはマティアスと同じパーティーに所属していた仲間である。
もっとも別々のパーティーになったのは、かつてというほど昔の話ではないが。
「……やれやれ。一応俺達って、もう別々のパーティーのはずなのにな。こんなにも早くまた共闘できるとは」
「……まあ確かに、不思議なものだな」
「やっぱり、私達5人には切っても切れない絆があるんだよ!」
「……ま、そうゆうことにしておくか」
夜の暗闇に紛れながら、3人の乗った馬車は緊急任務の地であるルフの街に入って行った。
「おおっ! こんなにも速く来てくれましたか。流石は冒険者ギルドですな!」
ルフの街に入ったマティアス達を、口髭を蓄えた街長が出迎えた。
「ギルドからの緊急任務を受けました、A級冒険者のマティアス・クロフォードと申します」
「同じくA級冒険者、チコ・アルバーナです!」
「同じくA級冒険者、ジェシー・グラッドストンです。街長、フェンリルの群れがこちらに迫っていると聞きましたが、状況はどうなっていますか?」
「あ、はい……ええと、今はたまたま街にいた冒険者の面々が食い止めてくれているのですが……」
「我らよりも救援が来ていたのですか。では、早速その方々と合流を……」
「そ、それが……戦っているのは、新人と思われる若い冒険者達なんです……」
「……新人が? 人数はどれだけですか?」
「ふ、2人、です」
新人冒険者が、たった2人で街を守るためにモンスターと戦っている。
フェンリルはC級のモンスター。駆け出しであるE~D級の冒険者にはまだ荷が重い相手だ。
そんなモンスターと新人が戦っていると聞いた3人の決断は一瞬だった。
「すぐ助けに行こう」
「当然だ」
「頑張ってる新人に先輩の威厳を見せないとね」
3人は顔を見合わせて頷くと、戦場になっている街の北側へ向かって駆け抜けていく。
「……でも、フェンリルが群れで街に向かってくるなんて、珍しいこともあるもんだね」
「極度の空腹状態にあるのかも知れない。群れの腹を満たすために、多くの人間が密集する街に向かおうとしているんだ」
「……ま、獣の考えてることなんざ人間には分からんよ。それより、早く前線で戦ってる新人を助けてやろう」
3人は市街地を一気に突破して、街をモンスターから守る防壁を登ると、夜の闇の中に蠢く影の群れが見えた。
「……思ったよりも近いな」
「よく耐えてるよ、新人! 今助けてやるからな!」
「それじゃ、私が一番乗りだ!」
まずは先陣を切ってチコが敵の群れに突っ込んで行く。
人並み外れたスピードで一気に接近すると、雷の如き神速の刃を振るう。
「『雷の剣 電光刃』!」
目にも止まらぬ速さで行く手を阻むフェンリルを切り捨てて、チコはフェンリルと戦う新人冒険者の側に辿り着いた。
「おっ、見つけた見つけた」
「た、助けに来てくれたんですか!? ありがとうございますぅっ!!!」
「……あなたは、もしかして……」
「やっほ。よく頑張ったね、2人とも。……後は私達に任せて」
チコが新人2人に笑顔を振り撒いている間に、その後ろではマティアスとジェシーが刃を振るっていた。
「『炎の剣 爆炎刃』!!!」
「『氷の剣 氷華刃』!!!」
10体近くはいるであろうフェンリルの群れも、3人のA級冒険者の前には手も足も出ずに薙ぎ倒されるのみであった。
この程度、さも当然のように涼しい顔を見せる3人だが、助けられた2人にとってはその姿がとても輝いて見えていた。
「……す、凄いです。なんだか凄い人達に助けられちゃいました……」
「雷、炎、氷の剣……やっぱり、あなた達は!」
「……待った。まだ戦いは終わってないぞ?」
「……え?」
マティアスの忠告を聞くよりも前に、既にチコとジェシーは闇の中にその目線を向けていた。
3人から遅れて同じ方向を見た新人コンビも、すぐに闇の中に潜むただならぬ存在に気づくのであった。
「……ヒィッ!」
「……あれは?」
「B級最上位のモンスターにして、フェンリル達の親玉……名は、偉大なる狼王」
暗闇からその姿を現した銀色の巨獣は、月明かりの下に咆哮を轟かせた。




