第9話:別荘の休日。
克二の別荘にいくので、電車にのってやってきた桜子と克二。
克二の着ている服は、アロハシャツとジーンズと、ちょっと大人っぽい服で、桜子が着ている服は白いワンピースだった。
周りの乗客たちは、ふたりをすてきなカップルだと見ていた。
とくに、顔をあかくしている桜子に好感をあたえていたが、桜子ははずかしかった。
ワンピースを選んだ克二の服は、とてもいい服だ。 ワンピースを着ている桜子はとても女性的だった。
「もうすぐつきますよ」
「は、はい……」
「気分でもわるくなったのですか」
「そうではないのですが」
「ではどうしたのですか」
「このワンピースが、はずかしくて……」
「そんなことないですよサクラさん。とても似合いですよ」
「そうでしょうか」
「もっと、自分に自信をもちましょうサクラさん」
別荘のある目的の駅についた。
克二は、桜子の手をとって改札口にむかった。
桜子は、克二のやさしさがひしひしと感じるようになってきた。
いっしょに住んできて、克二が特別な存在になってきていた桜子だった。
駅前には車が止まってあった。
その車は高級車で、この駅前の風景とは全然あっていなく、違和感があった。
その車の運転手側のドアがあいて、ひとりの男性がおりてきた。
その男性が桜子たちに近づいてきた。
そのあやしい男性に、克二は桜子の前に出て守ろうとした。
男性は桜子たちの前にきて立ちどまった。
「安岡克二さまですね。お迎えにまいりました」
男性は克二に名刺をわたした。
男性は別荘の管理会社の社員だった。
男性社員の案内で車に乗る桜子。
「足もとに気をつけてください。お嬢さん」
「ありがとうございます」
男性は桜子を女性として、丁寧にあつかった。
それを見た克二は笑いそうになったが、桜子に睨まれ笑うのをやめた。
別荘は町よりはなれたところにあった。
それに山道なので、道路はヘビのようにカーブが多かった。
「ここはよく、公道レースがありましてね」
「じゃあ、このあたりもうるさいのではないでしょうか」
「大丈夫です。別荘までには音は聞こえませんから」
男性社員と克二がしゃべっていたが、桜子は聞いていなかった。
あまりにもひどい山道なので、桜子は車酔いをしていたのであった。
だから、ふたりの会話に口をはさもうともせずに寝ていようとしたが。なかなか眠れなかった。
やっと別荘につくと、車からおりた桜子は倒れてしまった。
桜子が気がつくとベッドのうえだった。
「車に酔ったのですかサクラさん」
心配そうに桜子にいった克二。
「そうみたいだね。最近、こんな山道にのぼったことないから」
ベッドからおりる桜子。
ちょっとふらつく桜子をささえようとする克二に大丈夫だからといった。
車酔いできげんが悪いのかと思った克二だった。
「ごめんね克二くん。ぼくのせいで……」
あやまったのは桜子のほうだった。
克二は桜子のけなげさに心を痛めた。
桜子に別荘をさそいながら車酔いをさせてしまったのに、桜子は怒るどころか克二にあやまったからであった。
「そんなことないです。まだ来たばっかりですし。今夜の夕食はおれが作りますから。サクラさんはゆっくり休んでください」
「そうするね克二くん」
克二は桜子の部屋からでていき、桜子もう夕食まで寝ていた。
桜子は別荘で過ごしたのは楽しかった。
朝の散歩はすがすがしくて空気がおいしかった。管理会社から、近くに川があると聞いて釣りもした。
ハイキングコースもあったので、桜子が作った弁当を克二はおいしいといって食べた。
いろいろなことを別荘で遊んで過ごして、最後の夜がやってきた。
管理会社にたのんでおいた花火をもってきて、最後の夜にふさわしい楽しい夜だった。
花火がおわり、かたづけをしていると、ふと夜空を見上げる桜子。
桜子は涙を流しだした。
「どうしたのですサクラさん。やけどでもしたのですか」
「ちがうの克二くん。なんだかさびしくなって……。こんな夜空がもう二度と見られないから」
「そうですか」
「そうだよ克二くん。だって都会ではこんなの見れないじゃない」
桜子は悲しげにいった。
克二は、桜子を抱きしめると桜子にいった。
「来年も、そしてこれからも、ふたりいっしょに見にいきましょう」
「克二くん、どういうこと……」
「サクラさん愛してます」
克二は桜子に告白した。
その告白にとまどいを隠せない桜子。
「でも克二くん。ぼくは男なんだよ。そんな冗談は……」
「冗談ではありません。サクラさん愛しています。おれが高校を卒業したら結婚してくれませんか」
「でも、ほんとに……。ぼくが男でもいいの」
「サクラさんよりかわいいひとはいません。だから……結婚してください」
「はい……」
夜空の下で桜子と克二は、はじめてキスをした。
秋が近づいてきたのか、こおろぎがふたりを祝福するように鳴いていた。