第8話:夏休みの休暇。
美波桜子からサクラに変わったのは名前だけではなかった。
服はスカートなどの女性の服を着なければならず、女性用のズボンはみとめられなかった。
大学にいくときも、桜子は女性の服でいかなければならなかった。
大学側から抗議されると思った桜子だったが、社長がどんな手をつかったか知らないが、すんなりと許可がおりた。
男なのに、女装して大学にいくのだから変態あつかいされると思っていた桜子だったが、以外にもすんなりと受けいれられた。
とくに、桜子と同じゼミの女の子たちとはなかよくなった。
化粧品はこのメーカーがいいとか、服はあの店のがいいよ、といろいろなアドバイスをしてくれた。
ゼミの女の子たちは、自然と桜子をサクラとよぶなかになった。
そのかわり、おなじゼミの男の子たちとは疎遠になってきた。
はじめて女装して大学にきた桜子をからかったりしていた。
でも、ゼミの女の子たちと行動した影響なのか、桜子を女性あつかいするようになってきた。
ゼミの男の子たちも、桜子を異性として意識しだしたのであった。
最近では美波さんとよぶ男の子たちだった。
夏休みが近づいてくると、桜子のモデルの仕事もふえてきた。
とくに一番人気が桜子、いやサクラだった。
男なのに、ほかの女性モデルたちよりも人気があるから、事務所のほうもとてもおどろいた。
もっとおどろいたのは桜子本人だった。
理由はいろいろあるが、女性よりも女性っぽい色気があるや、そういうブームが来ているらしい、という説を事務所のマネージャーに聞いた桜子だった。
夏休みになると、桜子の仕事もハードになった。でも、社長のはからいで五日間だけだが休みをもらえた。
「それで、休みはいつごろですかサクラさん」
夕食のそうめんを食べながら克二はいった。
「八月の後半で、盆明けの時期になるけどね」
「休みがおそいのですねサクラさん」
「まあいそがしいからだけどね。それはそうと克二くん、ちょっとはずかしいのだけど……」
「サクラさんどうしたのですか」
「その名前でいわれるとちょっと、その……」
桜子は照れながら克二にいった。
桜子を見ていると、桜子が自分より年上とは思えなくなってきた克二。
いっしょに暮らしてわかったが、桜子は料理や洗濯などの家事一般はできるけれど、それ以外ではドジなところもあった。
なにもない廊下でころんだり、閉まっているドアにぶつかったりしていた。
そんなところが桜子のことをかわいらしいと思う克二だった。
「でもこまったなぁ。休みはあるのはうれしいけど……」
「なにか問題でもあるのですか」
「中途半端な休みだからだよ克二くん。海だとクラゲがたくさん出るし、親のところに帰るにしても旅費がないからね」
桜子がどう休みをすごそうかため息をついた。
克二がおもいがけないことをいった。
「ならば、オレの別荘にいきませんか」
「克二くん、別荘もってるの」
「ええ小さいけどありますよ。ただ交通に不便だからあまりいかないだけなんです。だから五日間のあいだの休みにいきませんか」
「でもいいの。他人のぼくが来ても……」
「かまわないですよ。サクラさんなら大丈夫です」
「ありがとう克二くん。でも別荘の掃除がたいへんだね」
「別荘を管理している会社が掃除やメンテナンスをしているからそれは心配ないです。休みの日取りがきまったら教えてください。管理会社にたのんで食料品をもってきますから」
桜子は、克二の両親はいったい何の仕事をしているのだろうと思った。
そんなことを考えていた桜子に克二はいった。
「そのかわりですね。サクラさんに、ある服を着てもらいたいのですが……」
「いいよ克二くん。それくらい」
「サクラさん、ありがとうございます」
夏休みにはいって、桜子はモデルの仕事を一生懸命はたらいた。
桜子にとってはじめての別荘が楽しみだった。
ただ、克二の選んだ服のことは知らなかった。
その服はとんでもないものだった……。