第6話:新婚生活?
目覚まし時計が鳴ったので桜子は目がさめた。
朝食と克二の学校の弁当のしたくをしに台所にむかう桜子だった。
食費と生活費は克二の家から出してもらっている。
一度、桜子が半分でもいいから出そうかといったら、料理や洗たくなどをしてくればいいと克二は桜子にいった。
家賃のかわりに、家事手伝いという条件だったが、ひとり暮らしがながい桜子には平気だった。
それどころか、最近は食事づくりに張りあいができてきた。
それは、ひとりで料理をつくるより、だれかに食べさせるというおこないがよろこびにつながるからで、桜子は克二に毎日ごはんをつくるのによろこびをかんじていた。
桜子は長くなった髪をたばねると、朝食をつくるためエプロンを着た。
髪をのばすようにいわれたのは事務所の社長の命令だった。
髪をのばして、ウィッグのレンタル料をなくすためだということらしい。
その結果、桜子のもとにはますます女性役のモデルの依頼がふえた。
桜子はエプロンを手にとった。
このエプロンはフリルをあしらったピンク色をしていたかわいいものだった。
このエプロンは克二の姉がもっていたらしい。
というのは、克二の姉は一度もこのエプロンを着なかったようで、姉のしゅみではないのではと克二はいった。
そのエプロンを着て料理をする桜子の姿は、まるで新妻のようであった。
そろそろ朝食ができあがるころ、克二が起きてきた。
「おはよう克二くん」
「桜子さんおはようございます」
克二は桜子の顔を見て、ニヤニヤと笑いながら桜子に朝のあいさつをした。
「どうしたの克二くん。なにかおかしいかな」
「ちがいますよ。桜子さんが前よりかわってきたと思いましたので」
「ぼくがかわってきたとはどういうこと」
「はじめにおれの家にきたよりも、今の桜子さんはきれいになったと思いましてね」
「それは髪がながいからだし、このエプロンの影響もあると思うよ」
「そうかなぁ……あ、このたまご焼きもらうね」
「それ、弁当のおかず」
「だって桜子さんの弁当うまいもん。うちのクラス全員が桜子さんの弁当おいしいって、おれうらやましがられてんだから」
「そうなんだ……」
克二に弁当のことをほめられたので桜子はうれしかった。
「朝食できたから、克二くんは食器をならべて」
「わかった」
食器に朝食を盛りつける桜子。
それを見ておなかが空いたのか、はやく食べたそうにしている克二。
「では、いただきましょうか」
「いただきます」
克二の家にはじめてきたことを思いだした桜子。
克二も、そのころはひとり暮しなので家はきたなかった。それも桜子の想像をこえたきたなさだった。
カップ麺の残り汁やコンビニの残りものが台所に積みあげたままだったし、服も脱ぎっぱなしで洗たくをしていないのはあきらかで、学校の制服や気にいった服などはクリーニングを出しているだけだった。
桜子が同居するために最初にしたことは、克二の家の大そうじだった。
コンビニやカップ麺の残っていた食べかすをごみ箱に捨てたり、服の洗たく、家のそうじなどと、まる一日中かかった。
克二が学校から帰って見たのは、自分の家がみちがえるほどきれいになっておどろいたのはいうまでもなかった。
「ほんとにおいしいなぁ……」
「克二くん、それ毎日いってない」
「いままでのことにくらべたら。ほんとにしあわせだよ」
「ありがとう克二くん。今夜のごはんは何がいい」
「桜子さんがつくるんだったら何でも食べますよ」
「それじゃあ、さばのしょうが煮でいいよね」
「ちょっと桜子さん、魚料理だけはちょっと……」
「だめだよ克二くん。魚も食べなきゃ」
朝食を食べおわった桜子と克二。
桜子が食器を洗っているとき、桜子の手から食器が落ちて食器が割れた。
割れた食器を拾おうとしたときに桜子の指が切れて血がでた。
「たいしたことないから克二くん」
桜子が切れたのは人さし指だったが深い傷ではなかった。
克二はいきなり、桜子の切れた人さし指を口にふくんだ。
克二のいきなりの行動に、桜子はびっくりしたと同時に体じゅうに熱いものがこみあがった。
「もうだいじょうぶですよ桜子さん」
桜子の指から口をはなした克二はいった。
「ありがとう……」
照れくさそうに桜子はいったが、まともに克二の顔が見られなかった。
「そろそろ学校へいく時間だけど、桜子さんも大学にいくのですか」
「ぼくは、これから事務所にいくから。今後のスケジュールを聞きにね」
「いっしょに駅までいきます」
「そうだね……」
家から出て駅にむかった桜子と克二。
「なんだかデートみたいですね」
克二は冗談まじりに桜子にいった。
桜子は、克二にけがをした指を吸われたことがあったので、克二の冗談も意識して何もいえなかった。
駅に着いた桜子は克二と別れた。
そのころ事務所では、桜子を新たに売りだすことを決めていた。それは桜子を女性として本格的に売りだすことだった。