第4話:女性モデルの誕生?
携帯電話の音に、桜子は眠りから目が覚めた。
「もしもし……」
「おはよう桜子くん。タイヘンだよ」
電話の相手は、モデル事務所のマネージャーで、朝から興奮状態だった。
「マネージャー、いったいどうしたのです。まだ、朝の……」
「桜子くーん。この前の雑誌の撮影のことおぼえている」
「たしかブライダル雑誌のでしょ」
「そう。そのブライダル雑誌に、桜子くんが表紙にえらばれたんだよ」
「エエッ」
桜子はベッドから飛びおきた。
あの撮影にいた女性のモデルたちでなく、桜子がえらばれたからだ。
「それだけでなく、桜子くんをモデルに起用したいという出版社の依頼がさっとうしているんですよ」
「ち、ちょっとマネージャー。それって、ぼくが男だということを知らないのでしょう」
「じつはそのことなんだけど……。桜子くん、いますぐ事務所に来てほしいのだけど」
事務所に来るよう、マネージャーにいわれた桜子はいそいで服を着がえた。
ウェディングドレスを着ていたから女性のモデルにまちがえられたのだろう。
でも、いくらなんでも男だとわかったらさわがれないと思った桜子だった。
桜子の考えはあまかった。
事務所に着くいた桜子は、マネージャーに呼ばれると社長室に来るようにいわれた。
「もう大変だよ」
「どうしたのですマネージャー」
「問い合わせがいっぱいあって。あのモデルはだれだとか、うちにもつかってほしいとか……」
「でもそれは、ぼくが男だとしらないのでしょう」
「そのことで社長がはなしたいと」
マネージャーはいった。
社長室にはいった桜子とマネージャー。
社長室には重役と、社長の秘書らしき女性もいた。
「社長、つれてきました」
「ごくろうです」
返事をしたのは、桜子が秘書だと思っていた女性だった。
「じつは、あのモデルのことだけど……」
「やはり、まずかったのでしょうか」
「あなたを起用したいという広告代理店や出版社がたくさんきてるの」
「それって、女性モデルとしてですか」
「そうなの。もちろん、あの表紙は男性だといったけど、最初はしんじてもらえなかったわ」
「男とわかったから、それでキャンセルがあったのですね」
「それもあったわ。でも、こんなきれいな女性が男の子のはずでないといってきたの。だから……」
「社長、まさか……」
「引きうけちゃった」
社長は桜子にいった。
「社長、それはまずかったのでは……」
重役のひとりがいった。
でも社長は、桜子を見て重役にいった。
「相手も承知してるわ。それにこの顔、とてもいいわよ」
社長は、桜子が表紙をかざったブライダル雑誌をだした。
その雑誌は桜子の顔がアップで写ってあって、表情がうっとりとしていて、女性的な顔だちをしていた。
「ヘェー。同一人物には見えないですね」
「たしかに。これでは間違うわけだ」
「そうですね」
重役たちが、桜子の表紙の雑誌を見ていった。
そして社長は、思いきったことをいった。
「だから私いい考えがあるの。桜子くん。あなた女になりなさい」
「社長、それはどういうことですか」
桜子は大きな声で社長にいったが、社長はすずしい顔をして桜子にいった。
「なにも手術しろといっているわけじゃないわよ。女性のモデルになるのよ」
「で、でも……」
「でも桜子くんお金ないよね。今月の大学の学費はらえるの」
「今月はちょっと難しいですが、なんとかやりくりすれば乗りきれますが……」
「来月、再来月はわからないわよね。だからいままでの倍をだすわ。それでいいでしょ」
「ぼくとわからないようにしてくれば……」
社長の熱意と給料の倍にまけた桜子は承諾した。
「わかったわ。さっそくだけど、いますぐいってもらいたいの。あとはよろしくね」
社長はマネージャーにいった。
桜子とマネージャーが社長室からでていくと、待たせてあったタクシーに乗って社長にいわれた現場へむかった。
「桜子くんはホントにいいの」
タクシーのなかでマネージャーが、桜子にいままでのことをたずねた。
「ええ、社長のいうとおり来月は危ないのです。それに、うちの実家、あまりお金の余裕がないんで」
「でも桜子くん、後悔してない」
「後悔はしてません。モデルの仕事も、大学を卒業すればやめようと思って。やっぱり何年もできないでしょう」
桜子はマネージャーにいった。
桜子は、どうせこんな事はすぐに終わるだろうと思っていた。
もうすぐタクシーが撮影所に到着しようとしたとき、撮影所の前でだれかが手をふっているのが見えた。
タクシーがだんだん近づいてくると、だれだかわかった。
克二だった。