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第3話:運命の出会い。

鏡にうつる自分の顔に見とれてうっとりする桜子おうじ


「美波くん。それでは撮影にはいりましょうか」


「あっ、はい……」


編集長に声をかけられ、我にかえる桜子。立ちあがった桜子は、編集長についてきて撮影現場にきた。

編集長がドアをあけ、撮影現場にはいる桜子。

撮影はおおかたおわっていて、あとは桜子の出番をまつだけだった。

先に撮影がおわったモデルのひとりが編集長のところに質問をした。


「編集長、あの娘は、いったいだれです」


「だれって、美波くんじゃない」


モデルたちは、桜子の変身におどろいた。

さっきまでロッカールームで見た桜子とは、ぜんぜん印象がちがうからだ。

カメラマンが桜子の撮影をはじめようとしたとき、ちょっとまって、と編集長がカメラマンにいった。


「もうひとり、相手役もいっしょではどうかしら」


「それはかまわないですけど」


「決まりね。ちょっとよんできて」


アシスタントが撮影現場からでていって、相手役をよびにいった。


「相手はもちろん……」


「男性モデルにきまってるじゃない」


「おかしいですよ。おなじ男同士ですよ」


「おかしくないわよ。美波くんは花嫁で、相手役は花むこなんだから」


「もうすぐはいりまーす」 

アシスタントによばれた相手役のモデルが撮影現場に入ってきた。相手役のモデルの肩と、桜子の顔のたかさが同じだった。


「美波くん。こちらが安岡克二やすおかかつじくん」


「よろしく美波さん」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「アイサツもすんだし、ふたりとも、あとはよろしくね」


撮影がはじまるので、編集長はじゃまにならないようにふたりから離れた。


「アシスタントから聞いたけど、ホントに男なの」


「そうだけど。そんなシュミでなくて大学の学費のためだから……」


「エッ、大学生なの。全然みえないよ」


「安岡くんも、ぼくと同じ大学生ですよね」


「ちがうよ。おれ高校生。それから、おれのこと克二でいいから」


「わかった。ぼくのことも桜子とよんでいいよ」


「おうじって、どんな字なの」


「桜に、子どもの子でおうじとよむの……」


桜子は口ごもった。この名前でいつもからかわれたからだ。

だから、克二にも笑われると思った。


「ステキな名前ですね」

克二は桜子にいった。

名前をほめられたのは、これがはじめてだった。


「でもおかしいでしょ。だって男なのに子がついてるし」

 

「そんなことないですよ」

「それに、いま着てる服だって……」


「ここにいるモデルのなかで、桜子さんがいちばんきれいです」

「克二くん、ジョークがうまいね」


克二が冗談をいっているのだと桜子は思った。だが、克二の顔は真剣だった。


「桜子さんは年下はきらいですか」


「きらいもなにも、ぼくたち男同士だから……シャレだよね」


「シャレでないから。そろそろ撮影の準備ができたみたいですね」



撮影がはじまった。

最初はきん張した顔をした桜子だった。

カメラマンが“かわいいねぇ”とか“いいよ、その表情”などと桜子をほめ、それと克二のエスコートの助けもあってか、きん張もほぐれ、自然とほほ笑みをうかべる桜子だった。

撮影がおわりに差しかかってきたころ、カメラマンは克二にあるアイデアをだした。それはお姫さまだっこだった。

克二は、いきなり桜子を持ちあげて、お姫さまだっこをした。


「ちょっと克二くん、はずかしいから……」


「大丈夫ですよ桜子さん。おれがしっかり持っているから」


桜子をお姫さまだっこする克二。

桜子は気づいていなかったが、カメラマンは克二のことをうっとり見ている桜子を見のがさなかった。

これはシャッターチャンスだと、カメラマンは桜子の顔のアップも撮った。


撮影がおわった。

編集長は桜子と克二のほうにきて、ふたりをねぎらった。


「よかったわよ美波くんに安岡くん。とくに最後のお姫さまだっこはよかったわよ」


「そういわれるとうれしいです。それに、桜子さんと出会えてサイコーです」


「ふたりとも仲良くなったのね。また機会があったらよろしくね」


編集長は桜子に握手をしてふたりからはなれた。

桜子もウェディングドレスを脱ぎにロッカールームにいこうとしたとき、克二が桜子のうでをつかんだ。

そして、克二にいきなりキスされた。

ぼうぜんとする桜子に、克二がいった。


「また会おうね桜子さん」

それが、ふたりの最初の出会いだった。


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