第2話:もうひとりの自分。
編集長に連れてこられた美波桜子はロッカールームだった。
ロッカールームには、もうウエディングドレスに着がえ終わっていたモデルの女性たちがいた。
そのなかに、たったひとりの男性である桜子は、顔を赤くして、はずかしそうにうつむいていた。
モデルたちは、桜子のはずかしがる姿を見て、かわいいとからかった。
編集長もはずかしそうにしている桜子を見て、母性本能をくすぐられた。
「はいはい。あなたたちは撮影の準備に取りかかってちょうだい」
編集長は、桜子をからかうモデルたちを、せき立てるようにいった。
「はーい」
「編集長ー。このこ喰べないでね」
「バイバーイ」
モデルたちは、桜子に投げキッスをしたり、からかったりしてロッカールームを後にした。
入れかわりに、スタイリストがウエディングドレスを持って入ってきた。
「ちょうどよかったわ。美波くんに合うドレスが合ったかしら」
「これなどはいかがでしょうか」
「いいわねぇ。これなら美波くんに似合うやね。美波くん、さっそくだけど着がえてくれる」
編集長にウエディングドレスを渡された桜子。ドレスを持って奥のほうへ着がえようとする桜子に、編集長は桜子をよびとめた。
「ここで着がえたほうがいいわ。そこだとドレスが汚れるし、ドレスの着かたわからないでしょ」
「でもやっぱり、見られると、はずかしくて……」
「なにも襲いかからないわよ。はやく着ている服を脱いで」
桜子は、はじらいながらズボンとシャツを脱いで、パンツだけになった。
編集長は、下着を取りだして桜子に差しだした。
その下着は、レースをたっぷりあしらった白のショーツとブラジャーだった。
「いまはいているパンツを脱いで、このショーツとブラをつけて」
「でも、これって……」
「そう、女性用。いまはいているパンツではドレスがすけてしまうのよ。ちょっときついけどガマンして。ギャラをはずむよう、事務所にいっておくから」
「……よろしくおねがいします」
桜子は、ショーツとブラジャーをつけるはとてもはずかしかっが、お金のためと思い、なくなく引きうけたのだった。
「これでいいですか……」
ショーツとブラジャーを着た桜子は、顔から火がでるくらい、とてもはずかしかった。
男性が女性の下着を着ていると滑稽だが、桜子が着ていると逆に違和感がないくらい似合っていた。
編集長は、桜子にウエディングドレスを渡した。
「このウエディングドレスを汚したらいけないから手伝ってあげる」
「大丈夫です。ひとりで……」
「ダメよ。汚したら弁償してもらうわ。ちなみに値段はね……」
「ゲッ……」
「でしょう。だから私が手伝ってあげる」
編集長にいわれるまま、ウエディングドレスを着せられた桜子。
まごまごしながら、なんとかドレスを着た桜子。
「いい感じよ美波くん」
「おかしくないですか」
「とても似合ってるわ。つぎはメイクね」
編集長は、桜子をメイクルームにつれてきた。
桜子を見たメイクさんは、感心するようにいった。
「あなた、お肌が色白でキメ細かくていいわねぇ」
「そうでしょう。美波くんの顔にヒゲがほとんどないのよ」
「ホントだわ。これなら化粧映えがいいわね。でも髪がみじかいからウイッグをつかうね。じゃあ、メイクするから、ちょっと目を閉じて」
自分の顔をメイクされることに不安になる桜子。
さらに、メイクさんにいわれて目を閉じているからので、桜子の不安はつのるばかりだった。
「はいできたわ。ゆっくり目をあけて」
メイクさんにいわれて、ゆっくりと目をあけた桜子。目の前にうつる鏡には、かわいい女の子がすわっていた。それが桜子本人だと一瞬わからなくて、ことばが出なかった。
「いいお顔だから、はりきってメイクをしたわ。どうしてだまっているの」
「そらそうよ。だって自分の顔がかわるからおどろいているのよ。そうよね美波くん」
「……ほんとに、これがぼく……」
桜子は、とてもしんじられなかった。自分の顔がこんなにかわるとは夢にも思わなかったからであった。