第二話 初めての契約
ここも、見ていて面白いけどすすもうか。交差点を曲がって四個目の路地…み、見えん。〔山茶花〕の看板は山茶花と刀、兜の絵が描かれているらしいけど…あ、あれか。目を凝らしていても、薄暗い中だから見つけ難かったんだけど?路地の少し奥まったほうに入り口が在るからさ。ここに在るのだったら、隠れた名店だと良いのだけれども。
入り口を開いた音は風鈴かな?夏の気温じゃないけど、心は安らぐね。店は和風の武具屋だな。店内は座敷じゃなくて土間だけど、和が満ちている気がする。何を言っているのか分からなくなってきたよ。
「すみません、ここに鳥兜と言う人?は居ませんか」
「も~待ちくたびれたよ。りょ……う?」
「あ、はははははは!何それ、その恰好!」
「ブッハハハハハッ!中々その体に性癖を纏めたな?いやー洋装じゃないのが残念なぐらいだな!」
失礼な奴め。お前の方が面白いと思うけどね?俺は。
「ひー属性詰め込み過ぎ!笑った笑った。そう言えば聞いて無かったな、今の名前。お前のキャラクターネームって、何て読むか分からないんだけど。フレンド登録はしておくから寄越せ」
そう言えば何て発音して良いか言ってなかったね。他のゲームだと音声なしのチャットでしか使ってなかったからさ。それにしても、目にした瞬間に吹き出しちゃったよ。あいつが面白いのが悪いよネ!
「上から目線を止めろよな。言い方は鴉狐だね宜しく。鳥ガ…兜。はい、フレンド登録用のID」
「え?おま、何つった?今変な単語が有った気がするのだが!?」
「気のせい、気にしてはいけないよ?別に鶏がらスープの素とか、言おうとしてないからね。鳥兜じゃあ出汁は取れないからな!」
「いやおまっ!「う・る・さ・い」そ、そうか。いやまて、何で俺が怒られないといけないんだよ!!」
本当に五月蠅いよ。口を少しは噤んでほしいね!こいつのアバターは白髪の長髪で総髪、長身のイケメンだね。ケッ顔はリアルと同じ、黙ればイケメン。そう、口を閉じてさえいればさ。
装備は濃紺色の足軽鎧か…チョイスが下っ端ぽいな。だけれども、白と濃紺色はよく合うからなぁ。色合いのセンスは良いんだよね。色合いだけは。他は絶妙に外してくるからなぁ。こう、全体的にダサさが滲み出ていると言うか何と言うか。
「そういえば、職業は何にしたんだ?恰好からすると、前衛系の〔足軽〕とか〔剣士〕に見えるのだが…」
「ん?あぁ〔召喚術士〕だね」
「え、何だって?もう一回言ってくれるか?俺の耳が可笑しくなったのかもしれないからな」
難聴かこいつ?この歳で大丈夫だろうか。仕方がない、面倒だけどもう一回言ってやるとしますか。
「だから〔召喚術士〕だよ」
「は?はぁぁぁああああぁぁああ?!よりにもよって術士系したんだ!」
「声がでかい、他の人の迷惑に為るでしょうが。音量を下げろよ?な?」
「あ、ああ。すまんかったな」
馬鹿デカい声だな、近所迷惑になるだろうよ。あ、やばい店員さんがこっち見てる。流石に迷惑だったよね。店内に俺らしかいないけどネ!時間帯が違うのか、時期が合っていないのか、単に寂れているのか。更に店員さんの目線が厳しくなったぞぅ!
「術士系にした理由ね。サモナー系職業がそれしか無かったからだよ」
「はぁ、どうせそんな理由だと思った。いいか?あの事を知っていて術士系にしたんだよな?面白そうとかで選んでないよな?」
…一割は有るかも?だけど、ゲームは楽しんだ者勝ちだからね!ただの作業とか誰が楽しいのよ。
「ん?あの事とは何の事?大事件でも有ったの?」
「は?恍けてるんじゃないよな?本当に知らないのか?マジでか?馬鹿なのか?」
「お前に馬鹿と言われる筋合いは無いからな?βテストの情報を調べてた時は、どんな職業があるのかと世界観、ゲームシステムだけだね。だから、そこまで知らないよ」
「やっぱりか、いいかよく聞け?術士系はβテストの時、初期魔術しか使えてないんだ。この意味が分かるか?分かってくれよ?」
別に良くない?βテストの時からは改善されているだろうからね。悪くはなっていない筈だよ。それに、難易度がイージー過ぎてもつまんないし。
「…え?ナ…ナンダッテー」
「馬鹿にしてんのかてめぇ」
「勿論だとも。逆に何だと思ったのかな?そんなに怒る事じゃあないでしょ」
「はぁ、こいつ性質が悪い。…分かってるのか?いや、〔召喚術士〕ならまだ活路はある…か?初期召喚獣ぐらいは何とかなるか?」
音量を低くした独り言を呟いてるみたいだけど、何を言っているか分からないよ。
「ヘぇ、で?何さ、言いたいことはそれだけ?」
「なぁ、もっとリアクションをくれよ!て言うか、お前の事を心配していっているんだが!!…あるぇ?さっきまで隣にいた筈なのになぁ?」
「じゃあな。縁が有ったらまた会える筈だヨ!」
「おい、おまっちょまてよ!少し待て!」
「し・る・か!あばよ!」
「逃げやがった!はぁ。どうなってもしらないからな!」
それを含めて楽しむんだよなぁ。よし、冒険者ギルドに登録しに行って初めての召喚獣を手に入れるとしますか!召喚獣の出現条件は知っているんだけど、条件が整っている場所が分からないからさ。それの情報収集も兼ねれたら良いね。
おぉ此処かな?冒険者ギルドは。大きさは三階建ての建物で、外見上は漆喰に瓦屋根、入り口が引き戸のこの国に合った建造物だけど、何故か違和感を感じるんだよなぁ。看板にカタカナがあるからかな?国営の施設らしきもの以外で、三階建てが他に見られなかったから見つけやすいね。
中は五月蝿いのね。玄関に段差は無くて、西洋の印象が強く出ているエントランスホールが出迎えてくれるのか。外とのギャップが凄まじいんだけど。見える範囲では冒険者とのやり取りが出来る受付、購買的な店が開いているね。敷地面積は広そうだし、実際に広くて窮屈には感じないかな。
受け付けの近くに行くと長椅子が並べてあって、その後ろの壁に絵付きの注意書きのポスターが貼ってある掲示版が設置されてる。それには『御用の方はこちらに座ってお並び下さい』って達筆で見難いけど、大体こんなことが書いてあるね。
対面での登録は久しぶりだし分かんないことも多いから、大人しく座って待とうか。それにしても、昼過ぎなのに活気があるね?ここ別に食事処が在るわけじゃないでしょ?何してるんだろう?
「お次の方どうぞ」
順番が来たかな?おぉ、受付嬢さんは眼鏡をかけたクール系美女だね。クールあるあるのぜっ…いぃぃいやななな何でででもないよ?殺気が飛んできた気がするけど、き気のせいだね。気のせいだよね?む、胸は小さい方が好きだから許してください。
殺気が消えた。外見上は女の子なのに、殺気を飛ばしてくるとかこわ。失礼なのはこっちだけども!仕方ないじゃん?目で追ってしまうんだもの。染まりに染まった性は治んないからなぁ。
何故か分からないけど、精神が体に引っ張られている気がする。若い頃は色々と元気があったけど擦れるからね。今の三十ぐらいは若いほうだって言われるけどさ。
「本日のご予定は?」
「冒険者登録をしに来ました」
「はい、では此方の紙に記入をお願いします。代筆はいたしましょうか?」
この国の文字は何時も使っている言語だし、問題ないかな?いやでも、書いてもらおうか否か。自分で書けるし書くか。
「いいえ、自分で書けますのでお構いなく」
紙は羊皮紙とかじゃなくて植物紙だね。肌ざわりは丈夫な和紙に似ているね。ペンじゃ書きにくそうだけど…。変に和洋が入り混じっているのは何でだろうね?
記入事項は名前に性別、職業、特技だね。書く項目が少ないけど大丈夫かな?それにしても疑問だけど、これと全く同じで印刷された紙が、無造作ではないけど束で置いてある光景。時代的にどうなの?機械化とか大量生産の時代で発明された品が、前期ではないといえ江戸にあっていい物ではないよね?そもそもこの都市も、先取をし過ぎている感じの江戸なんだよね。運営はどんな意図で作っているんだろうか。うーむ、考えても仕方がないか。
「書けました」
「では、発行をしますので少々お待ちください」
1、2分ほどでやっぱり不釣り合いなカードが出て来ると言う。ゲームだからとはいえ、やり過ぎでは?世界観を知れたとはいえ、情報自体が魔術が使えるファンタジー。みたいなものしか載っていなかったし。この世界を巡り歩けば分かるかな?
「最後に、このギルドカードに血を垂らすか、魔力を流して下さい。本人確認のための術式が起動しますので、本人以外が使用することは出来ません。又、本人以外が使
用した場合、罰則が科せられますのでご留意下さい」
魔力の流し方が分からないのですが?んーー痛そうだけど血で良いかな。垂らすと言っても針の先を指に少し刺して、一滴をそれに付けるだけで済んだからそこまでだったね。痛覚再現の設定はもしてあるけど、今のは注射針を刺したぐらいの痛さだし。再現度は勿論100%けどね?
…今更だけど、感染症とかないよね?少し遊んだだけでも、そこまでやるか!って所まで凝ってるから、心配になってきたんだけど。
「では、冒険者ギルドについてご説明いたします」
説明によるとギルドは等級制になっていて、一番上がS等級で以下A~Gまであり、等級ごとに特典があるらしく上だと良い物が選り取り見取りだってさ。その中にはB階級から報酬の桁が違くなるのに加え、特権階級並みの扱いを受けられるようになりから、色んな意味で面倒臭そう。強き力を持つ人にワラワラと権力者とか求めている人が集まりそうだね。
等級昇格は依頼の達成率にギルドの審査により決まるらしい。依頼は掲示板に貼ってあるので、自分の階級か下の階級の依頼書をカウンターへ持っていき、受領されれば依頼開始となり始められるそうな。依頼完了時に冒険者カードを提出すれば記録されていき、依頼達成率も受付で確認できるようだね。
冒険者カード自体には特別な機能はないらしく、ただの身分証明の一つになっているよ。何か謎技術で作られてたりしないかな?
規則違反及び犯罪をした場合、冒険者ギルドは一切助けないし等級剥奪とギルドから追放されるようになり、社会的身分が一切なくなる。それに加え追放者には賞金がかかることもあり、罪状が重い場合にはギルドの猟犬が出動するそうな。猟犬ってなんだろう?執行とか暗殺部隊の暗喩かね?
賞金目当ての冒険者が全力で追ってきそうで怖いね。犯罪には気を付けようか。当たり前だけどネ!濡れ衣だけは勘弁だけど。
「良い冒険者生活を」
これから稼いで来いよ?って感じの圧力を感じるお言葉でした。言われないでも、お金が無いからやるけどね?働かなきゃ生きれないとは、現実もここも世知辛いなぁ。
ギルドに登録も済んだことだし、最初期の召喚獣を手に入れようとしますかね!召喚術で契約出来る種族は多種多様で、自然の猛威や恵みの象徴〔精霊〕やその力を拡張した上位の力を持つ〔聖霊〕、惑星や星座の権能を表し宿す〔星霊〕、神までに昇華された自然の権能や零落した神の〔神霊〕、英雄や偉人の時空を越えた伝承が力となった〔英霊〕、神の使いにして善性の象徴〔天使〕、〔天使〕の対であり悪性の象徴〔悪魔〕等の霊体系。霊体と言っても、一部は受肉させる事が出来るらしいね。
魔物や獣が格を上げ知能を持つ〔魔獣〕、〔聖霊〕の獣版の〔聖獣〕、〔星霊〕の獣版の〔星獣〕、神にまで至りし〔神獣〕等の獣系。他の生物の血を吸うことで様々な力を強める〔吸血種〕、生物の一種の到達点である〔竜・龍種〕。
んで、神話の生物や〔星獣〕、〔神獣〕、〔竜・龍種〕をひっくるめた〔幻想種〕。これ等の種族の力を貸してもらうのだけど、力の貸方や契約方法は個体で違うらしいね。今の時点では可能性が未だ存在する術士だってさ。同時に難易度も高いと言われたんだけどネ!他の術士は術が分かんなくて右往左往しているらしいからさ。
最初期に契約が出来る召喚獣は〔黒の武者〕、〔白の武者〕、〔黒の騎士〕、〔白の騎士〕と呼ばれる〔精霊〕の一種で、契約は武者か騎士、違う色同士でしか契約が出来ない仕様だと。例えば〔黒の武者〕と契約したら〔黒の騎士〕、〔白の騎士〕とは契約が出来ないし、逆に〔黒の騎士〕と契約したら〔黒の武者〕、〔白の武者〕とは契約が出来ないようだね。
契約方法は〔黒の武者〕、〔白の武者〕、〔黒の騎士〕、〔白の騎士〕他者の助けを受けないで術、物理関わらず倒して力を取り込まなけば契約出来ない。おい、こちとら攻撃の術を持たない、近接ステータスが低い系術士だよ?簡単に死んでしまうぞ?
〔精霊〕は自身の属性や|所縁《ゆかり》のある場所に現れる。あの四体の〔精霊・武具系付喪神〕は武具が大量に扱われ、本懐を遂げる事が出来た場所。それらの条件に一番近いのは戦場跡とか闘技場とかだね。
今居る都市、〔和国首都:瑞穂〕から一番近いのは〔血河原〕って言う名前の戦場跡だね。名前からして不穏すぎるんだけど、大丈夫か?吃驚系は嫌いなんだよ、心臓に悪いからさ。ホラゲーのステージに採用されそうな名前だとしても、契約しない事には俺がたの…んんっ。このままだと強くなれないから行くか!ウジウジじてても仕方ないしね。
視界が赤褐色に染まりそう、そんな言葉しか浮かばない程に赤い。紛れていて分かりにくいけど、赤褐色の川や池が土に吸収されずに残っているし。まぁ、血河って付いてる時点で察するべきだったね。
うへぇ、臭いがほんのりと残っているよ。だけど、豚の頭部を解剖した時とか酪酸、混酸を嗅いだ時よりかはマシかもね。臭いの種類は違うけど、あっちの方が何倍も強かったしさ。
こんな光景を残す程の悲惨な戦争が過去にあったのかな。それが何の目的の為に行われたか、頭を捻っても出て来ない俺の想像力の乏しさよ……。こんな詮無きことを考えられる平和な世界、逆に残酷な事実を薄れさせる時間経過。何ともならないよねぇ。よし、これは仕舞いにして、契約をするために頑張ろうか!
お、あの黒いのが〔黒の武者〕かな?遠くて見難い。姿は…ここからじゃ全身黒尽くめにしか見えん。いや、もっと目を凝らせばいけるか?ギ、ギリギリ見えなくもない?ええと、身長は高そうで武装は槍と太刀…かな?強そうに見えるね。……倒せるか分からなくなってきたぞぅ!
いやまぁ、倒さないと目的を達成できないし?サモナーライフが満喫出来ないしね?爺さんに習った剣術、体が覚えている筈!大分扱かれたから感覚は残っていると思う、多分。
●◆●視点変更●◆●
鴉狐は近づき、目の前にした所で慄いた。その大きさに勝てるかの不安と契約後の信頼で。〔黒の武者〕の武器は槍に太刀、脇差を装備している。
相手が構える前に彼は槍の間合いに入り、既に手にしていた刀を薙ぐ。それは反応もせずに受ける。が、浅い傷を付けられただけで、お返しとばかりに蹴りを腹に入れた。
「カハッ!」
彼は浮かび上がり、飛ばされた。途中肺の中の空気を吐き出した為苦しそうだが、受け身擬きをとれたようで、着地による傷は少ないようだ。
受け身をとったはいいが、それが近づき槍で突く。危うく刺し抜かれそうになるが、体を捻り穂先を肉体から逸らし、掠らせるだけに収めた。
彼は立ち上がり、それの鬼面の目の箇所に刀を抉り込むが、中身が無いので意味は無い。甲高い音を奏で弾くだけで、終わってしまう。その隙に刀で斬られ、血が脇腹から流れでる。深くまで達してはいないが、長時間続けば大量出血で危険な状態になる。
相手の剣術が拙いため、彼の鈍った腕前でもなんとか捌けることが出来ている。また、彼の刀は初心者装備の攻撃力がほぼほぼ無い竹光な代わりに、耐久力が不壊に近い物である。そのためあちらの刀は折れ、鎧にも浅い傷が様々な箇所に刻まれて始めた。
「鎧が硬過ぎやしませんかッ!」
その傷が一定の所まで達した時、膂力が強いが振り方が強引であるため、厚さが他の所よりも薄い間接部が耐えきれずに千切れ飛んだ。
片腕が無くなった時の衝撃が、体勢を少し崩した。その隙を見逃さず左脚を切り落とす。それが倒れ、身動きが取れないくなり戦闘は終了した。見るも無惨な姿になっているが、気にしてはいけない。刀剣ではなく最早鈍器な刀で切られたために傷口がひしゃげ、四肢の半分が切断された半達磨状態ではあるが。
●◆●視点変更●◆●
「これで、終いだーーー!」
ガラスの割れる音がして、青い粒子となって消えたね。その粒子が体に纏わりついているんだけど、訳が分からないよ。
戦ってみたけど…これの太刀は竹光だし槍も脇差も鈍刀、剣術も拙いから簡単に捌けられたね。俺の腕が鈍ってたから苦戦の連続だったけどネ!俺とスペックが似たり寄ったりなこいつと、契約する意味…あるかな?
ま、まあ戦術を広げる意味もあ、あるし?居ないよりは居た方が良いと思う…よね?時間かけて倒したし?せっかく召喚術士選んだんだし?契約する価値はあると思う…よ?可能性に期待だネ!勿論良い所は…あるよ?膂力とか速度とか耐久力とかね?苦戦の理由もそれだしさ。
「いつっ」
やべ、血が流れてーら、気付かんかった。ええと、回復薬回復薬っと。傷口に掛けて包帯で覆う?あってるかな?一様インターネットと掲示板見ながらやってみたんだけど…。あ、最後に飲んで終わりだったけか。
あれ?いつの間にか青い粒子が消えてるね?どこにいったんだろうか。そう言えばさっき、[鴉狐のレベルが5上がりました]ってシステムメッセージが聞こえたよ。それにしてもレベルが5上がるなんて、結構な格上だったんだね?基準が分からないけど。多分、これで契約出来る筈。出来なかったら泣けるよネ!ガチャして高レアが当たったのが全部夢という、嫌な思い出が……。
確か、契約の仕方はある呪文を詠唱して、術として成立すれば契約が出来るってさ。詠唱をするのは少し…恥ずかしいね。後々更に長い呪文を詠唱しそうな予感がするよ。慣れねば。
「共に歩むならば手を握ろう 汝が力を貸すならば 我も汝の力とならん ここに誓約は結ばれた【召喚術・契約:契約の刻印】」
繋がりが出来た感覚がするから、成功したかな?さて、早速召喚してみましょうか…ええと、確か召喚も呪文を唱えれば出来るんだったけかな?呪文はステータスの〈召喚術〉の部分をタップすれば、分かる筈だからね。
〈召喚術〉
契約召喚獣
〔黒の武者〕
これの〔黒の武者〕の部分だっけかな?あり?〔黒の武者〕のステータス画面が出てきたぞ?ここから如何すれば分かるの?色々調べてみるしかないのかな。
調べて解ったことは、召喚するには最低でも鍵言葉を必ず唱えなければならないこと、召喚するには相応の魔力を使うこと。〔黒の武者〕の場合、消費魔力5だね。
他には、召喚獣にも経験値やレベルが在って独自の成長が出来ること。つまり、使えば使うほど強くなったり、プレイヤー毎に違う個性が出るって言うね。
今現在で分かることははこんなもんかな。使いこなしていくうちに何かしら分かるだろうさ。
召喚するには発動工程が必要だね。この行程がなかなかに面倒くさくて、召喚対象の選択、出現位置の指定、魔力の消費、鍵言葉を唱えること。この行程をしながら呪文を詠唱しなければいけないと言うね。難易度が高い理由はこれか!?これなのか!?
それに意思の無い、ないし希薄な召喚獣は戦闘中に、行動の指示を大まかでもいいから、しなければいけないそうな。なんて厄介な職業に術だよ。
趣味関連には頭の回転が速すぎる!と定評だから何とかなるかな?(自称だよ悪いか!)…これから頑張るとしか言いようがないね。早速召喚してみようか。
召喚対象の選択は〔黒の武者〕、出現位置は自分の隣、魔力を5消費、呪文を唱えるを忘れずにして召喚っと。
「我に宿るは黒き切り開く力【召喚術・召喚:黒武者】」
行動の指示は待機で良いかな。おお、デカいね。今の俺よりも圧倒的だね?まぁ視点がいつもと違うんだもの、当たり前か。それでよく運動が出来てるよね。補正でもかかってるのかな?
近くで詳しく見てみると、全身黒い甲冑姿の鬼面武士としか言いようがないね。しかも、目が在る筈の場所には、赤い光が揺らめいていて地味に怖いね。ホラーかな?まあ、そこに刀を突き刺したけどネ!気にしてはいけない。
指示出しながら戦闘出来るかな?これから〔白の武者〕とも契約しようと思うんだけどね。練習は少しでもしておいた方が良いかもね。でもなぁ、下級回復薬は残りが二本しかないから心許ないんだよね。…人手が増えたから次は安全に勝てるかな?い、一応連携の練習位はしといた方が良いよね?
ちょいと離れて指示をして、どんな感じに動くのかな?おお、結構滑らかに動くし複雑な指示にも対応出来るね。プログラムの苦労に比べれば全然楽だね!…ハッ!動作パターンを記録してそれを言うだけでいけないかな?もしくは深層型AIみたいに出来たりしないかな?ううむ、パターンはいけそうだけど、深層型じゃなくて機械型ならいけなくもない?うむむ、今はパターンを覚えさせるだけでいいか。
うん、こんなもんでいいね。よし、実戦に勝る経験は無いって言うし、行くとしますか!はて、〔白の武者〕は何処に居るのかな?お、あれか。遠くからしか見えなけど、〔黒の武者〕を白に塗りたくった感じのがそうかな?
〔黒の武者〕よりデカいように見えるね。見える範囲での武装は盾と太刀……かな?〔黒の武者〕と似たような仕様な気がするのは気のせい……だよね?気のせいで有ってほしいなぁ!
観察はここまでにして、戦闘を始めますか。今回は〔黒の武者〕に指示出しながら戦かうから、前回よりも難易度上がりそうな予感がするけど、負傷は少なくなる筈。一か八かで、重要なアイテムが少ない内に、死んでおくのもいい経験になると思うし。…共に戦う〔召喚術士〕だから、やっぱり慣れなきゃ駄目だよね。
ふう、決めた!傷を負わないように注意をすること、これを目標にしようか!いや、自分を傷付ける趣味とか無いからさ?なるべく痛くないようにしたいからね。
●◆●視点変更●◆●
先ほど召喚をした〔黒の武者〕を〔白の武者〕に向かわせ、行動を抑えている。相手に攻勢に移らせずに攻撃を繰り出せているようだ。その間に、彼は眉間に皺を寄せ唸っている。
「難しいか。自分の思い通りに動かすのは(パターンを作ってもあんまり変わんないなぁ)」
その言葉を紡むぎ終わったとたん、〔黒の武者〕の動きが悪くなった。それが攻撃を繰り出せずに一進一退を交互し続け膠着状態に陥る。
〔白の武者〕の後ろに立ち、刀の柄でそれの側頭部を打つ。が、やはり中身は無いので生身の人間よりも、効果は薄いどころか無いに等しい。ほんの少しの隙を作るだけに終わってしまう。
いくら人間で無い〔龍人族〕と言えど、非力な術士で体格が小さな少女。初心者用に調整された刀で使い易いが、本人の力が無いため大きなダメージにはならない。ただ、遠心力万歳!で振りかぶれば大きく与えられるが。それに、〔黒の武者〕との戦闘で発揮された、火事場の馬鹿力があれば別かもしれない。今はそのときとは状況が違うため〔黒の武者〕を頼るしか方法はない。
「チッ!(腕が痺れたよ、やんなきゃ良かった)」
次はそれの膝裏を蹴り、体勢を少しだけ崩す。横になったそれを〔黒の武者〕と一緒になって叩き、前に見たような無残な達磨にした。もはや鎧が無ければいじめの現場である。犠牲在りきの享楽ではないため、未だマシな部類では有るだろうが。復讐ならばより良し、である。
推奨をしてはいけないモノであるが。人間は群れるほど強がり、弱い者を見つけいたぶる。対象が人に限った話ではないが、生存競争でも無いのに何故やるのだろうか?信念も無ければ道理も無い、惨めではないか。
話が逸れたが、〔黒の武者〕戦よりも見せ場が無く、短時間で今回の戦闘は終了した。今後に繋げるため改善が必要になったが、手札が更に増えたため彼は頭を抱えざるを得ない。
●◆●視点変更●◆●
むーやっぱり、きついね。指示しながら戦うのが、こんなに難しいとは思わなかったよ。でも、後少しで倒せそう。いやー止めは楽なのかな?
「はぁぁぁあ!」
おっと、体に傷とかないよね?気付かない内にあったりするからさ。今回は様子見ばかりで、ちょっかいしか出してないし。
「今の内に契約をしないと。共に歩むならば手を握ろう 汝が力を貸すならば 我も汝の力とならん ここに誓約は結ばれた【召喚術・契約:契約の刻印】」
召喚獣の選択は〔白の武者〕、出現位置は俺の隣、魔力の消費は〔黒の武者〕と同じだね。んで、召喚をすると。この工程も手早く、ないし省くか、意識を割かないで出来るようになりたいね。
「我に宿るは白き守り抜く力【召喚術・召喚:白の武者】」
基本的な造形は同じで、〔黒の武者〕の色を白くし体格を大きくた感じ。他には、〔黒の武者〕と違って、目の光が青くなってるぐらいかな。
武装は太刀、脇差と白い盾だね。盾の材質は木かな?木目見えるしね。……触ってみたら案の定、木だったよ。白く着色しただけの木の板だね。この板まな板にしようぜ!ってならないし、金属ですらないと言うね。いや、こう考えるんだ戦国時代も盾有ったけど、木だったと!持つタイプじゃなかった筈だけどネ!
そういう風に考えれば、普通?……普通だね!普通だと信じれば普通になる、ような気がす…る?いや無理か。近接戦闘に使うつもりなんだけど。それに、矢が飛び交う集団戦の予定は無いよ?
今の戦闘で検証と改善したい事が出来たんだけど、この一面赤褐色且つほんのり腐臭がする場所で、検証したくはないよね?いや〔黒の武者〕戦直後にやったけど。あ、あれは応急処置のため仕方なく?…せめて赤褐色が無い所に行こうか。一番近そうな所は…あの森かな?さ、早速移動しようとしますか。
移動するのに〔黒の武者〕と〔白の武者〕は邪魔だし、送還の術を試してみたいから送還しようか。送還の呪文は「寄る辺の門よ 閉じろ」だけか。鍵言葉は【召喚術・送還】ね。魔力の消費は無くて、詠唱だけで使えるみたいだね。
魔力が枯渇している時に消費は流石にねぇ。枯渇しないように気を付ければいい話だけどネ!二体同時に送還が出来るみたいだね。と言うよりも、送還対象にした召喚獣が戻される感じかな?
「寄る辺の門よ 閉じよ【召喚術・送還:黒の武者】、【召喚術・送還:白の武者】」
これに召喚みたいな行程は、要らなくて良かった。よし、あの森まで少し走ろうか。五十メートルは在りそうだけど、今の体なら息を切らさせないで行けそうな予感が!
デスクワークしかしないし、休みには外に出ない影響で体が鈍ってねぇ。通勤にはある程度の運動は取り入れてるよ?階段を大股で上るとか…とか。あるぇ?そこまでしてない?いやそんな筈は。
位置について!よーいドン!ってやってみたけど、羞恥心が沸々と…。んんっ!それよりも到着しましたっと。検証したいことは二つあるんだよね。
一つ目が召喚するために必要不可欠な発動工程の順番を、どこまで変更出来省けるか。部分的な工程の省略に途中で、一旦止めて鍵言葉を詠唱したらどうなるのか。等の詠唱関連。慣れてないのもあるけど、中々戦闘中に猶予が無くて〔黒の武者〕に増援が出来なかったんだよ。これで解決が出来ればいいんだけど。
二つ目が、戦闘中に俺が操作した後に〔黒の武者〕の技量が、少しだけ上がった気がするんだよね。気のせいかもしれないけれどさ。試してみる価値はあるんじゃないかな、と思って。
そうと決まれば検証開始!と、いきたいところだけど…連続ログイン可能な時間が後、三十分もないね。ここでログアウトしたいんだけど、次ログインする時に町の中とかの|安全地帯《セーフエリア》じゃないと、入った瞬間に襲われることが有るらしいんだよね。PKとかエネミーにさ。集団で囲まれたら逃げられないし。俺の敏捷値じゃあ、先ず逃げ切れるか分からないけどネ!
どうしようか。一旦町に戻るにしても乗り物が無いから、途中で強制ログアウトさせられるだろうしねぇ。
〔黒武者〕と〔白武者〕ってログアウト中どうなるんだろうかね。ここは実験も兼ねて召喚したままログアウトしようかな。送還しといてなんだけど、呼ぶとしますか。ログアウト中に魔力が回復するかどうかが見れるから、一石二鳥になるのかな?
「我に宿るは黒き切り開く力【召喚術・召喚:黒武者】、我に宿るは白き守り抜く力【召喚術・召喚:白の武者】」
運頼りだけど、ここでログアウトしようか!茂みの中に身を屈めて、ついでにこいつ等も隠して、ログアウト!え?やけっぱち?そんなわけない無いじゃないですかーやだー。
ログインっと。よし、周りに敵は居ないね。それに召喚したままか、良かった。これからは周りに気を付けさせすれば、安全地帯じゃなくてもログアウトが可能、それが分かったね。まぁ気を付けても時間は過ぎてゆくから、過信は禁物だけど。だって近接戦闘は貧弱だし、遠距離攻撃も持って無いから!
無事にログインが出来たことだし、一つ目の検証を開始するとしますかね。先ずは…難易度が一番高そうな、魔力の消費を抑えたり増加さしてみようか。
え?ゲームの仕組みはどうしたんだって?このゲームは柔軟だからね。きっと対応してくれるよ。大丈夫だよね?バグ扱いされないかな?噂によるとこの世界自体がAIである、とそんな眉唾物だけど。
魔力の増減は…あれ?どうするんだこれ?何か勝手にヌルッて出ていく感覚だから、捉えられないぞ?うーむ、これは中々やり難いな? はて、どんな感じに調整できるんだ?イメージ…すれば……?ヌルッと出ていく感じを窄めていけば…。これは、蛇口のハンドル操作に似ているかな?
よし、感覚はギリギリ掴んだから1から順々に上げていくか。少数はむりか、そこまでの精密性を持っていないからだけど。 検証結果
魔力消費量:結果
・1:発動せず。
・2:体の端とか一部が出ただけ。
・3:体の部位が出ただけ(イメージした部分)。
・4:体の上半身か下半身、左半身、右半身が出た(イメージした部分)。因みに中身は空洞だったよ。
・5:全身が出た。
・6:少しだけ強くなった。例えば、精霊自体の膂力とか耐久力、武器の鋭さや頑丈さが上がったかな。
・7:6よりも強くなった
・8:7よりも(ry
・9:8より(ry
・10:9よ(ry
こんな感じだね。分かったことは魔力の消費を抑えると、発動しないか体の一部が出ること。基本の値を超えると、消費した魔力に応じて強くなること。魔力の消費を抑えた場合も使えるとは思うんだけど、今は現実的ではないかな。未だ慣れていないこともあるけど、召喚中も魔力が消費しているんだよね。それに、召喚時に増やした分だけ、消費量も増えたからね。
一旦魔力はここまでにして、次は呪文の詠唱かな?他は…特に変えられる気がしないからね。我に宿るは黒き切り開く力【召喚術・召喚:黒武者】の内、鍵言葉を抜いた我に宿るは黒き切り開く力を変えていけばいいかな。いや、鍵言葉だけで言って、召喚出来るか試してみてからやろうか。これが出来ればやんなくて済むし。
「【召喚術・召喚:黒の武者】」
あれま、さっきより難易度がだだ下がりなんだけど?やっぱり魔力消費量の調整難易度が高すぎただけなのかな。くっ、簡単に召喚されやがって!いやまあ、普通より量は増えてるかな?増加は召喚時だけで継続は変わらずと。これは強くしてないからかな?例が少なすぎて分からん。世界一有名な探偵じゃないから、そりゃそうか。
これで次に移ろうか。でも、二つ目の検証は長期間で分かるものだから、今は分からないのが残念。じゃあ何でやろうとしたのかって?行き当たりばったりだからね。仕方が無いね。
やりたいことも終わったことだし、一旦街に帰るとしますかね。新しい武器も欲しいしさ。でもお金が足りない気がする。んー依頼でも受けようかな?