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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
森の追跡者の輪舞曲
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8話 アジト

前回のあらすじ:DQNとエルフ相手に常夏の雪合戦(一方通行)

 今までアジトは最初のスラムの事件、山狩りの時と続いてその都度放棄している。

 見つかったのかどうかは、正直判らないが、生活の跡が残っていることを考えれば、発覚していると考えていいだろう。

 時間は経ってるから、さすがに張り込んではいないんじゃないかと思いたいが、今のところ近づく気になれない。


 先の騒動から逃れ、山の中腹の歩きづらい場所を歩く。……訂正、2本足じゃ、歩きづらい場所。獣からすれば、どうってことない。

 崖とも言えそうな急斜面を登ると、開けた場所に出る。北側一面を崖に囲まれ、南方に急斜面。崖には洞窟があり、洞窟の奥から水が湧き出て流れ出している。その水は急斜面の手前で、地面にしみこんでいっているようだ。


 周囲一帯が防壁になっている場所。ここが、今の住処、第3アジトだ。


――で、この鳥はどう料理するの?――

 第3アジトに戻って、大精霊が聞いてくる。


 初めての狩り専用魔法で取った獲物。現在吊るして血抜き中。ついでに羽を毟っている。


 余計な荷物を下ろし、調理しやすい状態にしよう。ポシェットに花が入っている。これはあっちに、纏めておこう。


「頭部が吹き飛ぶのは計算外だけど、しめるときのストレスがゼロだから肉質はいいはず。その上で、やってみたいことはある」


 正直、そういう獲物が来ることを計算して角ウサギの脂を少ないが絞っておいた。

 ラードの要領だ。脂と少量の水を煮込み濾す、これだけで作れる。それを使えば、結構いけるはず。


――何を言ってるのか、判らないんだけど?――

 理解できていない大精霊をよそに、俺はスラムで新しく拾ってきた手鍋を用意する。

 がっつり洗って、熱して乾かした後だが、場所が場所だ。何ついてるか分からない。もう一度洗おう。


「やることは、コンフィさ」

 俺は洗った鍋を突きつけながら宣言する。前世の知識の料理名を。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 森の中にあった、いくつかのハーブ類と少しの岩塩をトリの足や羽に擦り付け、少し寝かせておく。

 同時、取り除いていた鳥の脂と少量の水を鍋に入れて火にかけて温めながら、油脂を絞り出していく。もちろん焦がさないように。うまくいくか分からないが、水を入れているので大丈夫だろう。

 水が蒸発した後、石でできたろ過機(濾すために蔓の繊維をほぐして詰めている)にかけてカスをとり、脂の足りない分をウサギの脂を入れて賄う。油脂が徐々に溶けて液体になってくる。

 少し冷ましながら、ここにも少量のハーブと塩を入れていき、仕込んでおいた肉を表面を軽く焼いてから脂の中に投入。

 ここからは低温調理。温度を70度くらいに保ったまま、中までしっかり火が通るようにして時間をかけて熱する。

 温度管理はイフリータ担当。大精霊が温度計になるとは意外だった……。

 充分火が通ったところで、火からおろしてそのまま冷ましていく。

 そうすると……


――でかい、白いかたまりになっちゃったけど、良いの?失敗?――


 精霊の言う通り、冷ましたら脂が固まって白くなっている。オリーブオイルではなく、動物の脂を使ったからだろう……植物油の開発もしろってのは、ムリ。その知識はないし、出来るものもない。オリーブとかゴマとかね。


「いや、これである意味成功なんだよ。って言ってもこれが正確な作り方なわけじゃないんだけど」

――どぅいうことさぁ?――

 少し怒っているのだろうか?


「もともとコンフィっていうのは数か月にわたって鶏肉を保存するための調理法だったんだそうだ。

 本当は先に油に数時間以上つけてから、焼くんだ。

 しかし、俺のいた時にはそんなものがいらなくなるくらい食品にあふれていて、結果、高級料理として残ることになったんだ。もちろん、ちゃんとできていればうまいはずなんだが……」


 それでも、料理人って訳でもないので、ギャンブルなのは事実だ。確証はない。お弁当感覚の保存食にしたかったのだが。


――初めてとった獲物がそれって、あんたそれでいいの?――

「それでいいの。意味、判るでしょ?今ではなく、食うのを少し先に伸ばすだけだ」

――全然わかんない――


 残念、理解は得られなかった。とにかく、保存状態がどれほどかにもよるが、腐りにくければ当面食せる。

 現状、角ウサギが勝手に突っ込んできて、飯になってくれるのだから、食には困らない。が、いつまでもそうとは限らない。


 もちろん、今回の料理に使わなかった物は、今日の晩餐となる予定だ。と言っても、塩で焼くかハーブ焼きの2択しかないのだが。

 

――これまでの苦労って……――

「イフリータさん、充分意味があったから。保存できるんだよ?少し先に楽しみが待ってるって考えれば、またヒトシオ」

――あんたの楽しみって、そういう……あぁ、そっか――


 ……何か得心のいくことでもあったのだろうか。よくわからないやり取りになってる。どっちにしても鳥肉ならすぐ悪くなりそうだけど、これなら少しの間は持つ、はず。

 うまくやれてるのなら、数か月保存できるんだから。正確なやり方、知らないけど。


「とにかく、紛れ込ませていた胸肉を試食だ」

――しれっと紛れ込ませてたんだ……それに、今食べるんだ――


 批難している言葉の割に、随分うれしそうだ。結局のところ今食いたかったんじゃないか?いや、俺が食ったものがそのまま、彼女の栄養になるからだろうけど。マナの分だけ。


 油の塊になっている間に入れた物を外していく。実のところ、脂が固まるのは予期していたので、バナナの葉を仕切りに使っていた。

 塊の中で、1つだけ大きさの違うものが、胸肉だ。それを残して、残りはきれいなバナナの葉に移して包む。もちろん、バナナの葉は洗ってある。


 残った1つを火にかけ、脂を溶かす。余計な脂を捨てて、軽く焼き上げる。どうせなら先に脂を削っておいてもいいかもしれない。それに、すでに充分熱したはずだから、そのままでも問題なく食べられるかも……?


――いいにおいじゃん――

「精霊って嗅覚あるの?」

――アンタの鼻のにおいを感じ取ってるの――

 ……いくらか思うところはあるけど、良しとしよう。


 焼き上げた肉を、バナナの葉の上に移す。バナナの葉は屋根の代わりになるって聞いたことがあったけど、器にしても結構いいもんかもしれない。ナイフで切れてしまうことを視野に入れなければ。あ、先に切ればいいだけか。


「それでは……実食!」

 少し冷めたあたりで、手でつかんで、まるごと一気に頬張る。


――お皿の意味、あった?――

 なんか言ってるけど、気にしない。あれはあれで、いいんだ。……多分。


「ぬはあぁ!生きててよかったぁ!」

 低温でじっくり調理され、脂で周りを固められていた事で、旨味が流れ出ていない。ハーブの風味と塩気が効いていて、肉の旨味を増幅させている。

 成功だろう。


――あぁ、肉の脂って、こんな風に甘く感じたりするんだぁ――

 イフリータさん食レポお疲れ様です。レポになってないけど。


 そんな感じで、充分に俺達は、保存食の味見を楽しんだ。

 料理を楽しんだ後は、道具を片付ける。片づける先は、洞窟の中の、岩の裏。

 実はこの岩、中身を溶かしてくりぬいているので、見かけからは想像できないくらい軽い。

 本物を使った、張りぼてだ。岩であることは間違いないんだけど、張りぼて。……段ボールの代わりにかぶってもいいかもしれない。こっちの方が、発覚しにくいだろ。


 岩の裏にも、穴がある。そこにはリュックと干し肉、調理器具が隠されている。仮にアジトが見つかったとしても、そこに住んでいるんじゃなく、仮宿にしていたように見せるためだ。

 もちろん、それで絶対目くらましになるなんて思ってもいないが、少しでも可能性を上げるのなら必要だろう、という考えだ。

 穴の壁面は岩なので、岩石を食べるor溶かすものでもないと、中に入る者はいない。計算して、張りぼての接地面を溶かしている。


 ……いつも思うのだが、岩を溶かすってやはりおかしい。というか、それなら先にガラスが作れてもいいんじゃないか?

――お、作る?――


 しれっと思考に入ってきて、話を進行するんですよね、この精霊様。もう慣れたけど。


「で、作るって、作れるの?いろんな素材とか必要になると思うんだけど。あと、炉も」

――炉はアンタだけで充分でしょ。素材に関しても、ガラスとかなら地面にいくらでもあるじゃない――


「俺が炉かい……いや、アクリルとかならともかく、昔ながらのガラスならケイ素が主体ってのは分かるんだけど、いくら何でもできないでしょ。

 そこら辺の地面をとかしたらガラスになりましたなんて、それこそフィクションの話じゃない?

 ガラスより先に土器作れって、誰かが言ってるよ……って本当に、誰?たまに幻聴みたいなのが聞こえてくる気がする。

 俺、頭イカレたのか、やはり」


――あんたは正常だよ。大丈夫、それは気にしないでガラス作ろぉ――

「いや、気にするなも何も……ねぇ?」


 大精霊に言われるがまま、俺は行動してみることにする。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ん?うーん……確かにどう見ても、ガラス瓶。だよね?」

――だねぇ、一発でそれってやるじゃん――


 結論。できた。蓋はないけれど、小さめのジャムに使うような、ガラス瓶。当然だが、強い衝撃が加われば、それだけで簡単に割れそうだ。


「えーと?適した地面に、マナを流し込んで熱して、その中から分離?その分離の部分がよく分からん。それをマナで形作る……そもそもこれって、他のヒトもできるものなのか?」


――これはあんた流のやり方ねぇ。他のヒトは違うやり方するよ――

「おい、どういうことだそれ」


 何はともあれ、出来てしまったならしょうがない。それに、ビンが作れるとなれば、やれることが増える。

 確か、前に甘い匂いが漂っていた場所があったはずだ。あの匂いは、恐らく間違いないだろう、アレだ。

 ならば、実行あるのみだ。


――何するの?――

「簡単だよ。ハチミツ採集だ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 蜂は60度ほどの温度には耐えられない。その程度の温度、今や炎を出さなくても魔力のコントロールだけで出せてしまうようになってる。大精霊のおかげではあるが。

 なので、自分のまわりにその温度以上になる空気をまとわせる。蜂も抵抗してはくるが、全滅はさせないようにしなければ。また貰いに来るからね。


 ということで、巣を半分ほど破壊して、出てきたハチミツをビンに流し込み、取り終えたらさっさと離れるつもりだ。

 ちょっと、熊になった気分。でも、熊よりは良心的でしょう。


――見てて変な爽快感が出てくるわ――

 イフリータの言葉で気づいた。温度操作を間違えたらしい。蜂が燃え上がっている。可哀想に。やってるの、俺だけど。


 木の幹の上、手を付けづらいところにあるハチの巣だが、木によじ登り、ロープをたらして、掴まったまま採集している。片手で採集しているからやりづらいが。


――フチをつまんでるビン、落とさないでねぇ――

 考えが足りなかった。ビン自体をロープで固定できれば恐々とやる必要がなかった。

 ロープで周り1周ぐるり、底の方に2方向からぐるりと回してそれぞれのロープを結べば、固定できたんじゃないのか?今更か。


「よし、取り終えた」

 因みに、女王バチだけはイフリータさんが雷系統の麻痺魔法で動きを封じているので、今は地面に寝転がっている。じきに起き上がるだろう。


 目的達成したので帰ろう。

 さて、このハチミツをどう使っていこうか。楽しみだ。


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