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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
森の追跡者の輪舞曲
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6話 森の闇

前回のあらすじ:街へ来てみた。おしゃれな首輪をつけた人たちがいたらしい。

 現在、夜。日が沈んだばかり。

 居る場所は、街を見下ろせる崖の上。


 スラムのゴミ捨て場で拾ってきた布でテントを張り、たき火を焚いている。一応、警戒はしている。周りにヒトは、居ない様子ではある。街の中や外にちらちらと明かりが灯る。手前側の廃墟……廃寺院にすらも、明かりが灯った。


――本当に大丈夫?早く戻った方がいいんじゃない?――

「そうは言っても、俺の今置かれている状況でどう転ぶのか、確認しておいた方がいいだろ。

 どこまで危険になるのか分からないけど、確認せずに戻るわけにもいかないさ」


 簡単に言えば、スラムの中に居ただけで捕まり、奴隷にされかけていたので抵抗して、イフリータが組んでいた術式で迎撃したら、人狼と呼ばれた、ということだ。

 なんでそうなった?意味が分からない。

 とにかく、どう危険があるのか、不明だ。そもそも、人狼って何だ?


 道具は多少なり回収しては来たけど、あまり多くはない。腰に巻くポシェットと鉈、小さめのリュック、それに今テントに使った布だ。

 布はロープで縛ってきたし、それらを使ってテントを張っている。昔の忍者が実際にやってた方法とかって言われるものがモデル。木にロープを括りつけ、横に張り、布に杭を打ち込む形だ。杭となっているのは、その辺に落ちてた石。溶かして尖らせた。

 ……なんかおかしなことが普通になり始めたな。


――それより……アンタ、あの力のリスク、判ってるよね?――


 襲われた時に使った力の事だろう。本来なら他の形で出すつもりで作っていた刻印を、大精霊としては一番やって欲しくない、しかし、一番強い方法で発現させた。

 そのチカラに対する、リスクだ。


「判ってる、けど死ぬよりはまし。首輪もってたし、直接死ぬとは決まったわけじゃないけど。奴隷になるなら同じようなもんでしょ」


 付けられそうになっていた首輪にかかっていたのはかなり重厚な呪いと魔術の併用された拘束するための術式、というのが大精霊の予測。俺は直接見て、危険としか思えなかった。


 体罰か、労働か、どんなことになるか分からないが、どちらにしても生きているとは言い難い。元カリフォルニア州知事の初映画出演作の主人公は、奴隷から王様にまで成り上がった、なんて話だったと思うけど、その間に何人死んでたか。戦闘奴隷も同じ。


 こっちに同じものがあるとは限らないけど、それでも考える事は似たり寄ったりだろう。それがニンゲンだ。


「俺はあくまで、狩りをして生きていきたいんだ。奴隷になるくらいなら、野生児になるさ……って、今既にそうだったか」


――狩りにあの力は使わないでね。あくまで戦闘用。あと、火はアンタの場合一番威力あるけどリスクがかかる。氷と雷なら、リスクはほぼないから、普段はそっち使って――

「なんだ、結局リスク少ない方法があるのか。で、氷とかって、どうやるの?」


 リスクの少ない方法を聞こうとした、その時、


「……ほら、あそこ!」


 ハスキーな声が聞こえた。俺はすぐにテントの中に隠れる。


――ちょっと、なんでこんなやり方を――

 そりゃ、なるべく多く情報を収集するためさ。あとは、聞き取れるだけ聞き取ったら一気に火を消して、暗闇の中を逃げる。


 月は出てはいるけど、森の奥は完全な暗闇だ。昼間ですら木の間からさす明かりでも薄暗くなる森で、月明かりがあるからって、夜には普通のニンゲンに見えるような明るさにならないのは判り切ってる。真の暗闇に近い。その中を、俺は動ける訳だけどね。

 夜目がある程度きく種族だし……猫には負けるんだろうなあ。


 徐々に近づいてくる。足音からすれば、2人組。

「なんでこんなところで?本当に人狼がいたら確実にやられちゃってるよー?」

 俺は基本、人を襲ったりしないけど?人狼って、なんなのさ?


「その確認もあるんだからぁ。お、ホーンラビットさばいてたのかなぁ?角と皮がある」

 それは今日の夕食。逃げている時にすれ違いざま捕って行った1匹ですよ。もう食べちゃったけど。って余裕だな、このヒト……?


「本当に人狼居るの?いたら殺さないと……」

 マジか、殺す気か、俺を。俺そんな悪いことしたのか?あ、捕まえに来たあからさまなチンピラから逃げる時、爆発で吹っ飛ばしてた。

 そんなひどいことになってたの、あれ?


「ここ50年は出てなかったんだけどねぇ、この辺。まー出ないってことも無いんじゃなぁい?いつ出るかわかんないしぃ」

 出るって、狼の獣人が?それとも獣人とは違うものか?どちらにしても、俺を狙っているのは、多分間違いない。


「それはそうだけど……って、ちょっと?」

 1人、テントに近づいてきた。ナイフを出して構える。


「オッ邪魔っしまぁす!」

「ちょっ、エリナ!」

 入ってきた。金髪の身長の高い女性だ。

 かかった。ニヤリと笑ってナイフを振るい、ロープを切る。

 すぐさまナイフをしまって踵を返し、テントから抜け出て逃げ出す。

 同時にテントが崩れだす。


「ちょ、ウェ……あだぁ!」

 頭の上から木の棒が落ちてきて、パコンと音を立てている。大丈夫。腐ってる方を下にしてるし、重くないやつだ。ケガもしてなかろう。


 んでもってイフリータさん、よろしく。

――はいよぉ――

 予定通り、たき火の火をイフリータが『吸い取る』。


 前にやったファイヤーボールの爆発を吸ったのと同じだ。火を吸い取ってマナに変える、らしい。便利。

 大精霊と書いて、万能と読めばいいのか?


 テントの場所にいた2人は混乱していて追って来ないようだ。


――それにしても、そこまで危険、って程じゃなかったんじゃない?――

「こういうのは、地域柄とかもあるから。必ずしもって訳じゃ無いだろ。

 まして、あの2人の雰囲気見た?人狼が怖い存在なのは、スラムでも、あのヒト達でも変わらず。

 なのに、あの緩い雰囲気。それでいて、どこか侮れない警戒心は感じたよ」


 一瞬しか見えなかったが、警戒心と一緒に、随分な気迫があった。つまり、かなりの腕前を持っている自信があるヒト達であると見ていいだろう。


 何しろ、俺も結構暴れた。大爆発も起こした。危険な存在、と見られていいのだが、追手が2人のみ、という事もあるまい。

 実力者ならまだしも、実力の伴わないものなら出ては来ない可能性が高い……と俺は思っている。


「現状スラムでも森でも、安全じゃないのは確実だろ。そうなりゃ森で隠れて暮らすさ」

――あぁ、そう――


 イフリータは不服のようだが、実際に人狼と呼ばれた事、人狼は殺さなければという発言、俺の見た目。獣人の扱われている状況。これらをそろえれば、安全に暮らす、というのが不可能に等しいということになる。


――住む場所に結界張る?隠蔽もできるよ――

「それは居ることに気づかれたら手遅れになる。1か所に籠ってるなら、確実に囲ってしまえば終わりだ。住む場所は基本的に定めない。いくつかアジトになるような場所を作る方がいいだろう」


 夜の道なき道を、俺は進む。


「アジトにできる場所を複数作って、そこに隠ぺいををかける、ってのなら、ありだろうね」

――ふーん、それでうまくいく?――


 ぶっちゃけちゃいえば、自信はない。

 それでも危険な街からはとんずらこいた方がいいんだろう。しかし、森がどれくらい広いのかを把握していないし、自分の体毛の事を考えれば、草原や荒野などは目立ちすぎる。対策になるように、何かの皮などを使って、迷彩服みたいなものでもできればいいが。


 それに、この森は極端な危険生物は今のところいない。ゲームの最初の町、みたいな感じだ。しかし、他がみんなそうとは限らない。

 食事の問題もある。もっときつくなるのは、水だ。安定して確保できるとは思えない。

 他にも気にすることがあるし、下手に離れる訳にはいかない。


――ずらずらとよくもまぁ、本当に5才なの?――

「そりゃ、前世の分を含めば47歳くらい?になるから、考えもするさ。経験値が違う」

――あ、そ……ああ、面倒な奴来たね――


 また、ゴブリンがいた。進む先で、こちらに気付き、待ち構えている。

 やりますか、大精霊イフリータが組んでくれた、俺の新しいチカラ。


「――点火(イグニッション)――」

 詠唱と同時に、俺の体全身が炎に包まれる。


 俺に熱さはない。魔法による焔だからだ。俺の「焔属性(ほむらぞくせい)」のチカラだ。普通の火属性とは、違う。大精霊の言っていた『才能』らしい。焼きたいものだけ、焼く。その分威力も収束されるらしい。


 マナを燃焼させて、力に変える。それ自体は他の魔法と変わらない。

 しかし、違うのは、2人……1人と1精霊のマナが混ざっていて、それぞれが作用しあうという事。

 どう違うかといえば、俺のマナが燃えている状態で、大精霊のマナが膜を形成している、といった感じ。それが目に見えないレベルで俺の体の中に流れている。

 あとは、力を作用させる時に形にするだけ。本来の魔法ならもっと細かい計算が必要なのだそうだが、これは全く必要ない。


『俺が魔方陣』だから。


 マナを収束させて、拳の先に集める。その間にゴブリンが寄ってきて、俺を取り囲み、武器を振り上げる。敵の数、3匹。これくらいどうとでもなる。


 収束したマナを纏った拳を地面に突き立てる。

「――インフェルノ!――」

 直後、大爆発が起きる。


 爆風にのまれたゴブリン3匹は吹き飛ばされたようだ。よくもまぁ、こんな威力を出せたものだ。スラムに居た時にチンピラ相手に1度出しはしたが、あまり効果の確認をできはしなかった。

 威力はあったのだけは覚えてるけど。


「って、あちゃあ。なにこれ」

 見てるのはゴブリンだったもの。というか、ゴブリンだった、炭。ゴブ炭とでも言ってやろうか。現状、産廃だ。


 肌だった部分は黒くススけて、ボロボロになってる。背中の方まで、黒い炭になってるようだ。いったい、どんな高熱を受ければこうなる?ちょっと、これは現実味なさすぎるだろう。多分、バックドラフトみたいな、とんでもない現象だ。


「さすが、命を燃やすってだけはあるね」

 この力のリスク、命。


 マナと一緒に、自分の命自体を燃やす。力を使い続ければだんだんバテていくし体がダメージを負う、使いすぎれば死ぬ。ちょっとずつ使っても、寿命がその分短くなっていく……らしい。


「寿命なんて、あってないようなもんだと思うけどね。実際、前世の俺は寿命の途中で途切れてるんだから。死ぬような病気とかかかったらアウトだし」


――でも使いすぎて若いのにヨボヨボは勘弁してよね――

 それは俺も勘弁だ。ってか、そうなるのか?なんか違う気がする。確かそんな病気あったな。


「そういえば、氷とかはリスク減るんだっけ、そっち組み上げないとね」

――そうだったね、移動してる最中にやっとく――


 俺はまた移動を開始する。帰るまでにまた魔物が出てこなければいいのだけど。戻ってからも、やる事は沢山ある。


――――――――――――――――――――――――――――――――


 無事、暫定的な住処に戻ってきて、最初にやることといえば、あれだろう。俺はあの岩に近づく。


――なんで、ウサギ肉の塩漬けを気にしてんのよ――

「そりゃ、食いもの大事。食わなきゃ死んじゃう。以上」

――そりゃそうだけど……――


 どうやら、いい具合にパンチェッタみたいな硬さになったようだ。これをスライスして、紐に釣るし、火を起こして燻製にする。


「ちゃんとした燻製肉にはならないだろうけど、保存性が上がって食えるようになりゃマシだ。スープとかに付け込めるような感じとかでもいいかも」

――基本、あんた食べる事ばっか考えるよね――

「食は基本にして究極の娯楽。当然でしょう」


 さっきまでの緊張はどこへやら、と言わんばかりだが、無い訳じゃない。

「ついでにウサギの皮も燻製。確か、なめし方って原初の頃はこうだったとかなんとか」

――野生、早くも沁みついてきたね――


 不本意なのだが、こればかりは仕方あるまい。天日干しの方は、既に随分乾燥している。一応、そのまま食せるか試してみたが、まぁ、硬い。それにあまりうまくもなさそうだ。それでも仕方ない。


「ん?なんだこれ」

 ゴブリンが溶かされた後、何もなくなっていたはずの場所に何か落ちている。ちいさい袋だ。少々汚らしいが。

 拾ってみると金属音。中の物の予想がそれで何となくついた。


「金貨と銀貨、銅貨もあるか」

 スライムはこの袋を溶かさなかったらしい。


 そのスライムはといえば、ゴブリンが溶けきったあたりでポムとか音を立ててお饅頭みたいになり、動かなくなった。核みたいなものもある。

 大精霊曰く、一応これが、スライムの「進化」らしい。成長といった方がいいんじゃないか?とも思ったんだが、複数種類に変わるのだそうだ。

 それはともかく。

「金貨は別にしといて、これも持っていこう」

 金貨はポケットに、銀貨などはポーチに入れる。


 その後、いぶしたウサギの革をナイフや石で削り、内面をなるべく滑らかにする。洗っては乾燥を繰り返し、出来上がった革に干し肉を包み込む。


――もう日が暮れるよぉ、時間かかったね――

 俺の、というか、狼の足で走ってほぼ1日。途中休憩もはさんだが。

 それでも、人間の足で考えれば、ピンポイントで街からここまで来るのには1日じゃ足りない距離。実際、人間の最高速度は100m走のオリンピックメダリストで時速37kmだったか。

 時速60kmで移動できる大体の大型四足動物などに敵うはずがない。魔法で加速するとかされなければ、だけど。

 山狩りでもされれば包囲されるかもしれないが、人員的な無理もあるだろう。


「それじゃ、移動しよう」

――え、今から?――

 俺の考えに驚いてるようだが、理由はある。


 夜の間に移動すれば人間には出会わない。対して、ヘタに昼間に行動すれば、かち合うことにもなりかねない。

 つまり、夜のタイミングで相手の後ろを取れば、反対方向に逃げられる。また、どのあたりを探索しているのかも、夜や明け方の間に確認にまわれば、容易に分かる。


――ホントに?――

「どっちにしろ、夜の間動き回るやつだっているし、強敵がいない訳じゃ無いだろ?そしたらヒトは動かないよ、普通。

 目も耳も鼻も俺の方が上手なんだ。スキをぬっていけるはず。まぁ魔物は、今のところ、この森ではゴブリンかウサギ程度しか見ていない訳だけど」


 講釈をたれながら、準備を始める。手に入れたポーチに、食料と岩塩を入れる。準備なんてそれくらいだ。バナナは、まあ仕方ないだろう。他にもある訳だし。

 ここに戻って来た時には、実るくらいに育っていてほしい。


 夜、暗くなった森を走り始める。心もとない手持ちの道具と少しの食料、そしてなにより、心強い大精霊を連れて、俺は森の闇の中を走り始めた。


 この日から、俺の逃走の日常が、始まる。


 書き終わって気付いた。イグニッションってロボットゲームの主人公機の必殺技で言ってたセリフじゃん。これってダメなんかな?

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