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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
森の追跡者の輪舞曲
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5話 知らない街へ

前回のあらすじ:角付きウサギのレバーが美味い。ビール下さい。

 昨日のうちにとっておいたウサギ肉は、岩塩をがっつり削り潰してすり込み、ほし肉にしておいた。


 道具がないのでナイフでしか木を削れないが、魔法属性に溶かすものがあるので、適当な大きさの岩をくり抜くように溶かして洗い、その中に潰した岩塩とウサギ肉を入れた。

 これだけで一日かかった。


「って、普通に考えて、岩石を溶かすって発想が恐ろしいな……おかしいだろ」

 溶岩って、圧とか掛からないと溶けないんじゃなかったっけ?


――そう?普通でしょ――

 しれっと普通とか言っちゃってるけど、面白い具合に球状にも四角い形にもくりぬけるらしい。


 溶かす属性のクラフトマジックとか言うのだそうだ。細かいところは全部大精霊に任せるからいいとして、岩の中がドロドロになっても外側の器部分、全く熱くなっていない。

 ……熱伝導はどうなってるの?しっかり機能してくれ、化学反応。いや、これは力学の方か?


――こういうのが魔法でしょ?――

 いや、そうだろうけど……まぁ、お陰で、岩をくりぬいた、小さい樽みたいなものが出来上がるわけだし、良いと言えばいいのだが。

 混乱がすごい…………ああ、切り替えよう。


「とりあえず、塩漬けと天日干し、二つやってみるけど、どっちがうまくいくかね。天日干しかな」

――どうかなぁ?――

 かといって、塩漬けがうまくいかない訳じゃ無い。いわゆるベーコンだのは塩漬け後に燻製するわけだし。何事もチャレンジだ……食べれなくならない範囲で。


「さて、計画を次の段階に移行しよう。流石にナイフ1本では心許ない、というのが本音だ。

 いくら精霊の魔法があっても、できる事とできない事があるだろ?

 燻製の煙を延々停滞させるのに、結界使う必要もないし、木を加工するのに適した道具は欲しい」


――つまりは道具を作るか買うかするって事?どうやって――

「拾う、もあるだろ?」


 現状、ストリートチルドレンならぬフォレストチルドレン状態。


 このまま野生児を貫くのもいいが、どうせなら文明的なものを使って、いろいろ楽しまねば。

 それに、可能なら人との交流も持てるのならそれもいい。前世は極端にボッチな生活が長くて1人で生きるのがむしろ楽だとしか思わなかったんだが、ヒトとかかわるのが嫌な訳でもない。好きじゃないが、慣れた。


 ヒトの町に行くなら、山を下りて街道に沿って歩けばいい。そうすれば勝手にたどり着くだろう。ローマはないけど、そんな感じの街に続いていくはずだ。


 そんな事を思いながら歩いていると、そう時間かからず、草原と森の間に街道が見えてくる。

 近くに川も流れているようだ。馬車もよく通っているのか轍もある。ここひと月くらい雨が降って無いから、ぬかるんでいるということはない。


 そういえば、この世界。暦が地球のそれと異なる。深く考えるのが馬鹿らしい気もするのだが。地球と同じ回転を必ずしている、なんてことはないんだし、この世界のように1週間は6日、1か月は28日、1年は14ヶ月392日でもおかしくない訳だ。……どこからかおかしなものを見る目線を感じる。誰もいないのに。ついでに言えば、天体の回転する速度なんて、いちいち決めつけている方がおかしいのに。

 でも、きっといるんだよな。その辺が理解できないバカ。天体で全く同じ大きさ同じ回転軸なんて、そうあるわきゃ無い。そうなれば、1年も違って当然だろう。いや、1年って考えも正しいのかどうか?


 とりあえず、地面や川の乾き具合から見ても、直近は雨は降っていないのは間違いない。

 川の水跡でも大体予測はできる。随分水位は下がっているみたいだ。

 何しろ前世、山育ちだから、さんざん見てきた。天然の流れるプールあったんなら、遊ぶだけならそっちいくでしょ。


 下らない事を含め色々考えながら街道を4本足で歩く。2本足より楽だからだ。


 と、そんなときに向かう方向から行商人らしい幌馬車が近づいてきて通り過ぎる。

 すれ違いざまにちらりと見てみると、あからさまに嫌そうな顔で俺を見ている。


 ……個人の問題か、或いは社会的問題か。何かあるかもしれない。


――何かって具体的には?――

 俺の下らない考えには突っ込まなかったイフリータが聞き返してくる。その問いには、簡単だ。


「社会的な方なら、差別とか敵対とかだよ」


 友好的と言えないなら、今も後ろから誘拐されて檻に入れられる、なんてことにもなりかねない。それは勘弁だ。


――特に動きはないみたいだけど?――

「関わると面倒だから触らない。ってことも考えられるし、杞憂なのかもしれないし」


 気のせいだと思いたいが、何にしても情報がない。

 とりあえず、安全優先で森を通ることにする。どちらにしろ、街道は森の中に続いているようだし。少し離れているくらいなら、そうそう道を外れないだろう。


――――――――――――――――――――――――――――――――


 約1日歩いて、夜が近づく。さすがに歩き疲れた。


 塩漬けにしていた肉をお弁当として持ってきていたが、足りない。今焼いている肉が最後だ。いや、2食分しか持ってこなかったんだけど。

 カバンがないのが、やはりネックか。


――紐で腰に巻いてるってのもおかしいと思うけど――

 そんなこと言って笑う大精霊に、話題を変えて疑問をぶつける。


「そういえば思ったんだけど、基本の攻撃魔法って少なからず無駄があるんじゃない?」

――え?――

 意外そうな反応のイフリータさん。まあ、分からなくはないんだけど。


 実際、TRPGやコンシューマーのRPGやらに出てきそうななんちゃらボールとかアローとかあるわけだけど、要はボールを投げつけるような感じなのだ。

 よくよく考えたら、見え透いている。よほど早くなければかわされる。うまく当てる自信もあまりないし。

 しかも飛んでいくごとに威力が減衰しやすいらしい。

 全部がそうではないらしく離れたところから強力な一撃を発生させる、というのはあるが、中級者向け以上のモノ。しかも大爆発とか落雷とか竜巻とか被害がでかい奴だ。


 つまり、狩りには向かない。戦闘用だ。それで詠唱が必要だというんだから、実戦能力を少し疑う。映像としては、派手なんだろうけどね。


「だから、狩りに向くような使い方の技があるんなら、その方がいいんだよね。あと、護身用の戦闘能力は別で欲しいけど。なるべくスキのない奴や使いやすい奴」

――それは……うーん――


「困らせたくて言ってるんじゃない。ただ、狩りでは下手なところに当てて肉が硬くなっても嫌なんだ。痛みとかを感じると肉が固くなりやすいっていうから、それを感じさせないよう脳天や神経を一撃で、って感じ。出来ないかな?」


 たしか前世では、と畜場のオッサンが言ってたんだったか。牛を気絶できないと硬くなる、とか。一族の奴もそう言ってる奴はいたし。ホントかどうか知らんけど。


――えぇー……――

「護身用の方は、出来れば格闘に付随する形のものがあるといい。なければ仕方ないけどね。ちょっと無理難題だったかな?」


 悩み込んだ大精霊。反応が薄くなる。その間に肉を食い終わる。日もとっぷりと沈んだ。

 これから夜の時間帯だから、またぞろ魔物とか出てくるんだろうか?来るならウサギとか来い。喰えるやつ、かつ、倒せるやつ。


――あ、こういうのはできるかも――

 流石、大精霊。何か思いついたようだ。俺の要望どちらにもこたえられる方法があるらしい。


 それは、

――アタシとアンタのマナを混ぜちゃえば、自由度が上がって自在に使えるようになるよ。いくらかはリスクあるし、アンタに刻印することになるけど、良い?――


「……刻印?なんすか、腕のどこかに焼き印ができてその焼き印の数分だけ技が増えるとかですか?どっかの漫画の主人公?呪われた右腕があ!的な?」

 烈火なやつと典型例を思い出す。


――違う。あんたの体じゃなくて、魂の方に刻印されるの。あんた自体が魔方陣で、混ざったマナが魔法に直接変わる、って感じ――

 手を合わせるだけで錬成できちゃう的な感じですかね。あとは、そのリスクを理解せねばだけど……?


――リスク以前にあんたがマナのコントロールをうまくできなければどうしようもないからね。練習してて。その間に刻印するから。あと、できれば一番高いリスクの術式は使わないようにしてね――


 最後の一言が気になるけど、まぁ、今は流れるマナのコントロールの練習をしときましょう。


 翌朝、練習に疲れて眠ってしまった俺は、起きてすぐに街へ向かった。その間もちょっとづつコントロールの練習をしながら。

 少しづつ、掴めてきているかもしれない。そんな確信が芽生え始めていた。そんな折に、街らしき場所が見えてきた。


 城壁で囲まれている。少し高台で様子見をしよう。

「どうやら、ゴミ捨て場があってそれを囲むようにスラムができてるみたいだね」


 壁の上から物を捨ててるヒトらしきものが動き、大小関係なく下に落としている。ゴミ捨て場らしい場所にある物は落としたままって感じじゃないから、誰かが均しているんだろう。


――よく見えるわねぇ――

「まぁ、視力2はありますし。前世と同じ感覚でよかった。とにかく、行く場所は決まったな。ゴミ捨て場だ」


――――――――――――――――――――――――――――――――


 門前まで来た。といっても、茂みに隠れている。ここを通らないとゴミ捨て場へ向かえない。


「スンスン……門前、ヒト……昨日の行商人の感覚から、並人って言えばいいのか?が25人、違う感じのにおい2系統。いや、新しいのが入って3系統か。見た目、小人?が1人、エルフが2人。新しいのは、……正確な数は判らないけど15人くらいか」


――何やってんのよ。ていうか、どんだけ数えられるの、においだけで?どうなってんのよ、アンタの鼻は――

 どうなってるって、見た通りっていうか言った通りですが、何か問題でも?


 むしろ、

「問題なのは新しいにおいが、確実に馬車に乗せられているものなんだが、そこから鉄と血のにおいがするってことだ……」

――教えて、その違いって何?――

 ……全然違うよね、鉄と血って?血といえばとても香しくて、恍惚としてしま……あれ、俺、何言ってんだろう?いつから俺、狂人になったんだろう?違うよね。狼だから、きっと狼だからだ。そう、キットソウ。


「とにかく、においの感じが少し獣っぽい。でも、普通の獣とは違うみたいだ。多分獣人。成人男性らしいにおいはないから、恐らく……」


 予想しているときにチラリとその馬車が中に入っていく様子が見える。

 馬車の上の布のかかった檻の中、薄汚いボロキレを着て、手かせと赤い首輪。


 ずいぶんおしゃれなファッションだ事で。とてもじゃないけど、俺には手が出せない。しかも赤い首輪は、妙だ。魔術でもかかっているんだろうか?もしかして外すとドカンッ、とか?


――なるほどねぇ、ヤバそうだねぇ――

 当たらなくていい予想です、ハイ。でも、こういう事をするのがニンゲンだ。人権とかは歴史でも近代の半ば以降にならないと発生しない。全ての人間が生きていていい社会じゃない、という訳だ。


――で、どうするの?――

 幻術とかできるなら、かけてほしいけどね。あとは、ハイドアンドシークだろ。

――幻術あまり得意じゃないのよねぇ。やり方は知ってるけど――


 精霊にも得手不得手があるんだ。とりあえず、それは自分が覚える事として、今はこそこそ動き回る方向で行くしかないか。

 ヒトの多い門前は避けて、少し離れたところから横切っていくしかない。


――慎重だねぇ、ていうより、ビビり?――

 肉食でも草食でも、野生動物は慎重で臆病なものですよ。

 無意味に大胆にしていられるのは、外敵のいない奴だけ。敵ができた瞬間にはそういうヤツは絶滅の一途をたどるものさ。


――その割には体真っ白なんだよねぇ――

 ……これは生まれつきだ。仕方ないだろう。というか、俺に宿った影響か、口調が随分とカルいよな。

 確か、宿った精霊は宿し主に影響を受けるんだったよな。前は何に宿ってたのやら?

――前の宿り主なら、ヤマネコだよー。動物のほうのね――

 ヤマネコ……動物って。いや、人間しか宿せないとか考えるのは間違っているのか。それこそ自己中心的な発想なんだろう。……でも、猫の次に狼ですか、イフリータさんや。俺としては犬の方が好みなんだが。猫が嫌いなわけじゃないけど。


 コソコソ歩きながら、思考で大精霊と話をしながら警戒しつつ進む。

 目的の場所に行った時に起きるハプニングの為に、避難経路などを考えながら。

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