1話 勇者召喚?
前回:――水より、ミミズが欲しい、日本人?物好きだねぇ――
――大阪市難波から、道頓堀の方向へと歩いていく1人の学生。イガラシ ユウタ。夏休みの塾の講習をさぼってきたはいいけど、目当てのものが見つからず、あちこちさまよった挙句諦めたところだ。
「まったく!なんなんだよぉおう!どうしてスターフォースどこにもないんだよ!ありえないだろ、うぜええ」
目当てにしていた新作の映画のBDが今日発売だったのに。どこに行っても何度見に行ってもどこにもない。全部売り切れ。
どうして昼とかに入荷しないかな?コンビニとか夕方に入荷するんだから、同じように入荷しろよな?普通するだろ!ネットで買い物禁止されてるぼくの事を考えろよな!
ぼくは自販機でミックスジュースを買って、一気に飲み干す。そして、最近やっていたゲームを取り出して再開させる。
「ああ!データ飛んでる。なんで?ありえねえ!……ああ、なんで?なんとかアイテム増やしたのにそれが一気になくなるの?」
……セーブをし忘れたような気がするけど、気のせいだ。してないはずがないんだ。ゲームを再開して進めながら、歩く。もう暗くなる時間だけど、この辺りはさすがに暗いっていう事はない。引っ越してきてからもう3年経って、関西弁話すのは慣れないけど、それでも生活には慣れてた。
父親は外資系の会社に勤めていたけど、転勤を繰り返すのが当たり前になっていて、3年前に話し合いの結果、爺ちゃんたちと大阪の一角で暮らすことになって、父親は単身赴任。今もどこかで働いているんだろう。金融関係だって言っても、話を聞いてみてもいまいちわからなくて理解していない。どっちにしても、あまり家にいないやつだ。
母親は、父親がいないことをいいことに浮気している。爺ちゃんたちには気づかれていないみたいだけど、ほとんど毎日遊んでいるみたいだ。本人はぼくにも気づかれていないと思ってるみたいだけど、あそこまであからさまな発言を壁越しに聴いていて知らないわけがない。
爺ちゃんたちは1日中どっかに年寄りで集まって遊んでいる。
真面目に働いている父親がなんかかわいそうに思えるかもしれないけど、そうでもない。1回だけ会いに行ってみた時に、若い女の人とホテルから出てきたのを見た。
家族全員遊び人かよ。まともなジョブにつけよお前らって感じだよ。
学校もクソばっかだ。バカで暴れるしか能のない不良がカースト上位占めてるなんて普通だろうけど、そんな奴に媚び売って生きるぼくの気にもなれよ。周りを気にして空気読んでやっても、理解しないくせに。
「あー、どっか別のせかぃい……うわああ!」
道頓堀の橋を渡っていたところで、蓋の空いたマンホールに足を突っ込んで落ちたらしい。
暗い中を落ちていって、強く体を打った。落ちた時にゲーム機を落としたみたいだ。どこに行ったのかな?
……その時、少しだけ明るくなり始めた……月明かり?部屋の常夜灯より少しくらい明かりが、森の切れ目から少し刺した。
「……森?……あれ、ここ大阪、だよね?マンホールの中だよね?森ってあんなところにないよね?もっと郊外に行けばあるかもしれないけど、何ココ?」
見渡してみても、ただ森が広がっている。どれだけ続いているのかわからないけど、少なくとも見える位置に明かりがない。あるのは月明かりと……白くなり始めた、東の空。
ありえないだろ嘘だろ何なんだよこれこわいよう大体マンホールに落ちてそれがいきなり森とか別の世界に来たみたいなことって聞いたことないようかえりたいようあるのはホントか漫画にある奴ぐらいだろでもそんなこと普通ないよなありえないだろ絶対でも見えてるのは森だし朝日だしさっき夕日沈むの見てたし時間たってないしありえないだろそれじゃなんだよこれマジでファンタジーかよ違う世界に来たみたいじゃないかトンネルじゃなくてマンホール潜ったら異世界にきたとか異世界転生とか勇者召喚とか……
召喚?
「ウソだろ?これって、まさか……
――異世界召喚ってヤツ?勇者召喚?!……ぼく、勇者!やったあああああ!」
誰もいない森の中で一人、僕の声は響き渡った。伝説を作るこの世界の一言目だ、きっと。だってそうじゃなきゃ……
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それから周りを捜し回って歩いてみたけど何もない。人も物も、街も。
「なんで1時間くらい歩いて、誰も見当たらないんだよ。ありえないだろ。こういうの普通、城で行われるものだろ?そうでなきゃ、町中に落とせよ。何なんだよ、召喚した奴は。召喚じゃなかったら、転生の奴か?ぼく死んでないけど……」
声とか聞こえなかったし。普通、「あなたの願叶えましょう」的な発言と一緒に、チートスキルもらって異世界に来るものじゃないのか?なんかそういうヤツのパロディで、何ももらえないままだったり要らない能力とかだったり、すっごく痛い思いして時間巻き戻ったりするのもあるけど。
「ってまさか、そういうやつじゃないよね?死に戻りは嫌だな……セーブポイントがどこかも分からないし。そのまえにここどこだよおおおう!」
できれば最強チート来い!って思いながら歩いていたんだけど、チートは特にわからないままだった。でも、何かあるはず。そうじゃなきゃ、ありえない。
期待しながら1時間くらい歩いて森をさまよっていると、小屋が見つかった。人のいそうな感じがする。気配?今まで大阪で暮らしてる間は人が多すぎてわからなかったけど、近くに人がいなくなると案外わかるのかな。っていうか普通に音してる。
「あの、すいません。ここってどのあたりですか?」
とりあえず、迷子になったふりでもしていれば怪しまれないはず、そう思いながらしゃべりつつドアを開けたんだけど、それが間違いだった。ノックをするっていう常識忘れてた。
『ア……バオアク!』
『イビニギリギ グルゲン!イーワ!』
『ビリュアア!』
3人の女性が着替え中だなんて思ってもみなかった。しかも下着まで脱いで。最後に声を上げた人が一番ヤバい。
ナイフを掴んで、
『イップリャー!』
投げてきた!
「ヒ、ヒイイイイ!ゴメンなささあああいいいいいい!」
すぐにドアを閉めて、逃げた。木の陰に隠れて様子をうかがっていると、慌てた感じで着るものを着た女の人たちが出てきて、凄い形相で探している。これは謝った方が……
『ギップラー!』
ナイフを投げてきた人の声の後に、悲鳴?が聞こえてきた。ウサギみたいなものを殺したみたいだ。完全にアブナイ人じゃん。ヤンでるのか?話しかけても通じないんじゃ、どうにもならないだろ。これじゃ、どうすればいいの?あの人たちがぼくを召喚したんじゃないのかな?って言うか何語?言語変換普通するでしょ、普通。読めないは定番だけど、しゃべれないんじゃどうやって生活していけっていうんだよ。ありえないだろ。
そのうち諦めたのか、もう一度小屋の中にさっきの人たちは入ってった。何とか生き残れた、って感じかな。あの人たち、なんだったの。1人は虫みたいな羽生えてた?……もう一度行ったら殺されそう…………さっさと離れよう。
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それからずっと歩いてみたけど、何も見つからない。水さえ、ない。一度川を見つけたけど、崖の下で流ていて、降りる道もなかった。高さ100mくらいあるだろ、あれ。途中崖崩れしてるところもあるし、危ないし。落ちたらどうするんだよう。
2日たってお腹の空き方がヤバくなってきた。それに、喉が渇いて死にそう。もう、ぼく死ぬのかもしれない。ようやく街道のような土の道に出た。ちょっと泥が跳ねているっぽい轍がある。いつ雨が降ったのかわからないけど。街道沿いに歩いたけど、何も見つからない。だんだん、立ってるのも辛くなってきた。誰かこい、町見つかれ、何か落ちててくれ、普通あるだろ、何万キロも歩いたんだから……?
3日目。もう、うんざりだあったかい布団で寝たいテレビ見たい携帯も繋がらないしおかし食べたいこわいコーラ飲みたい読んでたマンガ発売日じゃん続きどうなったんだタカシがなんか海外行くとか言ってたけどぼくもこっちよりそういうとこが良かったかえりたいありえないだろこれにほんじんはどっかにいるかもしれないから助けてもらえるかもしれないじゃんなんでどこかへ行きたいなんて思ったんだよぼくそれなら京都行けってのああはやくかえりたい。
――召喚した奴、どこ行ったんだよ。何を考えているんだよ。失敗とか思ってんのかよ。
みず、いまはまず、みず……
「み……みず……」
「はい、ミミズ。ナンでこんなん欲しいのか知らんケド、釣り餌ならこれはアマり使えないよ?この辺りの魚はグルメだから、ミミズは嫌いなんだとサ。手ヅカミは案外いけるらしいヨ?」
突然、白い手が俺の手の上に何か乗せた。いつの間にかはいつくばって進んでいたみたいだ。ずっと歩いていたからしょうが……手の上にあるこれって、ミミズ?
「はひゃあああぁぁぁああああぁぁぁああぁあ?!」
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「デ、現在に至る。ナルホド。ハッピーエンドですネわかります」
僕の前の犬?のヤツ、多分僕と同じくらいの年だろうけど、変な鎧を着て腰にサーベルさして革を巻いてる。
「聞いてた?どう考えたらハッピーエンドなんだよう!ありえないよ!おかしいだろそもそも召喚したのに誰も出てこないし森の中だし訳が分からないしラッキースケベはいいけどナイフ投げられると思ってないしその後誰もあってないし道もずっと森の中だしようやく森から出てきたと思ったら草原と荒野が広がってるし脈絡もなにもあったもんじゃないじゃないか!」
「ウン、気が済んダ?」
馬車の中に移動して、今までの経緯を話していたのに、聞いているんだかいないんだか。揺れる馬車の中でのんきにお茶をすすってる。
そもそもなんでこいつだけ、俺の言葉が分かるんだ?他の奴は、「ウンベラ」とか「ガルヴェス」とか「ララア」とか「ヴァンチー」とか、良く分からない事言ってるのに。しかもちょいちょいこいつ、それに応えてる。
「お前、なんなんだよ。犬なのn……」
「ガブリ」
カオニ カミツカレタ
「あびゃあああああいだいだいいあああああ!」
顔はやめて!痛い怖いちょっと臭い!喉の奥が目の前にあるのに、手で離そうとしても離れない!少しして、離したと思ったら話し始めた。
「ケッ!犬じゃねえって言ったろう、アフォガキ。俺はヴァン。狼の獣人で、元日本人の転生者だ。前世の記憶の中に日本語も混じっていタから、この世界の共用語以外にも喋れるンダ。代わりに使っていなかったカラ、チョイ片言になってイルだろうけどな?」
確かに発言がちょっとおかしい。それになんでこいつだけ?どういうこと?意味わからない。
「一応言ってオク。死んで生まれ変わっタ俺は、胎児の頃から意識がアッタ。何故かは知らない。その頃カラちょっとづつ言葉を聞いていたから、理解し始めテ、普通に子供として生活する頃には、同い年で一番喋るcryになってイタノダ。
つまり、普通に言葉を覚えたに過ぎないかラ、これは言語変換とかではないのダヨ」
なんか英語っぽい話し方入った気がするけど気のせいだよな。こいつ日本人だよな?あー、元日本人か。それで喋れたんだ。
「じゃあ、お前は俺を召喚した奴は知らない?そいつの所に案内してくれよう」
そしたら、そいつと話をして、何とかすればきっと……
「いない」
「は?」
今なんて言った?
「いないと言っタンダ。
この世界に『転生者』と異世界カラ紛れ込む『放浪者』はイルけど、『勇者召喚』は存在しない。
なお、魔王は普通に、国の王とシテ存在しており、先月隣国の皇帝と謁見して、何かの話を内密にしていたソウだ。話の内容は何なのかはワカらないけド、それがちょっと……」
「ちょちょ、ちょまてよ。どどど、どいうことなねかせる……」
「慌てスギ、噛みスギ、混乱しスギ。とりあえず、前世とイウカ、現実に有った異世界知識から離れることをお勧めスル。そもそもあの手のモノは作者によるファンタジーなんだから、いくらデモいじれるし妄想できルンダ。
妄想と現実とは違う。それが現実。勇者はイナイし、魔王は敵じゃナイ。戦争にでもなれば敵にナルけど、そうじゃないなら手出シ無用」
混乱するぼくを無視してて、まったりした顔でお茶をまたすすった。なんでこいつ、こんなに落ち着いていられるんだ?だいたい……
『アゴガア、ヌゲダカラダスゲテ』
なんか御者台が騒がしい。何を叫んだんだろう。いきなり馬車が止まって犬が立ち上がった。
「アア、ちょっとお死事してくる。大丈夫。ゴブリンが20匹徒党を組んデ、襲って来ただけだカラ」
「大丈夫じゃねええええええええ!ちょ、たすけてえええブリャアア!」
怖くなって抱きついたら、殴られた。なんで?
「助ケルのはお前だけジャないシ、助けるカラ逝ってくるッテんだ。戦うヤツの脚モトイ腕引っ張るな?」
そう言って、彼は馬車の外に飛び出したとたんに、外で一気に爆発音と騒がしい声が聞こえたと思ったら、デカい音と一緒にキノコ雲が上がっていった。
「……チートだ」
それ以外に、何言えってんだよアイツに。あいつ転生したんだったら、チート持ってるって事だろ。そのチート能力か。
チートすげえ…………
「タダイマ」
帰ってくるまで、20秒くらいじゃなかった?嘘でしょ?わらってるし。何このイヌ。オカシインダケド。
――そもそも、ユーシャってなによ?――
魔王の軍勢に少数人数で立ち向かう、勇敢なヒト?
――ふーん、少数で?何十万と要る軍隊に?……要するに、ただのバカじゃん――
ファンタジーのど真ん中が、定番を否定しないで!




