4話 できるもん?
前回のあらすじ:スライムとゴブリンにあった。何でかバナナもあった。
3話編集し直しました。
「オロロロロロ…………オッフ、オロロ……」
――だからやめときなさい、って言ったのに――
ただいま大絶賛吐き戻し中、ゴブリン肉を。
せっかくだから食べてみようって事でチャレンジしたけど、さばいてる時からしていたおかしな臭いで気付くべきだったのかもしれない。
いや、ゲテ食が美味いのはセオリーなんて考えちゃダメだった。虫とかで調子乗ってた。
「それでも、狩った……いの、オロロロ……」
――喋るか吐くかどっちかにしなさい……――
それから一頻り俺は胃の中身を吐き続けた。ゴブリンを焼いていた時食ってたヘビやらなんやらも出ちゃったよ。
「しかし、なんだあの肉は。食感は砂っぽいような泥っぽいような、味はヘドロ味。においは完全に火葬場のにおいだったぞ」
少し経ってから、俺は今の今まで吐き戻していたものの感想、というか愚痴をこぼしてみる。
――むしろそんなのを食べる勇気がすごいわ――
「……大精霊にホメラレタ」
――バカにしてんのよ――
なんだかんだで大精霊、怒ってはいないみたい。ていうか、楽しんでない?
「そんな茶番は置いといて、こいつらはスライムにでも食わせとけばいいかね。ちょうどよく処理してくれそう」
スライムとゴブリンの亡骸を交互に見て、考えを口にする。
考えてることは大精霊に伝わるけど、数年後こんな状況で言葉を忘れましたなんてことになってもしょうがないから、話している。まぁ、そうそうないだろうけどね。
――あんたも懲りないねぇ、なんでそんな考えになるの?――
「そりゃ、有機物なら何でも処理してくれそうだからさ……あれ、これって、いわゆる死体処理?」
――そりゃぁ……って何想像してるの……――
大精霊、変なもの想像してゴメン。しかし、裏の社会のヒトとかにはいい相棒ってことになりそうだ。怖い怖い。
――あんたも大概でしょ。よく1人で戦えたね――
そのあたりについては、簡単……には説明できないか。狩りのやり方を教えられていた事と、前世でキックボクシングをやっていたことが原因だろう。
で、キックボクシングがなんで関係するかについて。護身を兼ねた趣味としてやっていた。
その練習の時に、相手の攻撃に対し、無意識というか、自然にかわしながら殴り返すことがよくあったのだ。プロでもあまりない、ナチュラルカウンターとかいうものだったか。
気が付いたときには、殴る寸前、或いは殴った後だったりする。なので、自分でもひやひやすることはあった。当てちゃいけないマススパーの最中とか。
しかもなぜか、普通に攻撃するよりよく当たる。狙った攻撃が1回も当たらない人にも、ほとんど当たる。何故かは全く分からないけど。
ちなみに、護身を兼ねていたことについては意味もなくケンカを売られるから、だったりする。顔が怖いからって、殴りかかられても困るし、意味が解らない。
――うん、全然判んない――
「はあ……いつもそう言われた。剣は狩りでのやり方の一環だったか。気が付かない間に、戦闘民族の血がしっかり機能していたらしい。
なんか、動きも軽いし、動体視力上がってるのもあって、動きがよく見えたし。犬の動体視力はヒトの4倍だったか?犬じゃないけど」
気が付けば空も赤く染まり始めている。そろそろ頃合いか。
「ともかく、バナナ食って今日はもう寝る。それがいい」
そう言いながら、スライムにゴブリンの亡骸を食わせる。流石に3匹もいたら、スライムもすぐには喰いきれないようだ。グロテスクな状態になり始めたので、さっさと洞窟に戻って……られなかった。
「来た」
――来た――
大精霊と俺が同時に存在に気付いて声が重なり、振り向いた。
焦りと緊張で高まりながら、すぐさま足元にあったショートソードを拾い上げる。
向いている方の茂みの中から、赤い目で白い毛並みのウサギが現れて、走り俺の胸に飛び込んで……
「キィー」
胸をショートソードで一突き、それだけで絶命する。普通のウサギはおろか、野生動物も自らヒトに近寄るはずもない。それにこれはツノ付きだ。魔物か?その割に弱いけど。
――次来てる!――
うん、気付いてる。というか、目に入ってる。
左右同時に、足と胸を狙って来てる。サイドにかわせばよけられれるが、後ろにも2匹。計画的ですね。動いた先を狙うんですか、狼ですか?
半歩引いて左の胸狙いのウサギに噛みつき、足狙いは踏みつける。その後ろにいたやつが飛んだ時には角をかわして頭をつかめる位置に手を置き、噛まれないように鷲掴み。もう一匹は、ショートソードで頭ごと貫く。
……最後の奴の角が、先に刺さってた奴の体を通り抜けて手に刺さる寸前にまで迫ってた。
危なかった……つかんでる奴と踏んでる奴も気絶させて、しめておこう。流石に焦ったし驚いた。
けど、
「何とかやれたね。というか、いきなり魔物に出会いすぎなんだけど。普通、狩りなら獲物探すのに滅茶苦茶時間かかるはずだけどね。これ、偶然?」
――この辺りは、こいつら結構多いのかもね――
ウサギは南国のイメージ無いのに。ここ、雰囲気からしても、バナナがあることからしても熱帯か亜熱帯だろう。
「何はともあれ、これで当面の食料確保完了、って事でいいかもね。ウサギなら食べられるだろうし、さばき方は判るし」
だいたい基本は同じだと思う。個体ごとに違いがあるとはいえ、動物は動物だ。魔物は判らないけど、さっきからスライムが溶かしていたゴブリンの内部が見える。やはり、ほとんど同じだ。
仕組みが違うのは、アンデッドやキメラなんかの、普通の動物っぽくない奴だろう。そうなれば、やることは分かっている。
「周囲確認よろしくー」
――はいはぁい――
精霊がいるって本当に楽だ。それはともかく。
まず全員の頭を叩いて気絶させる。或いは、死なせる。牛肉とかを処理するときに、ノッキングとかいって脳みそを叩き気絶、あるいは叩き潰すらしい。生きてる時には必要だ。が、これは既にやってる。
それから血抜き。この時に胃の内容物が肉にかかると劣化することがあるので首は全部は切り落とさない。動脈だけ。
それから、体を洗って皮をはぐ。脂肪がある時にはそれもうまくはぐのがベターだったか。
ここで、必要なら首を落とす。いや、必要だろ。多分。
そして腹を肛門から胸までさばいて中身を落とす。中身を切らないように。排せつ物がかかると以下略。
あとは取り出したモツやレバーなどと一緒に川で洗い、肉を水に浸して熟成……
「まて、スライムがいる事忘れてた!こいつに食われても敵わん、やっちゃってください、イフリータさん!」
一族から教わっていたことを思い出しさばいていた時に、忘れていた存在を思い出した。スライムを指さし、俺は叫ぶ。
――はぁ、ゴブリンの死体まだ残ってるよ?どうする?――
「あ、じゃぁそれが処理された後にしましょうかね。あんなんが腐られても困るだけだし。というか、病気になること確定してるし」
――なら、食べるのもやめとけばよかったじゃない――
「さて、記憶にございませんねぇ?」
――ウソは言わない――
……冗談すよ、冗談。とりあえず、今の内にウサギ肉を洗っておく。レバーとかは充分血抜きした後、焼いて食べよう。少し、時間はかかるが。
「氷も出せれば楽なんだけどなぁ……そしたら肉も」
――え?出せるよ?――
大精霊の意外な声で、俺の手が止まる。
「……え、氷って、どっちかっていうと水魔法じゃなかったっけ?お父様がそんなことおっしゃっておりましたが?」
――水の属性に火のマナを加えると、逆転して氷になっちゃうんだけど――
「逆転、ですか。なんか一瞬、『うりいいぃぃ!無駄無駄ぁ!』って叫ぶヒトが気化熱で人体を凍らせるイメージが湧いたんだけど、そういう感じなのかな……」
某有名漫画。流行ったころから随分遅れて読んだから、バカにされたっけ。とりあえず、作業再開する。
――全然違う。火は熱があるでしょ?熱を扱うってことは、与えるのはもちろん、奪うのも含まれるわけ。つまり――
「温度操作。温度を自分の到達させたいところまで上げたり下げたりできる、ということか。
地面であれば、ガラスや溶岩なんかも作ることが可能になる、ともいえるね」
――正解。それは溶属性だね。ちなみに風の場合は、エネルギーの面が強く出て、カミナリになっちゃうから、気を付けて――
レバーやモツやらの処理は終わった。血はすべて洗い流して、スライムに食べられないように注意しながら水に浸す。
「て、カミナリも出せるんですか、大精霊さん!RPG初期属性コンプリートまっしぐらじゃないですか!ソナタは火属性ではなかったのでありませぬか!」
――なに、その硬い喋り方。キモチワルーイ――
畏まられるのは嫌いなイフリータさん、カシコマリー。
「そしたら、覚えられる魔法の方面がずいぶんいろいろあるわけだ。確か、基本は4大属性でよかったよね?」
――そ、大精霊になったらその属性のマナに関する他の属性の副属性が使えるようになるの――
なんだ、このご都合主義的な……まぁ、使えるものは何でも使おう。立ってる者は親でも、だ。
「とりあえず、この肉のまわり、ドーム状に氷で囲いたいんだけどいい?ちょっとだけ、穴開けておきたいけど、スライムは入るんかね?」
――結界使えば入れなくなるよ?――
……その手があったか。ていうか、あるのか。使えるのか。思わず眼が真ん丸になってしまった。
今食べる分の肉だけ残し、大精霊に結界をかけてもらう。食べないのは少し硬くなってしまった肉。
解体前に痛みやストレスを感じると肉が固くなるらしい。なので、なるべく脳天を一撃でつぶさないといけないだろう。
そしたら、血抜きに問題出そうだけど。ジビエなんかが固い肉になりやすいって言われるのはこれが理由の1つじゃないかね。
あと、レバーは今夜のメインディッシュだ。なにしろ、この世界に来てから一度も食べていない。もともとそんなに好きって訳でもないが、一族の掟で「偉い奴、倒した奴」優先で食べるものだから、ほとんどは大人が食べてしまうことになる。まぁ、狼ですし?
「あとは、岩塩岩塩……」
――掘って出てくる?――
ひとしきり掘ったが、出ては来なかった。明日探してみよう。さて、どこにあるのやら。
――あっち――
俺の考えに、素早く答えを出すイフリータさん、出来る子。というか、出来すぎな子!
大精霊に示された方角は、崖の反対側。登って見てみると、グランドキャニオンかって感じの荒野が広がっている。なんでだ?
――精霊に影響されて地形が変わること、よくあるんだよ――
……某、PCでやるブロック遊びタイプRPG?に似た世界なのか、ここは。
というか、精霊の影響出すぎじゃないのか?何をしたらこうなる?
とりあえず、暗くなる前にちょっとだけ探してみることにする。
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「あー、大精霊さん。足元照らさなくても、大丈夫だよ?」
結果、岩塩はそこら中に転がっていた。それはもう、色とりどりの。白はもちろん、青やら赤やら、茶色、黒……拾うのは白だけでいいだろ、うん。
しかし、拾ってくるだけで、暗くなってしまった。それで、大精霊が足元を明るくして入るんだけど、夜目効くのでぶっちゃけ、必要ない。今日は月も出てるし。
――あんたさ、大精霊ってやめてくれる?――
「お?名前呼びの方がよかった?」
――当然でしょ、さっきもしれっと呼んでたし――
よく考えれば、他にも大精霊はいるのだから、当然かもしれない。そうであるのなら
「ほんじゃ、イフリータさん。これからよろしく!」
――ホントに大丈夫なのかなぁ、この子で――
イフリータさん思ってもないことを言う。ウソはダメですよ?
俺は洞窟に戻って、塩をいくらか削り、肉にまぶして焼いた。焼き方は、
――石で焼くの?嘘でしょ?――
「いや、充分に熱すれば鉄板の代わりになるし、川でしっかり洗ったから大丈夫でしょ」
その日の夜、初めての調理はレバーの石焼だった。
ちょっと特殊だな。ごま油とか薬味があれば最高だったんだけど、しかたない。取れたて新鮮だから薄くスライスして塩だけで。一番シンプル。でも、これ以上ない贅沢だ。
「ぬあぁ!ビール欲しい!」
――あんたまだ子供でしょ?オヤジくさぁ……――
1人での晩餐は、少しの間続いた。
ゴブリンやヘビは料理にカウントしないそうです。