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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
森の追跡者の輪舞曲
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3話 会敵

前回のあらすじ:捨てられて、虫食った。いろいろ割り切りすぎ


編集をアップしたときに接続不良でおかしなところで止まり予約もキャンセルされていたようです。申し訳ありません。

 へびの頭を吐き出して、さばき始めながら考える。


 あまりにも自然に、あまりにも当たり前のように、威嚇するヘビの頭に噛みついていた。思考する前に。

 毒があったらどうするのか、って思うけれど、においもしなければ毒袋もなさそうだ。牙も毒を流す穴とか見当たらない。

 そう言えば、前世で飼ってた猟犬の血が入った雑種の犬も、同じことしていたな。あいつのせいで、近隣のヘビが全滅したんだとか言われた、そんな覚えがある。


――その前に、なんでさばいてるの?――

「ん?そりゃ、食べるためでしょ。食えるものは何でも喰う」


 群れで散々狩りの仕方とか教えられていたし、見せられていた。ある程度は見様見真似になるけど、できなくはない。さばいたヘビを焼いて食えば、虫よりはましだ。……はて、どこからか、どっちもどっちと言われた気がする。精霊様でもなさそうな?気にしたら負けか。


「そういえば、火をおこしたいんだけど、魔法でできる?」

 それから、魔法についての簡単なレクチャーが始まった。やはり精霊だし、魔法とか知ってるみたいだ。

 なんというか、ゲーム感覚になりそうだと思ったけど……


「ライター……」

 そうつぶやいた俺の指先……爪の先か。そこからマッチみたいな火が出る、らしいことを言われてやっている。

 体の中のマナが燃料なので、爪の先にマナを集中させている。確かに出てる、ライターみたいな火が。出てる火柱はどう考えても改造ライターの大きさだけど。


 ……てか、名前。なめてるんですか?ふざけてるんですか?


――え?3000年前からこれらしいけど、おかしい?――

「そんな昔からなのか……」


 これは生活魔法とか言って、ほぼ全ての、魔法に適性のない人でも大体は使えるらしいもの。それでも使えない人も中にはいるそうだが、精霊と共に生きる俺の種族は大体適性が高いらしい。

 ……ああ、フェンリルの戦士とかって言われる、精霊宿して鍛えたヤツがいたっけ。どこの戦闘民族ですか、って動きする人たち。さすがに空は飛ばないけど……そうか、俺も戦闘民族か。萎える。あくまで平和に生きたいのだが……


「とりあえず、火は付いたし……蔓でも集めよう」

 洞窟のそば、水の流れてる側とは逆の位置で焚火を起こしてから、腰を上げる。


――なんでよ。魔法の練習は?――

「同時進行。やるべきことが多くある。ゆっくり勉強だけしていればいい日本のお子様とは違うんだ。……あっちはあっちで覚える量がまた多いんだけどね」


 狩りもある、道具作りもある、その上での魔法の習得。現在攻撃用魔法は習得していない。体の大きさやらも加味したら戦闘より逃げるのを優先していいくらいだ。道具作りにも時間はかかる。


 切り取った蔓を水に浸す。この種類は皮が固く水につけるとほぐれるらしい事を一族のヒトから聞いた。

 それをたたいて皮をはぎ、繊維をほぐし、ねじり上げる。その合間にも大精霊の授業は続く。

 一応、定番っぽく「ファイヤーボール」とかなんちゃらアローとかはできるらしい。初級攻撃魔法の1つのようだ。

 ねじっていたモノを置いて、ちょっとやってみる。詠唱が必要らしい。


「我がマナを糧とし集まり燃え上がれ、ファイヤーボール?」

――そそ、そんな感じ――


 なぜか、自分の中に流れるマナの存在がわかる。群れの人に聞いてた限り、大体の人がわかるようだったし、わからない人は “戦士” ではなかったみたいだから、この辺が適正なのかもしれない。


 んで、掌を空間が開けている方に向けて詠唱してみるが、ピンポン玉くらいの火の玉が掌にできて、飛んでいかずに足元に落ちた。そしてそのまま爆発。


「うあ!…………おい、今爆発したよな」

――したよー?――


 したはずの爆発はあっという間に消えた。そんなにまで威力なかったということか。

――威力はあったんだよー?あたしが吸っただけ――

 ……爆発、って吸えるものなのか?


 そんな茶番をしていたお陰で被害は出ているようだが。足元にあったはずのモノは半分焦げてる。

 作り直しか。まあ、蔓はまだたくさん浸しているし、作る予定の量には遠く及んでいないし仕方ないか。

 そう思いながら水場に足を運ぶ。


 と……

「ん?」

 崖の上から流れてくる小川の段差、滝というにはあまりにも小さすぎるそこから緑色の「何か」が揺蕩って流れてくる。半透明だ。

 その「何か」はグズグズしながら水から上がる。そしておもむろに蔓を食べ始めた。……いや、食べるなよ。


――あー、スライムだねぇ――

「蔓食べられても困るんだけど、倒せる?」


 そんなことを言いつつ、石を片手に拾って近づいてみる。

 スライムはこちらには興味がなさそうだ。どろどろの液体の体を懸命に動かして蔓を体に取り込もうとしているようではある。

 核とか、そういうのはなさそうだ……しずく型のあれとも違って顔もない。

 攻撃をしてくる様子もないし、石を体に落としてみる。ヅルリと石は体を突き抜け、転がる。

 次に、さっき食べる為にはいだヘビの皮を落としてみる。すごい勢いでドロドロ溶けていく。


「つまりこいつはあれか、日本人がイメージするモンスターとか、アメリカ人の子供が好きなオモチャとかとは違って、粘菌とかの類なのか。お風呂とか排水管に詰まるピンクや白のどろどろの奴」

――言ってることはよくわからないけど、考えてることはあってるかも――


 大精霊のお墨付、ということにしよう。

 そもそもスライムって聞くと日本人は某RPG、アメリカ人なら液体のオモチャを想像すると思う。

 だが実際は、細菌が魔物になってこういう感じなんだろう。思考する場所、『脳』がないために、食べられるものだけ食べている。屍を食ってるタイプの生物に近いんだろう。


 棒でつついてみる、が棒も溶けていく。人が消化できないタンパク質とかも溶かすんだろうが、石などの無機物は無理なようだ。

 エロい作品とかで出てくる装備だけ溶かすなんてことはしそうにない。それどころか、違う意味でのR18作品になる。それを見て喜ぶのはごくごく一部のマニアだ。


「それはとにかく、ロープ完成させにゃ」

 観察を終え、蔓をスライムから奪う。一応洗っておいた方がいいだろうか?


 なお、何故蔓をそのまま使わないかについてだが。前世で子供の頃に試したことがある。

 結果、すぐにちぎれた。


 皮が固く柔軟性に難があったり、耐久性が弱かったりで、一度傷つくと脆くなる。

 皮を剥いでロープにすれば、そんなことはないのだと、後で知った。種類、使い方によっては耐えるだろうが、蔓そのままでは、大抵の強い力には耐えきれないと考えてもいい。


 つまり、蔓を使って物やヒトを縛ることは、事実上不可能と考えていいからだ。


 ジャングルの王者とかは、フィクションですから、そのまま使ってていいけど。


―――――――――――――――――


「いよっし、ロープできたし一丁やってみますか!」


 ここに来てようやく、まともな食事をする為に、ロープをしならせ、木と自分の体を囲むように巻く。といっても当然、自分を縛りつけるのではない。木と体の間に空間を開けて体を支えられるようにしておく。


――どうするの、それ?――

「簡単に言えば、これで木を登る。とっかかりもない、滑りやすいタイプの木は、こうやれば登れるって聞いた」

――登ってどうするのさ――

「ん?どうするって、あれ、バナナでしょ?ちょっと高いからこの体じゃ届かないけど、登れば関係ない」


 木の上になっている黄色い果実を指さす。高さ2m余り。少し手が届かない。


――食べれるの?――

 食べれるの、ってこの世界じゃ食べないのか?


 この場所に来た時からほんのりバナナの甘い香りはしていた。形的に、資料で見た原種のバナナだろうから、種は大きくて多いだろうし食いづらいかもしれない。

 だが、いつまでも虫とかそんなもんばかり食べてはいられない。


 木に足をかけ、少しづつロープを上にずらしていく。無理にやれば足を滑らせることになる。


 それでもやってみれば、すぐに登れた。やってみればできるもんだ。

 黄色い房の根元にナイフを刺して下に落とす。たったこれだけで、当面飢え死には回避できるとは有り難い。


 バナナがあるということは、地球にあった植物とかこっちにあるということだろうか?

 逆に、あからさまに地球では見ない植物もある。このロープの蔓とか。いろいろ疑問はあるけど……


「おおおお!……」

 考えながらバナナを落としてたら、ロープがちぎれて自分が落ちた。


 編み方が甘かったらしい。地面で打ったケツが痛い。尻尾の骨は折れてなさそうだ……。

 千切れたのがバナナの木でなくてよかったかもしれない。弱って実をつけなくなったら困る。

「そういえば、バナナってスイカと同じで野菜の種類なんだっけ?木って呼ぶのもなんか違うな……」


 それはとにかく、洞窟のそばまでバナナを引きずって移動することにしよう。数が多いから持ちきれない。というか、落としすぎたかもしれない。次は少し量を考えよう。


 しかし、

「ナハハー!バナナだけでも生活できそうかもしれない!」

ーーさすがにそれは言い過ぎじゃない?ーー

「ギュア?」


 浮かれすぎていたらしい。なんか緑色の奴が繁みの向こうから姿を現した。

 なんかこっちに近づいてきて……あれって、ゴブリンだよね?

ーーだねーー


 そのまま手に持ってたショートソード、って定番はこん棒じゃ?って言ってる場合じゃないか。えーと、エンカウントってのでいいのか?とりあえず、逃げるかなんか……って考えてる間にショートソード振り下ろして、


「ギュウ……」

 きたところを腕で受けながら殴ってた。……何で?ってもうどうでもいいか。やるしかない。


「ああ!」

 体勢を崩したところにそのまま裏拳、からの

「がぶっ」

 喉に噛みつく。


 もう後は刺されないよう腕を押さえて、食いちぎるだけ。なんか暴れてるけど、声は出せないらしい。そのまま、イケ!


「ーーーー!」

 なんとか喉笛を食いちぎった。血飛沫も上がる。俺は血を浴びながら倒れた姿を眺め


「ヴァ?」

「ゴフ!」

 眺めてられなかった。まだいたのか。2匹繁みの向こうから追加で走ってくる。もうここまで来たら、やってしまった方がいいか。


ーーできる?魔法はまだろくに使えないのにーー

 相手は2匹。

 なら、攻撃が来る前に一直線上に並べば、事実上タイマン。

 ショートソードを拾い、横にダッキングしながら振り下ろして来たこん棒をかわし、ショートソードを脇に両手で構え体当たりぎみに突っ込む。

 なんとか刺さったが少し甘い。深くはないので、もう一度柄を掌底で押し込むように突き刺し、抉って引き抜く。ショートソードを落としてしまったが、拾う暇もないだろう。


「残り1!」

 叫んだ時には大上段で振りかぶっている。一歩踏み込み両手を左手で掴み、右手で顎をはねあげる。

 後は、

「がぶっ」

 もう1回。ちぎるだけ。少し暴れた後、血飛沫を上げて3体目は倒れた。


ーーよくやれたねーー

 実のところ、一族の狩りでまんま動物らしく道具を使わず顎や爪を使うこともある。ヒトって感じはしないが、それが役に立ったらしい。


「さて、……こいつらって食えるかな?」

ーー……え?ーー


 奪った命は戴く。それが狩りですから。

 うん、正しいとは思う。勿論、例外は認める。

補足説明:この世界でのスライムは、湿気の多いところを好むが、飢えてくると獰猛になり、擬態をして近づき、獲物を一気に溶かし切ります。なお、物理無効。魔法には極端に弱い。松明で炙っても殺せる。

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