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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
帝都騒乱狂騒曲
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7話 ゼロと大神

前回:――突然の襲撃者、光となって消える――

「でもさ、あの光を撃って蒸発させたんだろ?いや、マジでやべーよ、このイヌ!」

 エリナの攻撃後を指さしながら喚くゼロ。


「大神だ!それとあの光を撃ったのは俺の師匠だし、あれで威力抑えてんだからな!この人マジでキレさせたら、大陸ひっくり返るから!」

 と、苦笑いしながら冗談を返す大神。


「ヴァンくん、アタシでも大陸はひっくり返せないと思うけどぉ?」

「マジで!?どっちも化け物じゃん……!俺ら死んじゃうじゃん……?」

 エリナが返した言葉を蒸して頭を抱えたゼロと、その脇で笑って騒ぎだすシックスとセブン。

「味方するんじゃないんすか、ゼロさん。シックス、頼むから交渉しろよマジ」

「おまえ先輩に言う話し方じゃねーだろ、それ!」

 突然騒がしくなり始めたキャンプで、焚き火を囲んだまま話を開始したのだが、ほとんどずっとこんな冗談の言い合いみたいになっている。


 ゼロは戦闘の情報を手に入れ、急いで待ち合わせ場所から移動してきたらしい。それだけ、今回の彼らの戦力に期待しているのかもしれない。と、ナインは思うのだが……


「これ、俺ら居なくても皇帝死ぬんじゃね?それでこいつが次の皇帝?やべー……未来見えたわ、これ」

「いや、皇帝とかどうでもいいって言ってるだろ。狩人がそんな事してどうするってんだよ?」

「いや、狩人が戦場にいるってのもおかしいっしょ、ねえ、ゼロさん」

 期待している割には、先程から話が進まない。お互いを知り合う必要があると言うなら分かるのだが、戦場における僅かな間の関係なのだ。時間を割く必要もない。


「いや、別に狩人が戦場に居てもおかしくねーだろ?そんな事言ったら、騎士だって趣味で狩りすんだからさー?」

 とゼロ。大神の意見を弄りつつ、なぜか肯定する姿勢が強い。


「いや、でも本業狩人なんでしょ?普通いないっしょ、戦場には」

「ニンゲン狩りを王家に依頼されたからね」

「ニンゲン狩り……やべー、王家も狂ってる。おかしな奴しか王国にはいない訳?」

「真面だったら戦争で人食わせたりしないでしょう?それも王家の狙いかも……」

「ヤバすぎっしょ!マジで怖えっす!俺食ったら腹下すから、シックスにして欲しいっす!」

 付き従って来たらしいセブンとシックス。完全にゼロに合わせてジョークを被せていく。とてもではないが、そんな危ない雰囲気を大神が出しているとも思えないし、彼らも分かっていてやっているが、聞いていて気分悪くなるナイン。


「あの……そろそろ先に進めてもらっていいですか?5人衆から零れた知将の事を抜きにしても、まだ敵兵が近づいてきてもおかしくないんですし……」

 そろそろ進めようと思って発言したのだが、

「バッカ、おめーそれくらい分かってるよ。だからこちらさんの兵隊が、わざわざ俺らを守ってくれんだろ?こんなところに近づいてきたら、蒸発するって分かれば相手も撤退するだろうけどさぁ」

「それ以前に、アサシンとゴーレム、フェンリルが周囲探索しながら狩りをしているんだ」

 冗談じみたゼロの反論に、大神が合わせて言葉を溢す。今敵の心配はしなくていいと言いたいのだろうが、

「ちょっと待ってー?そしたら今料理してんのって、ニンゲンの肉ってことー?」

「ゼロさん、それは流石にないっしょ!マジ笑える!」

 とぼけ顔のゼロのジョークに、セブンが腹を抱えて笑う。それには流石に大神も起こるかと思ったナイン。


 だが、

「馬鹿か、たかがニンゲンのクソ不味い肉より、俺の獲った魔牛肉の方がいいに決まってるじゃないか?今焼いているのは、魔牛のサーロインだ。魔牛の旨味が凝縮した肉だぞ?熟成も最高潮に達している。肉の宝玉だよ」

 仲間が調理している肉を指さして、どんな肉かを演説してきた。肉は肉なのだが、物凄く真剣な眼差しだ。


「まーでもそうか……そんなに美味い肉なら……」

「いや、ゼロさん。そろそろ真面目に話しましょうよ。時間はあるけど、作戦に仕えそうな情報あるんだし、準備すること考えてたらのろのろしちゃいらんないっしょ」

 冗談交じりでも、自分と同じく弄られがちなシックスが話を戻す。そして、ナインの知らない情報があると言う。その事には、この場に居る大神とエリナも首を傾げる。


「あー……そう言えばそんなのもあったっけ……何、魔王がお忍びで皇帝に会いに来るってヤツ?」

「「はあ!?」」

「あれ、来週だっけ?」

「「ええぇ?」」

「いや、ゼロさん、明後日っす」

「「はあああ!?」」

 流石の大陸の賢者と弟子の大神も、彼らの入手した情報には驚きらしい。何度も声を上げている。


 当たり前だろう。どこの馬鹿が戦争中に、同盟国とは言え他国に首脳を送り込むのだろうか?そんな事をしている暇も無ければ、発覚した場合は命が無いかも知れないのだ。王が命を取られた場合、通常は国が滅亡する。これが分からない人も居ないだろう。

 だが、王国側からすれば渡りに船という状況で、一石二鳥の結果を得られる、とんでもない好機となる。王国へ攻め入っているのは、帝国ヨルムハイムと魔国ゲヘナなのだ。これ以上ない千載一遇のチャンスだ。

 しかもそれが、明後日だと言うのなら、余計に急ぐ理由になる。


「それって、もしかしてだけど……」

 金の雷鳴は顔が引きつっている状態で、何かを予想している。それに弟子が続く。

「5人衆のお零れがここにいたのって……」

 何となく、2人は想像に至ったのだろう。エリナにはもしかしたら、その前から可能性は想像していたのかもしれない。


 対するゼロ。あっけらかんとした顔で、

「ゴッメーン。どれくらい強いか、確認したくてさー。ほら、いくら俺が一騎当千とか言われてもさ、皇帝にゼンッゼン歯が立たないじゃん?そこに加えて、他の死んでない5人衆が3人も集まってたら、マジでお疲れじゃん?待ち伏せしていた頭でっかちも、雑魚じゃないじゃん?

 そこに魔王が加わるとかなったら、こっちの力じゃどうにもならなくなるかもしれないじゃんよ。お宅が半端な戦力だったとしたらさ、魔王が居ない時で5人衆のいない時とか狙った方がいいんだしさー。

 協力して貰えるのはうれしいんだけどさ、でもそっちとしてはどうせなら、魔王も殺したいでしょ?だってそしたら一石二鳥で、戦争終わるんじゃん。

 したら、ほらー……最高だろぉ?」


 つまり、ギルバートが居ることを知っていて、戦力確認のために敢えて放置していたらしい。


「そこまでうまくいくんなら、まあ……」

 大神とエリナも、流石にこの異常な条件を理解し、白目を剥いている。この2人が同時に白目を剥いたのは、実はこの時が初めてだ。エリナの怒りで大神が感電したり、エリナの突飛な行動で呆れた周囲の者がそうなる事はあっても、エリナが白目を剥く事はあまり無い。


「いやいや、俺らもマジでちゃんと本気の作戦考えるよ?その代わり、帝都はマジでちゃんと俺の領地にしたいんだけどさー……それ、大丈夫?」

「一介の狩人には判断付かないけど……国王に言っておくよ。あの人は戦争が嫌なだけだからさ。頭が挿げ変わっただけで、また王国に喧嘩売るんだったら……」

「あー、それなら俺、領土とか興味ないんだわ。むしろ国を大きくしようとするのが、意味わかんねーんだよな。

 あの人はほら、南西の草も何十年に一本生えるくらいの土地出身でしょ?でもこの辺見りゃ分かんじゃん。草ボーボーなんだしさ。飢えとかないんだよな、あの人の故郷と違って。その故郷だって、今じゃ食料が大量に入ってるつーんだし、悪い訳じゃないんだけどさー」

 よく分からない流れになり始めたが、ナインは納得する。


 つまり、魔国・帝国同盟軍対王国の戦争を終わらせる事が可能なのだ。しかしその為には、半端な戦力では務まらないと考えていたらしい。


 その為、王国軍が進軍してくるだろうルートの1つに罠を仕掛けて、隠れ潜んでいた知将とぶつかるように彼らをここへ導いたのだ。

 仮に全滅していればそれまで。その場合、ナインも自害する以外なくなる。撤退していれば、違う方法で会った上で魔王の情報を出さず、帝王だけを打倒する為にじっくり策を練っただろう。

 しかし、多少撤退したものの、その後の壮絶な攻撃をした事で、切り開ける道があるかもしれないと考えたのかもしれない。とは言っても、待ち構える戦力も尋常ではない相手ばかりのようだ。


「つまり……帝王の配下と3人の暴れん坊、魔王の配下と魔王の攻略をしなきゃいけないってことねぇ?」

「そーなんだよ、マジで。ヤバすぎるから、あの頭でっかちを適当に誤魔化して逃げたりしたらいいかなーなんて思ってたんだけどさー、ヤっちゃうじゃん?俺そんな風になるなんて、思ってなかったんだけどなー」

「よく言いますよ!この方法で、ギルバートの軍が半壊くらいになって、尻尾撒いてくれないかとか言ってたのに!」

「えー……だってその方が楽だし……俺あいつ嫌いだから、作戦の時に邪魔して欲しくなかったんだモーン」

「だモーン、じゃないです、ゼロさん……」

 子供みたいに体を揺らしながら駄々をこねているゼロ。とてもではないが、長のする行動とは思えない。


 だが、実際にギルバートがいた場合、作戦を実行した所でこちらの策を容易に見抜かれた可能性が高い。ゼロの懸念は、その辺りなのだろう。ふざけているが、内心は虎視眈々と帝王の命を狙っている。


「ヴァンくん、彼……」

「冗談でも嘘はダブって聞こえるけど……全部嘘が無いみたいだ。ギルバートが嫌いなだけじゃないって事以外はね」

 その部分だけ見抜かれたらしい。嘘偽りなく、奴がいない状態で作戦を実行するのが、こちらの成功率を高める理由なのだ。まさかあっさり蒸発するとは思わなかったが。結果的に最高の状態になったと言える。

 居たらいたで、作戦中に茶々を入れられ、敗走、或いは全滅もあったかもしれない。


「さっきの戦闘さ、遠くから望遠魔術で見てたんだよ。けどさー、ちょーっとお姉さん、火力あり過ぎじゃん?街中であれはやめてほしいんだけど、それはいい?」

「ああ、それはこっちも願い下げの状態だから、安心していいよ」

「ヴァンくん、ぶっちゃけ過ぎ……」

 双方のトップは、有名な光の奔流は御免被るようだ。帝都であんなものを出されて、仲間が丸ごと巻き添え……となったら話にならないのだから、当たり前だろう。


 それより、条件が凡そ見えたのなら、後はどういう作戦を取るかが主眼に置かれる。

「それじゃあ、ゼロさん。作戦についてですけど、お聞きしていいですか?」

 このまま彼に任せていると、本当に時間が無くなりそうだ。ナインは司会進行を自ら買って出る事にした。どうせ、この後また弄られる事は覚悟の上だ。


 だが、

「それなんだけどさー、まだ思い浮かばないんだよねー。ほら、そっちの戦力が予想以上だったからさー……何かいい案、ある?」

 真剣に困った顔で、大神に問いかけてきた。流石にこれは、全く冗談が無いようだ。分かりづらいが、彼は本気で困った時以外、他人に意見を求めたりしないのだ。

 しかし、先程本気で作戦を考えると言ったのにこれでは……先が思いやられる。


「本当に作戦が無いなら……ヴァンさんとエリナさん、思いつく作戦は……?」

 頭を抱えながら、ナインが2人を見ると、

「ああ、それなら地図と帝王のいる城の見取り図、用意してくれないか?それと……」

 大神は書類を要求しながら、虫型のゴーレムを掴んで声をかけた。考えがあるらしい。


「バート。レジスタンスメンバーを数人連れて、帝都の方までちょっと偵察に行ってくれ。

 クリフも連れて行け。あいつの装備ろくに使っていないけど、幻術効果を自身や周囲の者に効果的に掛ける事の出来るものだ。霞んで見えるようなくらいの幻術なら、全員に簡単に付与できるようになるだろ。

 確認するのは、帝王の城の内部。魔王が来るらしいから、どの部屋に行くか。地下通路や隠し通路のありそうな場所。街の状態や人通り。火薬や武器庫のある場所。戦力の強そうな兵士や、そいつらが集まりそうな場所。そして、街の外側から帝王の城まで、一直線に行ける場所だ。

 こっちで間取りや地図を貰うから、それを覚えて凡そで確認して欲しい。あまり時間を賭けられない理由があるから、すぐに出発してくれ。監視の時間が長いから、リリーを連れて、ゴーレムの練習がてら監視させてもいいぞ」

 サラサラと作戦の為の確認事項を挙げている。


 ナインだけでなく、シックス、セブンも全く理解できないような顔をしているが、

「あー、何?壁際から、一直線に突っ込んでくの?確認する場所からしたら……」

「攪乱する為の策を取るってことねぇ。ヴァンくんはそういうの、よくやってるからねぇ」

 先程の戦闘の間の事を思い返しながら考えるゼロと、彼の手口をよく知るエリナ。正確には推測できていないだろうが、凡そ見当が付いたようだ。


「ああ、後はエリナさんがどこへ行くかが問題だけど……突入の時には、別行動になるね」

「えぇー……ヴァンくぅん、仲間外れは……」

「星が流れれば、願いが叶う」

 弟子の言葉に不満そうに、どこか甘えるような声で抱き着いた師匠を抑え、不思議な言葉をつぶやいた。


「何々、どういう事ー?」

 ゼロも、その言葉の意味は理解できなかったようだ。


 だが、ほんの一言だけで、彼の師匠は思い至ったようだ。納得し、頷いている。

「それが合図って事だよ。もう一度言う、流星が流れれば、願いが叶うんだ」

 大神は、楽しそうに嗤った。

精霊のボヤキ

――星が流れても、願いは叶わないでしょ?――

 夢があっていいじゃないか。

――でもあれ、ゴミだし……――

 それ、言わない約束……

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