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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
戦場の四重奏
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22話 終結(集結)

前回:――……あ、オカマさんここに居たの?存在も忘れてた――

 大破する音が聞こえ、管制室が揺れ、砲台から白煙が上がる。塔の下部から兵達の驚き、叫ぶ声が聞こえるが、管制室はそれどころではない。


「敵ゴーレム、巨大化!東部、数、250!」

 先程まで、ただの人の大きさだったゴーレムが、ほぼ崩れ去った後、巨人族より更にひと回り大きなゴーレムが250体も現れて、塔のすぐ近くで戦い始めたのだ。

 レールガン砲台で撃ち抜けば容易に倒せるだろう相手だが、並の戦力では手古摺るだろう。頼みのレールガンは、自壊してしまった。まさかこんな風になるとは、思ってもみなかったのだ。


 が、それだけならまだ良かったかもしれない。


「西部に3名、生体反応!恐らく工作員かと思われます!」

「距離は!」

「2km!転移可能範囲、ギリギリを狙ってきました!」

 最も危険な範囲に、たった3名の兵士。このタイミングで、工作兵はまずないだろう。なら、確実だ。


 これを狙った者達の本命……恐らく、憎いエルフの弟子が、ここに来たのだ。


「私が出る!あいつも呼べ、そしたら……」

 自分が、この奇策を用意した本人を叩く。それ以外に勝てる手段は無いだろう。そう確信した、そのタイミングだった。


 更に戦況は、混迷する。


「南東より、同じく3名!距離2km!」

「南西より敵数500!距離2km!」

「北東より同じく500!距離2km!」

 同時多発的に、兵が押し寄せてきている。


「どうなってんだ、これはあ゛!」

 自分と部下が向かったとしても、これだけ滅茶苦茶にされれば、あまりいい気はしない。突然湧きだした雑魚を葬る事くらい、難しい事ではないのだが……


「おい、おい!どうした、返事しろ!」

「何だ、どうした!?」

「……突如、兵達からの返答が、ほとんど無くなりました……?」

「幻術反応確認!自軍の7割が沈黙!幻術にかかっているものと思われます!」

 こうも訳も分からない内に、様々な問題が起きるのであれば、今自分が離れる訳にもいかない。指揮できる者が、今ここにいないからだ。


 仮に離れたとして、先程ここから離れた兵長でもなければ、ここを任せられる者がいないのだ。


「あいつを呼べ!さっさと、早く!」

「あいつ……?誰でしょうか……」

「テメエ、仲良いんだろうが!あの兵長と穴ほじくり合ってたんだろうがよ!」

 そんな関係だとは聞いた事が無いが、ジーンは勝手にそう思っていた。


 しかし、

「兵長って……どの兵長でしょうか?名前は……?」

「あ゛?……それは……?」

 そいつの名前は、覚えに無い。周囲の顔を見る限りでも、恐らく誰も知らないようだ。


「………………は?」

 彼女も漸く、ここへ来て気付いた。大陸3大賢者たる自分が、誤魔化されていた事に。恐らく、敵の魔術によって。


 いつからかは分からないが、エルフの弟子、オオカミがやった事だろう。


「……北方より、魔術反応……小さい魔術が、多数……いえ、無数……無限!?」

 計器を覗いていた者の1人が困惑し、意味が分からない事を言い出す。無限の魔術など、あるはずも無い。

「な……意味わかんねえ、何だそれ!……どけ!」

 限界に達し、壁際に居た兵が持つ望遠アーティファクトを奪い取って、北を覗き込む。


 そこには確かに、無限と言うに等しい、輝く蝶の群れが押し寄せ、北側を守っていた兵を飲み込む。聞いた事も無い魔術だ。


 それは多分、エルフの『独流(オリジン)』だ。


「南方より、水の龍の魔術確認!被害甚大!」

「南東、アーティファクト付きの矢が放たれています!誘導術式と爆撃系のエンチャントです!」

「北東の敵兵、広域火炎魔術使用反応……恐らく、精霊魔術です!」

「敷地内を高速で動き回る敵影3!通常の魔術で阻害不可能……精霊魔術かと思われます!」


「………………おい、これはなんなんだ……!どういう……」

 彼女は既に、対処の仕様が無くなり始めている。得意の術式も、準備ができていなければどうにもならない。手下を送り込んでも、こんな訳の分からない状態で勝てると言う保証が持てない。


 何より、敵側に一騎当千になり得る存在が、一気に増えている。


 そして恐らく、これは……


「エルフと精霊の術式……ア、アァノォガァキィイイ……!!」

 以前受けた辱めを想い出し、青筋が額に浮かぶ。よりにもよって、あいつの仕業なのだ。恐らく噂に聞いていた、仲間も利用しているに違いない。


 そして、少し前に聞いた。帰ってきているのだ。因縁の相手が。もしかしたら、あのエルフも参戦しているかもしれない。


「クソがあー!何をしてもいい!兵を叩き起こせ!砲台を修理して、すぐに打ち込め!ゴーレムだろうが何だろうが、全部ひき殺せ!竜車だ!戦車も商人の馬車も全部使え!魔術でも矢でも火薬でもなんでも……!」

「……その、既にやっております」

「なら押し返せんだろうが、クソが!どうなったんだよ!」

 既に考えを放棄し始めている彼女は、塔の下で行われている戦況を全く理解できていない。そもそも情報量が多過ぎて、独りで処理しきれないのだ。

 その為勝手だが、管制室の兵から、彼女の語る内容の殆どを実行するよう指示されていた。ただ1つ、火薬はここには無いのだが。


 それでも、

「塔の外壁部、押されて来ています。既に……囲まれています!」

 詰んでいた。


「……は?じゃあ、どうしろって……!」

「強大な魔力反応!山岳方面と、東部……オオカミのいる場所からです!」

 混乱した彼女の叫びを遮って、嫌な報告を上げる兵。顔が蒼くなって、窓の外を見ている。


 ジーンがそちらを窓からのぞけば、確かにオオカミがいる。その距離にしては、おかしな大きさなのだが。


 銀色に輝くその毛色は、鮮血のように朱く輝き、爪や牙らしき形の不自然な焔を揺らし、黒い焔で見つめてきた。


 狼ではない。大きな、邪神だ。彼女はそう感じた。


 その姿を確認した後、管制室に響く、歪な遠吠え。


 そして……かなり遠くだが、山岳方面から感じる魔力。因縁の相手だ。


「……あー、ムリ。もういいや……行くよー」

 ジーンの言葉を受け、いつの間にかいた彼女の部下が頷き、手の平に乗る球体を起動させた。


 直後、混乱する管制室を、2つの光の奔流が飲み込んだ。


 同時に、大神の叫び声が、戦場に轟く。

「エルフ式術式――天の川(ミルキーウェイ)――!」


――――――――――――――――――――


 頂部が光に包まれて、白い煙を上げる塔の下で、多くの兵が倒され、眠り、魔術を使える者も貧血になって昏倒している。


「さあ……上官はほとんど倒されたんや……抵抗せんで諦めたらどうや?」

 大神が用意したゴーレム兵装に乗るバートの声が響き、多くの兵が武器を取り落とす。アーロンにナイフを突きつけられる者も居れば、クリフトンが血を啜った事で悲鳴を上げる魔術師もいる。


「えー……思っていたのと、ちょーっと違うかなー?」

 そんな中に足を踏み入れ、とんでもない数を切り伏せた彼女は、予想との乖離と物足りなさに、首を傾げる。手にしているあまりに巨大な剣に付いた血を振って、白金の色を取り戻しながら。


「……誰です?見た事無いんですけど……」

「敵や無さそうやけどな……下手に手を出したらあかんで……ごっつうやりよる……」

 全く知らない2人は、リサの剣伐を見て、冷や汗が止まらなくなっている。敵なら命がないと、心配しているのだ。当のリサは彼らの存在を理解できているのだが、敵視されている事が理解できていないようで、困惑している。

 ただ、お互いに帝国兵をなぎ倒していた為、何を言うでもなく攻撃しないよう、睨み合っていた状態だ。リサはあくまで、間違って斬らないように気を付けただけなのだが。


 だが、

「クリフはともかく、バートは気付け。旦那の師だ」

 アーロンの言葉で、3人同時に彼を見、互いを見て、笑い始めた。


「リサぁ、お待たせぇ……!思っていた以上に強かっ……ゴーレム兵装?何で……ヴァンくんが独りで?」

 そんな場に転移魔術で到着し、バートの駆る兵器を見て疑問に思い、勝手に答えに至るエリナ。首を傾げながらも、どこか納得している様子だ。


 そんな場所に来て、溜め息をつく者がいるのは、必然。


「はあ……エリナさん、誰も来てくれなんて言ってないじゃないか。そもそも2人が戦場に出るんだったら、俺独りが行くのより酷い状況になるんだからさあ」

 ヴァン・カ・フェンリルは、どうあっても師匠に来てほしくはなかった。これ程の戦力なのだからこそ、他の戦場で滅茶苦茶に暴れてくれた方が、有難いのだ。出来れば、向かわない方がいいのは確実なのだが。色んな意味で。


「えぇ……弟子の手伝いをするの、駄目なのかなぁ?」

「だから、手伝って欲しいんじゃないんだってば。判らないかなあ?俺と師匠だったら、手分けして南北から攻めれば……」

「えー……確かに簡単そうだけどー、一緒に行った方が、楽しくなーい?」

「楽しいかどうかの問題じゃないからね!?」

 いつもながら、いつものやり取りをしている3名を、全く理解できずに眺めるバート達。(どこをどうしたらこんな化け物達が生まれるのだろうか)と、考えている。


「全く……まあ、2人が来ちゃったのは、しょうがないとしても……」

 戦局が進むごとに、バート達も気付き始めていた。本来あるはずのない兵力が混ざっていたのだ。


 バートのゴーレム操作可能限界数は、元々250体。奇しくも送り返した騎士達と同数程度。


 しかし、大神がほんの少し手を加えて、可能限界数以上に行動させることができた、ように見せられた。


 なんてことはない。大神が木の棒に幻術を掛け、バートのゴーレムに結わえ付け、前後に鎧をくっつけたのだ。これだけで、ゴーレム1体に対し、歩く兵は3体以上に見せる事が出来た。

 ジョークに見える戦術だが、幻術のせいで相手はそうとは思わなかっただろう。


 その上で、ゴーレムの性能にも手を加え、操作可能数を倍に増やした。それを可能にしたのが、ゴーレム兵装だ。


 大神は元より、これの作り方をサーシャに教えられていた。その魔術設計図も、彼は持っていたのだ。自分では理解しきれず、コントロールできないからと、埃をかぶらせていたのだが。

 それをバートに見せ、コックピットに並列させて、簡易的なコントロールルームを作ったのだ。中継機能を更にコントロールしやすくした結果、倍近い460体ほどをコントロール可能となった。


 460体に括りつけられた、空の鎧500近く。転移魔術を併用すれば、最初の突然の兵隊ラッシュは可能になる。破壊される前提の囮で、自壊を誘発する為の作戦だ。


 だが、それは砲台が破壊されるまでの時間稼ぎだ。他に持たせた意味としては、幻術の広域化儀式魔術。闇討ちで良く行っていた、魔方陣と転移魔術、空間魔術の併用だ。


「旦那……聞きたいんやけど……」

「あれですね、砲台が大破した理由。わたくしも気になりますね」

 バート達は作戦は聞いていたが、本当に起きるとは思っていなかった。まさか、攻撃を撃ち過ぎて砲台が自壊するなどとは。


 しかし、銃を扱う者なら当然知っている事だろう。レールガンの場合は、その比ではないのだが。


「砲台や銃なんてものは、撃ち過ぎれば砲身が熱を持つ。弾も相当なチカラを持っているから、熱を持った金属の砲身を、曲げる事があるんだ。銃の撃ち過ぎで壊れるなんて、ほとんどないけどな。


 だが、レールガンはそのチカラが異常すぎるんだ。砲身が()()()()()する。分かりやすく言えば、砲身の金属が、蒸発するんだ。


 事実砲台として作られたレールガンなんかは、小まめとまではいわずとも、ある程度撃ったら、砲身が蒸発して痩せている事を理由に、取り換えを必要とするんだよ。俺はそれを知っていたから、魔術由来の、氷の砲身を作っていたんだ。


 だが、それを知らない奴が下手に大砲やら銃やらを作って、むやみやたらに乱射した場合、熱を持ち過ぎて砲台が歪んだり、蒸発したせいで痩せて折れたりする……つまり、自壊と言うか、自爆する可能性があると思ったんだ。

 実際に取り換え自体、計算に入れられていなかったんだろうな。外から見る限りでも、そういう設計になっていなさそうだ。


 とにかくあのロマン砲は、実際に作った場合のコストパフォーマンスは、最悪な面があるんだよ」


 設計した時に超電導などを考えていたのも、そもそも抵抗を少なくすると共に、強い冷却力が欲しかったから。冷却できなければ、連射した場合には熱によって砲身が曲がり、暴発。それによって自分が被害を受けかねないからだったのだ。冷却したからと言っても、気休め程度なのだが。


「へー、じゃあじゃあ、相手が自爆するって分かってたから、あんなバンバカジャンジャカ撃たせてたんだ?考えなしじゃなかったんだねー」

「ルナ……正解……グッ……」

「2人とも……怒られるよ……?」

 姉妹に呆れ、注意している弟だが、

「お前もな、スコル。約束には早すぎるだろ。呼んでから来てくれよ。こっちはまだ終わってないんだ。

 そもそも、バート達を転移させるはずだった西側に、なんでお前らが出てくるんだよ……?」

 彼からしても、予定外には違いないのだ。来た事に関しては、もう何も言えないのだろうが。


 本来の計画では、バート達が西側に転移、そちらに兵が向いた時に幻術で侵攻阻止。ゴーレム兵装の上からクリフトンが攻撃を繰り返しつつ、バートとアーロンが抵抗。その合間に自身が塔を破壊し、前線に参加するはずだった。3名の命は、自分がいかに早く前線に向かうかにかかっていた……


 はずなのだが、姉弟3名が現れた後、続々彼の用意していたゴーレム転移用魔方陣に、人が現れ始めた。予定を狂わされ、それでも彼らの技量を知っているが故に、急遽転移場所を変えたのだ。が、やはり大神も焦ったらしい。

 もっとも、予定していた幻術自体は、どの位置であっても問題なく発動できるから、バートの戦いやすい距離に転移させた。だが、ハーティやスコルがそこに重ねて幻術を放った為、眠るだけでなく、起きている者も錯乱し、バート達の姿を5人程に見ていたらしい。大神の使う陽炎と同じか、それ以上の効果を発揮した状態だ。

 紛らわしい事、この上ない。お蔭でバートの攻撃も、ほぼ全て明後日へと飛んで行った。


「でもでもでも、役に立ったでしょ?ほら、だからお姉ちゃんにおれエグ……」

 それでもしゃしゃり出る姉に、大神と妹はいつもの拘束をかける。無駄だと分かっていても、やりたいようだ。


「この3人は譲歩するとしても……月狼と一緒に来た、あいつらはどういう事なんだよ、エリナさん?」

 師匠が溜め息をつくのも無視して、大神は彼らを睨む。


「お前にも聞くよ……何度か言ったよな?

 なぜ来た、ヴィンセント!」


 大神の視線の先には、7人の冒険者達がいる。


「勿論、友に剣を捧げる為に来た」

 蒼い鎧を着た青年は、切れ長の目を細め、凛々しくその心を語った。

精霊のボヤキ:

――コスパ最悪……――

 だから魔術のみで作ったんだけどなあ……馬鹿だろ、砲台にした奴。

――魔術でも大概だけどねぇ?――

 そりゃ、マナを大量消費だからね。精霊魔術やエルフ術式でもないと……

――それでも無理在るから。アンタや金髪じゃないと、無理――

 ……そんなに?

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