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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
戦場の四重奏
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1話 カルテット結成(解放直後)

前回:――悩む王と領主大神、カブトムシゴーレム――

「じゃあ、改めて……ヴァン・カ・フェンリル。焔の銀狼と呼ばれている。訳も分からない内にこの地の領主となった者だ、よろしく」


 その場にいる者達の殆どがあちこちに移動させられていく中で、バートを含む立候補兵は、彼自身の元へと案内された。

 その案内人は、王国の兵らしい。普通なら領が持つ兵か何かだと思うのだが、どう言う訳か王国の兵達は、目の前の狼の獣人に怖れを抱きながら接している。それも仕方ないかもしれない。


 直前まであった廃墟が、いつの間にか白い焔が灯る、白い石でできた街並みに変わっていた。それを作り上げた者も白い毛並みなのだから、どこまで真っ白にすれば気が済むのかが分からない。

 今いる広場も、白い焔が石畳に灯っているのだが、なぜか全く熱くない。


「この白い火は何や……触れとるんのに、燃えへんやないか……?」

「焔だよ……知らない?まあ、該当する者しか燃やさないって考えれば、間違いないから。それ以上は気にするな」

 疑問に思いながら、しかし明瞭な答えを得られず、首を傾げるバート。それを見て、嗤う狼の獣人。バート自身、彼をまだ理解しきれず、疑いも消えていない。


「気にするなと言われても、気にせざるを得ないでしょう。このような魔術、存在するのですか?」

 発言したのは、同じく兵に立候補した……

「……ヴァンパイア……だよな……お前?」

「ええ、レッサーですが。そのせいかこの火、ちょっと熱いです。焼かれないみたいで、少しほっとしましたが」

 ヴァンパイアらしく、牙が生え、顔色が青い。その上、元の顔つきはかなり整っているのだが、やつれて弱々しく見える。来ている服も、立候補者の中で一番のボロだ。

 特に、驚く要素も無いのだが、狼は驚いているらしい。すぐ傍にもっと驚いている者がいるが。

「えええ?ヴァンパイアってウソだろ今昼だぞなんで灰にならないんだよおかしいだろそれにこの火って魔物はみんな燃やすんじゃないのかよこんな奴仲間に入れなくていいだろなんで」

「以下略。ユウタ、でしゃばるな」

 彼の従者らしい者が騒ぎ始めた。一体何だというのか?


「悪いな……この焔は、魔物を片っ端から燃やしきる性質があるんだが、魔人に効果があるかどうかは、試した事が無かったんだ。こいつは、ヴァンパイアも燃やすと考えていたらしい」

「……それは、わたくし共をオニザルと同列と見ていたという事でしょうか……?」

「えっ……いや、えっ?……違うの?」

 勝手におかしな妄想を抱いていたらしい従者は、2人に睨まれて戸惑っている。


「まあ……悪いな……それと、もう1人立候補……どこかで会ったか?」

 憤懣遣る瀬無いながらに、穏やかにしているレッサーヴァンパイアに謝った後、もう1人、横にいる者に語り掛けている。先程もいた、クロヒョウの獣人だ。


「……以前は申し訳なかった。あのネコの獣人は、居るか……?」

 全く話が噛み合っていない事を言い出したクロヒョウ。しかし、それで彼は思い当たったようだ。納得して頷いている。


 そして、

「ああ、死んだ」

 一言、恐ろしい事を言う。それにはクロヒョウも驚いたようだ。


「……っ!?何故!」

「まあ、聞いているかは知らないけど、王女が誘拐されてな。俺が姉弟と一緒に救出したんだが、その後あいつが仲間と駆け付けたところで、狙撃されたんだ」

 何か物騒な話をしている。バートの記憶にある限り、噂の戦争の理由となった事件であったはず。もう、国で知らない者は居ない。情報が回らない、奴隷連中以外は。


 そもそも、炭鉱などで働かされていれば、そのような情報など、有っても意味は無い。

 耳に入る事はあるが、どうせ明日も分からぬ命となった身なのだ。落盤で死ぬか、病気で死ぬか、鞭で打たれ過ぎて死ぬか……穏やかに死ねる環境に無い者からしたら、あまり関係のない事だ。


 そんな環境でも生き抜き、逃げ出す事を考えて情報を集めていたバートはともかく、彼は知っているとは、あまり思えない。


「……」

 だが、何が理由か、あるいはその瞬間に理解したのか、歯噛みするクロヒョウの獣人。一体、何の関係があったのだろうか?


「ヴァン……こいつ、知り合いか?……ミーシャを知っているって……?」

 従者も同じ思いらしい。直接聞く辺り、従者としてなっていないと思うのだが。


「ああ、ユウタは見て無いっけ?こいつ、王女を暗殺しようとして、アリスとミーシャにやられた奴だ。そうだろ?」

「はああ!?」

 驚く従者に対し、頷いて肯定するクロヒョウ。よりによって、暗殺者を開放するとは、この狼は何を考えているのやら?


「あれは仕事故、我の望むか否かに関わらず、やらねばならなかった事。しかし、申し訳なかった……」

「まあ、仕方ないよ。暗殺ギルドの情報流してくれたんだし、全部水に流すよ。でも、なんでミーシャなんかを気にしたんだ?あいつは一般市民だぞ?」

 いやらしい笑みを浮かべる狼には、ちょっと思う所もあるが、確かに暗殺者が何を元に、普通の娘を気にする理由とするのか、気になる所はある。


 それに対して、クロヒョウは、

「才能ある、と感じたのだが……」

「それは暗殺者としてか?俺達は一応、冒険者なんだが?」

「……どちらもだ」

 闘いの才能、とでも言いたいのだろうか?そんな可能性を感じていたらしい。集まっていた領主となった狼の仲間に獣人が居ない事が、気になる理由だったのかもしれない。

 だが、ヒトが死ぬ事などざらにある。これから先は、更に多くなることだろう。何しろ戦争になると、宣言されたばかりなのだ。前線では異常な数の死人が出るだろう。

 ましてここには既に、帝国の兵が進軍してきていたのだ。本当なら誰か死んでいていいはず。実際にはその兵の方が、死んでいるのだが。


「とにかく、合計3名が戦争に向かう兵として立候補、って事でいいかな?名前と、立候補の理由、教えて欲しいんだが」

 ヴァンと名乗った狼の獣人は、嗤って肩をすくめている。


「バート。さっきの騒ぎの時の通り、ゴーレムマスターや。虫くらいの大きさで偵察するだけやない。本気になったら、巨人族を百人従えるくらいの戦力と思ってくれりゃええ。

 戦争に立候補したいんやない。ワイらを糞扱いする、貴族や騎士が死ぬのを見たいんや」

 健全とは言えない理由を並べる自分に、狼の獣人は嗤って頷いている。理解できるのだろうが、本当にこれでいいのか、バート自身訝しんでいる。


「クリフトン。先に言った通り、ヴァンパイアです。この地にそのまま残っても、わたくしには生き残れない可能性が高いので。戦場で役に立つ技術は無いですが、幻術は得意ですよ」

 血を啜らねば生きられないヴァンパイアにしてみれば、ここはただ退屈な死に場所らしい。ヒトを襲っていれば、改めて犯罪者ともされかねないから、仕方ないだろう。彼らは別に狩りの力があるという程でもない。食うに食えねば、先は見えている。


「アーロン……殺ししか、生き方を知らない」

 クロヒョウの獣人は、ヴァンパイア以上の物騒さだ。こんな奴らと一緒で、本当にいいのだろうか?戦争だからと言って、闇討ちだの、暗殺だのと言った技術は、役に立つとは思えないのだが。


「ああ、分かった。それで……」

「ちょ、ちょっと待って、ヴァン!そもそも、ヴァンパイアが獣人に紛れ込んでいるって、おかしくないか?もしかしたら、こいつ敵かもしれないじゃないか!そこんとこどうなんだよう!」

 従者らしい頼りない男は、震えながら腰にある、黄金色のエストックを掴んでいる。いざとなったら抜く気らしいのだが、アダマンタイト製らしい高級品を扱えるほどの技量は、彼にはなさそうに見える。


「あ、こいつはユウタ。基本役立たずな冒険者だ」

「ちょ?!」

「理解力がかなり痛い奴だから、勘弁してくれ。敵意をこっちに持っている奴だったら、さっきの帝国兵のように焼かれているはずなのに、それをまだ理解していないんだ。まあ、あとで見れば、分かるんだろうけどさ」

 混乱している従者を尻目に、狼は嗤う。実際にゴーレム越しで見たバートからすれば、自分が敵だとして、どうやってこの炎に抗えばいいのか、想像がつかないのだが。

 せいぜいが、自分のゴーレムを使って、遠隔操作で仕掛けるくらいの方法しかないと言った所か。生身では無理だ。


「獣人奴隷解放の一報が届いて、自棄になった領主が、ついでに纏めて捨てたんですよ。わたくしはそんな酷い嫌がらせを受けていませんでしたが、彼にとっては厄介な存在だったのかもしれないですね」

 血を啜る種族であるが為に、生の血を手に入れなければならないからこそ、嫌がったのかもしれない。その前に捨てるタイミング……という話でもないのかもしれない。そもそも、なぜ奴隷にされていたのかすら、謎だ。


「……で、でも……この領地の人を、襲ったり……」

「いや、ヴァンパイアが啜る血って、イノシシとかでもよかったよな?俺が狩り獲った獲物の血を啜るのでもいいか?」

「は?」

「ええ、わたくしは構いません。下手にニンゲンの不味い血を啜るくらいなら……」

「って、不味いのかよう!人間の血じゃないとダメだと思ったじゃないかあ!」

「ええ、まあ……卷族を増やす為に、上位のヴァンパイアだったらやるかもしれませんが、下位の存在では意味無いですし。上位でも、ニンゲンの血が不味過ぎて、卷族を作った後に()()人も、少なくないそうですから……」

 ……結構有名な話なのではなかったか……何故、彼は知らないのだろうか?役立たずと言われた理由が、この短時間でかなり分かった気がする。


「……でも、体を……」

「蝙蝠や霧にする事は出来ない……一番最初にイフリータさんに教えられて、つい突っ込んじゃったんだよなあ……実際には、幻術だった訳だ……」

「ええ、幻覚を与えて、幾らでも錯乱させたりは出来ますが……それくらいしか、種族特性ないですから」

「地味……」

 先天的に持っている能力を地味という彼は、ヴァンパイアを一体何だと思っていたのだろうか?しかも、さっきから引っ掻き回してばかりで、先に進まない。


「そろそろええか?ええ加減、先を話したいんやけど。領主はんは、ワイらに何させたいんや?戦争っちゅうても、暗殺やら幻術やらだけでは、やっていけへんで」

 そもそも立候補した兵が3名。そんな数で、どうやって戦争をするというのか?不可能だ。いくらゴーレムマスターが百人隊長と言えるだけの戦力であるとしても、だ。残り2人も、戦争向けのチカラがある訳では無い。

 相手は万単位。一人一人の技量も違ってくるから、中には一騎当千の者も居る。そんな者ばかり集めた精鋭の場合もある。

 こちらは狼の彼を除けば、暗殺者だけが高い技量を持っているだけ。バート自身は大して強く無い。ヴァンパイアの特性を加えても、クリフトンは戦える人物ではない。

 数でも技量でも、勝てる要素が少ないのだ。


「ああ、王国から騎士団を派遣される事になっている。俺は要らないと言ったんだけどね。監視したいんだろうな。

 戦場には俺独りで行く。3人は合戦の場に出たりなんてしなくていい。そもそも、アナログすぎる上に時代遅れ過ぎる戦場なんだ。それでも帝国は、勝てると思っているらしい。人の数が多ければ、それが戦力だと思い込んでいるんだろうな」

 実際に人の数がイコールで暴力の筈なのだが、彼にはそうではないと言える考えがあるらしい。だから、幻術が得意なヴァンパイアや、暗殺者などが居ても、微塵も動じないのだろう。恐らく彼の中では、作戦が立っているのだ。


「ところで……」

 そんな事よりも、彼は気になる事があるようだ。


「領主と呼ぶのは、止めてくれ。俺はあくまで、狩人なんだ」

 ……冒険者じゃなかったのか?有名な詩もあるくせに?それに事実、領主だ。


「ですが、実際の主となるのは事実です。体裁を整える為にも……」

「せやな、格好つかんっちゅうもんや。領主がダメやったら……主とか……」

「いや……上下関係とか、どうでもいい。俺に反発する貴族が居たら、一族郎党頭からしゃぶりつくすって、喧嘩売っておいたし。あんな奴らと一緒にされたくない」

 何をやっているのか……?貴族同士のゴマのすり合いは、彼には向かなさそうだ。


「旦那ー!こっちの方は大体片つきやしたぜ!そのままアリス嬢と、畑の方向かわせてもらいまさぁ!」

 離れている場所で、キツツキらしい獣人が手を挙げている。狼に向けて言っているのか?


「ああ、頼む!……まあ、とにかく……」

「領主はあかんけど、旦那なら、ええんやな?」

「……あん?」

 よく分からないやり取りだったが、その中に分かる事があった。何が理由かは知らないが、彼らの間には充分な信頼があり、自然と呼び方が定着している事になる。

 そして、表に出ていなかった獣人の仲間が居る。もしやすれば、まだまだいるのかもしれない。何十人いるのかは知らないが。


「いや、あいつは誰に対しても……」

「ええやん、旦那」

「確かにそうですね、旦那様と呼びましょう。領主なのですし」

「……ウム、異論無い」

「おーい……」


 何やら、随分と覇気がない獣人と魔人の4名の会話が続く横で、ユウタは人知れずに思う。ヴァンパイアがそんな、威厳も何も無さそうな種族だというなら、闇の王って何なのかと。黒幕らしい奴って、どんな種族なのかと。


「ああ、もういい。分かった……」

「旦那、宜しく頼み申す」

「意外と固い喋り方だよな、暗殺者……?まあいいや、行こう」


 そんなユウタの事を、彼らは全く気にしていないようだ。


 これから先の戦場は当面、この4人で進んでいくのだから、当然なのかもしれない。


精霊のボヤキ:

――なんでユーシャは付いて来たの?――

 事実上、ジューシャになったからね。やらなくていいっつったんだが……

――出来る事って……――

 荷物持ち以外、出来る事ないだろ?

――何となくそうじゃないかと思った――

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