B面 9話 冒険しよう
前回:――まな板とフワマル登場……ちょっと喋り方が違う?――
「ふーん、それでミーシャはここに来て、その子は冒険者の弟子ってのになっちゃったんだ。そいつ、どんなやつなの?」
今までのことをマリアちゃんとリリーちゃんに全部話した。同じ部屋で一緒に寝てるから、一番の仲良し。リンちゃんは、他の子と仲良くなったみたい。同じ部屋だけど、リンちゃんはもう寝ちゃってる。
「みゅー、あんまり覚えてないんだよね。白い獣人の子なのは確かなんだけど……」
「ハァ……それやと……さがすの、大変やぁない?……ってぇ…………」
「……話しながら寝ちゃった」
リリーちゃん、結構マイペース。それがかわいいんだけど。
「ま、明日それ話そ。また、ミーシャのうち探ししながらさ」
「う、うん……」
最近思うんだけど、わたしのおうち、この辺じゃないんじゃないかなぁ、って思う。でも、マリアちゃんなかなか話を聞いてくれないことがあるからなぁ……。
「おやすみ」
「うん、おやすみー」
考えるのは後にして、また明日……
――――――――――――――――――――
「それで、どうする?今日はどのあたりを探してみる?」
最近思う。多分、もう街の中で見てないのって、王女様のいるお城のあたりだけだと思う。だから、おうちを探すっていうより、街を探検してるような感じ。
「あっちにいってみる!」
午前中はシスターがお勉強とか見てくれて、文字を覚えた。数字の計算も、少しだけどできるようになってきた。それで分かったんだけど。
「うわぁ……黒いパン、銅貨で50ベル……スラムより安いんだぁ……」
「え、これスラムだといくらなのよ?」
「……3ジル」
「「高い!!」」
2人もびっくり。でも、わたしの方がもっとびっくり。1個でこんな高いのに、もっと高いお金払ってたなんて、わたしってバカだぁ。
「ふみゅぅ……」
「まぁ、その……金貨の人みたいに、お金をポイポイ投げる人もいるんだしさ……」
「それより、お肉の子って、どこに居るんかなぁ?冒険者ってウチよくわからんしぃ」
たしかに、冒険者ってなんだろう?
「お嬢さんたち、冒険者に興味がおありかな?」
公園を歩いてると、おじいさんが話しかけてきた。たまに悪いヒトがこうやって声をかけてきたり、いきなり連れ去ろうとしてくるから気をつけなきゃいけない。このヒトは、大丈夫かな?
「もしよろしければ、私がいろいろ教えてあげようか」
「おじいさん、冒険者なの?」
「いや、どうみてもモウロクジジイでしょ」
「マリアぁ、それはちょっと失礼やないか?」
「ハハハ!耄碌は事実かもねぇ。そうでなきゃあ、こうして仕事もせずに、街で子供に話しかけられないからねぇ」
認めちゃった……。
「だってさ、行こ」
「待って、1つだけ……。冒険者の弟子で、白い獣人の子供って、知ってる?」
スラムから孤児院に来て、もう5年たった。それでもあの子は来てくれない。キライになっちゃったんだと思う。けど、今どうしてるか知りたい。わたしは元気だよって、伝えたい。
「この街の子でなら、1人……あぁ、ちょうど吟遊詩人が来たね。あの人に、『焔の銀狼』を歌ってもらえばいい。その子の事だからねぇ」
あの子は白いのに、ギンローって言ってる。違う子?おじいさんの言う通りに詩人さんに歌ってもらった。
その歌は、まるでおとぎ話のようなこと。すごく怖いドラゴンが街を襲って来たのにそれをたった1人で戦って抑えて、後から来た師匠が必殺技で倒して犠牲者が出るのを防いだり、物凄く大きい巨人を倒して村人を守ったり。
すごい、こんな人いるんだ!でも、やっぱり、白い犬の子じゃなくて『ギンイロのオオカミ』っていってる。
「似てるけど、別の子じゃない?」
「うーん、どうやろうなぁ……?」
2人も、違うような気がするみたい。でも…
「もしかしたら、冒険者になったらあの子と会えるかもしれない。そしたら、いろいろお話しできるよ、きっと」
「えー!そろそろ私たちも仕事のこと考える時期だけどさ、冒険者って危なそうだし、面倒くさそうじゃない?」
マリアちゃんは嫌そう。でも、あの子を探すなら、聞いてみていいかもしれない。
「でも、聞いてみるだけ……ネ!」
それで、おじいさんの話を聞いてみることにした。
――――――――――――――――――――
「アタシ、絶対にシーカーやる!」
マリアちゃん、面倒くさいって言ってたのに、話聞いたらやる気満々になった……すごい変わり身。おじいさんは『トレジャーハンター』だったって言ってるけど。結構前に辞めっちゃったみたい。知り合いに冒険者の引退した人がいるから、やり方を教えてくれるって話してくれた。
「いやいや、お嬢さんはきっと、剣とか槍の方が……」
「そんなあぶないもの振り回してる女の人っていないでしょ」
「かなりいるんだがねぇ……」
おじいさん、ヒョウ爺って呼んでって言ったっけ。ヒョウ爺、苦笑いしてる。
「ミーシャはシーフな感じかな?」
「わたし、やっぱりドロボーなんだ……」
「冒険者のシーフって、泥棒じゃないでしょ。犯罪者じゃないんだから。んで、リリーは魔法使い」
なんかマリアちゃん、勝手にわたしたちのやること決めちゃった……
「えぇー、ウチ、魔法使えるやろか?」
「適性がないのであれば、錬金術師という手もある。少ないマナでかなりの成果を出せる者がいるのだよ。いろいろ試してみるといい」
ヒョウ爺なんか楽しそう。
「でも、どうして急にやる気だしたの?」
「そんなん決まってるじゃない、大金持ちになれるんだよ?そんな仕事、やらなくてどうするの?もったいないじゃない!」
……うわぁ。お金なんだ。そういえばマリアちゃん、小さい時から孤児院にいるから、おうちから持ってきた物もないし、自由にできるお金もないんだっけ。だから、かな?
それから、教えてもらった場所に行って、冒険者のやり方とか、技とか、いろいろ教えてもらえた。うまくいかないこともあったけど、でも楽しかった。
――――――――――――――――――――
冒険者になる日、それが今日。色んな事教わって、できること覚えてきたつもり。
「うー……やっぱ、ウチには無理なんやないやろか……」
「リリー、弱音吐いてても何も変わらないでしょ。アタシらはもう、冒険者になるって決めたんだから」
マリアちゃん、カッコいい……って思ったけど、マリアちゃんも顔が青くなって震えてる。リリーちゃんは気づいてないみたい。
「今日は申し込み用紙を出すだけ。だから大丈夫だよ」
わたしは、平気。あの子もどこかで冒険者になる修行してるんだ。わたし達は1人でやるんじゃないんだから、大丈夫。
ギルドのドアをあけて、中に入って、受付のヒトにお話をしに行った。申し込み用紙に名前とかいろいろ書いて、教会で貰って来たステータスリストっていうのを一緒に出して、面接して、その日は帰った。明後日にまた集まってくださいって言われた。すぐにお仕事できるんじゃないんだね。意外。
2日後に集まって、周りを見回す。凄い沢山のヒトが来てる。並人が多いけど、たまに、魔人とか、ドワーフがいる……そういえば、リリーちゃんはドワーフのハーフなんだっけ。だから、他のヒトよりちょっと背が小さい。でも体つきはボンキュッボン……ウラヤマシィ……。
「ハァイ!それじゃぁ、みんな集まったみたいだし、これから模擬戦を行いまぁす!戦闘スタイルごとに分かれてくださぁい!」
「何あの人、あの服装かっこよくない?」
前に立っているエルフさんに、マリアちゃんがなんか感激してる。でもあの人、上の服の裾を縛ってお腹出してるし、下のズボンは破って短くしてある。お肌出しすぎてハレンチっていうヤツじゃないのかなぁ?
それからみんなが戦い終わるまで、順番に並んで、戦い終わったら5人以上のグループを作るように言われた。そんな話は聞いてなかったんだけど……
「なあ、あんたら、俺達と組まねぇか?」
知らない人に声をかけられた。2人組だ。
「おい、獣人もいるじゃねぇか」
「ミーシャの子と悪く言うんなら、お断り。アンタらと組む意味なんてないんだけど?」
「まあ、そういうなよ。冒険者になるなら種族は関係ねえってんだからよ!」
……そうなの?それも知らない。
「とにかく、俺達で組もう。な、それがいい」
この男の人はなんか強引だけど、わたし達が声かけた時みんな嫌そうな顔をして私を見てから、離れてった。他にいいヒトもいないかもしれない。
「なんかやましい下心あるんじゃない?」
マリアちゃん、疑ってる。あんまり疑ってもよくないんだけどな……あの子も、師匠さんが、確かヒト?だったはずだし、がんばれば仲良くなれるんだよ、どんなヒトが相手でも。
「ないない、別にかわいいとかエロいとかで選んだわけじゃ……」
「あ、今ウソの匂いした」
「ほらやっぱり……」
つい、言っちゃった。でもほかに組めるヒトいないから仕方なく組んだ。これで5人。
「でさぁ、俺聞いちゃったんだよ。明日の試験が本番だってこと。危険な仕事選ばないと、自由にさせてもらえないらしいんだよね。でも、危ない事したくないじゃん」
マリアちゃんの肩に手をまわして、腕払われながらそんな風に言う。
「だからさ、ゴブリン退治を選ぼうと思う。そしたら、現職のヒトがいろいろ教えてくれるらしいしさ」
その後のお仕事で、このヒトゴブリンの毒ナイフ受けて、泡吹いて気絶していた。それから少しして、やめちゃった。なんだったんだろう?
――――――――――――――――――――
『おお、ここまで来たか……後半随分早かった気がするが……それ程接する事もなく、同時に様々な経験をして目まぐるしく生活していたという事か……』
――いえ、ほとんど普通に遊んでいただけらしいです――
『そうか……良い事だ』
――……良いんですか、これ?――
『それで、事の顛末はどうなるのだ……?』
――さっき報告したとおりだから、おおよそ予想できているんでしょうけど……?――
『解っていないな……その間に、ヒトの心を理解する最大の秘訣が、存在しているんだよ』
――……誤魔化そうとなんて、してませんよね……?まあ、話しますけど――
『dkdk、wkwk』
――……聖霊王様、大丈夫ですか?――
精霊のボヤキ:
うぅ……あいつ何でよりによって……
――ねぇ、ここから覗けるんでしょぉ?見てみよぉ?――
まあ……ちょっとだけ……?
――……あれって、半ドワーフ?……?うわー……小さくなって丸まってる……――
もともと背も小さいのに……
――黒髪も酷いねぇ……全力で走って逃げてる――
……鍛錬も糞もねえ
――……ネコも……――
てんぱって動きが滅茶苦茶じゃねえか。何やってんだ、あいつら?




