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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
まいごのこねこ
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B面 6話 因果

前回:――森の小さな料理人のお客さん――

 ザーザー雨がふってる。


 ……やまない。ずっとずーっと雨ばっかり。今までこんなふうに雨ふったことなんてあんまりなかったのに。これじゃ、おさかなはやっぱり、ムリ。


 今日はあそこ、行ってみよう。


――――――――――――――――――――


 スラムでもここだけ、ヒトがいっぱいでガヤガヤしてる。いろんなお店があるけど、ゴハンがかえるお店じゃないと。


 今は雨がちょっとだけ。だから、おうちにかえるまでのじかんでも、あんまりぬれない。おっきなトリのおにくをつるしたお店にきてみる。


「これ、いくら?」

 トリのおにくをさして、きいてみる。

「8ジルだよ」

「それって、どのお金?」

「何だい、金の勘定すら知らないのかい!あっち行きな、シッシッ!」


 お店のオバサンにおこられた。知らないんだから、教えてくれてもいいじゃない。プリプリしながら、ほかのお店も回ってみる。しんせつなヒト、いない。お金のつかい方、教えてくれない。わたしの村のヒトなら、もっといろいろ教えてくれるんだけど、ここのヒトはヒドいヒトばっかり。やんなっちゃう。


 パン屋さんで3ジルってぎんいろのお金で、ながくてかたいパンをかった。でも、そのあと、雨がザーザーふってきて、おうちに帰るころにはパンがクタァってなってた。


 ダンロで、かわかせばもどるかなぁ?って思ったけど、あんまりもどらなかった。もえちゃわなかっただけ、マシ。クタァってしたパン、食べたけど、あんまりおいしくない。


 ヴァンくん、ジャムはパンにつけるとおいしいって言ってた気がする。むらさき色のブリューのジャムちょっとかけてみる。ちょっとだけおいしくなった。でも、グチャグチャー……。


 ヴァンくん、このあと、わたしがねてるときに、来てたみたい。

 つぎの日には、いつものおにくが、バスケットの中に入ってる。ベーコンとハム、ソーセージも入ってた。すごい、こんなのできるんだ!


――――――――――――――――――――


 ルリア・クルーゼンは、興奮していた。ここ最近、珍しい3色の毛色の猫の獣人の子供が、スラムに潜んでいるという噂を聞いた為だ。


 ぬかるんだ地面に足を取られないよう気をつけながら、歩を進める。優雅にひらめく赤いドレスに泥が跳ねようが、普段ならいざ知らず、今は気にも留めない。


 服にそろえた色の傘が雨に濡れる。その雨ですら、彼女を飾るアクセサリーとなる。


「それは本当なのですね?」

「はい、スラムの裏アーケードから入手した情報から遡り、結論に至りました。裏も取れております。確実に、います」


 執事の青年セバスは、はっきりと言い切る。今こそ前線を退いたものの、ダンジョン攻略一家の下、腕利きシーカーとしてそれなりに名を売った男だ。間違いようがない。


「ですが、本当におやりになられるのですか?これがバレれば罰金では済まされないかもしれませんよ?」

 本当にいつも、このお手伝いは小うるさい。どこの小姑だろうか。ミルはルリアにしつこく付きまといながら、小言を漏らす。


「ただのお手伝いがワタクシに何を……意味を分かって言ってらっしゃいますのかしら?」


 仮にも伯爵家の一人娘ともなれば、かなり顔が利く。まして、王女との深い交友を持った人物ともなれば、どんな理由で在れ向こうから近づいてくる。


 その気になれば婿養子は好きなように選べるし、あるいは公爵家でも貰い手がある立場だ。跡取りである為に、公爵家でも分家が相手となるだろうが。上位貴族以外、王族とは早々関われない。分家となったら、謁見も難しくなる。


 多少なり癖のある人物とは言え、ルリアも王女と同じ嗜好を持っている。決して疚しい感情があるのではないが、毛並みの美しさに見とれない訳にはいかない獣人だ。その皮が包むしなやかな肢体、愛でぬ訳にはいかない。


 野性的なその美を、王女とは共感しているだけに過ぎないのだ。毛並みの良い尻尾で撫ぜられる心地よさを、知っているだけなのだ。


 だが、故に親交を持てたのだ。

 そして、その王女との交友も、この事柄に深く関係している。


「もし、行く手のない、可哀想な迷い子でしたら……王女も喜ぶ、その子も喜ぶ、ワタクシも幸せになる。これのどこに問題があると言うのです?」

「獣人の子供というだけで、充分に問題があります!」


 ミルはやはり、その手の人物なのだろう。付き合いは短いが、これだけでヒトが知れる。雇ってから3か月、しつこく付いてくるだけで、ろくな仕事ができはしないメイドだ。そろそろ扱いを考えていいのかも知れない。


「獣人だからといって、種族を戦犯として扱い、時には極刑に処すこともやぶさかではない、愚劣にして、愚鈍たる思考の、愚者の仲間なのだな。


 あの崇高ともいえる、フワフワで、サラサラで、モフモフな毛並みを前に、あまりにも愚かな考えを持つものだ。


 愚者足りえる者は並人にも幾らでも居る。一体、如何なる愚鈍共が、毎年愚劣な行いで極刑に処されるか判っているのか……怪しいな、ミルは」


「お考えが全部、お声になっております」

 ふむ、たまにこうして余計なことを口にしてしまうのがワタクシの玉に瑕と言うべき処か。セバスの言でようやく気付いた。ミルはといえば、恨みがましそうにこちらを睨みつけている。

 目に余るなら、暇を出すことも考えようか。


「ここでございます、お嬢様」

 考え事をしていると、目的となる廃寺院に到着した。スラムにある、というだけで、十分恐ろしい。それが、ここまで崩れていると最早悍ましい。ともすれば、新たな怪奇の館とも呼ばれかねない風貌である。


 こんな場所で、たった一人で生活しているとは……


「やはりやめましょう。家名に傷が付くだけです」

「お前はなんと、疎ましい。やはり、そろそろ暇を与えようか」


 冷たい目で言い放つと、突然顔が青くなる。そりゃあそうだろう。没落男爵家からどうにかと押し付けられただけの仕事のできない邪魔者だ。暇を与えられ、追い返されればそれこそ、手に負えなくなる。彼女の方が、だが。


「ミル様、お嬢様は仙狐を落札された時から、既に6名の獣人を引き取られております。そして、全ての方にお優しく振舞われております。最早手遅れとも、邪推とも取れるお言葉は慎まれてください」

「お前はどちらの味方なのだ、セバス」


 下らぬ戯言に時間を使った。哀れな子猫を早くわが家へ迎えねば。そう思っていた矢先の事。雷鳴が轟く。


――ミィギィイイイアアアアァアァァァァ――

 うっすらと開かれた扉から、くぐもった暗い、深く悍ましい声が聞こえた。


「何の音ですの?まさか、子猫に何かが……」

「お嬢様、お下がりください。敵です」


 気配から敵を感じ取るセバス。夕暮れから闇へと変わりかけた時刻。そうなれば、魔物の一つや二つ当たり前のことだ。その為のセバスでもある。


「いざとなればワタクシも戦えます。前衛はもちろん任せますが」

『ヴァアアアァァァ』


 姿は見えないものの、この声は確実にゾンビ。まぁ、少しの数を退けるだけなら、セバスで事足りる。そう思っていたのは、ほんの数秒前。


「何ですか、あれ、アッヅァアァ!」

 ミルが少し動いた瞬間に何かに弾かれる。が、気にも留めていられない。炎に包まれたアンデットがこちらに暴れながら近づいてくる。


『ア゛ぁーメ゛ェマ゛ア゛アアアァァァァ』

「フ……フレイムゾンビ!?何故ここに!あれは流石に私も敵いません!お嬢様、お逃げください!ここは私共が!」

「どもって、私もですかアヅァ!」

 こんな時にミルは何をやっているのか?


 それよりも、現れた難敵をどうにかせねばならぬというのに。少し袖が焼け、指や肘の辺りが焦げているが、一体どこで焼いたのやら。屋敷の衣服なのだ、もう少し低調に扱って頂きたいものだ。


「もしかして、嘆く宵闇のエミリがここにいるとかじゃないですよね?」

 ミルは、別大陸イグドレッドのどこかにいるという、怪奇の象徴の名をあげる。確かにそれは様々なアンデットの親玉だというが、しかし……


「奴は結界を張り、近づくものを干からびさせ、腐らせるといいます。私が受けた痛みはもしや、マミーにするための……」


 ミルは怯えた顔で言う。確かに、噂にはそう聞く。しかし、詭弁だ。出会ったものは皆帰らぬなどという与太話、呪いを受けた人間がどうやって広めるというのか。全て死ぬのであれば、矛盾している。


「そのようなものが、いるはずが」


――デエエェェェテェェケエエエェェ、ヤルアアァァゥレエエェェェェェ――

『ダギャアアアァァァ!ダラヴェッヂャ!ヅラアアアァァァ!』


 恐ろしい掛け声と共に、大量のフレイムゾンビが溢れ出す。どこから湧いてくるのやら、分かりはしない。

 ……いる、確実に居てはいけない何かが居る。もしやしたら、愛らしく可哀想な子猫は最早…………


「「「ひいぃぃぎゃああぁぁぁ!」」」

『ダァメ゛ダゴリャアアアァァァ』


――背を向けて逃げる3人には、その後燃え盛るゾンビが崩れ、炭になり、灰となって消えていく音が、壮絶に暴れる亡者の怒りに聞こえたという。


 そして、それは翌朝、冒険者ギルドに伝えられ、貴賓ということもあり、とある有名な2人組の冒険者に委ねられた。


――――――――――――――――――――


 なんか知らないけど、すごくきれいな金色のかみのおねーさんと、金色と銀色の間の色のかみのおねーさんが、お昼ゴハンの時に来た。


 金色のおねーさん、なんかおこってる。

「本当に何も知らないわけぇ?」


「エリナ、顔こわいから。もう少し優しく」

 もう1人のおねーさんがささやいている。聞こえてるよ?


「しらない。オバケなんて何も知らない」

 本当に知らない。だって、あの子が作ったケッカイでかってにスミになっちゃうんだから。もしかしたらダンロに入れればよく燃えるかもしれない……やりたくないけど。


 きっと、このおねーさんたちは、わたしがおにくドロボーしたからおこってきたんだ。だから、何も教えてあげない。

 もしかしたら、あの子をイジメてるのかもしれない。この前みたいに、氷でイタズラされて、おこってるのかも。そしたら、もっとダメ。


「昨日の夜のことは覚えてる?そのことでさぁ、困ってるんだよねぇ」

 すっごくこわい顔で、しずかに話してる。その声にゾクってしてもっと怖くなる。しっぽシュンってする。


「何か知ってるの?知ってる事、全部言って」

「エリナ!」

「カミナリ、びしゃああぁぁってしてた。それしか知らない。お外でなにかあっても、しらない。カミナリこわいもん」

「ウグッ……」

 なんか、ピシィってかたくなった。なんだろう?


「ねぇ。もう1つ聞いてもいいかなぁ?」

「いや!」

「最近この辺りで、白い狼の子供、見なかった?」


 いやって言ってるのに、聞いてきた。このヒト、きっとわるいヒト!多分、あの子をイジメるために、イジメる方法をかんがえてるんだ!


「しらないしらないしらにゃいしらないしらにゃいしらない!」

 ちかくにあった木をもって、ブンブンふる。あたらなくてもブンブンする!ブンブン!


「ちょっ!ちょっと待って!わかった、わかったから!」

「ねぇ。じゃぁ、これはわかる?ここの結界、誰が張ったか。さっき怖い思いさせたのは謝るからさ、教えてぇ?……ねぇ」

「しらない!」


 ブンってふった木のボウがポカって当たったのに、おねーさん、ゼンゼンいたくなさそう。

「それは、ウソね」

 わらってた。なんで笑ったのかは知らないけどあの子がイジメられるの……や。


「しら、ない……もん……」

「安心して、イジメたりなんてしないから」


 ……本当にあの子、イジメない?昨日は、カミナリ怖くて、ゾンビ出てきて、「出てけ!ヤダ、来るな」って言って泣いたことしか、覚えてないって言った。


 おねーさんたち、それで、納得して帰った。


――――――――――――――――――――


「それでさぁ、そのお嬢様には勝手してもらったら困るから、少しづつ説得していったわけ。わかるでしょぉ?ヴァンくん」

「いや、それを今話されてもね……何とも言い難い。ある意味、そのままゾンビ出なければ、あの子は幸せになっていたんだろうけど」

「でもさぁ、それだと『ヴァンくんどこにいる?』ってなると思うし、それで人狼騒ぎが問題になったら冒険者の立ち場がないってわけ。判るでしょぉ?」

「そりゃそうだ」

「ねえぇ。ホント、丸く収めるのに苦労したんだからぁ……」


 酒に酔った師匠を、俺は背中を叩いて労をねぎらう。とは言っても、数年経った後で、酔った師匠から聞かされた昔ばなしなんだけど。


 既に師弟関係を結んでから随分経って、ようやく聞かされた小話の内容の1つが、まさかの廃寺院のトラブル。


 王女と親交がある伯爵家令嬢が、スラムの闇市に居た三毛猫の噂を聞いて、廃寺院へ向かい、俺の作った結界によって焼かれるアンデッドを目撃、同席していた獣人嫌いメイドも結界に触れて肌が焼かれ、呼び出されて向かってみれば、怖がって泣きながら、棒切れを振り回す獣人の女の子を目撃。手も付けられない状態だった為に、その場は最小限の情報を手にして撤退。


 その後の経緯を話した伯爵家令嬢を何とか宥め、ごまかし、言い包めた、と言う話だ。まぁ、人生楽ありゃ苦もありだ。そして、


「そこが上手くいってると、俺の狙いも狂うし、師匠と会えたかも判らない。会えてもこうはなって無かった、ということか」

 妙な因果関係だ。


 ミーシャが伯爵家に保護された場合、俺の行方を探す理由が変わる可能性があった。

 が、俺は知らないままになった上で、ミーシャがどうなったか分からず混乱し、場合によっては暴挙に出る事になったかもしれない。

 暴挙って言っても、スラムでミーシャがどこへ行ったかを探し、奴隷狩りをしている奴を見つけ、吊し上げて、最悪の場合、初回遭遇時のように、殺す事になる、って事だが。


 人狼扱いは変わらないだろうから、殺しにかかっていたDQNチームはいつも通りとして、エリナさん達以外の冒険者も、俺を狙って探し、返り討ちにしていたかもしれない。俺は命を取るつもりは無かったが、それで領軍を駆り出されたりしようものなら、目も当てられない。


 流石にそこまでいかないとしても、今より良い環境も有り得たのかもしれないし、最悪の方向に流れた可能性もあった、と言う事だ。


「そういうことぉ……だから褒めてぇ……」

「ヨーシヨシヨシ、オシオシオシオシ」

 両の肩を抱き、片手でトントンとリズムをつけて叩く。リズムは片手で測ってる、心拍数によるものだ。こうすれば、心理的な影響で快楽を誘い、上手く行けば落ちつ……


「ヴァンぐん!ああああああぁぁぁぁぁ!」

 ……かなかった。やりすぎで、猛烈な勢いで泣いて抱き着いてくる。


 それは過去に置いても同じ。その件で、あの廃寺院は1つの心霊スポットとなり、アンデッドの上位互換、荒野に現れる事が極稀にある、フレイムアンデッドに見える輩が現れ、生半可なものを近づけず、そして大半が『獣人悪し』としている風潮が故に、結界に触れた者が肌が焼かれ、恐怖の象徴としての噂が広がった。


 結果、大陸最恐の心霊スポットの1つとなった、という落ちである。


 そこで1つ、言わせてもらいたい。俺は、大事な者を守りたい、そう思っただけだ。

 だからこそ、言いたい事がある。

「なんだあああぁぁぁぁ、そりりりりりりゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺の叫びは、別大陸の、その話の元となった噂話の土地の近くの宿場町で、そんなに大きくない酒場で、響き渡っていた。


精霊のボヤキ:

――もしこのお嬢様に、アンタとネコが捕まったら、どうする?――

 ……それは、条件次第というか……?

――また下手な交渉するの?――

 生き残れる条件さえあればね。

――……金髪とか、しゃしゃり出てきそうな気がするけど?――

 いや、無いでしょ……無いよね?

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