B面 3話 かえるばしょ
前回:――地下の探検?まあ、危険探しているし……でも意味違くない?――
じめんの下のタンケンからかえってきて、ゴハンをとってこようって、あの子がいった。
わたしは近くにあった小川で、おさかなをとっていた。あの子は木にのぼって、木の実をとってたみたい。
「すげぇ、熊みたい……」
「みゅ?」
クマってなにかしらないけど、おさかなはビンタしてとるものでしょ?ふつうじゃない?
「とにかく、この魚焼いて食べよう……おっと」
そういって、おさかなに目をむけていたその子が、あわててふりむいた。そっちのほうから、いきなりうさぎさんが、ピョーンッてとんできた。あそんでほしいのかな、って思ってたら、その子、うさぎさんのツノをつかまえて、くび切っちゃった。
「あー!ひどい!」
わたしの思ったことはふつう、だと思ったんだけど、その子、
「いや、こいつはこの角で相手の事串刺しにしようとするんだよ。ほらまた」
そう言ってその子が、うしろにうごいたら、その子のいたところに、うさぎさん、ぴょんぴょーんって、2匹とんできて、ちかくの木にツノをつきさして、ぬけなくなったみたい。へんなの。
「このウサギも焼いて食べられるから、ちょっと待っててね。そのまま魚取ってていいよ」
うさぎさんたべるなんて、ひどいんだぁ。その子は木のかげにかくれて、何かごそごそしていたけど、すこししたら、おにくをもってきた。……どこからもってきたんだろう?うさぎさん、どこいっちゃったの?
それから、おおきいおうちにもどって、おにわで、とってきたおさかなと、あの子がどこからかもってきたお肉をやいて、たべた。
「これおいしぃ!」
「だね、結構いける。ウサギ肉って、意外と癖が少ないみたいだ」
「みゅみゅ!?」
このおにく、うさぎさんだったの?でも、おいしい……うさぎさん、ごめんねぇ。
「ご飯を食べたらこの建物の中を見てみよう。それから大精霊の力を借りて、結界を作る」
「けっかい?」
よくわからないことを、この子はふつうのことみたいにいう……ふしぎ。くびをよこに、コテンってする。なんでか、ヴァンくんニヨニヨわらってる。
「ほら、魚焼けたよ。少し背びれの先が焦げたけど、充分美味しいはずだから」
「すごいねぇ、この火、どうやってだしたの?」
「俺は火の属性が強いみたいでね。魔法で出したんだよ」
マホーってすごい。木に火をつけなくても、なにもないところから火がゴーゴーってでてる。ふしぎ。どうやってるんだろう。おかおをちかづけるとアツい。
「あんまり顔近づけると、ミーシャがこんがり焼けちゃうぞ」
「や!わたしおいしくないもん!」
「ぷっ!ハハハ」
ムウ……わらわれた。なんかムネがムシャムシャするから、かわりに、わたされたおさかなをムシャムシャする。
「ほら、バナナも食べてみ。ちょっと種多いけど、甘くて美味しいよ」
なんか、きいろいキノミをわたされた。さっきわたされた、くろいつぶつぶはなんかにがかったから、これもにがいかもしれない。ちょこっとだけ、かじってみる。
「あ、皮むかないとダメだよ」
またわらいながら、ヴァンくんがいう。ムウ……ちょっとかじっちゃった。まじゅい。
「ちゃんと言ってくれないと、わからないんだよ!いじわるぅ」
かわをむいて、なかを食べる。
「アッマァァァイッッッ!にゃにこれぇ!」
ほんとうに、あまくてフワフワでトロトロで、すごくおいしい。かんでないのにグニャァってなってる。でもなんか、ツブツブしたのがじゃま。なければいいのに。
ごはんを食べおわってから、大きいおうちにはいって、なかをタンケンする。いっかいは、すごく広くて、長いイスがたくさんあった。なんでこんなにイスあるんだろう。たくさんヒト来るのかな?でも、においはしない。なんこか、こわれてる。
「こっちは地下室かな?」
ヴァンくんが、ひだりの方のおくにある、アナみたいなかいだんを見てる。……おりてっちゃった。おいてかれる……やだ。
「まってぇ!」
「あ。ゴメンゴメン」
……もどってきてくれた。ヴァンくん、コーキシンオーセーだから、どこにでもじぶんで、かってにいっちゃう。手をつないでないと、どこに行くか、わからない。
「ん?どした?怖いとか……」
「みゅ!こわくないもん。ヴァンくんがいなくならないようにだもん」
それきいて、クスクスわらってる。ヘンなのぉ。
下のヘヤは、ものおきみたい。なんか、いっぱいある。おっきいハコとか、かわいいイスとか、おんなのヒトのかおのついたカタいドーゾーみたいのとか、なにこれぇ。
「ミーシャさん、アイアンメイデンは触らないで。それ、君が思ってるよりすごく怖いものだから」
「そうなの?ヘンなかたちのドーゾーでしょ?」
「拷問や処刑……じゃわからないか、イジメたり殺したりするための道具だよ」
「エー……」
「そもそも、何でここにあるんだろうね……要るのか、というか、同じものが何故にこの世界にある。ホント、意味が分からん」
ヴァンくん、なやみだした。何をかんがえてるんだろう。
「……鉈があるな。これは貰って行っていいかな。まだ2本あるし」
なんか四角いカタナひろったみたい。気にいったみたいで、ひもをかたにかけて、こしからぶらさげてる。
「そーゆーアブないのはダメなんだよ」
「俺は大丈夫。どういう危険があるかも使い方もよく判ってるから。そもそもこれは、木の枝を掃う時に使ったりするものだからね。薪を取る時とか、その位しか使わないよ」
「ムウ……いうこときかないわるい子だ」
「へへへ、そんなことないだろ」
ほめてないのにわらってる。やっぱり、ヘンな子。ムウ……
それから、いっかいにもどってから、おくのかいだんを、こんどはのぼってみる。ニカイのおへやに入る。ここはあんまりモノがない。ベッドと、ちいさいテーブルと、ダンロ。それに、ヌノがかかってるしかくい何か、紙みたいなモノに絵がかいてある。
「ここで寝られるね。イフリータ、ここで結界張っても、カタコンベの入り口に結界の効果は届くのか?……そうか、ならここでやろう。先に埃を焼いておいた方がいいか」
「……?」
ヴァンくん、なにかひとりでブツブツ言いってる。パンッって手をたたいたら、火がゴワァって言っておへやにひろがった。でもなにも、もえてない。マドのとびらをあけると、なんでか風がゴワァってふいた。ヴァンくんがやったのかな?やっぱり、すごくヘンな子。
ナニやってるんだろうって思ったら、ヴァンくんのせーれーさんが、フワフワういて出てきて、じめんになにか、かきはじめた。まるいせんのなかにいろんなカタチがかかれてく。
「我願う 故に精霊舞い踊る 空にあるマナを糧とし内なる火を巻き起こせ 精霊の智から現れるそれは炎となりて難敵を焼き焦がせ 難敵其は闇に住み我等の生活を阻むもの 焔はその主を以て闇を照らし難敵を闇へと導き還せ
精霊術式・攻勢結界――炎魔――」
ヴァンくんのブツブツがおわったら、せーれーさんがかいた、マルがしろくひかりだす。
「なにやったの?」
「ん?このお家に悪い奴が来れないようにしたんだよ。だから夜は絶対、このお家から出てはダメ。昼でも悪い奴から守ってくれるから、悪い奴が来たらここに逃げ込むこと。いいね?」
「なぁに?そのおかあさんみたいな言いかた。すごくしつれい」
こしに手をおいて、プンプンする。
「俺は男だからお父さんの方が正しい気がするんだけどなぁ」
「ムー!」
ヘンなイーワケしてる。やっぱりわるい子!
「とにかく約束して。夜と、悪い奴から逃げる時はここにいるんだ。お願いだから」
そういって、ヴァンくんがちかづいてきて、あたまに手をおく。しっぽがピンてして、ボサァってする。なんか、ハジュカシイ。わたしはヴァンくんからはなれて、ベッドのうしろにかくれる。
「してあげてもいいけど、そしたらどーなるの?なにか、イタズラとかかんがえてるんでしょ?」
「……なぜそうなる?ここに居たら安全ってことだよ」
ヴァンくんまた、アハハってわらってる。ナニがおかしかったんだろ。
「そろそろ日が暮れるし、もう寝ちゃおうか。俺は床で寝るから、ミーシャはベッド使いなよ」
まどのそとをみて、ヴァンくんが言った。おそとは、まっかがくろくなって、よるになろうとしてる。
「みゅ?一緒にベッドで寝ないの?」
「……1人で寝られないの?」
またニヨニヨわらってる。バカにしてぇ。ひとりでねて、さみしいのじぶんでしょ。
「いいもん。ひとりでねるから。ヴァンくんとはいっしょにねてあげない」
「ハイハイ」
まだニヨニヨしてる。みゅう……
それで、くらくなるまでお話しして、ヴァンくんがダンロに火をつけて、ねむくなってきたころに、おとがした。
――カラン……コロン……カラン、カラン、コロン――
「みゅっ!にゃにこのおとぉ……」
「……ゲゲゲのヒトの下駄の音みてぇだ……」
ヴァンくんなんかまた、よくわかんないこと言ってる。
――カラン……コロン……カラン、カラン、コロン――
「い、にゃぁぁぁ……」
からだがブルブルして、うまくうごかない。小さくしていれば、きっと音もとまる。こわいもなくなる。そうおもって、わたしはわたしのうでをギュってする。
――カラン……コロン……カランカラカラカラコロカタカタカカカコロカクカクコロカラカタカタコロンパリンカラカラカラ…………――
「に゛ゃああああぁぁぁ!」
「ちょっ!」
ヴァンくんもこわくて、だきついてき……ちがう、わたしがだきついちゃった。わたしの方がおねえちゃんなのに。だって、こわいんだから、しょうがない。
「ダイジョーブ……ダイジョーブ……」
でも、おねえちゃんだから、この子もきっとこわいから、アンシンさせてあげないとダメ。
ヴァンくん、だきついてきたわたしのことびっくりしてたみたいだけど、あたまなでて、耳をふさいでくれた。せなかもなでてくれてる。
しっぽがピン、ボサァして、ユラユラする。
「大丈夫、俺もいるから、大丈夫」
その日、たくさんのカランコロンって音がなったけど、その音がしてるあいだヴァンくん、ずっとなでてくれた。
あったかいのと、おひさまみたいなにおいがする、ヴァンくんにヨシヨシされながら、ねちゃった。
精霊のボヤキ:
――ゲゲゲの人って……?――
まあ、昔の話だ。気にするな。
――下駄って?――
木のサンダルとでも思えばいいよ
――なんでそんなもの思い出すの?――
たまたまだろ。意味はない。




