B面 1話 まいご
前回:――なんか成り上がった?――
『……それで?事情は分かったけど……』
――ゴメンナサイ!もうちょっと頑張りたかったんだけど、思いの外……――
『あー……いいから。ヒトって、よく分からない理由で死にたがったりするし、トラブって事故るよね。だから今回は……まあ、そんな感じで。そんな事より、封じられた記憶ってのは、見てきたのかい?』
――あ……え?はい。記憶を戻してすぐはぐちゃぐちゃになっていて、本人もまとめられていなかったみたいですけど、それを手伝って……――
『うん、じゃあ……話してくれないかな?』
――え……?――
『やっぱさ、面白いじゃん、コイバナ。ホラーとかサスペンスとかもいいけどさ、ハッピーエンドでもバッドエンドでも、コイバナって笑えたり泣けたり、色々あるじゃん。ほら、イフリータなんかも好きだったんじゃないか?』
――そりゃまあ……?事あるごとに話していたし、勉強しろとかも言われましたけど……?――
『うん、じゃあ、勉強だと思って話してよ。よろしく』
――え……ええーー!?……エーっと、ちょっと待ってくださいね……確か、最初は……?――
人の居ない森だった場所、今は林の中心にある、泉の中。そこで彼は、パートナーの記憶で見てきたことと、選別としてイフリータから渡された僅かな記憶を、最上位の上司たる、精霊王に話し始める。
精霊の泉に戻ったヒュプノに対する、最初の仕事の決算。それが、まさかのコイバナの報告だった。
思う所は色々あるが、一先ず……
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でっかいカベが、われた。そこから、ちゃいろい犬にのった、くろい犬のヒトがたくさん、こっちに向かってくる。なにかおおきな声でいってる。
「ヒャッハー!食いもんを渡せぇ!」
どんどんちかづいてくる、こわい……
「森に行って、隠れなさい」
おかーさんが、いった。でもこわくて、いきたくない。
「お願い、森の泉で隠れていて……いいこでしょ?ミーシャ」
……いいこなら、おかーさんのいうとおりに、しなきゃいけないから、わたしはいうとおりにする。しろい木がはえた森にむかって、はしる。
森のなか、はしってはしって、いーっぱいはしって、それでも、うしろから早いあしおとがきこえてきて、なにかさけんでる。わたしはこわくてなみだポロポロしちゃって、でもガマンして、はしって、
「おらぁ!こっち来いやガキィ!」
「あっ……」
森のなかの、ぬるぬるした地面をふんだときに、犬にのったオジサンがわたしをつきとばして、わたしはこけた。
……何かヘンなおとがした?
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「ぅうー……ぐしゃぐしゃぁ……ぅっ…………」
おかーさんが、きれいにしてくれたフクがどろどろで、ぐしゃぐしゃ……でも、いかなくちゃ、おかーさんがおこる。「いずみ」に行かなくちゃ。さっきいたオジサンいなくなってる。どこへいっちゃったんだろう。
――ガサッ――
「ニャッ?」
なにか音がした……ちがう。わたしがふんだ、じめんの音がしただけだ。びっくりしたぁ。
「……あれぇ?木が、ちゃいろくなってる?にゃんで?」
ふしぎぃ……いつも白いのに、木のかわが茶色くなってる。上に見えるハッパの形も、ちがう。いろんな形がある。みたことのない、小さいかわいー木もある。……こんなの、さっきあったっけ?
「……あっ、いずみに行かないと」
いろんなふしぎあるけど。今は……にゃんだっけ?「きんきゅーじたい」っていうんだっけ?だから、いずみでかくれて見つからないように……
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「あれぇ?……にゃんでぇ?」
いずみがあるところが、おおきな原っぱに、かわってる。ふしぎ…………ちがう。これはヘンっていうんだ。なんかヘン、オカシイ。おもしろくないけど、オカシイ。かえらなきゃ。
「おうちに帰らなきゃ……」
――私は、もしかしたら、もう2度と帰れないんじゃないかって思いながら、それでも怖いから考えないようにして、来た道を戻って走った。
その間、何も考えないようにしながら。お母さんに2度と会えないなんて思いたくなかったから。
森から出るとき、涙をぬぐって顔を上げた。
「どこ……ここ?おかーさん……」
まわりをキョロキョロ見る。しらないところ。
おうちがあったところは、でっかいゴミがじゃまをして、ストーンズおじさんのおうちの所なんて、今も、うえから「ドガシャーン」ってナニかがおっこちてくる。しらないところ、ヘン。おうちがあったところが、ちがうのになってる。
「みんな、どこぉ?おかーさん?…………おがーさん゛」
なきそう……ないちゃ、ダメ。いい子はなかない、わたしはいい子、みんなそういってたから、いいこなんだ。だから、なかない。
まわりをキョロキョロしてると、しろい子が見えた。
わたしをみて、ボサッてなった。立ちどまって少しボーっとしてから、こっちに来る。犬の子だ。くろい犬のヒトのなかまだ、きっと。だからわるい子だ。
こわい、こわい、こわい、……ニゲラレナイ。
「あー……大丈夫かい、お嬢さん?」
「わるいこきらい……かえれぇ」
「え、まだ何もしてないのに……怖いことしないよ、ほら、大丈夫だから」
「ほん、と?」
ちかくまできて、しろい犬の子がとまる。
「うん、で……君は何を探してるの?キョロキョロしていたけど」
「おうちを、さがしてるの。わたしの……おうち」
カチッて音がしてしろい犬の子が止まった、うごきがとまった?カチッてどこからきこえたの?それで下むいて、それから上にかおを上げて、
「んなんじゃしょりょああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ニャアアァァァ?!」
いきなりおっきな声だしたから、びっくりして、さけんじゃった……なんて言ってたんだろう、わからない?
「フー……やっぱり、わるいこ……フー」
「あぁ、ゴメンゴメン。驚いちゃったよね、ゴメンネ」
よくわかんないことおっきな声でいったあと、ニヨニヨわらってごまかしてる。きっといたずらっ子だ。わるいこなんだ。
「ホントごめんってば。とりあえず、怒らないで聞いてほしいんだけどさ」
「にゃに!ヘンなこと言ったら、ひっかくからね!」
わたしのツメ、ビンビンなんだから!ひっかかれるといたいんだからね!
「ああ、うん。ひっかいてもいいから、一度森の方に行かない?ほら、危険……危ないしさ」
「そんなこといって、イタズラするんでしょ!わかってるんだからね!」
「いや、悪戯はしないよ。それに、ほら、落っこちてきてる物が……」
――ドガシャン……――
「Oh……目の前に落ちるとか、どんなだよ」
ホントーに、めのまえに、でっかいタンス?がころがってきた。しろい犬の子がゆびさしてるのは、ストーンズさんちのほう。あ、またおちてきた。
「ね、潰されると痛いじゃすまないから一度離れよう。ね」
「フー……」
「ほら、良い子だから、お願い聞いて」
「うー……ちょっとだけだよ」
しかたないから、おねがいきいてあげる。わたし、いい子だから。しろい犬の子がいたずらっ子でもちょっとだけなら、きいてあげる。べつに、やさしくしてあげるわけじゃないけど。
森のちょっと、おくにいく。やっぱり、ちゃいろい木の色はすこしヘン。森はしろい木が生えてるはずなのに、ぜんぶ色がかわっちゃった。土もかわいてカサカサしてる。なんにちか、雨ばっかふってたのに。かわいい木も、おとなの人がみんな切っちゃったはずなのに。
「あ?白樺……の枝だけ?……しかも妙だな。ここだけ切り取ったみたいに円く……」
しろい犬の子が、なんか、よくわかんないこと、いってる。
「木のえだがしろいのは、ふつうでしょ?……あ……あああ!きみがイタズラで、ちゃいろくぬったんでしょ!」
「え……なんでそうなるんだよ……?木の色を全部塗り替えるって、どんだけ時間と努力をしなきゃいけないと思う?」
「フー……」
じかんとか、ドリョクとかいってイーワケしてる。ぜったいウソの子だ。
「ほら、怒らない、怒らない。仲良くしよう、ね?」
「ミュ……」
「あーあれだ、自己紹介とかしないとね。仲良くしたいし」
「ジコショーカイってなに?わたしウソの子は、しんじないよ」
「俺の名前はヴァン・カ・フェンリル。大精霊を宿した、オオカミの一族だ」
「みゅ?きみはくろい犬のヒトのなかまでしょ?あのヒトたちは、オオカミじゃないって、おかーさんいってたよ?」
おかしなこといってる。きっとまたウソだ。
「残念だけど、ホントです。俺はオオカミ。それに白。黒くない、黒くなあい」
「イヌでしょ?」
「オオカミだぁ!」
「じゃ、ホントウなら、ショーコみせてよ」
できないでしょ、フフーン。ウソの子はどんなこといっても、ウソしかいえないんだから。
「オオカミ少年かよ……ってか、ホントの証拠は出せないが、ウソの証拠はいくらでも出せるよ。ただし……君の、だけどね」
「みゅ?わたしウソ言わないモーン」
「でも、わざと嘘を言ってみて。俺は大精霊の宿し主なんでね。全部解るんだよ。
精霊は嘘が嫌いで、噓をつくヒトには絶対に宿らない。宿したヒトが嘘つきになれば、離れていくんだ」
なんかその子のおでこで、ポワァってひかりがでてきた。
「……みゅ?え~」
すっごい、ウソっぽい。
「まぁ、信じないならいいよ。そう言えば、お腹すいてない?」
あ、しんじてもらえないと思って、あきらめた。なさけない子。ぜったいしんじない。おなかすいてるけど、この子といたくない。
「すいてない、だからかえ」
「うん、空いてるんだね。ウソつくなんていけない子だ」
「……すいてない」
「嘘」
「みゅー!」
「あそこに木の実があるからさ、それ食べて少し話そう?」
「……ウソ、ホントにわかるの?ストーンズおばさんは……」
「嘘だね。オジサンじゃない?」
「みゅ?じゃあ……」
それからわたしは、ほんとうはいけないけど、ずっとウソを言ってみた。たまにホントもいってみた。でも、ぜんぶ、この子はウソかホントか、あてちゃった。にゃんで?
「……信じる気になった?大精霊の恩恵は凄いんだよ。つまり、大精霊が凄いんだけど」
しろい犬の子が、手をこしにあてて、下をむいてる。おでこの毛のところにひかりがチョコンとのって、ユラユラしてる。
……ウソの子じゃ、ないんだ。からだのブルブルが、とまる。わたし、ずっとブルブルしてたんだ……きづかなかった。
「みゅー……ちょっとだけだよ?ちょっとだけ、しんじてあげる」
「で、君の名前は?」
そういえば、なまえ教えてあげてなかった。
「ミーシャ」
「そう、かわいい名前だね」
わらった。ちょっとかわいい?いい子かもしれない。
精霊のボヤキ:
――聖霊王!?――
と、もう出番ないと思ったヒュプノだね。
――語る内容、訳が分からないけど?――
幼児が書いた日記と思え。




