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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
師弟の狂詩曲
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2話 仁義

前回:――ダッコされてる駄々っ子が感電してた。それでも随分しあわせだね――

 街の中程、建物のほとんどが石煉瓦でできている中で1つだけ木材で造られている3階建ての建物。幾度かの増築をしたため、最初の頃の姿を残していない、冒険者ギルド。


「ようやく、帰って来たぁ。もう当分働きたくなぁい」

「「働きなさい」」

 エリナのやる気のない背中に、私とヴァンくんの声が刺さって彼女はうめき声をあげている。


 彼女がいくら気分屋だからって、恨めしい顔をしても、どうにもならないでしょう。実際、代行って立場は彼女が手に入れたものだし。私よりも目立つしカリスマ性もある、頭も回る。魔術師としての実力も大陸で指折りとされるくらい。


「ほーら、入ろう。みんなにヴァンくんの事、説明しなきゃいけないんだしさー」

 やっと、時間がかかったけど本当にやっと、みんなとヴァンくんを合わせることができる。森の中ではゴブリンばかり増えて面倒だったけど、それももう終わり。……実際私は、あまり多くの事をしたわけじゃないんだけどね。村に来た数匹を殺したくらいで、残りは2人がやったんだし。

 村に押し寄せた200匹、山頂の500匹。よくそれだけ増えたなー……消えるのも、いつも通り一瞬だったけど。


 へこみ気味のエリナの背中を押して、ギルドのドアを開けた。

「ハァイ、みんな!たっだいまああぁぁ!」

 ハスキーな声がギルド内に響く。叫んだのはもちろん、エリナ。

 今の今までへこんでいたのはどこへやら、いきなり明るい笑顔でみんなに声をかけている。いつもの事だけど、この変わり身の早さが演技とかじゃないから凄い。切り替えが早いというか、気分屋というか。

 右手のカウンター、左手のエントランスフロアのフリースペース、階段下の酒場、上階の廊下の手すり越し、全ての方向から、視線が向けられる。

 一瞬静まり返り、エリナの声が響き渡る。


「先にマスターのとこ行ってから、この子の事みんなに紹介するから!楽しみに……」

「あああああああああああ!」

「うっせえぞ!誰だ!」

「何だ?人狼……じゃねぇな、あんなおとなしいわきゃねぇ。白いわんこか?」

「何あれ、噂の人狼ってもっと狂暴そうな絵じゃなかった?あれなら私奴隷にしたいんだけど」


 1人叫んだと思ったら、一気に騒がしくなり始めた。なんだろう。すっごく、いやな予感がする。

 今ちょっとだけ忘れてたけど、この子、人狼として狙われていたんだよね。私たちが違うって何度言っても、聞かない人たちが、どんどん人相書きを狂暴にして金額を釣り上げていったんだよね……?


「なんで人狼がここにいるんだよ!」

 最初に叫んだ人物が人をかき分けて前に出てきた。ケンジくんだ。


「ウウェエ、DQN生きてやがった」

 ヴァンくん、随分と嫌そうな顔。そうだよね。何度も殺されかけて、最後には彼らを殺す気で攻撃していたのに、生きてたのはちょっとショックかもしれない。でも、殺しちゃダメだから、結局は良かったんじゃないかなー?


「ケンジぃ、アンタ、もう逃げられないって分かって出てきたわけぇ?毒の矢、アタシが回収させてもらったから。あんたの持ち物から適合するバリスタが出てきたら、もうこの仕事続けられないんだけどぉ?何か、言うことある?」


 うん、もうこれはヴァンくんの治療の時から話していた事だから、彼女の中では決定事項だよね。ギルドマスターが拒否しない限りには、この決定を覆せるのは……


「それは聞き捨てなりませんね、エリナ・トンプソン殿。私の息子が、いったい何をしたのでしょうか?」

 ルイ・シュタインリッヒ。もう1人の代行で、ケンジ・シュタインリッヒの父親。イヤミったらしく、貴族が着る服をまとい、ひげを伸ばして蝋で固めている。


「私はケンジに対してしっかりと教育をしてきたはずですが?」

「いやいや。DQNがケンジ?その名前は世界中のケンジさんに失礼です。今すぐ改名を要求します。マジで笑えないですから、ププ」

 ひげを触りながら反論をするルイに、ヴァンくんが茶化してくる。笑えないって言いながら、笑ってるじゃない……?


「何なんだ、この人狼は……一体」

「人狼じゃなくて獣人ね。ライカンスロープとセリアンスロープ、違いますから。似てるけど、言葉が似てるだけで中身は違いますよ?

 橋と端は発音は同じだけど、意味が違うでしょ?そんな言葉遊びは、一休さんだけで充分すわ」

「な、何を言ってるんだ、このガキ。意味が解らんぞ、獣人め!」

「はい、ありがとうございます。獣人と呼んでくれて。獣人をわざと殺したくて、人狼扱いしていたそうですね?でも、違うの、本当は充分分かってて、エゴの為に殺そうとした訳でしょ。間違った教育を子供にしていた訳だ」

「違う!なんなんだ、おまえは?!」

「俺?元日本人ですよ?あれ、ケンジって名前だから同じ日本人かと思ったんですけど、違うんですか?親がつけたとかじゃないの?

 あ、母親の事忘れてたっすわ。じゃあ、名づけの親は母親ですかね?一休さんの話すれば、必ずさっきの『はし』の話解ってくれるはずなんだけどなあ。あ、でも日系アメリカ人とかの可能性もあるか。ねぇ、あんたの母親何人だったの、DQN?」


 ……ここまで誰も言葉を出せなかった。呆気に取られてたのかな?

 何を言ってるのかわからないって言うのもそうだけど、どう見てもまだ小さい子供が、こんな事を喋ってるのが意味が解らないからだと思う。


「もと、にほんじん?何を言って……」

「あったま悪いなー、転生者だって言ってんの。

 立派なのはそのひげだけか?蜜蝋なんかをふんだんに使っても、お前の脆い精神は固めてはくれないよ?

 第一、人狼って爪を使って種を増やすんでしょ?雪玉作って投げつけたり足元凍らせたりなんてして、逃げ回るなんて、矛盾もいいとこじゃん?

 しかも、ここには結構俺のそのイタズラ喰らった面子いるみたいだしさ。本当に人狼ならこの面子ほとんど人狼になってたって事だよね?

 それに今リサさんに抱っこされてるけど、引っ掻いても人狼にはならないよ?あ、やってみる?」

「ヴァンくん、やめなさい」

 漸くエリナが止めた。こんなに、彼が1人で話すなんて思ってなかった。今までダッコされるのを嫌がる時以外は、静かだったから。


「とにかく、この子は人狼じゃなくて獣人。それはもう、ルイも分かってるんでしょ?冒険者ギルドの方針を分かった上でそういうことを言ってるの?」

「しかしだ……実際に、彼から被害を受けた者たちだっているわけだろう?そういうものからすれば……」

「それはもう終わった話。最初の事件で出た被害は酷いもんだけど」

「そう、その人たちや遺族が」

「犯罪者の遺族が何だっての?その遺族からすれば触って欲しくないんじゃない?

 勝手に奴隷を作ってはいけない、これはどの種族に対しても有効。3年前に施行された法律でしょ?国家基準での犯罪者を、アンタはどうして擁護するの?」

 国による新しい法律、というだけでなく、世界基準で不法な奴隷を排除していく方針となっていってる。この国はまだ、対応が遅いなんていわれているみたい。


「ん?どゆこと」

 彼は知らないみたいだし、あとで教えてあげなきゃ。

 届け出を出さず違法営業をしていた奴隷商人がスラムや近隣、隣国にまで手を伸ばして、奴隷を作って非合法商売をしていた事。

 彼らが賞金首になった時、ちょうどヴァンくんを狙って、『狩られた』事になってること……お金も、この子に渡さないと、かな?


「しかし、それ以外の被害者は……」

「勝手にビビって逃げてったり、矢を撃つだけ撃って腰抜けてお漏らししたり、『ママァ!』とか言って泣き出したヒト達がどうかした?」

 ルイの反論はヴァンくんの言葉で遮られる。そしてその内容に、ギルド内から笑い声が聞こえ始めた。それに慌てるルイとケンジ。


「実際そのヒト達にやったイタズラなんて、雪玉投げるのと、新聞みたいな板燃やすのと、スープ凍らせるのと……あとなんだっけ?」

「しかし、それがどれだけ、その人たちの負担に」

「子供に向けてバリスタ、しかも毒付きを撃ってきた奴らが言えるかねえ?

 冒険者ってそういう子供を殺す仕事なんでしょ?そんなん社会から弾かれていいんじゃない?」

 一気にギルドが静まる。その言葉は、固まる理由になるよね。


「違う!なにを……」

「事実ですから。違うの?なら、俺を殺す理由なんてないし、弟子になるのを拒否する必要もないよね?そもそも、あなたにできるんですか?()()()なんですよね。」

 ルイは子供にすら言い返せなくなってきている。その子供も、実際には精神年齢が、彼の4歳くらい上らしいけど。


「ダハハハ!そういう事ぉ。ヴァンくんやるねぇ。この2年のストレスが吹っ飛んだわ。」

「エリナさん、笑い方、変える努力しよう……」

 ヴァンくんの追撃で、一瞬ギルドが静まり返ったけど、その後の視線が怖い。主に注がれているのは、ヴァンくんとルイなんだけど。そんな中でよく、エリナも笑えるよねー。私はこういうの苦手だから、苦笑いしかできないんだけど。


「くっ!しかし、私の子供の事はどうする!川底に沈められていたのだぞ!これはれっきとした」

「殺人、ていうならそっちだろ?さっきも言ったじゃないか。分かんなかったかな?ちょっと遠回しすぎた?

 人狼とか言って、獣人の『子供』を『4人がかり』の『大人』の『()()』が殺そうとして、『か・え・り・う・ち』にあったんだ。わざわざ強調されなきゃわかんないかな?もっとストレートに言った方がいい?

 並の冒険者は俺みたいな子供より、ヨワイって、宣言したいんだろ?だから、ほら。周りのみんなの熱い視線を受けているんだ」


 そこでようやく、ルイは周りを見回した。徐々に顔色が悪くなり、今更脂汗をかき始める。私はずっと冷や汗かいてるんだけどね。


「あんた自身が、遠回しに、自分で言ってたのに、気づかなかったのか?

 やっぱり頭悪いんだ、人間って。自分がやってることに気が付かない。あ、俺は意味分かってるよ?だって、冒険者は最初から、俺の敵だし。

 師匠は信じるけど、ここにいるヒトを信じるかどうかは、別だよ」


 彼は自分からギルド全員を敵に回す言い方をしている。そんな中で、信じるって言われてうれしくなってる自分に、腹が立つ。私が守らなきゃいけないのに。……でも、どうしたらいいんだろう?


「そうか、お前は……強い子供か」


 不意に、剣呑とした雰囲気と共に、小さい声が聞こえた。一緒に、冷えた刃が首にあてられたような殺気が漂い始める。それに全員が背筋を凍らせる。

 彼が発する殺気だけで、命を奪われそう。ゆっくりと、発言したその人は立ち上がる……


「確かに、森で、独りで、2年は、長い。……凄いな」

「ロイ、珍しいじゃない。あんたがこんな饒舌なんて」


 この剣呑とした空気の中を、全く気にしないで話しているエリナ。多分、彼に勝てるのは彼女しかいない。彼女であっても、彼に確実に勝てるか分からないって言われるくらい、実力は拮抗している。

 最も、その方向が剣と魔法、それぞれ違う分野だから、どうなるか分からない。でも、ロイ、絶対殺気出してるのに、自分で気づいてないよね。彼、力ありすぎる上に鈍感で、コントロールも下手だから。


「……誰、このオッサン?全身真っ黒とか、口元に黒いマフラーとか、闇に隠れたい人?あ、もしかしてお宅も転生?忍者フリーク?」

「……違う」

 ヴァンくん、殺気向けられてるのに笑顔、よくできるねー。その顔に目を逸らしたロイ。

 それにヴァンくんはガッツポーズしてる。なんでだろう?勝ったとか、言ってるけど。その瞬間に、全員を襲っていた殺気が消える。


「そ、そうだロイ!君もこいつが強いか気になるだろう?」

「?……ウム」

「ロイ!」

 ルイが何か企み始めたみたい。何か言いたいけど、言い出せない。私は、何を言ったらいいんだろう?


「リサ、聞いていいか?お前らは、この子を弟子にするつもりなのか?今まで誰が頼んでも拒否していたのに」

 今まで黙っていた、ダントンが声をかけてきた。彼も積極的な性格じゃないから黙って見守っていたんだろうけど。彼は何が気になるんだろう?


「そう、この子はエリナが弟子にするって決めたの。これから一緒に仕事をする、仲間です」

 私は、怖がる気持ちを抑えてそれだけ言った。自然と、彼を抱く腕に力が入る。


「ダントン!君も納得できないだろう?冒険者をバカにするものが、ギルドに入るなんてとんでもないと思わないか?」

「いや、おれは……」

「そうだとも!正義を成すのは騎士だけじゃあないんだ!冒険者あっての世界平和なんだ!」

 なんだか意味の分からないことを言っている。一体何をするつもり?


 彼はもともと知略戦に長けていたのに、数年の間に随分おかしな事を、平然と言うようになった気がする。確か彼の実家でトラブルがあってから、だったかな?


「納得できない者は、他に居ないか?!弟子なんてそう簡単になれないものだろう?実際、教育するのに時間ばかり割いて、仕事が滞るんじゃあ意味がない!こんな子供に、一体何ができるっていうのか!」

「ゴブリンの巣」

「え?」


「森の中の、お前らも師匠達も()()()()()()()()()ゴブリンの巣。見つけたけど、何か問題でも?」

 ルイが演説をしていた時に挟んだヴァンくんの言葉で、ギルドが凍り付く。そりゃー、プライド踏みつけられて、黙ってられないよね?

 でもー……


「本当、なのか?」

「あぁ、まぁねぇ。この子、地面の匂いだけで見つけちゃったわけ。アタシらには到底真似できないでしょぉ?」

 エリナが説明したところで、確認をとってきたダントンが白目をむく。……彼はプライド、そんなに高くはなかったと思うけど?


「もういいや、ヴァンくん。順番前後しちゃうけどぉ、一度ここでちゃんと挨拶しようか?なんか変に目立っちゃったし」

 挨拶をして、少し場を紛らわそうってことかな?……あまり意味無さそう。

 本当ならマスターに挨拶した後に、皆に紹介する筈だったんだけどなー。ルイとケンジくんの発言で随分訳が分からなくなっちゃったけど。


「お、もうやっちゃう?派手なのと地味なの、どっちがいい?」

 挨拶に派手も地味もあるのかな?私に聞かれても困るんだけどなー。


「どっちでもいい、かな?なるべく丁寧にお願いねぇ」

「んじゃ、派手なほうで。一度下ろして」

 彼を、地面に下ろす。


 と、足を強く踏み鳴らしながら左右に広げて中腰になる。そして、手のひらを前に出し、


「あっしは生まれも育ちも銀嶺エルバスの麓 

 森に囲まれ雪に埋もれ 精霊の住みつく泉のほとり

 優しき静寂の包む土地にて育まれ

 この粗末な身に大精霊を宿させていただいた

 オオカミの末裔が一人

 姓をフェンリル 名をヴァンと申します 


 かねてより生活していた森にて狩人として 

 そして此度の縁より、エルフのお二方と 

 師弟の関係とさせて頂く事と相成り申し上ます 

 身も心も白いだけの、小さきものの名ですが

 記憶の片隅にでも残して置いて下せぇ」


 ほとんど何を言ってるのか、わからなかった。ううん、言葉は通じてるんだけど……この少しの時間だけで何度、彼の言葉にみんなが固まったんだろう。空気が、重い。あー、早くここ離れたい。

精霊のぼやき

――あー、結構発展してそうね。石畳とか、石煉瓦の建物なんて随分時間かかってそう――

 確かに。切り出すのにも時間かかりそうだよね。

――切り出すのには時間掛かるわけ無いでしょ、魔法あるんだから――

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