2章 プロローグ
ここから別視点になりイフリータさん喋らないのでお仕事します。
――えー、メンドクサ――
「このヒトが、ヒョウ爺って呼ばれてる人。アタシ達の昔の仲間で、今はいろいろあって実名は伏せてそんな呼び方させてるわけ」
金色の短い髪を揺らし、すらりと伸びた手足を組んで、エリナが向かいのソファの人物を紹介する。
スラムの一角。一見するとただの大きい廃墟の中にある一部屋。そこで私たちは、背のちいさい老人と向かい合っている。
「想像と違うというか、身長が俺と同じくらいなんだね」
「ファファ!」
ヴァンくんの呟いた声が聞こえて、ヒョウ爺が笑う。確かに、子供の獣人のヴァンくんに比べて変わらないくらいの背のヒョウ爺。混血ではあるけど、主に小人族の癖が強く、背が伸びなかったらしい。
「久しぶりに来たと思ったら、面白い客を連れてきたね」
「うん、久しぶりぃ。珍客も珍客、フェンリルの子供よぉ」
フェンリル。『12英雄』の1つ。私たちの人生でも、大きな意味を持つ。
それを口にして、エリナは雑談を絡めながら、話を進める。ヴァンくんの事を、ヒョウ爺も気に入ったみたい。さっきから笑ってばかりいる。
「で、ヒョウ爺にぃお願いがあるんだけどぉ」
「ほう、ひょうきんだけが取り柄のジジイに、何をしてほしい?」
エリナが本題を切り出した。ヴァンくんのお願い。それは……
「スラムに居る数名の獣人。彼らの安全の確保、そして保証だ。当然、それに見合う対価をこちらとしても用意したいと思っている」
……本人が口にした言葉の内容に、少し驚いた顔をしているヒョウ爺。
「出来るなら街の中でも、極力安全で、危険な者の手が届かないところであるのが望ましい。当然、そんな条件のいいものなんて、そうはないだろう?対価の事もある。
これはただのお願いじゃない。真っ当な『ニンゲン』であるからこそできる、『交渉』だ」
今は汚れている銀色の毛並みのオオカミの子供は、ルビーのような瞳を光らせ、険しく交渉相手を睨みつける。その言葉の意味を充分理解して。
「ほほほほほ、面白い!なるほど、交渉か!裏の社会を操る術を持つものに、交渉をする子供とは、これは参った!ははははっはは!」
彼の行動にあっけにとられていながらも、ヒョウ爺は笑い始めた。
「何がおかしい?俺はふざけてはいないぞ?」
「いや何……流暢に難しい言葉を使うものだからね。ただの子供ではないのは分かった。が………それが君の希望か?随分と、『お優しい』ねぇ」
ずっと笑っていたヒョウ爺が姿勢を正して、真剣な表情をする。小人族独特の小柄な体格の割に、強くたくましいからだが、少し強調される。
「単に優しいだけで終わるか?社会的な投資、という取り方もできるし、実際、自己満足なだけかもしれないだろう?」
「ほう、しかしなぜ急に保護を求める?君の手には負えないのかね」
なんて事も無い、という雰囲気で、嘲るように片手をあげて、肩をすくめて子供が嗤う。それを見た老人は、楽しそうに質問をする。
「そりゃ、人の手なんて限度がある。猫の手だって出来る事はほとんど無い。多くの手によって、確実な手段を講じた方が良いだろう。それに俺は、今までとは違う生活をする。彼らの命が保証出来なくなる。……俺がやったのは食糧を分けるくらいだったけどね。このまま無視していく気は、無いよ」
彼は善とも偽善とも呼ばれる行動を、誰にも知られず行っていたらしい。
そして、そんな彼にヒョウ爺が
「良かろう、こちらも対価を要求したい。買い物をしてきてくれるかね?」
「買い物?」
意外な要求にヴァンくんは固まった。何か考えているのだろう。顎をさすっている。確かに、要求としては少し、不思議。
「ウム、週に1回パンとワイン、チーズなんかを買ってここに持ってくることだ、良いね?」
ヒョウ爺の顔が、楽しそうな顔に変わった。多分、まだ何か狙っていることがあるんだと思うけど、何が必要かは分からないからこうしたんじゃないかな。
「あー、ヴァンくんお金なかったらアタシ達が……」
エリナが間に入って、支援を訴えている。やっぱり子供に、しかもこの間まで1人で森に居た子に、これは……
「大丈夫。金貨3枚ほど、ゴブリンから奪ってある。狩りもさせてもらえりゃ、充分やれるよ。それにお使いだけ、って訳じゃ無いでしょ?」
彼はポケットから金貨を取り出し、ニヤリと笑った。本当に、この子は……どこまで狙っていたんだろう?何も持っていないと思っていた。
「ふふふ……もう少し大きかったら、侮ったりしなかったかもねぇ。ふふふふふ……」
ヴァンくんの答えにヒョウ爺は笑い、それに満足したのか、ヴァンくんもニヤリと笑みを浮かべる。
夕暮れも近い頃合い。薄暗くなってきた部屋の中で、揺れる炎が蜜蝋のろうそくの甘いにおいを焦がしていた。
普段は四千以上書いてるのに、今回は短い。書きたいとこがこれだけなんだよね。




