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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
500年式典パレード
275/430

24話 急転直下

前回:――龍の後に猫が襲撃――

 突然、ヴァンくんが地面に向かって、落ち始めた。何か酷い怪我をしたんじゃないか、そんな風に思って怖くなった。でも、彼だったらきっと、そうじゃなくて作戦の為なんだと思う。

――そうは言っても、心配になってるじゃないか……――

 当然なんだよ。大事なんだから。でも……


「アリス、ミーシャ!殆どの人の非難は終わった!あとはギルドが動いて、倒すだけよ!」

 いつの間にか動いていたマリアちゃんが、近くに来た。


 倒すだけなら、ヴァンくんだけでも……でも、激しくぶつかり合っている音が、まだ聞こえてくる。どこかの壁が崩されたって叫んでる人が居る!?

 でもヴァンくんなら、太陽の技とかあるから……?

――すごい技があるのに使おうとしないのって、使うのに集中しなきゃいけないとか、そんなマイナスがあるからじゃないのか?――

 なんか、そんな事を言ってたかな?覚えに無いけど、あってもおかしくない。街には魔人がいるから、その人も攻撃の対象になっちゃうとか、あるのかも?


「私は先に行く。後から、皆で来て!」

「え……う、うん……?」

「ミーシャちゃん、待って!」


 戸惑うマリアちゃんと違って、アリスちゃんは私を止めに掛かった。でも、制止を振り切って、影を移動してヴァンくんの所へ突き進んだ。

 影を移動できるから、夕暮れだと移動できる場所が一気に増える。


 彼女には悪いけど、もう、待っていられない!


 今まで守ってくれたんだから……今度は、私が守る番じゃないかな?彼が負けるなんて思わないけど、でも、手伝えるなら手伝いたい。

 もう守られる存在じゃないから、できる事なら、沢山増やしてきたから!


 だから今度は、私が彼を守りたい!


 街に差し込む夕日で、多くの影ができている。今の状態なら、私は凄く早くどこへでも移動できる。この力を持っていれば、あんなドラゴンだって、翻弄できるはず!

――倒せる手段は無いよ……分かってる?――

 倒せなくても、投げナイフにある麻痺毒全部使いきってやる!


――――――――――――――――――――


 ……そう思ってたんだけど、スラムを超える前に、ヴァンくんがでっかい魔術を出して、倒しちゃったのが見えた。

 昔住んでいた廃寺院から、一気に崖の方まで吹き飛ばされて、張り付けにされた(ドラゴン)は、一瞬銀色の光を受けて、少し痙攣してから動かなくなった。


 真っ赤な夕日に照らされた森の中で、だんだん闇が迫ってきている中で、崖の上の森の中で、蒼い焔が燃えている。

 ……彼だ。


 『あの日』も、こんな感じだった。


 私は良く分からないまま確信して、彼の場所まで全速力で駆け抜ける。スラムから森、崖、そして彼の下へ……あの日は向かう事が出来なかった場所へ。

――あの日って……?――

 あんまりよくおぼえてない。なんか、こんな日があった気がする。でも、魔術のせいじゃない。これは普通に忘れた。

――ああ……そうらしいね――


「ヴァンくん!」

 名前を呼んで、ヴァンくんに抱きつく。勢いあまって、頭がぶつかっちゃったけど、怒らないかな?

 でも、今はそんな事より、ヴァンくんの無事を確認したい。くっついた顔を離して、


「ヴァンくん、怪我とか無いのかな?どこか……!」

 痛い所、ないか聞きたかったんだけど、言わせてもらえなかった。優しく、頭も体も、強く抱き寄せられて、身動きが取れなくなる。


 どうして、抱きついたんだろう……?

――いや、自分から抱き着いたんじゃないか……――

 そうなんだけど、今までならヴァンくんは嫌がったし、ハグしたのだって、今日1回だけだったんだよ?あれだって、泣いてたから慰めるような感じだったんだけど……今は、違う。


 優しく、大事そうに抱いてくれている。


「ヴァンくん……?」

「いいから、このままでいてくれ」

 質問しようとしたけど……耳元で囁かれて、ぞくぞくしちゃって抵抗できなくなる。本当は、色々言いたいのに。

 頭を撫でられて、気にしていた事を忘れそうになっちゃう。もう、魔術の影響はないはずなんだけど。

 しばらくこうしてると、胸騒ぎがだんだん静まって、落ち着いてしまった。


 それから、ようやく離してくれたと思ったら、口を付けて来た……?


 ……きすされた?


「ふにゃああ?!」

「うをおお!?」

 いきなりキスされて、ビックリして突き飛ばしちゃった。でも、それはいきなりすぎるし、ダメじゃないかな?こんな所でする事じゃないんだよ。


「ヴァンくん!キスは駄目なんだよ、子供出来ちゃうんだよ!」

「いや、出来ないから!本当に子供を作る方法は、全く別だからあ!」

 ……そうにゃの?

――そうだよ。何で知らないの?――

「で、でもでも!それじゃ、何でしたのかな!?ビックリしたんだよ!」

「好きだからじゃいけないかなあ、畜生!」

「好きだからってにゃんでそうなるのかな?……みゅ?」

 今、にゃんと言いました?

――自分で言ったろ、今――

「スススス?!」

「落ち着け、慌てすぎだって……」

 混乱したら、また抱かれた。


 鍛えられて、結構太くなっているヴァンくんの腕は、私の体を優しく包んで、混乱した心を落ち着かせてくれる。


「今ここで話す事じゃないだろうけど……お前は気付いてるんだろ?俺が何をやっていたのかをさ」

「みゅう……ほんのちょっとだけ?聞きたかったのにずっとどっかに行っちゃってたから、寂しかったんだよ?好きってのは知らなかったけど、どうしてそうなるのかな?」

 目を見合わせないまま話したのに、どこか気持ちが通じるような感じがする。きっと、ずっと前から通じてるところがあったんだ。でも、それが見えなかっただけなんだよ、きっと。


「まあ……そうなるよな……先ずは、そこ……ア?」


 色々な疑問があったけど、ヴァンくんが全部を話してくれる。そう思っていたのに、片目を手で覆って、震え始めた。


「ヴァンくん?どうしたの……やっぱり、怪我したのかな?治療の魔法は使えないけど、すぐにアリスちゃんのところに」

「いや……けがはない。そうじゃない……ちがう……


 ……やめろ……やめてくれ……」


 体を震わせ、私の体を抱く腕に、力が入る。肩に力が入り過ぎて痛いけど、彼が痛めつけようとしてやってる事じゃないのは分かる。

 むしろ、心配になる。きっと彼は、堪えているんだと思う。

 その考えは、合っていたみたい。ヴァンくんが、大きな声で叫んだ。


「やあめえろおおおおお!」


 怒りに震える彼の目は見開いて、ここじゃないどこかを睨んでいる。まるで、殺したいほどに恨んでいる人を見ているように。


 周りが闇に包まれるまで気づかなかったけど、ヴァンくんの胸のクリスタルが、輝いている。

 それに私が気づいてすぐ、ヴァンくんは私を突き放すように体を押し退けた。


「はぁ……は……あ……ああ……ぁぁぁあああああああ!」

 何があったのかは分からないけど、ヴァンくんは突然苦しみ始め、近くの木を殴り始めた。


「ヴァンくん……ヴァンくん!自分を傷付けちゃダメだよ!何があったのかな、話してみて!」

「クソッ……畜生!……チクショウガアアア!」

 絶叫しながら、木を殴る手を止めようとしない。こんなに乱心しているヴァンくんは、初めてだ。どんなトラブルでも、気が動転したり、慌てたりする事って、あまり無いのに。


「ヴァンくん!大丈夫、落ち着いて!私はここだよ、ここにいるから」

 叫ぶ彼は、一度消えたはずの焔が灯り、それでも心を落ち着かせる事が出来ずに暴れている。

 蒼い焔に体を焼かれて痛みを感じるけど、彼はきっとこんなものじゃないくらいの苦しみが襲っているはず。だって、彼の毛の下の皮膚が、所々黒くなっている。


 これは、ヴァンくんから聞いた。だから、間違いない。

 この焔の術式は、彼の体を蝕む。

 徐々に体を焼いていくから、点火(イグニッション)には回復の術式も使っている。でも、燃え上がる力が強すぎて、蒼い焔の場合は体がどうしても少し燃えるんだって。それで、肌が黒くなっていくんだって。細胞が徐々に、炭になっていくから。

 彼の怒りに合わせて現れるようになってから、感情に合わせて焔の強さが変わるようになったらしい。それでも、もう体が偏食するくらいに焼かれるなら、彼の心も相当に苦しいはず。

 文字通り、彼の怒りが、体を焼いている。


「ヴァンくん!落ち着いて!」

 その炎に、ちょっとだけ雷が走って、怖くなって強く叫んだ。


「はっ……はあ……は……あ、ミーシャ……悪い……」


 大きな声で叫び続けたら、ヴァンくんも流石に気が付いて、落ち着いてくれた。イフリータさんも声をかけてくれてたのかもしれない。それでも、何かに怯え、怒り、震えている彼は、視線が安定してない。


「ヴァンくん、何があったのか、教えてくれるかな?手伝えることがあったら、何でもするよ。今まで、ずっと何もできなかったから、手伝わせて」

 どんな事でもいい。彼の役に立てるなら、きっと恩返しになる。どんな事をして来たのか、よくわからないけど、少なくとも彼は、私の故郷の事を覚えてくれていた。

 迷子になっていた私の故郷を、必要も無いのに探してくれていた。

 ちょっと逢っただけのはずなのに、探してくれたんだと思う。もしかしたら、もっと他にも、沢山の事をしていたのかも知れない。

 でも、


「悪い……今は特に、できる事は無い。それに、皆も心配するだろうし、ギルドにも言伝して欲しい。

 家族に、ちょっとトラブルがあった。俺はそっちに行く」

 させてくれないみたい。


 ヴァンくんは、俯いたまま、私のやけどに気付いたのか、手を取って、魔術を使って直してくれる。手から伝わってくる優しい光が、体を癒してくれるのを感じる。

 回復の魔術って、出来る人が案外少ないから、専門の魔術師になれるくらいなのに。彼はそれもできるのなら、本当に何でもできそう。

 うらやましいような、誇らしいような、悔しいような、複雑な気持ち……


「……うん、皆に伝えておくよ。でも、怪我しちゃいやなんだよ?気を付けてね」

 足を引っ張ったら嫌だから、彼のやりたい様にさせてあげる。きっと、帰ってきてくれるし、今までの事も話してくれる。本当は、まだ、ずっと一緒に居たいけど。一緒に居なかったのは、居られないのは、理由があるから。


「本当に悪い……」

 目から一筋の光を流して、彼は背を向ける。


 そして、そのまま走って崖に飛び込み、鐘の音を響かせて、夜の闇へと消えて行った。


 闇に包まれた西の都は、騒ぎが治まっていつも通りの光を灯し始めた。

 大門から出てきた騎士らしい人達が、こっちへ向かって進んでくる。


「ミーシャ!ヴァンはどこに!敵は片付いたのか!?」

 いつの間にか、ヴィンセントさん達も帰ってきたみたい。なんか、皆がバラバラになっちゃっていたような気になる。仲が悪くなったんじゃないのに。変なの。

――気のせいだよ、すぐに全員集まる――

 うん、そうなんだよ。きっと。


「ヴァンくんは、家族に何かあったって、走って行っちゃったよ。でも、直ぐ帰ってくると思う。凄く不安そうだったけど、彼ならきっと全部片づけて戻ってくるから。

 居ない間、色々大変かもしれないけど、私達でやらなきゃいけない事、沢山あるよね……」

「そうですか……崖に張り付けにされているのが、例の……?」

 私の答えに、エイダさんは頷いて、問題の相手に目を向けた。巨大な氷塊の鎖と槍で、崖に貼り付けられたその龍は、目に光はなく、首筋から血を流している。


「うん……ヴァンくんが倒した。ちょっとだけ、苦戦してたみたいだけどね」

「ネコ……しゃべり方変わったー。どーしたの?」

「うん、ちょっとね……大丈夫だよ、私は私だから」


 彼の消えた方へ眼を向け、姿を探す。もう、居ないのは分かってるけど。

 今日は、月がまだ出てない。灯りが無い場所では、きっとドラゴンの解体なんて、難しいんじゃないかな?夜にやるのも危険だし、明日以降になるはず。


 早く、彼が帰ってくる日が来て欲しい。また、あの楽しい時間を過ごしたいから。

 次は、どんな事をしよう?決めておかなきゃ。


精霊のボヤキ

――ちょっとイフリータさん、何が起きたんです!?――

――あぁ……うん……エマージェンシーだっけ?めっちゃメンドい事になった――

――メンドいって何!?ミーシャが面倒とか言うなら……!――

――あ、そっちじゃなくて、こっちね――

――こっちってどっち!?――

――あっちに行かなきゃいけないから、じゃあねぇ――

――指示語が多過ぎる!訳わからねー!――

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