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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
精霊と日常の小曲
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18話 海底散歩

前回:――緊張感ないけど、危険区域行きます――

「どうかな?ガンバって選んでみたんだよ!」

 翌朝、海岸に向かってみれば、いつも以上に早起きしていた女性陣が、水着を着て待っていた。いわゆるビキニで、可愛らしいデザインだ。

 そんな物、この世界にもあるのかよ?ってのが、初めて見たユウタの叫び声だったか。あってもいいだろ。問題はそこじゃないのだが。


「……お前ら、遊びじゃないって言ったはずだが?それじゃ、あっという間に体力を奪われるし、体を守ってくれる訳でもないんだ。

 それに言ったはずだが、毒針を持った魚やら魔物やらも普通にいるんだ。こっちに着替えろ」

 今日は弱めだが、雨は降っている。海は時化ていると言う程では無いが、多少なり波が高い。

 だが、全ては海底に入ってしまえばあまり関係はない。どうせ濡れるし、表面の波の高さとかは、海流にはほぼ影響を与えない。

 しかし、海底を進むのであれば普通の水着なんて着ていられる訳が無い。


「これ……カワイくないんだよ?」

 黒いダイバースーツのような物を渡されたミーシャは、一気に表情が固くなった。同じように、ビキニを着ていた女性陣に次々と手渡すが、全員不思議な顔をしている。

 実のところ、エルフやら海底人種のマーメイドやら、なんやら以外は、このスーツはあまり知られていない……なんでエルフは知っているのか、って話なら、研究の為に必要だから、以上。


「人魚やら魚人やらって言われる奴らも普通に着ている、海底用スーツだ。深海に潜りやすい体のつくりの魚人ですら、これを着ないと深い所に行きたがらないって言われるくらいなんだ。

 しかも、かなり強靭で中途半端な攻撃じゃ破れない、革製チェインメイルって言える代物なんだ。弱点としては、湿り気が無くなると強靭さが失われるから、あくまで水中用って事だな」

――そりゃ、あの岩クジラの皮なんだしねぇ。海生生物の皮ならおかしくは無いでしょ?――

 海生生物でも、乾かして利用できていい気はするけどな。まあ、そんな事を言ってもしょうがないか。


「やはり、普通の水着では駄目ですか。何となく、そういう予感はしていましたが……」

 一番真面目なはずのエイダですら、乙女心全開だったらしい。これが健全な乙女心なのかどうかは知らないが、気持ちで命を守れるなら、騎士やら冒険者などは存在しなくていい。


「皆、とても似合っていると私は思うのだが、その水着は、また別の機会に利用するとしよう。今は海底探索の為の準備だ」

 ヴィンセントの発言が止めとなって、全員スーツを水着の上に着こんだ。

 ユウタが小声でもったいないだとかなんだとか言っているが、そんな事を言っている場合でも無いだろう。ついでに、盛り上がってる部分も抑えて欲しい。

 目線から言って、明らかにリリーを意識してのものだろう。昨日まで全くそんな雰囲気は無かったのだが。

 しかも、たまにデブだのなんだのと言っていたくらいだ。実際は脂肪は胸しかないのは、俺は知っていたが、ユウタはようやく気付いたらしい。どうでもいいけど。


「じゃあ、ヴィンセント。手筈通りに頼むぞ?」

「ああ、任せたまえ。――アクア・ゼノビア!」

 先に詠唱を済ませていたヴィンセントは、全員に加護の魔術を与えた。

 体に淡い光の幕を纏い、それまで吹き曝しになっていた顔に感じていた寒さが、心地よい涼しさに変わる。ちょっとした違いだが、魔術の影響だろう。それ以外は特に変わった様子はないのだが。


「……これだけ?それで、ガスボンベは無いのかよう?」

 思っていたのと違ったのか、ユウタが疑問を呈して、その言葉に全員が首を傾げた。


「ユウタ、ボンベはこの世界に無い。作れなくはないが、お前の思っている物は作って流通させるのは難しいし、無くてもいい魔術が、今かけられた加護なんだ」

 溜め息をついてそれだけ言い、俺は先に海に向かった。スーツ越しに海の感触を感じるが、いつもの水っぽい感触とは違う。まるで、強い風を受けているような感覚だ。

 俺に続いて入ってくる者達が皆、その感覚に戸惑いながらも楽しんでいるように声を上げている。


「遊ぶわけじゃないから、気を緩めるなよ?敵がどこに居るかもわからないんだからな。

 それと、海中に入っても声が届くとは限らない。全員離れないように気を付けて、必要なら先に渡されている通信用アーティファクトで連絡だ」

 腕輪型のアーティファクトはまだ、王国内では貴重であまり出回っていない。

 今回はギルドから借り受けてきた。防水用に加工されたタイプだし、水に浸かったとしてもそうそう壊れないだろうが、強い水圧に耐えられるとは限らないから、注意は必要だろう。


――――――――――――――――――――――――――


 海底に沈んでいく感覚は新鮮だ。

 歩こうとすると、月面探索のように跳ね上がりはするが、すぐに沈んでいく。ただ、泳ぐ事はあまり出来ないようだ。抵抗が弱い為だろう。泳ごうとすれば滑空しているかのように進んで、すぐに底に足が着いてしまう。

 呼吸については、例の光の膜によって、口の前で空気を濾して吸える仕組みになっているようで、口腔内に水すら入って来ない。

 口先にエラがある気分だ。なんかおかしいが、そうなっている感じだからしょうがない。


 他の奴らはどうしているかと見てみれば、全員が付かず離れず、適切な距離を保てるようにヴィンセントが指示を出して進んでいる状態で、その補佐の為にエイダが魔術を使って周囲を探知、ハンドサインで状況を伝えている。

 出している指示は鶴翼陣形、探索にも戦闘にも、バランスのいい隊列だろう。


 現状、これと言って問題ない。あえて問題を上げるとしたら、俺のオオカミスペックが全く機能しないと言う事だ。

 海水で匂いを嗅ぎ取れない。音にしても、ほとんど聞こえていない。というよりは、地上で聞こえる音と違う為に、判断が付きづらいのだ。

 得意とする魔術も、火は使い物にならない。電気にしても、接しているならともかく、離れている場所に発生させても直ぐ霧散する。氷ならともかく、他の魔術はあまり得意でもない。


 総合的に、海底では俺の能力は半減どころか、10分の1にまで下がっていると言える。海底用武器が無ければ、戦力外通知されてもおかしくないレベルだ。

――氷の魔術だけでも、充分じゃない?――

――いや、俺だっているんだから忘れねぇでくれよ……――

 精霊術師であると言う事を除けば、って事なのだが。まあ、それでも地上とは訳が違うと言う事だ。サメの魚人とか言うなら、逆に物凄い勢いで強くなるのだろう。


『ヴァン、そちらは問題ないだろうか?』

 腕輪が光ったと思えば、浮かんだ文字はヴィンセントからのそんな声かけ。今思っていた事だけ、伝えておくこととしよう。


 音響魔術にしても、水中での音の伝わり方まで計算して使う訳にもいかない。できない訳じゃないが、そもそも音が伝わりにくく、魔術効果をかき消されそうだ。主に海流に含まれるマナの流れで、こちらの魔術が歪められるだろう。


 海底に来てからと言うものの、特にこれと言って大きな変化はない。

 先に昆布のような海藻が揺らいでいるのが見え、全員でそちらに向かう。顔を上げて水面を眺めてみれば、途中で海藻に絡まっている動物らしい何かが見えた。


『あれはにゃに?!動物が絡まってるんだよ!』

 そんな、どこか慌てたような文面が腕輪に光った数秒後、ウチの動物博士が答えを出した。話では聞いていたが、俺も見たのは初めてだ。


『あれはモゲラ。海中に何十時間も潜れる動物で、海藻を布団にして寝るんだよ』

 要は、潜水しっぱなしのラッコだ。土竜みたいな名前で見た目はタヌキだが、後ろ脚はクジラやイルカを思わせるヒレになっている。これはこれで、独特の進化をした動物なのだろう。

 確か、戦闘能力はゼロだが、逃げる事に関しては天才だったはずだ。海流を操り、幻覚を作り、最終手段として海面を飛び跳ね、水切りの石のように、どこまでも飛んでいくという。


 全員が一瞬驚き、そして安堵した為か、腕輪やハンドサインで色々と会話をし始めた。

 海底は予想以上に多くの生物のゆりかごとなっている。カラフルな熱帯魚や太刀魚のような細長い魚、アナゴやナマコ。そんな感じの見た目の生物が、見渡す限りどこまでも続く海底を泳いでいる。

 徐々に深く潜っているのだが、ある程度光が届く範囲はこのような光景が、ずっと続くのだろう。


『現状、この辺りに危険は無さそうです。そろそろ休憩した方が良いと思いますが、如何でしょう?』

 エイダらしい言葉が、腕輪に光る。しかし、海底でどうやって休憩すると言うのか。そんな方法があるならいいが、精霊の山小屋(コテージ)は文字通り、山で使う前提で作った物だ。海底には対応していない。


 ともかく、休憩できる状況とは俺は思えないのだが。

『確かに、休憩はした方が良いだろう。この辺りで一度、結界を利用して休憩できる場所を確保しようか』


 何を言っているのか、と思えば、エイダが結界を利用して空気のある空間を創り出した。

 全員がその中に入ると、結界の質が変わった。そして、結界内にあった水も蒸発し、乾いていく。


「これは……何をした?普通の魔術でも、エルフ術式でもなさそうだ……って事は……」

「ああ、水の精霊術式だよ。戦闘に関わる物では無いが、活用次第では様々な事に応用できるのではと思って、修練していたのだ」

――いやぁ、この方法は中々ないねぇ。アクエリアの特性の応用って感じじゃない?――


 普通の魔術とは違う利用であるが為に、予想していなかったのはイフリータさんでも同じらしい。

 しかし、確かに応用できるかもしれない事は、いろいろありそうだ。逆に陸上に水のドームを張って、固着させたりとか。庭にアクアリウムができそうだ。


「ヴァンも予想してなかった方法って……凄いね、2人とも」

 どこか悔しそうにしながらも、仲間でありライバルのエイダと、リーダーであるヴィンセントの研鑽を評価して讃えているアリス。何か、色々思うところがありそうだ。


「単純な水の魔術を使った訳じゃないんだな。ビンなんかに高圧縮した空気を詰めて持って来ていたのか?」

「はい、ヴィンセント様の術式に、ヴァンさんから教えられていた儀式魔術を応用して作った結界に、ボトルに入れた圧縮した空気を流し込みました。

 ボトルの空気だけでは足りないので、それを媒介として水中から空気となる成分を抽出しました」

「何でもいいけど、この先どうするの?今のところ、危険も無いんでしょ?」


 休憩の為にお茶を用意したエイダに、性質の説明を求めたが、予想外の利用方法にしても、その術式構成にしても、魔術師でもなく興味も無い者からしたら本当にどうでも良いいらしく、話の矛先を変えられた。

 まあ、これからどうするかを気にするのは必然だろう。今の内に、しっかりと方針を決めるべきだ。


「ギルドへの報告も、詳細を伝える必要までは無いんだ。現状海底探索をできる魔術師は、国内でも10組だけだ。

 俺達が加わるってだけで、ギルド側からしたら大きなアドバンテージになる。ギルド間の競争もあるし、俺達の収益が増える理由でもあるしな」

「だねー。海の中って、歩ける人フツーいないもんねー」

 水中用武器であるクロスボウを置いて、飲み物を手に取ったハルが、誇らし気に合いの手を打つ。自身の愛する者が持つ技量が、国内有数であるが為、と言ったところか。


「そうだね……今まで歩いて、怪しい感じは特に……」

 アリスも、安心した様子で話していたのだが……何もない、とでも言おうとした辺りで言葉を切った。

 同時、俺とエイダも、言葉を切った理由を感じ取る。3人が同時に顔を固くし、1つの方向を見据えた。


――何かが、高速でこちらに移動してきている。


「……どうしたのかな?海底の方を見ても、暗くて何も見えないんだよ」

 何が起きたのか分からないミーシャが、俺達の見ている方へ眼を向けて、首を傾げた。

 そこは地殻変動からか、割れて谷間のようになっている海底渓谷とでも言うべき場所だ。その深い暗がりは先が見えず、何かが潜んでいても分かりにくいだけだ。

 肉眼では到底見えないだろう。


「マナの流れが、一瞬急激におかしくなった。海流の流れじゃない」

「そうですね……今探知の魔術を使っていますが……おかしいです。一部、肉眼で見えている物と違う部分が存在しているように思います……もしやすると」

「撹乱魔術……?幻覚とかも使ってるのかな……でも、海中で幻覚を使うのって……」

「……アクエリアが言うには、幻覚の影響はなさそうだ。そうなれば、そういった能力を持った生物が居ると言う事か?そのような生物は居るのだろうか?」


 いつもの魔術師3人での会話に、ヴィンセントも加わってきた。マナ感知の感覚は彼には無くとも、精霊の力によるものだ。


 そして、幻覚は無くとも姿を隠す、海底の生物。定番が居るじゃないか。


「ああ、居るし、見えた。来るぞ……オクタンだ」


 隠れたまま、俺達の場所へと近づいたそれは、結界の目の前まで来てようやく本来の姿を現し、長い足で攻撃をし始めた。

 巨大な吸盤がついた8本の足が、結界を包み強い圧力をかけて割ろうとしている。


「え、えええええええ!?クラーケンだろ、これええ!」

「……クラーケンって、何?」

「でっかいイカやタコ。この世界も、イカはいるだろ?前世ではそれの超特大版の化け物が居るって思われていたんだ。

 一応、実在はしていたんだ、ダイオウイカって奴が。悪魔扱いされてもいたんだよ。ダイオウイカの大きさにビビって、悪魔だとか適当こいて、そんな名前をつけただけだと思うけどな」


 錯乱して叫んだユウタの発言に、落ち着いているハルが疑問を呈したので、答えた。が、まあ他は誰も聞いていないだろう。

 ただ、全員以前なら怖がったり、混乱したりしていたはずだが、


「どうする?……オクタンの生態とは?」

「えーと……長い足で獲物を絡め取って、足の間にある嘴で食べようとするんだけど……」

「噂では、弱点らしい弱点は無いそうです。クラーケンは胴と頭の間を狙えば倒せるそうですが、オクタンは……」

 特大イカのクラーケンと違い、明確な弱点の無いオクタン。ここについては知っている奴は知っている程度だ。

 大抵、出会う事の無い存在だから対抗策を思いつかないことが多い。が、俺はちょっと訳が違う。


「大陸を渡る時に会っていた人魚曰く、オクタンの苦手とする物はいくつかある。苦い内臓とリヴァイアサン、そして雷撃だ」


 結界が割れる前に、災害のリヴァイアサンの鱗を空間収納(ストレージ)から取り出す。ただの鱗だけでも、匂いが多少は漂う事を祈っている程度で、どうにかなるとは思わないが。


「リヴァイアサンの鱗だけやとどうにもならんかもしれへんけど、雷撃っちゅうことなら意味がかわるやないか。全員で、クロスボウを打ち込めばええんや」

「そうなるな。


 全員、武器を構えよ!結界がもうすぐ割れる。その前に打ち込み、隙を見て全員離脱!

 泳げるように加護を変えたので、そのまま全員海中戦にて迎撃するぞ!」


 俺が武器を取り上げた時には、ユウタ以外全員クロスボウを構えている。

 初めて逢った頃の、上っ面だけの威勢とは違う、威風堂々と言った感じの雰囲気を纏って、目の前にある危機に挑もうとしているのが分かる。


――1年経ってないのに、逞しくなったじゃない?――

 全く。ヒトの成長って言うのは、本当に恐ろしい。この数か月で、色々と伸びているように思える。


「そろそろ結界が限界だ!割れる直前に合図、一斉掃射して結界の外へ行くぞ!準備は良いか!」

「「「おおお!」」」


 全員がかけ声を発したと同時、ユウタも武器を構え、刹那の後に結界にひびが入った。


「結界、割れるぞ!全員、放てぇ!」


 ヴィンセントの声と同時、9本の矢がクロスボウから放たれた。


精霊のボヤキ

――ユーシャは何でデブだと思ってたの?――

 服がゆったりしてるからだろ?

――関係無いんじゃない?首もととかで分かりそうだし――

 上半身痩せてて、下半身太ってる白人とか見たことあるから、そう言う奴知ってたら違うだろ。

――……エルフにそういう奴多いんだ……――

 白人はエルフじゃないだろ……?


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