狩人の達人?編
前回:――兄弟からのラブレター……ヤブラレタ――
「うああああ!ごめんなさい、ごめんなさあい!ああああ!」
治療室に響く、俺の声。それを聞いている2人は、
「はいはぁい。分かったから泣くのはもうやめようよぉ」
「ねー。大丈夫、怒って無いからー」
ちょっと呆れ気味に、しかし相変わらず優しく声をかけてくれる。
ただし、いつもなら抱きつこうとしてくる腕は、ギプスでガチガチに固められて動けなくなっている。腕どころか、全身ギプスだらけ。
身動きできないレベルだ。動いたら複雑骨折した骨が、肉に刺さったり突き出てきたり、おかしな形でくっついたり以下略。
現在リョウカ国とゼンタツ王国の国境沿いの町の治療院。
なぜこんな場所に居るのか、と言えば、あまり良く覚えていないのが現実。街にいる事は記憶している。治療院にいるのを、覚えていない。ユウタの言う記憶チートも、精霊さんの監視も、機能しなかったと言う事だ。
旅の途中で、内戦真っ盛りのゼンタツ王国の側を横切ったら、リョウカ国内のこの町で、略奪行為をしに来た傭兵たちが町の人を襲っていたのまでは覚えているのだが、誰かが殺されているところまでは覚えていて……?
「……おもいだせない……?何をしたんだっけ、俺?師匠……?」
「思い出せないなら、思い出さなくていいって事でしょぉ?脳は結構複雑に出来ている物よぉ。思い出さなくていい事は、簡単に忘れるの」
などと被害者は語っており、容疑者、もとい俺の言葉を蔑ろにしている。
だが、しかし。この惨状を作ったのは確実に、俺である事は、間違いない。
事実、町のヒトと来たら俺と顔を合わせるだけで、絶叫マシンに乗るが如く大声を上げて走り出す。ああ、森の中で追いかけられていた頃が懐かしい。
――あの頃以上でしょぉ?明らかに化け物扱いじゃない?覚えに無いのはこっちもだけどぉ――
俺が寝ている間の監視役である精霊さんも、意識を狩り獲られているという異常。何があったのかも、何をしたのかも、師匠もユウタも教えてくれない。
「……そう言えば、師匠。ユウタはどこへ?」
「あの光景を見て、ずっとトイレで吐いているみたいよぉ。まぁ……初めての人殺しってなれば、分かるでしょぉ?」
「……ユータくんは、人は殺してないでしょ?剣が全く血に濡れてなかったから……」
つまり、目の前で殺されるのを見て、トラウマ状態になった訳だ。そりゃ、当たり前だろう。
殺す事はおろか、人を傷付ける事ですら、少なくはない負担を心理は受ける事となる……サイコパスなら、人殺しを見ても自分のせいじゃないからとか言って、トラウマにも何もならないだろうが。
俺の場合は、スラムで襲われた事で心理的に慌てていたのもあって、目を逸らしていたし、殺したらしい事を知らされた頃には2年経っていて、かつ俺を殺そうという冒険者が追って来ていて、既に異常な状態になって久しかった頃だ。徐々に落ち着いて行ったが、心が締め付けられる事はあったのだ。
異世界に来て、1年と経っていない一般人。精神的にも強いと言う訳でもないユウタなら、人殺しを目撃して、ずっと吐き続けるのはおかしくは無いだろう。当面は、麦粥とかしか喉が通らないはずだ。
「当分、肉は無理だな……師匠の状態から言っても、移動もできないし……」
2人は、当面歩く事も出来ないだろう。だと言うのに、
「だぁいじょうぶぅ!ここの近くにも、あたしの知り合いがいるんだけどねぇ、それが熟練の狩人なのよぉ。だから、その人のところに行って、色々技術教えて貰ってきなさいよぉ」
全く負い目の無いように、満面の笑みでそんな事を言い放つ。死にかけながらも、こっちの教育を考えているのか、師匠は?犯人、俺だろ?
「……しかしですね、このような事になったのが、自分のせいなのであれば……」
「いーじゃない。新しい狩りの仕方を教えて貰って、それを活用しようよー。そしたら、いろいろ美味しい物を食べられるんじゃない?」
剣術も魔術も、普段からごっそり教えられているのだが、それとは別に一族から教えられたことを元としてやってきた狩りは、今の時点で充分に稼げるレベルになっている。主に魔牛関連で。
本気でやれば、月に金貨300枚到達できる。どんな月収やねん。流石にやり過ぎて、ちょっと魔牛の数が減ったのだが。
「魔牛だけじゃ、駄目ですか……」
「ダメじゃないんだけどぉ、他にもいるでしょぉ?獣害とか、結構深刻だった場合には罠とか大事なんだしさぁ」
なんだかんだで、俺をここから離したいらしい。嫌っているとかでは無いのは間違いないのだが、仕方ないだろう。指示された場所に、向かう事となった。
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「はー……あのチビッ子2人が、弟子をねぇ……時間が経つのは、はえぇなぁ……」
ボヤいているのは、ひげ面エルフ。ドワーフ的なイメージを、エルフがやっている。どこの仙人だ?
「それで、狩人仙人のリュートさんで、宜しいんでしょうか?」
「かてえなぁ……あいつらはそんな話し方、おめぇにさせてんのか?……ぜってぇちげぇだろ」
見抜かれた。確かに、もっとラフに話すのは間違いないのだが。
――だったら気楽に話せばいいんじゃない?その方がいいでしょぉ――
「ムゥ……師事を受けるんだから、多少は相手を敬う的な、そんな行動は駄目なんすか……マジすか」
相手が年上、各上なら、普通は敬うものだろ。ダメなのか?
「かたっ苦しくてめんどくせえ。適当に話せ、適当に」
何かしんどそうな感じで、適当な岩に座っている。例の治療院から少し離れた、豊かな自然に囲まれた森林地帯の山中。その谷川近くに、彼の住居はあった。
家は、山奥にあるコテージのイメージピッタリで、ガラスははまっていないが、現代日本の家屋と言われても違和感ない。軽井沢の別荘と言った感じだ。
こんな場所で済むの、前世の俺の夢だったんだよな。無理だったけど。
「んで、俺の狩りを教えろと……?おめぇ、自分の狩りの仕方を持ってんだろ。どんなんか、言ってみろや」
見た目オオカミ、なら解るだろうが、とは思う。
「匂いを探って森や草原を走って、見つけたら辿って狙ってBang。狩り用魔法で頭をガツンとやるだけで終わり」
「……まあ、充分だな。そこそこの肉は取れるんじゃねぇか?どんなのを取れるんでぇ」
「魔牛も魔猪もコカトリスも……流石に、ワイバーンは無理です」
「そりゃ……充分か。コカトリスは食わねぇだろうが。翼竜になったら、狩りじゃなくて討伐だろうしなぁ」
顔をしかめた。そりゃそうか。このヒトが担いでいるのは、クロスボウ。下手にエアガンモドキや狩猟パチンコを作るよりも、現実的だ。
――エアガンって、圧縮した空気で、石礫を飛ばすって事?――
正解。そして、大体の射程距離は30mから50m。クロスボウも小型、中型ならそうだろう。フルサイズの物なら最大300mまでになると言うが、その距離は精密射撃は出来まい。
――だねぇ……ただの石礫だったら傷つけるだけでも、矢ならロープなり毒なり、細工できるしねぇ――
「そんじゃ、おめぇには武器は必要ねぇってこったな。腰に大層なもんぶら下げてんが、それは鉈じゃあるめぇ?」
「サーベル……を模している、聖剣ですね。ほら、こんな感じ」
抜き身にして、形を変えさせる。何でもいい、そんな事を考えれば、自由自在に形を変える。いつもは、俺のマナの形状通りに形を変えさせるんだが。レイピア、シャムシール、日本刀、槍、ハルバード、ハリセン。何で最後、ユウタ専用になった?まあ、いいか。
「ほぉん……面白れぇな、これ」
驚くと言うよりは、興味深そうな顔を向けている。色々と考えられる可能性が、彼の頭の中を廻っている事だろう。
一般人だったら大声を出して、恐る恐る近づくが、このヒトは何の気も無しに、当たり前の顔をして手に取ろうとして、重さを感じ取って止めている。持てば腕が脱臼するか、手の骨を複雑骨折するから賢明な判断だと言えるだろう。
「そんなら、鉈も何もいるめぇ……解体用の道具は?」
「――点火――モード解体!これだけです、ハイ」
氷の解体道具を創り出せば、驚く……
「はぁ……こんなもんまで……よくやるわ」
呆れられた。5歳児に解体なんて、体力のある行動は限度があるから、作った物なのだが。そもそも、驚かない。俺が来た事も、俺が持つそのスペックにしても。
「まあいい。それじゃ、行くか」
彼はそのまま、家の裏手に歩いて行く。それについて行くと、そこには3匹の狼。そう、普通の狼。尻尾を振っているあたり、飼い犬になっているのか?
――あんたと同じだねぇ――
うっさい、畜生!
「狩りにも種類がある。1人でやるなら、犬くらい飼っているもんだ。いくら足跡が見えたとしても、それだけで判断が付くもんじゃねぇ。半月以上前の足跡だって、残っていて当然なんだからなぁ。それは、理解できんだろ?」
「当然。鼻で追いかけるとは言え、雨で匂いが流されていたのに、明らかに足跡が残っている事は何度もあった。枝や葉が落ちていて、隠れ気味になった上に匂いが無くなっているのなんて、ザラだよね」
森で狩りをし始めてから、随分と多く見てきた。足跡があるのに、匂いが無い。雨で匂いが流れた証拠だ。ぬかるんだ地面を踏むことで、跡ができる代わりに匂いが消えやすい。
そうなると、遠くに移動している可能性が高い……バカは絶対、足跡があるからとか言って、その周辺をぐるぐる回るんだろうが。水鳥や兎ならともかく、大物は狙えない。
「兎やイタチの場合は、どうだ?狩るなら、どうする」
狼を引き連れ、森の中へと入っていく。この狼たち、俺の匂いを嗅いで直ぐに納得したらしい。敵対的な感じは全くないから、よく躾けられているんだろう。
「当然、出てくるまで待機か、罠を仕掛ける、どちらかでしょう。待機なんて、どれだけ気長に待つのか分からない方法だけど。可能なら、小さいタイプの犬で巣穴に入り込んでもらって、他の穴から出てきたところを一網打尽、とかね」
一匹俺の匂いをやたら嗅いでくる狼を適当にいなしながら、覚えている事を元に考えつつ話す。ぶっちゃけ、全部知っているのではない。
「ケッ!聞く必要がねぇじゃねぇか……おう、罠は種類が分かるか?」
「……落とし穴と、首や足、胴体を縛る物と、杭みたいな物を打ち込む罠?作り方は知らない」
「まあまあだな。じゃあ、先ずはその辺りから行くか。何、どうって事はねえ。直ぐに慣れるさ」
話している間に、獲物を見つけたらしい狼が走り出す。
「ああ、この匂いは猪か……魔猪だな」
「ケッ……無駄に大型になっていやがるから、デモンクラスだろうな……足跡がおかしな形してやがる。てめぇも警戒しろよ」
足跡をちらりと見ただけで、大きさや形を判断したらしいリュートさん。追いかける狼は、随分と確信を持って走って行く。その先には、確かに獲物が居る。デモンクラスとなれば、ちょっとした災害だ。
「一気に片を付けるぞ、行けるか!」
クロスボウをスタンバイして構えているが、正直それでは……と思っていたが、狼3匹は既に獲物に食いついている。セオリーな猪狩りの状況だ。
最も、その猪が明らかに2m超えていて、体中におかしな外骨格が飛び出しているのだが。あとは、間違って狼を撃たないように、猪に止めを刺すだけだ。こちらが狙うのは、狼たちが弱らせたその瞬間だ。
「――Bang!」
一撃すると体がふらついたが、それでは倒せない。しかし、ふらついたその一瞬で矢が刺さった。しかも、脳天に一撃でだ。
しかし、魔物化している奴で、しかもかなり強い個体だろうに、正確に打ち抜いて落とすとは……かなり腕がいいのかもしれない。
矢の威力も、並の弓の威力ではなさそうだ。猪などは毛皮の下に、イボの鎧をまとっている。サイに毛が生えたと考えれば、イメージとしては近いだろう。それ程硬い毛皮だ。貫くには威力が要る。
「……魔法って言っていたが、その割にゃ随分火力大きくないか?驚いたぞ、ありゃあ」
そこには驚くのか……フェンリルである事も、それ以外の事も、特に驚いた様子が無かったのに。
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「狩った獲物の処理の仕方も良し。これなら、教えるのは罠の仕組みくらいだろうなぁ……あんまり、やった事ねぇんだろ?」
処理した猪の肉を、川に浸水させて熟成を狙っているリュートさん。これで2・3週間くらい保存すれば、滅茶苦茶美味い肉になっているだろう。スライムに食われなければ。
「まあ、こんなスペックですし。オオカミってだけでも充分な理由だけど、精霊さんもいる上にその他もいろいろ……」
「だから必要ねぇ……か。だろうがなぁ、狩りは1人でやるものじゃねぇ。てめぇも狩人なら、そのやり方を考えねぇとなぁ」
それは否定できない。極端な言い方をすれば、小さな軍略が、狩りなんだ。狼たちも立派な一兵卒だ。それを指揮する小隊長のような立ち位置になれて、ようやく狩人。
個人で、猟犬もいないままに、大量に大物を狩るなど、夢想でしかない。自分が狼だから、一兵卒が居なくても自分がやってしまえばと言うものだったのだが、そのまま続く物でもない。
「そりゃ、まあ……」
「ちょっと待て、その皮、どうする気だ?」
いつも通り、料理をしている途中なのだが、剥いている野菜の皮を指さしている。
「そりゃ、捨てるつもりだけど……」
「バカやろう。そういうもんは乾かして出汁を取れ。動物の出汁と合わせりゃ、滅茶苦茶にうまくなるんだぞ?ちっと貸してみろ」
いつも通りの調理器具達に指示していた内容を一時中止。
リュートさんは鍋を持って、自身の空間収納に入っていた熟成肉で出汁を取り始めた。少しのハーブと塩、野菜の皮とキノコを干したもの。随分と種類を多く入れているが、こんなに入れる物だろうか?
「キノコなんかはこのまま炒めりゃ、酒のつまみになるんだ。そのくれぇ、分かんだろ?」
「勿論。オリーブオイルに、魚醤か岩塩と酒を入れて、炒め煮なんかは良いだろうね。トンガラとか入れて……」
誰かがする調理の光景を見るのは、ぶっちゃけ久しぶりだ。調理場でも作りながら指南を受けるし、師匠が作る事はまず無い。だから、誰かが作る料理と言うのは、見る事はあまり多くない。食べない訳じゃないが。
「流石に独りで山奥で生活しているだけあって、結構手際がいいね……」
「ったりめぇだ、ばきゃろう。意味無くこんな生活しているんじゃねぇよ」
出来上がったスープは、猪由来だから、味は多少豚骨のような味になるのだろうが、しかし濁らせてはいない。透明な、琥珀色のスープだ。
「完璧な、コンソメスープ……」
山奥で、こんなものを作るとは思っていなかったのだが、案外できる人が居るものなんだな。
「こんなもんで終わるわきゃねぇだろ?煮込んだ肉だって、この上で更にオリーブオイルで焼いてからオーブンで熱して仕上げるんだ」
チャーシューみたいな事をすると言う事だろうか?手順が逆だけど。
そのまま料理の話を、日が暮れるまで続けた。やはり狩りをする者は、食べる事が好きなのだろう。
「塩胡椒だけで焼いた鳥の胸肉が、一番いいじゃねぇか?」
「いや、数種のハーブをまぶして、衣をつけた鳥の足の揚げ物も捨てがたいんだよ。旨味が凝縮して、かつ増幅するんだ」
「そんなもんかぁ?だったら作ってみろや。唸らせるだけの物になったなら、認めてやらぁ」
ほろ酔いのリュートさん、ガッツリ料理の話に食いついてくれる。
――……狩りの話、どこに行ったの?――
さっきからずっとしているけど?
「はぁ……悪くねぇな、こりゃ。だが、ちっと子供っぽい味だな」
そんな事を言いながら、随分とバクバク食べている。胸でも足でも、関係なさそうだ。
「けどな、どうせなら猟師鍋にしたり、丸焼きにした方がいいだろ。肉の旨味が全開になるんだからよ」
「それは否定できないけど、そのうまさを増幅するハーブや塩の使い方もあるよね?それだったら……」
狩りをした獲物の調理や処理の仕方、毛皮の扱い方、様々な話をその後もずっと続けた。朝日が昇り、鳥のさえずりが聞こえるまで、ずっと。
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なんやかんやで、そんな関係を3か月続けた後、師匠が予定より早く治療を終えてコテージを訪れた。
「……なんか、今までで一番獲物が多いんじゃない?ヴァンくん、ちょっと張り切りすぎじゃぁ……?」
塩漬けしている肉、天日干ししている薄切りの干し肉、氷や流水で熟成させている肉、更に魚やキノコも干して、食べる物が所狭しと並んでいる。そのまま市場が開けそうだ。
「リュートさんも俺に触発されて、獲物をガッツリ取りに行くために、結構な場所移動を繰り返したからね。この3ヶ月で獲った獲物は、猪120、鹿105、兎200、キツネ150……自分でも、こんなに獲れるとは思っていなかった。作った罠も千個を超えているし」
常識的に見て、そんなに取れるはずがない。この半分くらいでも、無理があるんだが。狩場に他の狩人がおらず、資源も豊富で狼を飼っているリュートさんの影響で、他の肉食動物が殆どいなかった為だ。
……それでもおかしい。絶対おかしい数だ。
「このガキャ……何だってんだ?俺だってこんなに獲物取った事ねぇってのに、あっさりとついてきて、狩りをさっさと終わらせやがる。小型魔物なんて、一瞬で蒸発してやがるしなぁ」
おかしいのが俺みたいな話し方だ。こんな狩場で、滅茶苦茶狩りをしまくっていたヒトが言うのか?
「まぁ……それでも、この量はちょっと……予想以上ねぇ」
「そーかなー?2人だったら、これくらいじゃない?揃って狩りが得意なんだし」
独りだけ納得しているリサさん、いつの間にか干してあったサケトバモドキを食べている。まだ、完成には早いんだけど。それと、勝手に食べるのはエリナさんの仕事じゃないか?
「で、もう2人は大丈夫なのかなあ?流石に全治6か月を、魔術で無理やり直したとかしたら……」
全治6か月なのに、3ヶ月で退院。それはそれで、おかしい。2人の顔を見るまでもなく、体中に包帯とかを巻かれてはいるが、ギプスでは無くなっているし、治りが早すぎる。
「あー……」
「ま、まぁ……ちょっとだけ、早く治るように生命希還を使った上で、調整してはいるんだけどさぁ……完治には、もうちょっとかかるかなぁ?」
揃って少し怪しい行動をしてはいるが、嘘はない。
「それなら、もう帰れるのかなあ……?まだ体が痛いとか……?」
「ナイナイ!そんな事、気にしなくていいからぁ!それじゃぁ、リュートさん、またねぇ!」
俺の心配をよそに、俺の代わりに狩りの師に対してあっさりと別れを告げる。
罠や狩りの戦術も教えて貰った事だし、俺も一言くらい、と思って口を開こうとしたら、向こうから怒鳴り返してきた。怒っている訳じゃないのだが、そういう性格なのだ。
「おう、教える事なんてねぇし、もう来なくていぃぞ!これからもこんな狩られちゃ、資源が枯れちまうわ!」
……俺のせいじゃねえ。
――揃って片っ端から狩りまくってて、何言ってんだか?――
精霊のボヤキ
――何でこうなったんだっけ?――
忘れたと言うか、そもそも覚えてない。
――記憶力良いんじゃないの?――
完全記憶じゃないし、意識ないときは無理。自分こそ、覚えてないってどうなのさ?
――なんか、白いところに閉じ込められたんだけど?――
意味分からないんですけど?実体無い状態で、どうやって閉じ込めるのやら?




