21話 クソガキ
前回のあらすじ:裸のエルフと交渉?ませたエロがきがああァァ!(血涙)
俺が起きたのは、倒れてから4日目の日が昇る前の時間だったらしい。また3日昏睡状態か。
その間、エルフの2人は俺のそばから離れず、看病していた。
その間の食事はというと
「ごめんねぇ、持ってきた食糧全部切らしちゃってたからさぁ。この辺の動物もあまりいなくなっちゃってたみたいでぇ……」
「で、俺の住処の肉全て、食ったと……はあ……」
そういう事らしい。作ってあった保存食全て。
因みに普通にここにいると気づかれるだろうと思って、気配を消す結界が張られていたそうだ。出入り自由だが、中に居ると認識しにくい、隠蔽魔術の上位互換……マジか。
「実際、2年前に比べれば確かに、動物が少なくなったのは事実だし。角ウサギだって、最初の頃は毎日余るくらい食べられたのに、最近はほとんど見かけない。週1回遭遇できればいいくらいかな?」
代わりにほぼ毎日、産廃先輩に会うのだが。たまにパンや銀貨を持ってるので拝借はしている。ヒトのいない馬車も多くなってたか。
「なんかー、ヴァンくんって子供なのに難しい喋り方するねー」
「うん、なんか座り方も偉そう」
「偉そうは余計。俺は転生者なんでね。信じるかどうかは好きにすればいいけど、中身はこう見えて50歳くらいのオッサンなんだよ」
確かに、胡坐かいて腕組んでたら、偉そうって言われるのも分からなくはないか。そういうつもりはないんだが。
……なんか、前世でもこうだったな。自然にしているだけなんだが。
「あぁ、転生者。どぉりでねぇ」
「あれ、すんなり受け入れた?」
ここは、笑われたり、引かれたりと言った反応だと思ったんだが。普通なら信じないか、信じたふりして嗤うのが関の山だろ。
「うーん、珍しいけどたまにいるからねー」
いるんかい。そしたらこの世界では、異世界知識夢想とかなんとかいうやつは無理なんだ、きっと。ま、どうでもいいけど。
「それじゃぁ、さっきのアタシ達の体でぇ興奮とかしてたんだぁ」
ニヤニヤしながら身体をくねらせてるエリナさん。流石に服は着たが、肌の露出は多い。背中が空いてる。
しかし、残念。
「あれじゃ、ちょっとねえ。ただ裸の女なんて、そこまでのありがたみもないし。状況もそういうものじゃないし。何より、艶っぽさってのが足りねえ」
別に歳とか関係する訳じゃない。2人のスタイルもいい。顔もいい。でも、そういうのじゃない。
女の良さって、それだけで足りるもんだろうか?いや、足りないね。エロスってのは、ただの裸とか、顔とかじゃないんだよ。
「そもそも俺、体は子供だし」
「なんか……いろいろ注文多いね。少しショックだわ」
聞いてしょげるエリナさん、あなたが悪い訳じゃないんですけどね。
「えー……でも、小さい男の子でも、エッチな子はいるでしょ?」
いつも通り、ドレスアーマーのリサさん、それは否定しない。でもそうじゃない。
「俺はそういう感情は強くないんでね。というか、殆ど興味ない。できれば人とは関わりたくないなんて時期もあったし。
そんなんだと社会で生きるのに問題あるから、矯正はしたけどね」
サイコパスみたいな病気を疑われたこともあったか?猟奇犯罪者にされるのは癪だが。むしろ、俺より一般社会人の方がサイコパスだろ?人が電車で引かれてもゴミくらいにしか思ってないし。
「何その仙人みたいな発想…………」
仙人って、そういうヤツだっけ?そもそもこの世界に居るのか?いや、居てもいいのかもしれない。居ないって否定は、今の時点ではできないか。何しろファンタジーな世界だ。
「そう言えば、ヴァンくんの魔法って結局どんなのかなー?私よく分からないんだけどー……」
剣振ってるだけのヒトなのかな?門外漢ならしかたない。
「ああ、あれはね……」
「ケンジ達を縛ってた氷の術式あるでしょ。
出るのに時間かからなかったらしいけど、中位の術式以上で複数を、複雑に絡めてあるの。
多分、足場になる氷の土台に封護結界と冷気の侵食効果を重ねて、更に外部から直接狙えないよう防壁までつけた形になってたわけ。
時間制限もセットできるようなしてる辺り1つに見えて、8個くらい術式使ってるの。
言ってみれば普通の魔法は鍵だとすると、この子は鍵束って所ね」
――あー、これ解析されちゃってるねぇ。モロバレだよ――
解析とか、どこかの科学捜査班みたい……?
そう、1つの魔法に見える点火は、実は凄い数の刻印を重ねている。
だから、エクステンションの一言で他の技も追加できるし、氷の足場の改良型、アイスフィールドは色んな形になる。
それを突き詰めた結果、効果薄いと思っていた槍も作った訳だし。ストラクタイトは、追加で刃などを突き出させる前提の槍だったんだから。
「ちょっと表現が違うかな?鍵束っていうより、鎖とかの数珠つなぎ状のものが近いような気がする。
開発する時、大精霊自身は複数用意した刻印から相談して選ぶつもりだったらしいんだけど、スラムで襲われて全部まとめて使ってしまったんだ。
それが火の状態。
そこから刻印をいくつか除いて氷の状態とかにするんだ。
刻印の中に相性の悪いものがあって、命を削る原因になっている。状態に紐づけする形で技があって、それを組み合わせて打ち込むんだ。
だから、雪玉打ち込みつつ、氷の剣を空中で振りながら、地面を凍らせてバリケード設置とか、槍出したりできるって感じ。全部同時にね」
中位の術式くらいの物を、無詠唱で並行使用。こんなせわしない魔法が、1個で足りる。しかも単体攻撃も範囲攻撃も、なのだし。
ベストオブご都合主義だろ。実際は結構な魔法重ね掛けしてるんだけど。
なお、追加術式”Ready”は、毒を受けた時に大精霊が追加した、加速、身体強化、魔術効果上昇の刻印。どれも強化するものである為、リスクまで強化してくれる。バンザイ。
これ言ったらキレるかな?慌てる方かもしれないけど、どっちにしても黙っておこう。
「ふーん、まーいいや。そろそろ移動しようかー。ご飯もちゃんとしたの食べたいし、ちゃんとしたお布団で寝たいしー」
「あぁ、そうだね。お風呂入ってお酒飲みたぁい!」
リサさんが話を切り上げた。自分で聞いたのに、軽い感じ。エリナさんは……完全に一仕事終えた後のオッサンの反応ですよ。
首をかしげながら俺は立ち上がって外に出る。
「あれ、ヴァンくん荷物はいいの?」
「ああ、基本的な荷物はほとんどなくしたからね。DQN達のおかげで」
「誰それ?」
「俺をしつこくねらってた、変な頭の飾りの男達4人組」
簡単に説明したよ、毒を受けた経緯ってものを。
その時に、俺の手荷物すべて川に流してしまった。アジトにあるのは、ほとんどが廃棄前提の物。食うものがなくなれば、後は何もない。
腰に巻いていた皮もそろそろ廃棄の頃合いだ。矢の跡もあって血もついてるし。よく千切れなかったな、これ。
最終的に残ったのは、父親からもらったナイフ一本。そして首飾り。つまりはまあ、初期装備だ。
追加で持っていくのは、岩塩と、ポケットに入れたままになっていた金貨3枚。これが今の総資産。
「あいつらコロス……」
聞いてたエリナさんがつぶやいたが、それ以上に怖いのは無言のリサさんだ。あれだ。おとなしい人ほどキレると怖いヤツ。
「川に沈めてきたから、大丈夫でしょ。あれ……これって問題あるのかな?向こうは殺人犯的な行動していた訳だけど」
正当防衛が成り立たなければ、完全にアウトだ。それを気にして攻撃を緩くしていたんだが、やっちゃったか?
「問題ないでしょ。12英雄とエルフには逆らうなってのが、並人の常套文句だし。あたしらがヴァンくんにひどい目に遭わせないように守るから」
なんだろう。緩かったりキリッとしたり、エリナさんって緩急激しいな。いや、情緒不安定なのか?後ろでリサさん片手で指をバキバキ言わせてる。片手でそんなことできる人、いたんだね……初めて見た。
なんやかんやで話しながら歩き始めたのはいいのだが、行き先が少し気になる。
あのデカい街までは距離もある。そこに行くまでに飲まず食わずはないだろうし、補給するはずだ。
「で、どこいくのさ?村みたいな場所ってこの辺りいくつかあったと思うけど」
いくつか集落があるのは知っている。直接見なくても、ニオイで判る。狼の鼻、スペック高いし。
「実はね、ヴァンくんを探すだけじゃなくて、他の仕事でもここに来てたの。ゴブリンの巣を探すっていう仕事でね。
でも……この森の辺りにあった村や集落、合計9か所の内で、1か所しか残ってないの。今から行くところはそこ。他はみんな……」
……あ、あそこって、最期の生き残り的な場所だったのかい。へー……へー。
白目になってる俺を無視して、少し離れた場所で茂みが揺れ緑の生物が現れる。風下から来たみたいだ。
「あー、言ってる間に出てきたよー」
「あ、ちっす。産廃先輩。いっちょ殴らせろやごるぁ!」
「ちょっと待って、ヴァンくん。アタシ達がやるから、出なくていいよ。どうせあの魔術使う気でしょ?」
いつも通り、出てきた緑の産廃を一気に吹っ飛ばそうとしたら、捕まった。点火・モードフレアの事を言ってるんだろう。命使うからね、あれ。
いつも秒殺してて、使うって程じゃなかったけど。
「じゃあリスクゼロの氷の方で!串刺しじゃあ!」
「だからぁ、アタシ達がやるってば」
嫌じゃあ!って言おうとした時には、産廃先輩消し炭になってた。
スパークって言ってたけど確か、イフリータさんが言ってたスタンガン的な初級魔法。それで先輩10名、焦げてる。多分、絶命している。
ウソヤロ……足止めくらいの技で?ウソヤロ…………?
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「あ、オオカミ君!オオカミ君来てくれたの?!このお姉さんたち、だぁれ?」
村の入り口で芋虫の観察をしていたらしいアリスが俺に気付いた。エルフの2人を見て「お姉さん」とは、教育が行き届いているね。俺とは大違いだ。うっせぇくそ。
――何1人でやってんのさ?――
「ヴァンくん知り合い?ずっと1人みたいなこと言ってなかった?」
ああ、うんそうなるよね。予想してた。大精霊。無視したんじゃないよ?
「俺の狩ったシカを丸ごと奪って、勝手に食べた村だよ。その落とし前は付けたけど……」
「はぁ?ちょっと文句言ってくる」
「だから落とし前は付けたっての!DQNのせいで無駄になったけど!」
エリナさん、ヒトの話を聞かず、ずんずん進んでいこうとする。足にしがみついて引き留めるんだが、止まろうとしない。意外と脚強いな、この人。
「ごめんね、ヴァンくん。ほら、エリナもー」
リサさんが声を掛けると、止まった。苦虫噛んだ顔してる。その感情は、最終的にDQNに向けばいい。まあ、死んだと思うのだが。
そんなやり取りをしていると、村の連中が集まり始めた。俺1人の場合、4本足で走って移動していたので時間は4時間前後だったが、ヒトの歩きになると、倍以上の時間はかかった訳で、もう夕方になろうとしている。
夕食の準備の頃合いなんだろう。野菜やらなんやらを持ってる人が集まった。その中で、頭が剥げたチビがこちらに歩いてきた。
「ようこそいらっしゃいました、エルフの方。わたしがこの村のそん……」
「あ、気づいた?数日ぶりだな、糞ババア」
俺の事に気付いて固まったハゲチビクソババア。あれ、そう言えば、チビとハゲって漢字、一緒なんだっけ?昔トリビアな番組で、そんなこと言ってたな。一言で二度おいしいな。
「プッ。禿糞ババア」
――……――
大精霊よ、否定するなよ?無言でも爆笑をこらえてるのは、わかってるんだぞ。
――うるさい、そん……ブッ――
「どうしたの、ヴァンくん?」
「なんでも……」
俺と大精霊の内心の嗤いにリサさんが不思議そうな顔をしている。ま、そうだろうね。
「どうも、うちのヴァンくんがお世話になったそうで。よろしければ今日は、アタシ達も泊めてもらえませんかぁ?お金とかなら……」
「なんでこのガキがいるんだあ!あたしゃこんな奴は絶対村には入れさせないよ!」
場を繕うとか、そういうのヘタなんだろうね。この婆さん、よく村長なんかなれたもんだ。年功序列?
「ですが、ゴブリンの襲撃を受けてないのは、この村だけになってるんですよ?もしかしたら、明日には襲撃を受けるかもしれないんですし……」
「そんなもん、この村に来るわきゃ無いだろうが!帰りやがれえ!」
妄想を信じてる、その状態のようだ。原発神話を信じてた頃の日本政府と一緒だな。
自分は危険とは無関係って思いたいから、信じない。妄信している。絶対なんて、この世にないのに。バカの極みだ。
「ですが、実際に他の村や集落は壊滅してます!次に狙われるとしたら、ここかもしれないし……」
「しれないじゃないし、もう遅いよ。……来た」
リサさんの反論を遮って言った俺の言葉に、全員が凍り付いた。1人を除いて。
「クソガキが!年寄り見えるからってバカにして!アタシャまだピチピチの四十代……」
どう見ても70歳の禿糞ババアの話は以下略でいいだろ。ムシムシ。弓をくれた孫っぽいのが抑えにかかったようだ。
「ヴァンくん、それホント?」
「森の方向、北北西。数は100……いや、120は越えてる。ニオイで判るんだ。今は微風だし、奴らは距離があるから、気づかれてないと思ってるんじゃないかな?
武装している。毒物も多数……さらに奥から増援も来ているみたいだ」
エリナさんの問いに分かる限りの詳細を答える。そして、
「あぁ、確かにいたわ。森の茂みに隠れてる」
「見えたの?結構距離あるけど!」
「あたし、視力4.0あるから」
な、何い!俺の視力の倍、だと?自信が結構あったんだが、あっさりと打ち砕かれた。アフリカ人かよ。いや、集中集中…………
「音の限りだと、反対側にも回り込んでると思う。挟み撃ちにするつもりらしい。手前の方の麦畑にもおかしな音がしているから、既にある程度潜んでいるみたいだ」
「どうする?エリナ」
耳も使って、状況判断する俺の言葉に、リサさんがエリナさんに指示を仰ぐ。戦術・戦略は、エリナさん担当なのか。
「先手打ったり、攪乱できれば楽なんだけど……」
「それなら俺がやる」
作戦を考えるエリナさんがつぶやいた言葉に俺は反応する……俺以外に、誰ができる?
「え?!ヴァンくん、それは!」
「獣人のスペックに、大精霊。これだけあって、あの程度のゴミ、片付けられないと思ってるの?10匹程度なら瞬殺するよ?
流石に数いるから無理には攻めないけどね。それに、2年もの間どれだけ逃げ回って来たか、知ってるでしょ?」
焦るエリナさんだが、分かっているはずだ。フェンリルの名は伊達じゃない。精霊と共に生きている種族だ。
力の程は、実感し続けた2年が裏付けている。
「でも、ヴァンくん。あなたが戦う必要は……」
リサさんが俺を心配して俺の両肩を掴む。
だが、ここで逃げる方が、男が廃る。いや、人として生きてはいけない。というか、人じゃない。
「必要ならある。俺には力があるんだ。戦う力が。それを無駄にするのは人間じゃない。無駄に誇って意味なく振り回すのは、『餓鬼』なんだ」
これも、日本人で判ってるのは仏教に詳しい人間だけだろう。教養のない日本人9割は知らないことだ。絶対の自信を持って言える、間違いなくみんな知ったかぶってる。
「俺の前世では子供の事をガキと呼んだが、本来なら自分勝手に生きて、他人を踏みにじる大人の事を、『餓鬼道に落ちるニンゲン』という意味で『餓鬼』と呼んだんだ。子供だけど、俺は『餓鬼』じゃないんだ!」
実際、六道輪廻の餓鬼道に落ちる者の条件の一つは「妻や子供に贅沢をさせず、自らの欲求を満たし続けた者」なのだ。
3歳児が子供を作れるものなら、作ってみろってんだ。しかし、知能障害はなくても3歳児のわがままを言う大人は思いのほか多い。そういう人間が本来の、六道輪廻における『餓鬼』なのだ。
言い換えれば、大人しか『餓鬼』と呼ばない、そうも言えるだろう。
「チカラあるなら、それを正しいところで振るう!それの何が間違いか!
俺は『正しさ』を求めたい!前世でも今世でも!
だからこそ!!――点火――!」
唖然とする全員の前で、俺は宣言をし、リサさんの戒めを払い点火する。
前世の子供の頃は、俺だって普通だった。ヒーローに憧れた。そうなろうとして、結果が、これなんだが。
「俺は、俺の正しさを信じる!俺の信じる正しさは――――たとえ自分の命を懸けてでも!人を救うこと!」
「ヴァンくん、それは……」
エリナさんが何かを言おうとした。
しかし、それのどこが間違いか。日本で生きていた時には全ての人間が『間違いだ』と言っていたが、そんなことはないと思う。
実際にいるのだから。
命を懸けて、命を救う人間が。
人を憂い、悲しみ、慈しみ、愛す、そんな人が。
……俺は、そうありたいだけだ。
「イイイィィィィヤアアハアアアアアアアア!」
俺は掛け声とともに駆け出した。たとえそれが俺を疎んだ人間であっても、命を守るために。
余談:裏設定。無詠唱は不可能じゃないけど、道具に頼ったり、威力減少などがかかることになります。主人公は精霊のお陰であまりないですが。




