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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
災害の獣の鎮魂歌
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19話 陽光の影響

前回:――太陽(タマゴ)からトリが産まれた――

 大気の異常な膨張から生まれた爆風に、飛ばされないように踏ん張って堪える。


 たった今まで、真昼のように輝いていた山の中腹は、いつの間にか暗くなっている。戦いが始まる前には、丸みを帯びた氷の塊だった山が、本来の尖った形状になって、地肌を表している……違う。月に照らされている山には、緑に染まって……?


「な……何ですか、さっきのは……?ソそれに……?」

「ふぁー!ハナがいっぱいだー!」


 いつの間にか、足元に広がる草原には、赤紫の花を中心に、さまざまな花が咲き乱れている。それに気がついて、みんな呆れつつ放心してしまう。

 あいつがやった、超大爆発の影響か?ぼくたちも、爆発に巻き込まれたはず……焼かれなかったのは、あいつのチート炎のせいか。


 メガネとヴァンの一族を探す為に、ぼくたちは村の近くまでに戻ってきたは良いけど、結局見つからなくて、帰ろうとした。

 そしたら、幌馬車に積んでいたアーサー用の水が無くなっていたから、村の井戸で水を汲んでいたら、氷のソリに乗ったメガネが村に来たのと同時に、山からドンパチと音がし始めた。


 慌ててメガネを連れて、村から離れて、近くの丘の上にまで来たら、中腹あたりの闘っている場所が、異常なほどに濃い霧に包まれながら、明るくなっているのが見えて、見とれている内に、デカイ火の玉が出来て、鳥みたいな何かが飛んで、爆発が起きて、曇っていた空が晴れて、花が咲いた。

 ……最後の辺りが意味が分かんねえ。なんで花が咲くんだ?


 周りを見回しながら、ヴィンセントが呟いた。

「この状態……勝ったに違いないだろう。この花は……魔術の影響だろうか?熱風を受けると、咲く花なのか……?その様な植物は、あるのかね?」

「いやさすがにそんなものあるわけないだろうありえな」

「うん、森林火災後に咲く、ファイヤーウィードっていう花があるんだけど、ここにある花がそうみたい」

「ええええ!あったのかよう!知ら」

「「「以下略」」」

 ヴィンセントの問いと、アリスの答えが、ぼくには理解できなかったんだけど、そんな花があるのかヨ……?地球には……無い、よな?


「それよりも……流石に、ヴァンに我々がここにいる事を知られても、あまり印象は良く無いだろう。事情を知れば、理解しては頂けるだろうが」


 ヴィンセントは、メガネを見て発言している。そりゃ、こいつを探しに来たっていう名目だしな。前の奴隷闘技場のような、理由にならない状態じゃない。あれだってあいつを心配していたからなんだけど。

 メガネは、よく分からない理由でアリスの事を敵対視していたらしい。ヴァンにも笑われたらしいし、悔しそうにアリスに睨みつけながら喚いたけど……凍傷なのか、両耳を一部、切り落とされていた。

 戦っていた訳でもないらしいから、かなり情けない状態だ。


「一番被害があるかもしれない村の近くに居るから……多分、最後の爆発はヴァンの魔術だけど、ヴァンの魔術で気化した空気が起こした爆発や暴風で、森の木が押し倒されているし……?」

「怒るやろうな……今の内に帰った方がええんとちゃうか?銀狼の一族らしい影も、全く見んかったし……」


 夕日が沈んで、周りを見渡せなくなったから離脱しようと話していたところだった。最も、完全に真っ暗だから、街道を見渡す事も出来なかったんだけど。

 ミーシャ以外周りに何があるか、見えなかったし、魔術師の2人も、探知していたらしいけど、全然分からなかったらしいし。

 どっちにしても、あいつの家族を見つける作戦は失敗だ。帰るしかない。


「今は月が出てるから……何とか街道の辺り……も、花が生えちゃってないか、これ?」

 明らかに、さっきまで街道だったんだろう場所にまで、赤紫色の花が生えている。ギリギリ、下に雑草が生えていないから、分かる程度……やり過ぎだろ、これ。絶対。


「……しかし、どうにか分かる状況だ。アーサー、出来る限り早めに宿営地に戻りたい。頼めないか?」

 ヴィンセントがトリに話しかけると、睨みつけて嘴を鳴らしている。けど、足元を蹴っているから、走りたいんじゃないか?また酔いそうだけど。

「とりあえず、全員乗りこもう。それから、彼に知られない内に宿営地まで……」


「誰に知られないように、何だろうな?なあ、ヴィンセント」

 ……いつの間にか、幌の上にヴァンが乗っている。


「……ヴァン、テレポートして来たのか!?言っておくけど……!」

「まあ、凡そそのデブが抜け出したのに気づいて、追いかけてきた探索隊、って事だよな?もしかしたら、他に()()目的があって立候補したとか言うのかもしれないけど」

「「「……」」」

 バレてる。そりゃ……あいつに家族に会うべきって言っていれば、そう考えるのかもしれないけど……


「なあ、ヴァン。やっぱり、会ってみても良いんじゃないか?……ぼくだって、会ってみたいよ!」

 ぼくとしては、後半が本音だったりもする。見た目はこいつと同じだろうけど、どんな生活をしているのか、興味はあるんだ。流石に、全員が肉大好き人間じゃ無いと思うし。

 それに、みんなだって同じ気持ちがあるはずだ。こいつから聞いていた話だけじゃ、とてもじゃないけど、何となくのイメージしか持てない。


「……はあ。今はとにかく、一度……」

「ヴァン、何から逃げているのだね?私には、君が逃げているようにしか見えないのだ。恐れている理由があるなら、教えて欲しい」


 ヴィンセントは、ヴァンが逃げているように見えているのか?違う気がするけど……でも、分かる気もする。逃げているなら、どうしてそんな怖いと思う事があるんだろう?


「いいから、デブを送り届けるぞ。俺が山を登っている時に、アーサーの幌馬車が見えたから、周囲を探って、見つけてコッチに送ったんだ。時間が経ったからもう送り届けているのかと思っていたら、戦い終えてもまだこんな所にいるんだからな。

 俺は、あのドンガメの処理がまだ終わっていない。一度戻って、処理しなきゃいけないんだ。

 一族が来るかは知らない。だが、お前らも興味があるなら、一緒に来い。行く行くは災害獣を処理する仕事もあるだろう。もしかしたら、そのタイミングで一族が来るかもしれないだろ?」


 メガネをどうにかして、あの亀から離そうとしているのか?そりゃ、勝手に行動していたんだから、分からなくはないけど……?


「離れる時に、ちょっとだけ見えました……あんな化け物と闘うなんて……使える結界を駆使しても、私には近づくのですら、不可能だったと言うのに……」

 メガネは手を見つめながら、なぜか涙を流している。見つけた時には、エイダが軽度の凍傷だって話していたけど、何があったんだ?


「まあ、お前程度の結界じゃ、あっという間に指が壊死して凍った上に、ポッキリ折れていて当然だったんだからな。その一歩手前くらいまで来ていて、俺に会えたことを感謝して欲しいね」

「ポッキリ折れる手前って、ウソだろ?見つかった時には、軽度の凍傷って……!」


 バカみたいなことを言っているけど、診断したエイダと、当事者のメガネを見ると、2人とも頷いている。流石に、そんな事はありえないよな。そうだよ、だって……


「確かに、不自然な程に強力な回復魔術を掛けられていた様でした。そして、先程の爆発で確信いたしました。

 どちらも、生命に関する魔術ですね?擬似的な魂を作ったり、本人そっくりのホムンクルスを生み出す技法に用いられる、生命魔術という技法は、話に聞いた事があります」

「あの魔術を受けて、水膨れになっていたような手が、見る見る内に萎んで、あったかくなったんです……同じ年齢であっても、追い付けないですね、私には」

「ってマジなのかよう!うそだろおー!」


 流石に信じたく……こいつも師匠も、チート魔術師だった。他にもチートな奴、居るんだっけ。ヴァンそっくりの、ホムンクルスが居るって話も聞いた事あったし……?どんな能力なんだよ。


「騒いでいてもしょうがないんだよ。一度帰って、それからまた山登りでいいのかな?夜登るのは、危ないからやめた方が良いんだよ?」

 猫にはぼくの気持ちは理解できないらしい。そりゃ、猫だし、自由奔放なのは分かるけどさ……?


「ああ、問題ない。必要になったら、また擬似太陽を作るさ。今度は『陽の鳥』にしないし、地面も焼けない奴だ」

「あー……ダンジョンの裏手の、地下でやってた奴ね……あれ、ただの照明だと思ってたけど、違ったんだ……」


 みんなが幌馬車に乗ったところで、マリアが思い出して、気付いてなかった全員が納得して頷く。ぼくも忘れてたけど、あれ、攻撃魔術かよ?攻撃を、照明にしたのか?バカかよ?


「まあな。言ってみれば、究極のファイアボールだからさ。恒星以上に大きい火の玉なんて、どこを探しても無いよ。

 その火の玉を上回るとしたら、師匠の天の川……もとい銀河か、星々を飲み込むブラックホールくらいだろ」


 ……ぼく以外、全員理解できないって、それ。この世界の奴は、宇宙とか全然知らないんだから。首傾げているじゃないか。……後で説明しなきゃ……


「うーん……それって、つまり?」

「俺たちが住んでいる大陸は、惑星という巨大な球体の中にあるんだ。それは……」

「って今説明するのかよう!」

 途方もない時間がかかりそうだ。止めてもいいんじゃないかって思ったけど、


「「「五月蠅い!」」」

 おこられた。ナンデダヨ?


――――――――――――――――――――――――――――


 メガネをダントンに預けて、もう一度銀嶺の麓までやってきた。流石に、山を暗い中で登っていくのは危険じゃないか、ってみんなで言ったんだけど……


「そう言えば、同じ事を森海でもやってたんだっけ……?」

「だから、心配するなって言ったんだ。そもそもあの森の中じゃ、下手に疑似太陽を使ったら要らない魔物を呼び寄せることもあったんだから、やらなかったんだし。今は全部の魔物を焼き殺した後だから、関係無いけど。

 アーサーは鳥目だけど、俺やミーシャは夜目だ。手綱を握って、危険を避ける事は可能なんだよ。

 そして空間歪曲を使えば、そもそもが平坦で真っ直ぐな道にできるし、やろうと思えば氷の坂を作ったり出来るんだ。

 それを考えれば、そもそもが暗いとかなんだとかって、意味が無いんだよ」

「でも、わたしじゃ、アーサーは言うこと聞いてくれそうににゃいんだよ……?」


 森海の時のように、空間を捻じ曲げて、時折氷の坂道を作って、どんどん山を登っていく。

 アーサーが重量軽減を使えるって言っても、それじゃ無理だろうと思っていたのに、こいつも無重力にできる魔術があるとか言って、馬車の重量を無くしやがった。

 みんな、ちょっと浮遊感に見舞われながら馬車に捕まっている。そうじゃないと、どこかへ飛んで行ってしまいそうだ。


「さあ、もうすぐだ。ドンガメの所まで来たら、後は…………?」

「どうした、ヴァン。何かあったのかね?」


 少し遠くを睨んで、黙った。これからデカガメの後処理をするとか言っていたのに。何があったのか、分かりそうなのって……ヴィンセントじゃないとしたら、エイダとアリス、ミーシャか?3人の方を見ると、首を傾げている。分からないのか?


「……何か……人のようなマナを感じますね。……これは?」

「うん……魔力量が、異常な強さかもしれない……」

 感じているのかよ?ボンヤリしているから、正確に分からない事が結構あるって言ってたけど。


「にゃんか……ヴァンくんに似た匂い?でも、お日さまの匂いはしないんだよ」

 匂いもあるのかよ……ダニの死んだ匂いはしなくていいけどさ。でも、それってつまり……


 亀が見えてきた辺りで、その姿を遠目に見ることが出来た。


 月明かりを反射するその毛並みは、銀と形容される美しさを伴っている。


 悠然とそびえる銀色の山と、色とりどりの花を咲かせる大地に立つその人物は、確かにぼくたちが知っている人物と、うり2つの姿だ。


 命を奪われた亀を眺めながら、何かを考えていたらしいけど、ぼくたちの乗る幌馬車が近づいたら、こっちを見た。

 最初から、近づいてくるのが分かっていたかのようだ。全く、驚いていない。


「ヴァンくん、このヒトって……」

 ミーシャが質問しようとして、手で制止された。そしてそのまま、話し始めた。苦笑いしている。


「よう、スコル。随分久しぶりだな。10年チョットぶりか……泳げるようにはなったか?」


精霊のボヤキ

 ……何でこいつ、独りだけなんだ?

――もしかしたらこいつも、巣立ちとか?一緒にいれば……――

 遠慮します。

――何でよ?――

 これ以上ヒトが増えても困るだけなので。

――えー……――

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