4話 理解できない!
前回:――突然のリサイタル?狼は音痴なので、ピアノで――
さんざん付き合わされて、夜もかなり更けた。けど、
「ヴァンくん、待ってたんだよ。お料理、さっき頼んだからすぐ来るんだよ!」
全員、ちょっとのおつまみとお酒を頼んでいただけで、ちゃんとした料理は食べていなかったみたいだ。付き合わなくてもよかったのに。
「お前ら……冷めていても温めるのは簡単なんだが……まあ、いいか」
「さっきの演奏……凄いね。演奏している音を当てて、マナで小さな爆発を起こさせるなんて、あんな方法があるなんて、思ってなかった」
アリスがヴァンを褒めてるけど、何を言ってるんだろう……?
「済まない……つまり、どういう事なのかな?あれは、それほどに珍しかったのだろうか?」
一番頭良さそうなヴィンセントでも、分からないのか?それじゃ、ぼくに分かる訳ないか……。
「ああ……つまり、俺が狩りに使っている魔法と似た仕組みなんだ。外気中にあるマナを、音に当てて破裂させる。
当然だけど、外部に影響のないレベルのライターくらいの小さい火を、爆発に変換させているんだ。音階に合わせて、反応させている。
この方法を俺が初めて見たのは、精霊さんが初心者ダンジョンクリアを祝ってくれた時なんだ。それのやり方を教えらてもらって、音に対応するようにした。
理屈を充分理解したら、誰でもできる仕組みなんだよ。問題は、その理屈なんだけどね。音階に合わせて反応させるって事は、音階が充分理解できていないと意味がない。できれば、絶対音感が欲しいな。
音に合わせて火の色を変えるなら、燃焼させる物質を変える必要がある。物質次第で、燃焼する際の色が変わるからだ。
そして、一番ネックになるのが、外気マナをコントロールして、自分のマナと混合させること。こんな事を当たり前のように出来る奴は少ないそうだ。精霊さんから教えられた俺は、当たり前に思い込んでいたけどな」
「その様な事を、当たり前とされても困ります……ワタクシ共は到底、同じ事をできるとは思いません」
どんな異常な事を、当たり前だと思っていたんだよ。馬鹿じゃないか?
「ヴァン……流石に理解をしようにも、容易では無いのではないか?少なくとも、外気のマナを利用するなど、正気の沙汰とは思えないのだが……」
「いや、その方法を伝承する者が殆ど居なくなっただけで、実は覚えようとしたら結構出来るんだよ。それが、さっきの魔法に繋がるんだ。自分のマナを外気のマナに溶かし込んで、コントロールするんだ。
問題があるとしたら、精密作業になるから、慣れるにはトレーニングを、数週間から数か月は必要とする事なんだけどな」
「「「……」」」
「……できるのかよ、そんな事?」
ありえないだろ。全員、固まって黙り込んじゃったよ。
「いや、前にも言ったけどエルフの術式も、外気のマナを利用するんだ。実際に、アリスに教えたプリズムシェルも、外気マナを由来とした究極の障壁なんだからさ」
「うーん……確かに……?それに、媒介を使った魔術にもちょっと似ているような気がするんだけど……」
「ああ、転用した力の使い方が、媒介術式なんだよ。自分のマナを溶かし込んだ道具が、武器なんだからさ。それを応用する力の使い方は、エルフ術式に由来しているんだよ」
ちょっと意味が分からない。由来がどうとか、結局どういう事なんだろう?
「まあ……ちょっと皆が知らんような力の使い方を必要としている事は分かったんやけどな……?そんな事より銀狼はんが昇進した理由を話してくれへんかいな?ウチには、そっちの方が理解できんのや」
「そうよ!そんな魔法の使い方は、これからどれだけでも覚えられるでしょ!けど、今はアタシらが落ちたのに、アンタが試験を受けないまま昇進した理由が分からないのよ!」
鋭いような目つきのリリーが言った言葉で、今更って感じの事をマリアが叫んで指を突き立てた。なんか、こいつ……人の意見を自分の物みたいに言うことが多い気がする。ちょっと、卑怯だな。
「まあ……そうだよな。ああ、料理来たから、食いながらでもいいか?」
やっと、ぼくとヴァンの前に料理が並んだ。腹ペコとか、そんなレベルじゃない。死にそうだ。何しろ、昼にちょっとのスープとパンを食べただけなんだ。スープがミネストローネだから、栄養があるのは理解できるけど、それから半日くらいたってるんだし、量もそんなにあった訳じゃなかった。
ぼくが頼んだカレー(ご飯は無いから、パンだけど)食べ始めたところで、ヴァンは少しづつ食べながら話し始めた。
「階級を上げるのには、いくつか意味がある。
1つ目は、当然仕事のレベルを上げる。高い難易度になればその分、報酬も増える。信用もあると言う事だから、護衛任務も増える。稼ぎになる理由だな。
2つ目は、ギルドの仕事という面だ。3等級以上になれば、ある程度は関わっていく事になる。1等級でなければ、冒険者ギルドのマスターや代行に離れない。そしてその役職は、脳みそが筋肉で出来ているような、短絡的で騙されるのが当たり前の馬鹿は、なることが出来ない。
その面は簡単だな。エリナさんは知性が高いから、騙されない。普段が猪突猛進で、バカっぽく見せているから、相手が勝手に勘違いして、足元を掬われる。
実は、大陸最強と言われるだけあって、天災クラスの思考能力があり、かつヒトとの交流が好きだからこそ、ヒトの感情や心理を理解している。
俺の場合は、精霊術師由来で、嘘が利かない。エルフ術式由来で、記憶を覗ける。謀るどころか、全てを見透かされて、最後のオネショすら周知されかねない。どっちも、相手するのが面倒くさい、ウザい奴だ」
自分で言うのかよ……分かるけどさ。
「でも……それだけなら、意味はないだろ?」
「そう、だから俺は、料理長に意味がないって事をさっき言ったんだ。
だが、ギルドとしては他に理由がある。
まず、1等級世界最年少合格者は、俺なんだ。だが、現状は4等級。世界最年少1等級は、別の国にいる人物なんだよ。元々俺の前に最年少合格者だった奴なんだ。
余談だけど、狩人でも世界最年少は、俺だ。師匠と精霊から受けた知識と、転生した時に得た記憶能力と前世の知識、フェンリルの一族の教えとスペック。全部が合わさって、強みになったらしい。俺以外の奴がなっても、同じような事が起きた可能性があるけどな。
これは見方を考えれば、ギルドが優秀である証明の理由の1つになるんだ。何しろ世界最年少。それを教えた者が、ギルドにいる。対外的に、解りやすい理由になるだろ?この恩恵を狙いたいのが、ギルドの意向の1つ。
次に、狩人では決してできないけど、冒険者ができる事が、いくつかある。その内で最も大きな理由の1つが、『災害』対策だ。普通に動物を狩る狩人は、災害には無関係で、感知する必要はない。
だが、多くの面で安全を確保するために動く冒険者という立場は、『災害』の時にも役に立てるべきとされる。
そこにも低級の冒険者は、基本的には関われないんだ。特例として、特A任務に関わる奴らは、関わる必要があるんだがな」
どういう意味だ……?災害って事は、自衛隊みたいな事をするって事で、良いのか?
「……正確には理解しきれないが、しかし災害や名誉で無理に階級を上げる必要があるとは思えないのだが……」
「おまけで言うなら、階級自体が仕事の報酬に、少しだが影響を与える。上乗せが発生するんだ。資格があれば、その分報酬が増えると考えていい。
ヴィンセントは敢えてやっていないが、リーダー報酬を望む者だっているんだ。そして、その資格がある者も居て当たり前なんだ。
俺がいれば、ほんのちょっとだが報酬が増える。その分、貴族に対する請求がちょっと増えるけど、階級が納得できる者なら、あまり値切ろうとしないんだよ。値切らないって事は無いけどな」
……ヴァンが生々しいファンタジーって言った事あったけど、こんなガメツイ事を言われたら、そりゃ生々しいって思うのも、当たり前かもしれない。ファンタジーじゃないだろ……現実だから、当たり前だけど……創作だって思いたい気持ちは、まだぼくの中にある。
「そんな事、聞いた事無かったけどさ……どうしてそうなるのよ?それに、どのくらい増えるの……?」
金の亡者は、やっぱり金から眼を離せないらしい。
「増えるのは最大でも1割程度。増える理由は、仕事に対する理解度が高く、実力がある為に信頼が厚い。つまり、ギルドのおすすめになる人物に該当するっていう事だ。その分の利益はギルドは得られるが、支払いが増える分商人達はしかめ面になりがちだ。
だが、今回の場合はちょっと特別な面がある。冒険者として、俺は低級に当たる訳だけど、お前らが合格していた場合、俺が昇進していなかった可能性がある」
「なんや、ウチらの責任みたいやないか?」
それは、ありえないとぼくも思う。
「残念だが、それが現実だ。恐らくギルドマスターも、俺達を稼がせる為に、わざと、お前らが昇進できないと知った瞬間に、資格を持っている俺を昇進させたんだろうよ。
理由は簡単だ。稼ぎにならない仕事は、見限られる。俺の前世のフリーターの感性からしても、よほどの理由が無ければ、稼げる仕事に就くのが当たり前だ。時間給が高いならよりよい。日当で払う上に、働く時間が少ないなら美味しい事この上ない。
冒険者であっても同じだ。王女の時と同じ護衛だとして考えてみろ。日当で金貨1枚が基本だとして……俺がいるが故に、銀貨10枚増えるとしたら。最低でも、全員が銀貨1枚多く受け取れる理由になる。全員が、報酬を増やせる理由になり得るんだ。
ついでだけど、等級が高い奴が多ければ多い程、ギルドが得られる利益も大きくなる。信頼できるだけの実力がある者を差し出すんだ。少しだが、確実な利益を提示できる。その一部が、俺達の報酬なんだ。
総合的に、利益を得られる理由が増えるのが現実なんだよ。詠われる回数が多い俺のような存在なら、尚更なんだ。何しろ、行商人としては、安く効果の高い護衛を選んだ方が、より危険な場所に向かえる理由になる。
極論、俺を残してもお前らが居れば、その後の護衛はある程度は成り立つ。野盗なり魔物なりを相手にするにしても、安全が確立できるんだ。
多分だけど、お前らの誰もが次に昇進をしなければ、特に、リーダーのヴィンセントが昇進しなかったら、次の俺の昇進も無いだろう。階級の間を開けてチームを組む事は、一応禁止されているからな」
一応って言うのが気になるけど……つまり、次ぼくたちが昇進したら、こいつはまた昇進するかもしれないのか?……稼ぎが増えるなら、意味があるのかもしれないけど。
「そうなれば、意味も無くギルドが昇進を促した訳では無いのであろう。全てが潤う理由になるなら、多少なり貴族側も支払う理由になるのだ。
まして、領の人間は、家族にして資産。その原理を理解する事の出来ない者は、没落する事は目に見えているのだ。先だっての騎士達同様、意味無く人を見下し、踏み躙ろうと思う愚か者は、貴族には必要ないと、私は想うくらいなのだ」
王女の護衛にいた騎士のことだよな?……あいつら、王女が見てないからって、ぼくにも砂をかけてきたりもしてたし、ウゼえから死んでいいだろ。
ヴァンは、これよりヒドイ事をされることもあったけど、亀の甲羅結界で守ってたから、何も起きてないような顔をしてた……ぼくにも使えよ、そのチート。ズルすぎるだろ。
「……ま、まあ……利益が増えるなら、ちょっとだけでも歓迎かな……そういう事なら、納得してあげるけど……」
「マリアちゃん、正直に言った方がいいよ。スッゴク嬉しそうな顔をしているんだよ?キョーキ乱舞、していいんだよ」
「ちょ、しないから、そんなこと!」
「何言うとるんや、ダンジョンに向かう時も、王女の護衛の報酬の時も、狂ったように踊ったやないか」
リリーの言葉で、マリア以外は笑い始めた。確かに、おかしな顔をして、変な踊りをしていた。
「ああ……確かにユウタ張りのおかしい動きしてたなあ」
「だねー、バカみたいな変な動きー」
「ちょっと!こんな奴と一緒にしないでよ!」
笑っている中で、おかしい言葉が聞こえてきた。
「それはおかしいだろおー!ぼくよりおかしい動きしてたじゃないかあー!」
ちょっと、嗤われるのは快感になり始めたけど、やっぱり頭がおかしいこいつの金銭感覚と一緒にされるのは納得できない。
「何よそれ!アタシはアンタほどじゃないから!」
「そんなわけないだろぼくはもっとふつうなんだよおまえなんかよりじょうしきをもってるんだからとうぜんだろぼくがおかしいわけ」
「「「以下略!」」」
マリア以外の、全員が声を揃えて叫んで、直ぐ後に酒場で大きな笑いが起きた。
「……アンタ、いつもこんな気持ちなの?」
マリアは、あんまり慣れていないから硬い顔で聞いてきた。
「あたりまえだろ……情けない気持ちは解るけどさ……慣れると案外、悪くもないんだよ」
「いや、アタシは遠慮しとくわ……」
………………。
「何なんだよ、もうー!ぼくは悪くないだろおー!」
ぼくの渾身の、魂の叫びは、全員が笑う理由になったらしい。
理解できない。おかしいだろ、絶対!
精霊のボヤキ
――階級あげてもいいんじゃない?――
階級差開いたらアリスとの約束は守れないし、上位の責任が山程のし掛かってくる。狩人だけで充分だろ。
――世界最年少狩人は?――
10歳で一等になってる奴がいた。3歳の頃から親とやってたんだそうだ。今は3歳年上なんだけどね。
――結局普通じゃないねぇ……――
ムグッ……




